60:護衛依頼を受けましたが護衛対象が一癖あります
二日後、私たちは朝から東門を出たところに居る。
見える景色はいつも行ってる南門と大差ない。
平野に通る街道、少し離れた両脇に林とか森とか。
この街道を進むとベット湿地に行けるのだろう。
まぁ見る限りでは湿地の気配すらないのだが。
私たちの他にも何組かのパーティーが集まっている。
皆、護衛依頼の冒険者パーティーらしい。
これだけ集めるってことは学校の第二学年の生徒数が多いのか、はたまた生徒が少人数でグループ分けされているのか。
私たちはSクラスの中の一つのグループって話だったけど人数までは聞いてないしなぁ。
学校に居る固有職はSクラスだけで、その他のクラスは金持ちの貴族や商人などに限られる。
その中で戦闘職の子供が今回の演習に参加するのだろう。
護衛には私たちのように固有職でない普通の冒険者の中でも、どうやらベテラン勢が当たるらしい。
そりゃ金持ちの子息を守るんだから、やたらな冒険者も当てられないだろうね。ギルド的に。
どうせ生意気なガキとか居るんだろうし、何か言われても「なんだとこのクソガキ!」と護衛のこっちが絡むわけにもいかないし。
そう考えると金持ちが居ない可能性があるSクラスの方が気は楽かもしれないね。
村人だろうが孤児だろうが固有職であれば入れるわけだから。
そんな事を考えながら見回していると、声をかけられた。
「おはよう、君らは……【輝く礁域】で良かったかな」
「あ、おはようございます、ミルローゼさん。お久しぶりです」
固有職を集めた大手クラン【唯一絶対】のクランマスター、ミルローゼさんだ。キリッとした長身美人。
今日も白銀の鎧と青い修道女のローブを合わせたような独特な装備をしている。
腰には大剣っぽい直剣。例の魔剣だね。
【剣士】系なのか【回復職】系なのか……聖騎士的な固有職という線も……。
「先日の一件は本当にすまなかった。クランを代表して謝罪する」
「あ、いえ、ミルローゼさんが悪いわけじゃないですから」
頭を下げるミルローゼさんに恐縮する。
本当は「てめーが管理しねーからだろーがオラァン?」と言いたいところだが素直に謝られるとつらい。
「でも大丈夫なんですか? 【唯一絶対】もそれでごたついてるって聞きましたけど、クラマスのミルローゼさんが護衛依頼なんか……」
「ああ、正直慌ただしいね。ベルバトスの派閥はギャレオだけではない。他の数名も今は取り調べの真っ最中さ」
あー、そりゃ手下がギャル男だけなわけがないか。二人だけの派閥なんかあるわけないし。
「しかし例年受けていた依頼でもある。人数は少ないながらも出させてくれとお願いしたんだよ。私が来たのは君たちに謝りたかったからだがな」
「そうなんですか」
「結果として君たちまでこの依頼に巻き込んでしまったのは申し訳ないと思っている。やはりギルドとしてもこの依頼を任せられるような固有職のパーティーというのは稀有らしい。Sクラスの担当をするには私たちだけでは数が足りなかったようでな」
【唯一絶対】に加入してなくて固有職だけで組んでるパーティーなんて私たち以外に居るのか? いや、人数を考えれば居ない方がおかしいかな?
固有職と一般職の混合パーティーの方が多そうだけどね。
まぁ今回に関しては素直に指名依頼が来たことに喜んでおきますよ。新人冒険者らしく。
この後少し話して、ミルローゼさんは自分のパーティーの元へと帰って行った。
ウサミミをピコらせるが殺気はない。どうやら本当に筋肉ダルマの派閥はいないようだ。
もしいたら私たちを怨んでそうだしね。
そうこうしているうちに、ぞろぞろと東門を抜けてやって来た集団。百人以上いるかな。
全員同じ制服を見るに、これが護衛対象の学生たちだろう。
二学年が全部で何人居るのか知らないけど戦闘職でこれだけって事だよね?
