閑話11:王都からの手紙+α
拝啓 お父さん、お母さん
私は相変わらず元気に冒険者やってます。
あ、商業ギルドにも登録したから商人でもあるのかな?
まぁそっちは副業だからあんまり関係ないけどね。本業は冒険者です。
この度、めでたくパーティーホームを借りて暮らすことになったので、住所を教えておきます。
これでやっとお父さんやお母さんの手紙が来るかと思うと嬉しいです。
あ、手紙も結構お金かかると思うので無理しないで下さい。時々でもくれると嬉しいです。
それでホームなんだけど、前にどこかの貴族が使ってた一軒家らしくてすごく立派な所が借りられました。
なんで借りられたかと言うと、リーナとサフィーという女の子が新しくパーティーに加入したからです。
これで五人! ちなみにみんな固有職です。
あ、リーナは第七王女のダンデリーナ殿下って女の子です。サフィーはストライド公爵家の令嬢です。
ひょんなことから知り合ってパーティーに入ることになったんだけど、まさか王侯貴族とパーティー組んで一緒に住むとは思わなかったね。
また何かあれば手紙書きます。そっちも元気でね。
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「だからひょんって何だよ! 王侯貴族が冒険者になって同じパーティーになるようなひょんって何だよ!」
「うるさいぞベルダ! きっと王女様もピーゾンのすごさを分かったんだろうな!」
「そうよヒゲ! ピーゾンは天才だからしょうがないわよね!」
「あああああっっ!!! もうっ!!!」
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(前略)という感じでダンデリーナ王女様と公爵令嬢のサフィーさんが加入しました。
なんかもうボクが場違いな感じがしてしょうがないよ。一人だけ男だし……。
あ、二人とも優しい人で王族とか貴族だからって偉そうな感じじゃないです。
ボクにも普通に接してくれますし、楽しくおしゃべりとかも出来ます。
もちろんパーティーで戦うにしても仲間として戦うわけだしね。みんな仲良しなので安心して下さい。
それとホームを借りたんだけど、これがまた(後略)
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「お、おばさん……これ本当なのです?」
「ポロリンは嘘つける子じゃないからねぇ、シェラちゃんだって分かるだろ?」
「だって、ダンデリーナ様って、あの″美姫″ですよね? 国王陛下が溺愛してて王国で一番美しいとか何とか……」
「シェラちゃん、あんた相変わらず詳しいねぇ……」
「ああっ! ポロリンが心配なのです! 男一人だからって虐められてないといいのですが……」
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シスターとこじいんのみんなへ。
ネルトです。はじめててがみかきます。
おうとでぼうけんしゃになりました。
ピーゾンとポロリンにいれてもらいました。
オークとかたおしました。
オークのにくはおいしいです。
いのししとかくもとかもたおしました。
くもはたべるなっておこられました。
リーナとサフィーもはいりました。
ホームができました。じゅうしょは****。
おこづかいをもらったのできょうかいにきしんします。
こじいんのみんなにたべさせてあげてください。
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「ネ、ネルトさんが冒険者に!? 学校に行ったのではないのですか!?」
「シ、シスター! 寄進ってこれ……金貨が十枚も!」
「なっ……! いえ、冒険者になったからと言ってすぐにこれだけ稼げるわけではないはずです。どういう事でしょうか……」
「まさか何か良からぬ事を……あの娘はどこか抜けているところがありますから、誰かに騙されたとか……」
「いいえ、ああ見えてネルトさんはよく考える娘ですよ。おそらくピーゾンさんとポロリンさんという方々が優秀な冒険者だったのでしょう。ランクの高い冒険者のパーティーに入る事が出来れば、あるいは施しを受ける事もできるのかもしれません」
「なるほど……」
