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78:スタイリッシュをテコ入れしつつ戦術を練ります



「<必中投擲>っ! ですわっ!」



 サフィーの両手から投げられたクナイが的となった木に次々当たる。

 素早く移動していてもブレない。


 どうやら『どこに投げてもホーミングして的に当たる』というわけではなく、投げる時点で補正がかかってるっぽい。


 つまり直線的な投擲攻撃には違いないわけだ。

 木に刺さった様子を見るに威力もそこそこ。

 サフィー何気に攻撃力も高いからね。さすが【忍者】。



 <忍びの直感>は気配察知・危険察知・罠察知・罠解除・急所察知の複合というとんでも仕様。

 もしかしたら<必中投擲>にも『急所察知』が乗るのかもしれない。


 感知範囲は40mほどと近く、常時使用もできない。レベルが上がれば広がるだろうけどね。

 なるべく使うように練習してもらうけど、私の<気配察知>と併用する感じかな。ともかく有能。



 やはり問題は<スタイリッシュ忍術>だ。



「はぁぁぁぁっ! <火遁>っ! ですわっ!」



 サフィーはバレリーナのようにくるりとターンを決め、ビシッと右手と右足を上げ、左手を前に出した姿勢で止まる。

 そこから放たれる<火遁>。

 いや、手から火の玉が出るわけではない。


 目標地点に炎の渦が3mほど急激に立ち上り、的を炎熱で包み込んだと思ったら、それはすぐに渦巻きながら細く集束する。


 5mほどの高さまで細く伸びた炎は最終的に頂点部分がバンッと球状に破裂した。

 まるで花火のように……。



「うわぁ、綺麗ですねー!」

「おお」

「その前のターンもお見事でした」

「そうでしょう、そうでしょうとも!」


「うん、思った以上に使えないね」

「んなっ!?」



 ちなみに<水遁>は同じ動作をして、的が水流に包まれる。洗濯機状態だ。

 水量・威力共に申し分なし。

 ただ、<火遁>と同じように5mほど立ち上り、キラキラとシャワーのように降り注ぐ。


 <土遁>も同じ動作をすると、的の真下の地面から土柱がドスンと飛び出して来る。

 跳ね上げる勢いで的を壊したけど、これ魔法攻撃か? 物理ダメージじゃないの?

 ちなみに飛び出した土柱は砂となってサラサラキラキラと風に消える。


 <影縫い>はクナイを相手の影に投げつける事で一時的に動きを止めさせる。

 相手が暴れるとクナイは徐々に影から抜けて、完全に抜けると<影縫い>も外されるらしい。だから一時的。

 ちなみに行動阻害が成功した時に黒いモヤのようなものが相手に纏わりつき、解除されると「パァン!」とモヤが晴れる。



 要は、予備動作とエフェクトが邪魔なのだ。効果は素晴らしいのに。



「忍術を放つまでにポーズを決める必要があるから二~三秒はかかる。せっかく敏捷が高くて機動力重視の戦い方なのに、足を止めて攻撃を遅らせる事になるよね。戦闘中に咄嗟に使うことができないって事だよ」


「ぐっ……」


「あとエフェクト……派手な視覚効果は見た目以外に何の効果もない。仮にそれで戦闘を終わらせても周りの敵に居場所を教えてるようなもんだし。【忍者】なんだから忍べと言いたい」


