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87:ダンジョンほぼ初心者ですが早速仕掛けられました



 登城した翌日。セラさんに警備の衛兵さんの事を伝えつつ、ギルドの資料室へと向かった。


 セラさん的にも警備は賛成らしい。

 よくよく考えればセラさんは毎日、王城からホームまで、朝夕と往復しているわけだし、侍女の一人歩きは危険だ。


 おまけに私たちが依頼に出ている時もホームに一人なわけで、今までいかにセラさんを危険な目に遭わせていたのかと、ここへ来てぞっとした。



「私の心配よりもどうぞダンデリーナ様や皆様ご自身の御心配を」



 とセラさんは言うが、こっちが気が気ではない。

 なるべく早く衛兵さんの派遣を申し込み、セラさんが来る時には一緒に来てもらうよう改めてお願いしたわけだ。


 そして翌日から二人の衛兵……のフリをした近衛騎士がホームの門番となった。


 どうやら三交代制で二四時間、門番になるらしい。

 そのうち、一組はセラさんの行き帰りを王城まで共にするという事だ。

 安心はしたけどまさか二四時間警備とは……さすが陛下。近衛騎士の無駄遣いじゃないですかね?



 話を戻そう。

 リーナとサフィーはギルドの資料室に来たのは初めてだったが、実家の蔵書に比べれば大したことないという事なのか別段感動もない。


 そりゃ王城や公爵家はすごいでしょうよ。知らないけど。


 しかし冒険者活動をする上での資料となると、さすがに資料室の方が豊富らしく、そこは素直に褒めていた。

 取り急ぎ私たちに必要なダンジョンの情報を漁ることとなる。



 王都内にあるダンジョンは四つ。


 初級ダンジョン『はじまりの試練』、中級ダンジョン『亜人の根城』、中級ダンジョン『不死の楽園』、上級ダンジョン『セントリオ・ダンジョン』、以上だ。


 この他に、王都近郊にもいくつかあり、そのうち一つは魔剣が取れていない『未管理ダンジョン』となっている。



 どういった勝負になるのかは不明だが、おそらく王都内にあるダンジョンでの勝負となるだろうと勝手に予想をつけて調べ始めた。


 立ち会いや勝敗判定をするのに、わざわざ郊外のダンジョンは使わないだろうと。

 利用しやすい王都内にするのではと、そういう事だ。



 各ダンジョンには特色があり、出て来る魔物や罠なども違う。

 道幅や造りも違うらしいので、どうやって探索するかと相談しながら調べていく。


 もちろんダンジョンほぼ初心者の面々なので、基本的な探索ルールや持ち込むものなども勉強だ。

 リーナとサフィーも数時間程度しか潜っていないそうなので、ちゃんとしたダンジョン探索というわけではないらしいし。


 ともかくこの日は勉強漬けの日となり、さすがに疲れた。

 ポロリンじゃないが糖分を補給したくなったので、帰り道で甘味を食べた。



 その翌日にはもうロートレクさんからお手紙が来た。

 そこには今回の勝負の方法について記載があった。


 五人でダンジョンに挑戦する他、色々と細かいルール設定がされており、それはどう見てもゴミス陣営に対して「こんなズルすんなよ?」と脅しが入っているようにも思えた。



 私たちが注意する事は基本的なルールのみ。

 即ち、『三日後に王都セントリオ内・初級ダンジョン『はじまりの試練』に挑み、朝から丸一日、つまり四日後の朝までに何階層まで辿り着けたかを計測する』というもの。


 ゴミス陣営は同じく王都内にある中級ダンジョン『亜人の根城』という所に同様に潜り、日を改めて今度は挑戦するダンジョンを交換する。


 私たちが『はじまりの試練』→『亜人の根城』と探索し、

 ゴミスが『亜人の根城』→『はじまりの試練』と探索するという事だ。


