第10話『僕にも使えますかっ!?』
5分で戻ると言って消えたリオン。
それから3分ほど経っただろうか。
彼女を待つ間に、どうしても聞いてみたいことがあった。
「あ、あのっ!」
思わず上擦った声が出てしまう。
「どうしましたかな?」
そんな俺を、大人の微笑みで見つめるギャリソンさん。
俺は大きく息を吸い込んだ。
「す……スキルとか魔法って、僕にも使えますかっ!?」
うわっ、気持ちが昂って声が大きくなってしまった。
でも、仕方ないだろう。
魔法やスキルは、生前見てたアニメやゲームで必ず存在していた。
自分も、あのキャラたちと同じ力が使えると思うと胸が熱くなる。
それに、強く生きることは母様との約束だ。
ギャリソンさんやリオンを見ていても、スキルや魔法は強さに直結している。
なら、俺だって使いこなせるようになりたい。
いや、ならなきゃいけないんだ!
「セナ様……」
ギャリソンさんが俺に向き直る。
その顔はいつになく真剣だ。
あ……あれ?
も、もしかして、この世界じゃ誰もが当たり前にできることだったりする?
だ、だ、だ、だとしたら、変なことを聞いてしまったことになるぞ!
呼吸ってどうやってするんですか? って言ってるようなものだ。
そんなの、おかしすぎるっ!
心臓の鼓動が早くなっていく俺を前に、老執事の口が静かに開く。
「……遂にセナ様も、興味を持つお年頃になったのですな!」
……はぇ?
ど、どうやら感動してくれてるらしい。
「セナ様は立派に成長しておりますぞ」
とか言って、天を見上げてる。
ふぅ、焦った~。
この体はセナ・ブレイブリーだけど、中身は瀬名 勇樹なわけで。
もし正体がバレたら大騒ぎになるだろう。
魂を引き剥がす魔法なんてのもあるかもしれないし、そうなったら俺はまた死んでしまうことに……。
ううっ、考えただけで鳥肌が立ってくる。
この世界のことは知らないことだらけだし、言動や行動には気を付けないと……だな。
額の汗をぬぐう俺をよそに、ギャリソンさんは咳ばらいを一つ。
そして、ピッと人差し指を立てた。
「それでは、スキルからお話しましょう。スキルとは――」
――彼の話をまとめると、こうだ。
天恵。
字の通り、天からの恵み。
生まれ持った超常能力のこと。
この世界の者なら誰もが体内に持つエネルギー、“魔力”。
それを内に向けて練り上げることで発動することができる。
その力は千差万別で、ときに人々を救う英雄となり、ときに国を揺るがす災いにもなり、ときに晩御飯のオカズを一品増やしたりもした。
通常は幼少期に発現し、鑑定を経て正しく確定されるらしい。
なるほどね。
英雄クラスのスキルとか、想像するだけでテンション上がりまくりなんだけど。
「なお、私のスキルは【筋肉肥大】。リオンのスキルは【隠密】。どちらも、さほど強いものではありませんな」
「えっ、そうなんですか!? 先程の戦いを見てると、とてもそうは思えないのですが……」
驚く俺に、ギャリソンさんは目を細める。
「はっはっは。スキルは鍛錬によって効果や精度が高まってゆきますゆえ」
なるほど!
刃を弾き、超絶パワーで相手を粉砕する筋肉は、鍛錬によってここまでのレベルに上昇したということだな。
弱スキルでも、努力次第で強スキルになるっていうのはいいよね!
生前やってたゲームでも、こういう救済措置はほしかったな。
「一般的に、スキルが発現した者を“スキル持ち”、発現しなかった者を“持たざる者”と呼びますな」
あ~、そういえば襲ってきた男たちもそんなことを言ってたっけ。
俺は男たちに目を向ける。
彼らは壁や石床に思い思いの格好で突き刺さり、ピクリとも動かない。
持たざる者からしたら、【筋肉肥大】のギャリソンさんは驚異の存在だよね~。
……って、あれ?
「も、もしかして……スキルが使えない人も存在する?」
「さすがはセナ様、ご理解が早い。スキルは生まれ持っての素質のため、誰もが発現するわけではありませぬ」
――んなっ!?!?!?
ちょ、ちょっと待って!
ここまで盛り上げといて、俺は持たざる者でしたー! ってなったら悲し過ぎるんだけど!
