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サマンサ・キャンベルの過去

 ことの始まりは彼女が9歳の頃だった。夜、彼女は彼女の部屋でスヤスヤと幸せな夢を見ていた。そこで、ふと違和感に気がついたのである。だれかが、彼女の体を弄っているのである。変な夢を見ているのだと思いつつ、恐怖から、いや本能からと言えるだろうか。彼女は薄めを開けて見ることにした。そして、彼女は視界をすぐに閉じた。パニックを起こしかけ、大声を出さないと、と思った気持ちに強烈に蓋をするかのように、目を閉じたのだ。そして、猛烈な眠さから、朝まで再び眠ったのだ。次の朝、きっと変な夢を見たのだと、彼女はいつも通りにダイニングに食事を取りに行ったのだ。しかし、残念なことにそれから14歳になるまで、ほぼ毎日彼女は夜に体を好きにされてしまうことが続き、その悲しい現実は彼女をどこまでも絶望に陥れた。彼女を弄んだのは、兄のベンジャミンだったのだ。

 9歳の彼女には嫌悪感はあるもののそれがどういうことなのかよくわからなかった。ただ、大好きな母には言ってはいけないと幼ながらに思ったのだ。母はサミーのことを愛しているし、とても大事にしてくれていることを彼女は知っていた。だけど、同じように、いや、彼女が感じるところによると、兄はより愛されていた。父は、全く頼りにならない中、しっかり者の兄は母の精神的な支えであり、領地の運営を少しずつ担ってくれる彼を、生活においても頼っていたのである。

 (ここで私が、何か言ったら、家族が壊れてしまう。)

 そう思ったサミーは、それまでと変わらない明るいサミーを演じ続けることにしたのだ。だが、年々いろいろなことが理解できるようになってくると、より一層、兄が怖くなった。父が兄にきつく当たると、その夜はひどくなる。なのに、いつも通りの顔で「サミー」と呼んでくる兄。(私さえいなければ、家族の問題は無くなるのではないか、私はこんなに汚いのだから、一生恋愛なんてできない。死にたい…。けれど、死ねば母は苦しむし、友達も悲しむわ。)

 サミーを苦しめた兄は、サミーが14歳の時に南東にあるシュトウの街へアカデミー入学のために行き、それ以降は嫌な行いをされることがなくなったのである。初めて、心から安心して眠れた日に流した涙は、うれし涙だったのかどうかわからない。しかし、これからはきっと夜に眠ることができると、ホッとしたのだった。

 昔のことが頭によぎり、サミーの目から静かに滴が落ちた。気づくと、ラムズ川の上の橋まで来ていたサミーは、

「どうして、川を見ていると痛みが和らぐ気がするのかしら。」

と、ひとりごちた。悲しくても、辛くても、泣いても、明日は来ることはもうよくわかっていた。だとしたら、なるべく穏やかに心が凪いでいるように、心の奥底蓋をして、痛みを感じないように、目をそらし続けるようにしなければならない。

 それなのに「忘れてあげられないの?」とまた、サミーの心をえぐる言葉が耳元にこだました。

 (はぁぁぁぁ。わかっているのよ、今日なぜこんなに昔に引っ張られるのかなんていうことは。)今日は職場で最低な出来事があったのだ。


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