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私は山川沙優美だわ!

遠くで、初夏の虫の鳴き声を聞きながらサミーの心は千切れそうだった。

(もう、ハタチも…過ぎて…いる…のに。わ、わたしは…いつ…まで過去に…囚われ…続けないといけ…ないの?…なんで?…なんで…なんで…)

 大切だった人からの裏切りと、明日にはきっと脅しに屈してしまうだろう自分の不甲斐なさと、少しの神様への恨みが入り混じり、涙は止まること知らなかった。川の近くに腰掛け、ぼんやり川を見ながら唇を噛み、涙を流す彼女は誰から見ても痛ましい姿で、いつもの彼女を知る人が見れば、彼女と気づかないに違いない。

 どれくらいそうしていただろう。ノロノロと腕時計を見やれば、日付はとっくに変わり、2時を少し過ぎたところだった。

 (あ〜、ダメだ。帰らないと。明日は研究室にブライアン所長が来られる日だわ。…もう、今日ね。資料はできているから、見ていただくだけだけど、帰って顔を冷やさないと、気付かれてしまうわ。)

 憧れていた仕事につくことが出来、ようやく準研究員から正規研究員への道が開かれようとしていることを思い出し、同時にオリバーのことに思い至ってしまった彼女は、仕事のためにも条件を飲もうと短いため息とともに半ばやけくそに決意をした。そして、帰路に着くため、街頭で照らされた人気のない薄暗い道を静かに歩き出した。時折、仕事帰りの人や見回りの警備隊、酒を飲んできた人達にすれ違うが、今はサミーの歩いている道には誰もいない。初夏とはいえ、夜はひんやりと寒いくらいで、それが泣いた体には心地よい。鉛を飲み込んだような気持ちではあるが、歩いているうちに、何も考えないようになり、サミーも少し落ち着いてきた。川から、サミーの家までは歩いて30分程度なので、もう後10分程で家につく予定だ。(帰ったら、シャワーだけは浴びようかしら。)そんなことを考えながら辻に差し掛かった時、不意にぞわとした気配を感じた。気配につられて横を見て見ると、見知らぬ男が無言のまま…ぎらりと光る物を振り下ろして来たのだ。

スローモーションで自分に迫ってくるそれを見つめながら(一瞬が長く見えるって本当ね。)などと、場違いな感想を抱く。(私、また殺されるわ。…また?)その瞬間、サミーの中に見たことのない景色、感情が溢れかえった。

 (私!私は、山川沙優美だわ!)


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