「ですが、ご心配なさらず。セナ様は素質がおありだと思われますので」
「えっ!? そ、そうなんですか?」
「はい。3歳児検診では、セナ様の体内魔力は内に向かって流れておりました。これはスキル持ちに見られる特徴ですな」
「おおぅ!」
ふぅ、それを聞いて安心した。
よーし、俺もスキルが発現したらレベル上げを頑張ろう!
やるぞー、おーっ!!
「それではセナ様、続いて魔法ですが……」
魔法。
それは体内の魔力を外に向けて行使する力のこと。
先天的な才能であるスキルとは違い、努力次第で誰もが習得することができるらしい。
炎を操ったり、傷を癒したりすることはもちろん。
精霊を召喚したり、魔法生物を使役したり、天候を操ったりもできちゃうんだって!
くーっ!
そう聞くと、こっちも頑張っちゃおうかなー! って気になるよね!
まったく、ギャリソンさんは人をやる気にさせるのが上手いんだから。
なお、魔法を発動させるには、
・魔力
・呪文
・発動体
の3つが必要とのこと。
『魔力』は、魔法の威力に直結するもの。
スキルを行使するのにも必要だったね。
ちなみに枯渇すると気絶してしまう。
さっきの俺は、気絶一歩手前だったってことだな。
『呪文』は、魔法を発動させるために必要となるキーワード。
〈炎の矢〉を発動したとき、視界に浮かび上がってきたARな文字が呪文だったのだろう。
普通はそれを唱えるんだけど、俺の場合は炎の魔眼が代行してくれた。
だから、刀傷たちには無詠唱に見えたんだろうな。
そう考えると、あの驚き様は納得だ。
無詠唱で魔法って達人クラスっぽいもんね。
『発動体』は、魔術師が持つ杖のこと。
魔力や集中力を高め、発動の補助をしてくれるんだそうな。
これもたぶん、炎の魔眼が引き受けてくれたんだろう。
ちなみに、魔術師は伝統的に杖を好む。
杖は魔術の象徴だからだそうだ。
なるほど、魔力と呪文と杖か。
頭の中にある魔法使いのイメージそのものだな。
実にわかりやすい。
……でも、あれ?
ちょっと待って。
「リオンは杖なんて持ってなかったような……」
刀傷に蹴られた腹を治してくれたのは、リオンの〈癒 し〉の魔法だった。
そのとき、彼女の手に杖はなかったはずだ。
「おお、さすがはセナ様。よく、お気付きになりましたな」
ギャリソンさんは満足げにうなずく。
「彼女の発動体は指輪です」
「指輪!」
「何らかの理由により、杖以外を発動体にする者もおります」
なるほど!
色々と応用が利くのはありがたいね。
でも……。
そういうのって、やっぱりお高いんでしょう?
「発動体は、高位の魔術師になると自分で作り出すこともできます」
「わぁ! それなら『1つ買うと、今ならもう1つ付いてきます』ができちゃいますね!」
「……はて?」
「あ、いえ、こっちのことです。気にしないでください」
ちょっと言ってみたくなっただけです。
ごめんなさい。
「それにしても、リオンはなんで指輪を発動体に選んだんだろう?」
「私は、両手を空けておきたかったからですよぅ」
「うわあっ!?」
不意に背後からかけられる声。
思わず飛び上がるほどにビックリした。
振り返れば、そこにはリオンがいる。
「い、い、い、いつからそこに?」
「『あ、あの……スキルとか魔法って、僕にも使えますかっ!?』くらいからですねぇ」
めっちゃ最初じゃないかーい!
俺は盛大にズッコケた。
「私は行動を制限されたくなかったので指輪を発動体にしたんですぅ」
「リオンが杖を持ってると、ぶつけたり、壊したりしますからな」
「あーっ、ギャリソンさん、酷いですぅ!!」
ため息をつくギャリソンさんに、リオンがぷうっと頬を膨らませる。
刀傷の男を後を追ったと聞いたときは本気で心配したが……。
よかった、いつものリオンだ。
追いかけるのは諦めたんだな。
ホッと胸を撫で下ろしていると、ギャリソンさんが不意に問いかける。
「……仕事は終わったのですか?」
「はい、滞りなく」
えっ!?
笑顔で答えるリオン。
どうなったのか聞いてみたいけれど……。
一瞬、その瞳が潤んだように光った気がして。
それ以上、何も言うことはできなかった。
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