「ぐはっ!」


「ピ、ピーゾンさん、辛辣すぎます……」



 色々と話を聞くに、どうやらエフェクトはサフィーの意思でどうこう出来るものではないらしい。

 これはもう<スタイリッシュ忍術>の効果と見るべきだ。そういうもんだと。


 じゃあテコ入れするとすれば、発動に必要なポーズのほうだね。

 ターンして「ビシッ」と決めないと発動しないとかありえないでしょ。


 どうやら当初どうやっても発動せず、舞踏会で踊るようなパーティーダンスを取り入れてみたら発動したらしい。


 よくまぁその発動条件を見つけたもんだよ。

 しかしなぜダンスを取り入れたのか……ああ、貴族だからか。



 <スタイリッシュ忍術>を使うには『スタイリッシュ』な動作を入れないといけない。それが結論。


 そしてその動作を考案したのはサフィー。



「つまり、サフィーはダンスの動きが『スタイリッシュ』だと思っているって事か」


「スタイリッシュでございましょう? ワタクシ、ダンスも自信がございましてよ!」


「ふむ……サフィーにとって『スタイリッシュ』とは何かね」


「えっ、そ、それは『お上品で優雅、そして華麗で美しい』そういった意味でございましょう?」



 なるほど。そういう認識か。

 ちらりとリーナを見る。



「リーナはどう思う?」


「『スタイリッシュ』の意味ですか。サフィー様と似たようなものです。『洗練された美しさ』といった感じでしょうか」


「なるほど、分かった。要は『スタイリッシュ』の意味を履き違えているわけだ。だからそんなポーズを導入してしまったと」


「んなっ! い、意味が違うんですの!?」



 私はサフィーに向き、真剣な面持ちでこう告げた。



「そう! 『スタイリッシュ』とはすなわち『かっこよさ』! 誰もが目を引き、魂に訴えかける『かっこよさ』なのだよ! それが真の『スタイリッシュ』というもの!」



 ババーンという効果音……はないけど私は拳を胸に力説した。

 サフィーは驚きの表情で「なんと……そうでしたの……」と言っている。ふふふ。




※作者注

スタイリッシュとは『オシャレで流行に合っている様』であり、みんな間違っています。





「これを見たまえ、サフィーくん」



 項垂れているサフィーにそう言い、こちらを向かせる。

 私は両手を胸の前に合わせ……



「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!」



 バババッ! っと印を結ぶ。

 もちろん熟知しているはずもない。雰囲気が大事だ。



「んなっ!」


「驚くのはまだ早い。これを片手でやるとこうなるッ!」



 バババッ! っと雰囲気でそれっぽく結ぶ。もはや面影はない。



「んまっ!」


「これが私の知る【忍者】としての『かっこよさ』! 忍術発動の為の動作――『印』だ!」


「印……!」


「そう! 【忍者】は印を結ぶことで<忍術>を使う! 【忍者】としてこれほど『かっこいい』予備動作はないッ!」


「魂に訴えかけるかっこよさ……ス、スタイリッシュですわ……!」



 なんかサフィーが感動してるところで簡単に印を結ばせてみた。

 実際に印を結んでから<火遁>を撃ってみる。



「<火遁>!」『おおー!』



 できたわ。


 まさか撃てるとは思わなかった。

 やっぱサフィーの心持ち一つじゃないか。

 スタイリッシュだと思えば何だっていいんじゃないか。


 私としては半分ボケたつもりだった。

「やっぱ無理だよねー、じゃあこのポーズは?」と繋げるつもりだった。


 いざそれが正解だった時は若干困惑する。

「お、おう、よ、よかったじゃん」って感じのリアクションになる。



 ……まぁ出来て当然みたいな顔をする以外にないんですがね。


 ともかくこれで予備動作の大幅な短縮、動きながら撃てるし、片手で印を結んで撃てると。

 やっと使えるようになったかな。



「オーーッホッホッホ! これは素晴らしいですわ!」


「さすがですね、ピーゾン様。すぐさま問題点を洗い出し修正なさるとは」


「りん、ぴょー、とー……ん?」


「ネルトさん、後で教えてもらえばいいんじゃないですか?」



 なんかネルトが印を結びたがっている。どうやらネルトも魂で感じたらしい。

 ふふふ、教えてあげよう。意味ないけどな!