 これを合算して、どの程度潜れたかを計測し、勝負とする。



 やはり王都内のダンジョンにしたか、とみんなでホッと息を吐く。



 立会人はロートレクさんの手配……おそらく暗部が担当する。

 一見、公平に見えるがそうはならないだろうなー。

 はっきりと「ザザルディへの嫌がらせが二割」って聞いてるし。


 穴のあるルール、そこへ持ってきてヤツの家柄と頭の悪さ……正直嫌な予感しかしない。

 とは言え私たちに出来ることは限られているわけで、予習したり戦術確認をしたりと余念がない。



 そこからは改めて資料室へ行き、『はじまりの試練』と『亜人の根城』に集中して勉強し、対策を練る。


 いつもの訓練場へ行き、ダンジョンでの探索を意識したフォーメーションと戦術の確認。

 下見でそれぞれのダンジョンへと足を運び、地図を購入。

 地下一階だけだが潜って感触を確かめた。



 そしてその日はあっという間に訪れたのだった。





 開始早々、私の嫌な予感は当たった。


 朝一番でホームを出て、準備万端、『はじまりの試練』へと向かう。

 王都南東区にあるダンジョン。


 そこは王都に四つあるダンジョンの中でも最も難易度が低く、地下一階層などは新人冒険者の小遣い稼ぎなどに使われるほどである。


 しかしながらダンジョンなので、当然罠もあるし危険が伴う。

 逆に言えば罠さえ発見できる力量があれば、そして弱いとは言え魔物を討伐できる力量があれば非常にありがたいダンジョンなのだ。


 だからこそ王都の中で管理された初級ダンジョンとして存在しているとも言える。



 さて、そんな新人御用達のダンジョンなわけだが……どう見ても人が多い。

 群がるようにダンジョンへとなだれ込む人の波が私たちの行く手を遮った。



「なにこれ」


「ここってこんなに混むんですか?」


「いや、さすがにこれはないでしょう」



 そんな事を話していると、近づいてきたのはロートレクさんの手配した立会人さんだった。

 サッチモさんというらしい。サフィーが顔見知りだと言うからやはり中二暗部の人だろう。



「おはようございます、皆さん。いやはや参りましたね」


「これは何が起こっていますの?」


「探索しようとする人に聞きましたが、ここで取れる小魔石やドロップアイテムを高額で買い取ると昨日ギルドに依頼が出されたようです。口コミであっという間に広まって、今朝は早くからこの調子だと」



 ちょっ! それってまさか……!



「ええ、依頼人はザザルディですね。いくつかの商会を経由しているようで本人の名前ではありませんが間違いないでしょう」


「んなっ! 明らかにこちらへの探索妨害ではありませんの! こんなもの反則ですわ!」


「いいえお嬢、これは反則ではありません」


「なんでですの!」



 だよね。もし本当に魔石やドロップアイテムを必要としている人が依頼を出しているとすれば、それを「これから勝負だから依頼なんか出すんじゃねえ」とは言えない。


 依頼を出し、それを買い取り、報酬を出す。

 冒険者たちは美味しい依頼に群がる。

 これは当然の流れだ。それで生活しているのだから。


 ゴミス陣営は金を使って冒険者たちを動かしただけで、これを「意図的な妨害」とは言えない。

 たまたま出した依頼にたまたま冒険者が群がっただけだ。



「と、言い訳はいくらでも出来るってわけだね」


「ぐぬぬ」


「どうしますか、ピーゾンさん。この人波を縫って行くのは……」


「いや、行く他ないでしょ。群がってる冒険者が昨晩から今朝にかけて潜っているとすれば、おそらく大部分は浅い階層で魔石集めをしているはず。私たちの目的はなるべく深くに行くことだから、そこさえ突破しちゃえば混雑は減るはずだよ」



