第1話『プロローグ ~キスで始まる異世界ロード~』
――ふおおおおおっ!!!
ぷるんとした柔らかいモノが、俺の唇を塞いでるっ!!
こ、これがキスってやつかっ!!!
36年間生きてて初めての経験だーっ!!!!
その感触はマシュマロに似てるとか、初めての味はレモン味だとか聞くけれど……。
今の俺に、それを味わう余裕なんてなくて。
ただただ柔らかい温もりに、頭の中が真っ白になってゆく。
重なり合った唇。
心臓が、痛いくらいに大きく脈打った。
ああ、周りの人たちも俺のファーストキスを見守ってくれて……いる!?
い、いや、ちょっと待って! ちょっと待って!
初キスが人前って、レベル高すぎじゃないですかーっ!!!
これが結婚式で、教会での誓いのキスというのなら話は分かる。
だが、彼女いない歴 = 年齢。
結婚? なにそれおいしいの? を地で行く俺に、そんな幸せあるわけがない。
ましてや、ここは炎の海と化した大広間。
天井は落ち、壁は崩れ、立ち昇る炎が夜空を赤と金色に染めあげている。
ラスボスの部屋と見紛うほどのハードなシチュエーション。
吹き抜ける灼熱の風は、痛いくらいに肌を刺していた。
――ってぇ、ちょおおおおっっっ!?!?!?
口の中に、口の中に、口の中にぃ!!!
口の中に、何かが侵入してくるんですけどぉぉおおおっ!!!!
異世界に転生して、初めての胸キュン体験!?
だだだ、だけどっ!
36年の純潔を持つ俺には、刺激が強すぎでしょーっっっ!!!!
ああぁ~、もう、意識が遠くなりそうだ……。
燃え盛る炎の音が、ひときわ大きくなったような気がした。
……どれくらいの時が過ぎたのだろう。
お互いの唇が、やがてゆっくりと離れてゆく。
でも、まだ吐息がかかる距離。
ほのかに甘い優しい香りに、胸はますます熱くなる。
思わず視線を下げると、彼女の華奢な体を包む赤いミニスカ着物が目に映った。
ふわりと揺れる裾。
あぁ~、覗く太ももが、とても健康的……だぁ!?
違う違う違う!
見てないぞ、俺は何も見ていないぞ!
やましい気持ちなんて微塵もないんだからねっ!
と、慌てて視線を上げれば、そこには深い海のような瑠璃色の瞳と長い髪。
それは、炎を映して美しく輝いている。
そのとき、不意に目があった。
彼女は俺を見つめ、小首を傾げて微笑んだ。
……可愛い。
整った顔立ちと、その無邪気な仕草に思わずゴクリとツバを呑む。
……って、そうじゃない、そうじゃないだろ、俺!
激しく高鳴るこの心音。
これは、俺の倫理観が警鐘を鳴らしているのだろうか!?
過去の俺が霞むほどの幸せな展開。
だけど、手放しには喜べないこの状況。
そう、今を一言で説明するならば……。
俺のファーストキスは――。
――見知らぬ幼女に奪われた。
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