第2話『さよなら前世』
ブラック企業。
それは、従業員に不当な労働を強制したり、人権を踏みにじる行為を行なう会社のこと。
この会社が、まさしくそれだと気付いたのは入社して数ヶ月が経ってからのことだ。
俺の名前は瀬名 勇樹、36歳。
入社前は「やりたいこと探しの心の旅」と称し、長い間ヒキニートとして頑張っていた。
具体的には、
『眠くなったら寝る、起きたくなったら起きる』
という、“野生に還ろうプロジェクト”を実践したり……。
母さんのしつこい説得や、家族の心無い言葉、聞こえてくるご近所さんの噂話に耐え抜くメンタルトレーニングをしたり……。
不眠不休でどれだけアニメを見られるか、人間の極限チャレンジに挑戦したり……。
魔王の手に落ちた世界を救うため、単身ネトゲにダイブ。
戦いに明け暮れる日々を過ごしたりもした。
まぁ、これはこれで充実していたが。
やはり同級生に合わせる顔は……ない。
このままでいいのか?
ヒキニートとして一生を終えていいのか?
――いいや、よくない!
決意も新たにした俺は、それまでの生活にサヨナラを告げ、とある企業の面接に行った。
ネトゲで得た知識で武装し。
チャットで培ったコミュニケーション能力を活かし。
魔王討伐パーティの司令塔として活躍した管理能力をアピールして――。
――見事、入社決定!
しかも、上司のサポートの元で重要なミッションを任された。
まさに大抜擢!
これぞ大躍進!
「全ての責任は俺が取る、お前は自由にやれ!」
そう言ってくれた上司。
俺のシンデレラストーリーはここから始まるんだ!
と、それこそ身を粉にして働いた。
やりがいのある仕事。
頼れる上司。
これが俺の天職だとさえ思っていた。
……だが、その上司の不注意により商談は決裂。
会社は、俺の危機管理能力でもカバーできないほど多額の損失を請け負った。
落ち込む俺に上司が肩を叩く。
そして、通る声で皆にこう言った。
「全ての責任はコイツにある!」
と……。
結果、俺は入社早々にして窓際確定。
しかも、損失は俺の給料から毎月天引きという……。
あまりに無茶苦茶だ!
こんな会社、辞めてやるっ!
そう、鼻息荒く上司に訴えるが、
「辞めるなら、損失を一括返済しろ!」
と怒鳴られ、目の前で退職届を破かれた。
ぐぅぅ……。
これが、失意のどん底というやつか。
友達は?
と聞かれたら、迷うことなく「二次元です!」と答える俺には、相談できる仲間もいない。
慰めてくれる彼女?
ふっ、36歳の元ニートを舐めないでほしい。
年齢=彼女いない歴の俺に、そんなものいるわけない。
ただただ自宅と会社を往復し、馬車馬のように働く日々。
癒しといえば、大好きなアニメ『魔法の勇者ミサキちゃん』のフィギュアを愛でるときのみ。
そんな俺に、明るい未来なんて見えやしなかった。
せめて過労で倒れることができれば、堂々と休暇を取ることもできたのだろうが……。
長年ニートで貯えたHPは、そう簡単に赤ゲージにはならないらしい。
そんな俺は、ただいま外回り中。
手の中には、コンビニの鮭おにぎりが1つ。
これが俺の昼飯だ。
「幸せって、なんだっけな……」
ため息をつきながら、おにぎりを一口パクリ。
そして、顧 客が待つ会社へと踏み出した――。
――次の瞬間。
瞳に飛び込んできたものは、暴走した一台のトラックだった。
……こうして俺の人生は幕を閉じるのだった。
瀬名 勇樹。
享年36歳。
死因:窒息死。
理由:暴走トラックに驚き、おにぎりを喉に詰まらせたため。
ああああ!!
もし生まれ変わりがあるならば、今度は勝ち組と呼ばれる存在になりたいぃぃぃ!!
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