『はじまりの試練』は全十階層。

 その全てが人で溢れているわけがない。

 だからとっとと突っ込んだほうが良い。



「あ、立会人さんはどうします?」


「ご一緒します。少し離れて付いて行きますので居ない者として考えて下さい」



 なるほど。人波で迷子になっても知らんからね。

 んじゃ行きますか。





 王都内にあるダンジョンの建屋はどこも砦のような造りをしている。

 しっかりとした塀に囲まれ、建屋自体も堅牢そのものだ。

 万が一にも魔物をダンジョンから外に出さないように、という思惑がよく見て取れる。



「しかしこれはヒドイ」



 入って早々、そう独りごちる。

 分かってはいたが、本当に人が多すぎる。まるで元旦の初詣のようだ。

 建屋に入って受付するのも、そこから階段を下りて地下一階層に行くのも一苦労。


 地表部分の一階で地図や攻略情報を売っているのだが、とてもじゃないが人波をかき分けてそこまで行く気にはなれない。



「下見に来た時に買っておいて良かったですね」


「ええ、やはり新人冒険者として備えは重要。改めてそう思いました」


「しかし全然進みませんわね! イライラしますわ!」


「ん。<念力>でどかしたい」



 やめとけやめとけい。でもかなり気持ちは分かる。

 <念力>の不可視の手だったら、強引に人波をどかして道を作るのも容易い。


 ……そんな誘惑に駆られるが、まぁバレるだろうな。



「今はじっくり進もう。どうせこの先の分かれ道とかで多少はバラけるでしょ」



 時間との勝負なのに、正直これはつらい。

 かなりじれる。これで焦ってこちらのミスを狙っているとすればゴミ野郎はなかなかの策士だね。



「いえ、これはおそらくゴミス様の父、クズォーリオ・フォン・ザザルディ伯爵の仕業と思われます。ゴミス様にこれだけの冒険者を動かせるとは思えません」


「リーナさんの仰るとおりですわ! ゴミスさんではそこまでのお金は動かせませんし、そもそもこんな事を思いつくような頭をお持ちではありません!」



 ひどい言われようだな、ゴミ野郎。

 そして息子より厄介そうだな、クズ野郎。

 そんなのが伯爵とか王国が心配になってきたよ。頑張れリーナパパ。



 ダンジョン内部は鈍く光る石材で作られている。天井・壁・床、全てが同じ石材だ。

 私が単独制覇したダンジョンは土で出来た洞窟みたいな感じだったが、どうやらダンジョン毎に違うらしい。


 こうした光る石材のダンジョンが主流らしいが、ランタン必須の所とか、ボロボロの寂れた感じの外壁だったりと。


 迷路っぽい洞窟なのは共通らしいが、特色は様々だという事だね。



 この『はじまりの試練』は明るくて視界も良く、道も高さ4m・幅7mくらいあってそこそこ広い。

 そこを歩いて行けば、道幅もあり分かれ道もあるという事で、やはり人の流れは速くなる。

 徐々にバラけてきたようだ。


 と言っても、その多くが向かうのは地下二階へと続く順路。

 魔石目当ての冒険者たちも混雑している地下一階より、空いてそうな深部へ行きたいだろう。

 もちろんそこに行けるだけの力量があれば、だが。



「順路はやっぱり混んでるね。他の道ないかな」


「順路より早く着ける道はありますが、モンスターハウスのはずです」


「きっと魔石狙いの冒険者が群がっているでしょうねぇ。ご苦労な事ですわ」


「んー、少し遠回りだけど二階に行ける道ならある」


「リーナさんもネルトさんもよく覚えてますね……」



 資料室で予習した内容はメモに残してあるし、買った地図はリーナが持っている。

 基本的にリーナがそれを見て、道を指定しているが、そのリーナもネルトもどうやら頭に入っているらしい。


 リーナは天才だからいいんだけど、ネルトよ……お前は本当になぜ山賊に捕まったんだ。



 ともかくこうして、私たちはなるべく混んでいない道を探しつつ、下への階段を目指して進んだ。

 これが順路をまっすぐ進む事より早くなっているかは分からない。

 もしかして遠回りしている分、遅くなっているかもしれないが、それは考えないようにしよう。たらればだしね。



「よーし、そろそろ気合い入れて進むよー」


「「「「了解!」」」」




クズ伯爵からすると自分の手駒ですぐに実行でき、尚且つ言い訳の出来るギリギリのレベルの策、という所。

暗殺や直接的な攻撃は不可能ですからね。

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