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第18話 隣室での会話 後編

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※後編の次に終編があります。

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「私も二人に質問があります!」


自分の立てた完璧な作戦を、私は早速実行することにしました。


「えっと、優成君の妹の優菜ちゃんだよね!何かな!」


「は、はい……!何でも聞いてください……!」


いつの間にかお母さんと仲良くなっている杏優さんと莉子さんは、すっかり緊張が解けた様子でそう言ってきました。

――いつの間にお母さんと仲良くなったんですか。

――ま、まあ、お母さんと彼女たちの仲が良いほどこの作戦の成功率は上がるので問題ないですが!

私はそう、誰に向けかわからない言葉を呟やいてしまいました。


「杏優さんと莉子さんは、お兄ちゃんと音楽活動を始めたって言ってましたが、二人はお兄ちゃんに釣り合ってるんですか?」


「えっと……」


「そ、それは……」


私の言葉に二人は図星のような顔をしました。――いけます!

そう思った私はお母さんに視線を送りつつ話を続けます。


「お兄ちゃんはだれが見てもわかる通り完璧です!容姿も性格も成績も!」


「――それに対して二人は?お兄ちゃんの足を引っ張っているんじゃないですか?」


「別に私は、二人がお兄ちゃんと活動することに反対しているわけではありません。ただ私は、お兄ちゃんの活動を応援しているので、二人がお兄ちゃんに相応しいか確認したいんです!」


私はそう言って二人を見つめます。

――もちろん本心を伝えるわけにはいかないので言葉を濁します。

すると――


「それもそうねぇ……。確かに優ちゃんが凄くても、一緒に活動しているメンバーが足を引っ張ったら困るわね……」


――とお母さんが私の言葉に乗ってくれました。

……これで彼女たちの逃げ場は無くなりました。私の作戦通りです!


「――ということなので! 二人がお兄ちゃんと活動するのに相応しい力量があるのか証明してもらいます!」


そう言ってから私は、初めに莉子さんに視線を送ります。


「まずは莉子さんからお願いします!莉子さんは作曲などを担当すると聞きました!」


「う、うん!楽器やってたから。」


「では、実際に作曲したものを聞かせてください!……既にある程度曲ができていることはお兄ちゃんに聞いています!」


「わ、わかった!少し待って!」


莉子さんがそう返事をして作成した曲のファイルをスマホで開く間、私は勝ちを確信していました。――お兄ちゃんたちが音楽活動を始めたのは今日が最初です。いくら才能があったとしても、この短い時間でいい曲など作れるはずがありません!

――つまり、初めから私の掌の上だったということです!


「――準備できました!……じゃあ、今から再生します!」


私が心の中で勝ちを確信していると、準備ができた莉子さんが、そう言って曲を再生し始めました。そして――


「……」


「……」


「……」


「……」


――私だけでなくお母さんまでもが、その曲に聞き入ってしまいました。


「――以上です。……どうだったかな?この曲自信作なんだよね!」


――おかしいです。本当にこの曲を一日で作ったんですか……?


――それに、こんなにいい曲だとは思ってませんでした。

――まさか他の人が作った曲を流してる?――――いや、そんなことしたら絶対にばれますね。

それに、もしそんなことをすれば、私が作戦を立てるまでもなくお兄ちゃんと活動できなくなります。



――どうしよう……。完全に予想外です……。これでは作戦が……。


――い、いいえ!まだです! お兄ちゃんの音楽活動はMVを作ると言ってました!それもアニメーションの!

私は焦りましたが、何も莉子さんだけがメンバーではない、ということを思い出しました。――そうです。もう一人います!


――なら!……いくら曲が良くてもグラフィックが悪ければ、お兄ちゃんの足を引っ張ります!ここは、杏優さんに方向転換しましょう!


そう考えた私は、莉子さんにお礼を言った後、杏優さんに視線を向けました。


「――杏優さんは絵を担当すると聞きました!」


「は、はい……!!」


「では、杏優さんが描いた絵を見せてください!……莉子さん同様に、お兄ちゃんの妹である私が、お兄ちゃんとの活動に相応しい力量か判断します!」


「う、うん……!! わ、わかりました……!!」


そう言って杏優さんは、緊張した様子でスマホを開き画像ファイルを探し始めました。


――莉子さんは予想外でしたが、さすがに杏優さんまでそんなはずはないでしょう……。

――大丈夫です。私の作戦はまだ失敗したわけではありません……。


「……じゅ、準備できました……! ど、どうぞ……!」



私がそう考えていると、杏優さんが、画像を表示させたスマホを渡してくれました。

そしてその画面には――


「……」


「……」


「……」


「……」


――凄い、としか言いようのないイラストがありました。

もちろん他の人のイラストを表示している可能性は、莉子さんと同様の理由であり得ないでしょう。


莉子さんの曲を聴いたときは、ただ漠然と、凄いということしかわかりませんでしたが、

イラストの場合は、目に見えるのではっきりとわかりました。


――このレベルのイラストを描けるとなると、イラストレーターとして生活していけるんじゃないでしょうか……?

その絵を見た私は、自然とそう思ってしまいました。――それにこのイラストの画風。これって何処かで――――


「っ!!……も、もしかして……!」


画風を見て既視感を覚えた私は、すぐさまSwitterを開き、フォローしている沢山のイラストレーターのイラストを確認し始めました。

――そしてその中に、杏優さんが見せてくれたイラストと同じ画風のイラストレーターがいました。

――アカウント名は「Ayu」、フォロワーは30万人でした。……名前がAyu。そして杏優さん。

――もしかして……。


「……あ、あの!杏優さんってもしかしてイラストレーターのAyuさんですか……?!」


自分の導き出した答えに「あり得ない」と否定しつつ、そう質問をしてしまいました。

すると――


「は、はい……!!一応……私がAyuです……!」


――まさかの本人でした。


「わ、私!Ayuさんのファンです!……宜しければサインください!」


気が付くと、私は反射的にそう言っていました。


「そ、そうだったんですか……?うれしいです。――サインですね。いいですよ。」


――杏優さんはそう言って嬉しそうにサインをしてくれました。


「あ、ありがとうございます!」


「いえいえ……!こちらこそ嬉しかったです……!」






――斯くして、私の作戦はあっけなく失敗したのでした。




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