「とりあえずお礼のお手紙と、それとなく詳しい説明をお願いしましょう。正直、情報が少なすぎます。オーク肉の美味しさよりも伝えてほしい情報があるのですが……」
「ええ、しかし王都では蜘蛛は食べないのですね」
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「どうだ、探れたか?」
「ええ、いきなり学校をやめて冒険者になるとか言い出したから驚きましたが、なかなか面白いパーティーですね」
「ほう、単にダンデリーナ殿下に付いて行っただけじゃねえってか」
「どうでしょう。あのバカ娘の事だからそれが一番の理由だと思いますよ。ただそれだけではなかったと。これ、管理局からの資料です」
「どれ…………なんだこれ。こんな面子のとこに入ったのか、サフィーは」
「【毒殺屋】【セクシーギャル】【ニートの魔女】、そしてダンデリーナ殿下が【サシミタンポポ】。そこへ【スタイリッシュ忍者】のサフィーが入ると」
「見てくれはともかく、分かってる能力だけでもとんでもないな。サフィーが普通に見えちまうぞ」
「同年代の固有職だけ、しかもこれだけ能力の尖った面子をよくも揃えたものです。むしろこの中によくサフィーを入れてくれたと親としては感謝の一つもしたいところですよ」
「郊外演習を監視していたヤツの報告は正しかったってわけだな。さすがに信じられなかったが」
「助けに入るか、ダンデリーナ殿下をお守りするか難しい判断だったようですが……助けに入らずに正解だったのでしょう。彼女の一端が見られたのですから」
「だな。ヤツの報告もそうだが、管理局からの情報も合わせればとんでもないな、この【毒殺屋】……ピーゾンってやつはピカイチだ。冒険者やめさせてうちにスカウトしたい所だが……」
「頭領ならそう言うと思いましたよ。でも引き抜くとパーティーリーダーを失うわけですからね。サフィーにもダンデリーナ殿下にも支障が出ます」
「かぁ~! せめてダンデリーナ殿下がいなきゃなぁ……」
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「……おい」
「…………」
「おいっ! 宰相!」
「なんでしょうか陛下。まだ決算書類は片付いておりませんが」
「ダンデリーナはどうしてる! 連絡は! まだ帰ってこんのか!」
「その質問は今日だけでかれこれ七回目ですね。帰っても来ませんし、元気に冒険者をしているかと」
「お前はなんでそう冷たいんだ! ダンデリーナだぞ!? あの可愛い可愛いダンデリーナだ! なんで冒険者なんて危険な仕事をせにゃならん! 学校でよいではないか! こうしている間にも怪我をしているかもしれん! 泣いているかもしれん! お父様助けてって叫んでいるかもしれん!」
「それはないでしょう」
「万が一があるというのだ! 新人冒険者の死など珍しくもない! いくらダンデリーナが強く賢く理性的で尊い志を持ちなおかつ可愛いとしてもだ! 事故がありうるのが冒険者というもの! 魔物と戦うというのはそういう事だ! 違うか!」
「違いませんが幸いにしてパーティーメンバーも優秀ですからな。資料はお渡ししましたでしょう。管理局のデータと合わせて【幻影の闇に潜む者】に裏付けを依頼したものが」
「それも問題なのだ! このポロリンとかいう者が男ではないか! 同じホームで男が暮らすだと!? 絶対にダンデリーナに襲い掛かるぞ! 男は魔物より恐ろしい! 男は皆狼だとあれほど口酸っぱく言い聞かしたというのに、ダンデリーナはなぜ男とパーティーを組むなどと!」
「冒険者パーティーとしては男女比4:1ですのでだいぶマシな方だと思いますが」
「比率の問題ではないわ! 一人でもおれば見目麗しいダンデリーナに見惚れるに決まっておる! このままではいつ毒牙にかかるか……!」
「″毒″はパーティーリーダーの方だったと思いますが」
「職の話などしておらんわ! このセク…………えっ? セ、【セクシーギャル】? ん? おい、このポロリンとかいう者は男とあるが……」
「ええ、確かに男性のようです」
「えっ、でも【セクシーギャル】……」
「ええ、男性なのに【セクシーギャル】だそうです」
「…………そ、そうか」
一番かわいそうなのは孤児院のシスターだと思う。




