山川沙優美とサマンサ・キャンベル2
サミーの目が覚めたのは、朝次の日の昼前だった。よく眠ったからか、サミーの頭はすっきりとしていた。山川沙優美はサミーの中に今までと違う価値観を与えたが、サミーは沙優美のことを受け入れた。サミーの意見と異なることもあったが、何故沙優美がそのような考え方をするのかと考えるのもなかなか楽しそうで、世界が広がっていくような感覚がするのだ。夢の中で、何度も試みてみたその方法は、これからのサミーの人生をワクワクさせてくれると、サミーは考えたのだ。
そのことは、サミーに大きな変化をもたらした。まず、サミーが今まで抱えていた過去の悩みについて、沙優美の考えを持って、サミーは一つも悪くないと断定したのだ。
(私は今まで、私がいるから悪いのだと思っていたわ。私が、我慢すれば全ては上手くいくのだと。だけど、そんなはずはなかったのね。私は悪くない!卑劣なベンジャミンが悪いのだわ。そして、お兄様を擁護するお母様が悪いのよ。お父様との関係だって、本当はお母様とお父様の問題だもの。私は、家族のために、上手くいくようにずっと頑張ってきたのよ。私は、頑張っていたのだわ。…そして、私は私をすりつぶしてまで、そんなことをする必要はなかったのよ。)
本当は、サミーは身近な人にそう言って欲しかった。それが、レオンだった。レオンには裏切られてしまったわけだが…。しかし、それはある意味では自分でけりをつけないといけない問題であり、それを乗り越えるためには、人に愛されていなければ難しいことだったのだ。と、今、沙優美を通したサミーは理解したのだ。
(沙優美の記憶が、私を泥からすくい上げてくれたのだわ。だからと言って、今、私の周りには沙優美のように、心を許せる人がいるというわけではないのだけど。)
サミーは物悲しい気持ちになったものの、これから大切な人ができる可能性があると、前を向いたのだった。
これまでのサミーは表面上誰とでも仲良くしてきた。いつでも明るく、辛いときほどつとめて笑顔を作ってきた。しかし、基本的には男の人に対しては、恐怖心があった。適度な距離を保ってくれる人はまだしも、親しくもないのに、近づいてくるような男は、笑顔の下で鳥肌を立てながら、距離を置いてきたのだ。
不意に刃物を振り下ろしてきた男のことが思い出され、今まで以上に男の人が怖いと思ってしまった。
(前を向いて生きたいけれど、こればっかりはいつ良くなるかわからないわね。女友達がやっぱり一番素敵だわ。いつか、もし恋をするのなら自分の足でしっかりと立って、一緒に肩を並べられる人がいいわ。やっぱり、私は、私の好きなことをして仕事を頑張りたいわね。)
あちらこちらへ忙しく心を飛ばしつつ、ウィローに会いたいと、サミーは思うのだった。