 でも後から思ったんだよね。

 かっこいいと思うだけなら、指パッチンでいいんじゃないかと。

 あれすごく発動早いし便利だと思う。

 使ってるのがギャル男じゃなかったら有用なスキルだったね。





 ともかくこれで皆の戦い方が把握できたという事で、戦術について話し合おうと思う。

 個人訓練もするつもりだけど、パーティーとしての役割を決めておかないと動きが変わるからね。



「ただそれにも問題があってね」


「問題ですか?」


「やれる事が多すぎるんだよ」



 基本戦術を組む上でユーティリティなメンバーが多い。嬉しい悲鳴だけどね。

 特にあれこれ出来るのがネルトとサフィー。

 逆にリーナは近接攻撃しかできない。

 まとめるとこうなる。



・近接攻撃:全員(ネルトは念力・ルールシュレッド含む)


・中・遠距離攻撃:ピーゾン(毒)、サフィー(忍術・投擲)、ネルト(念力・ルールシュレッド)


・属性攻撃:サフィー(忍術)


盾役(タンク):ポロリン、ネルト(念力)


・索敵:ピーゾン(気配察知)、ネルト(ホークアイ・グリッド)、サフィー(忍びの直感)



 こんな感じでしょうか。今の所。


 こう見ると純粋な後衛というのが居ない。

 スタイリッシュ&ニートが万能戦士すぎて困る。


 一般職のパーティーだったらこんなに悩まないんだろうけど、良くも悪くも固有職(ユニークジョブ)ってのは個性が強いんだよね。まぁうちだけかもしれんけど。



 私は地面に陣形図を描きながら説明する。



「そういうわけだから、戦闘時の基本陣形は前衛に私・ポロリン・リーナの並び、後衛がネルトとサフィー、こんな感じかな」


『ふむふむ』


「ここから相手によって変わるね。防御陣形の一例としてネルトが前に出て二枚盾もありうる。ポロリン・ネルトが前衛、私とリーナが中衛でサフィーが後衛かな」


「ネルト様が盾役(タンク)に集中せざるを得ない状況というのは余程、守りを固めたい時でしょうね」


「ボクだけで凌ぎきれない場合ですか?」


「それもあるけどポロリンのトンファーは、遠距離に弱いんだよ。矢とか魔法とか。特に魔法やブレスを撃ってくるような魔物相手だと相性が悪い」


「なるほど、ネルトさんの<念力>であればそれも防げるというわけですの?」


「ん。だいじょぶ」



 防御陣形だけでもいくつか考えつくけど、今は大雑把に説明しよう。



「逆に攻勢ならサフィーが遊撃として前に出るのも手だね。ポロリンにはネルトを守るのに集中してもらって、私・リーナ・サフィーの敏捷特化組が遊撃気味に攻撃する」


「攻撃は派手な方が美しいですわね」


「先のロックリザードのような巨体を相手にパーティー戦闘をするには良いかもしれません。正面をポロリン様に抑えてもらいつつ、側面や背後から攻撃を加えるのが常道ですから」


「んー難しい」


「こんがらがってきました」



 戦闘隊形だけで何パターンもあるからね。

 今までは三人だけだったからどうにでもなったけど、これからは格段に増すだろう。

 ま、慣れと勉強だね。



「戦闘以外の探索時の基本陣形は逆に、ネルトとサフィーが前、ポロリンとリーナが二列目、私が最後尾が良いと思うんだけど……」


「ワタクシとピーゾンさん逆の方がよろしいんじゃなくて?」


「悩ましいね。確かにサフィーを殿にした方が戦闘陣形への移行はスムーズかもしれない」


「後方からの強襲を考えればピーゾン様のほうが良いかもしれません」


「空が拓けてれば<ホークアイ>の索敵範囲が図抜けてますし、ネルトさんが最前線じゃなくてもいいんじゃないですか?」


「んー、むずい」



 考え、話し合う事は多い。

 みんなの考えを出し合って、みんなが戦いやすい方法を探る。


 なんかそれが楽しくてね。

 やっとパーティーらしくなってきたなーと。冒険者らしくなったなーと。

 この後、結構話し込んでしまった。




三人から五人になればとれる戦術は格段に増します。特にこの面子だと。

ピーゾンは別に戦術マニアじゃありませんが、自称安全第一主義なのである程度はあらかじめ決めておきたいという事です。

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