固有職は毎年国内で百人くらいって聞いた。うち半数以上は学校に行くと。
となると五十~六十人くらい?
その中で戦闘職がどれくらい居るものなのか……。
制服は薄いレモン色の服に色分けされたラインが入っている。
これでクラス分けされているっぽいね。
そして全員同じ藍色の外套。こっちは学年で分けているのかな? 藍色は二学年とか。
って言うか、全員が戦闘職にしたって、これ前衛も後衛も同じ服装でいいのだろうか。
少なくとも前衛はつらいと思うんだが。
あ、盾持ってる人いるね……えっ制服で盾構えるの? すごい違和感。ほんと大丈夫?
つまり制服は『装備品』って事だよね?
まさか金持ち生徒を一般服で戦わせたりしないでしょ。
しかも職による制限を受けずに、どの職でも着られるという……まじで? そんなのあるの?
こういう技術があるなら私やネルトが鎧を着られたり、ポロリンのセクシー縛りとか解消されるんだけど。
……マリリンさん相談案件かな?
そして生徒グループと冒険者パーティーの振り分けが始まった。
生徒の方は教諭が分けている。冒険者の方はギルド職員だ。
「【輝く礁域】ですが」
「はい。えー皆さんはSクラスの第1班をお願いします。場所は――」
生徒さんたちとの集合場所は少し離れたところだった。
クラスと班ごとに分かれて集まるらしい。
ややあって、三人の生徒さんたちが近づいてくる。
制服は青いライン。青がSクラスって事かな。
全体で言えば青いラインは……二〇人くらい? 思ったより少ない。
非戦闘職が多いのか、一年のうちに退学して別の進路に行ったか、それとも不祥事を起こして囚われの研究対象になったのか……ガクブル。
ともかく自分たちの護衛担当であろう、その三人に目を向ける。
女子が先頭、それと男子が二名。
……すんごい美人さんだなぁ。この娘。
エメラルドグリーンの髪に幼いながらも女優さんのような顔つき。
とんでもない美少女……いや少女じゃなくて美人って言ったほうがいいかもしれない。これホントに十一歳か?
「うわぁ、綺麗な人だなぁ……」
ボソッとポロリンが呟くが、あんたそれ皮肉だからね?
確かに私が今まで見た女の子の中ではダントツだけど、男女含めれば別だからね?
そんなジト目を送りつつ、私はリーダーらしく先頭の彼女に話しかけた。
「えっと、Sクラスの第1班の皆さんですか?」
「はい。この度はよろしくお願いいたします。わたくし班長のダンデリーナと申します」
まぁ、なんと礼儀正しい。お貴族様でしょうか。
それなのに冒険者の私たちに礼儀をもってご挨拶されるとは私のお貴族様像がお狂いになられあそばされますわ。
「ダ、ダンデリーナ様!?」
ポロリンがいきなりそう叫ぶと片膝をついて頭を下げた。
えっ? えっ? 何、有名人? 私も慌てて片膝をつく。
ネルトは「?」と首を傾げて突っ立ったままだ。おいこら、空気読め!
私は横目でポロリンに「誰?」と目で合図する。
すると小声で「第七王女様だよ!」と言うのだ。
お、王女様!? 姫様!? 貴族どころか王族かい!
「どうぞ頭を上げて下さい。わたくしは王女ではなく一人の学生です。そして貴女方は同世代ながらも戦いの場に身を置き、自立している冒険者の方々。どうぞわたくし達を指導するつもりで接して下さいませ」
すごいな、この姫様。こんな事、一介の冒険者に言えるもんかね。
もう王国安泰だわ。完全勝利だわ。
とりあえず再び立ち上がって会釈する。
姫様の後ろの男子二人も「そりゃそうなるよなぁ」と苦笑いだ。
「改めてわたくしダンデリーナ・フォン・ジオボルトと申します。ですがどうぞ王族とは思わずダンデリーナやリーナとお呼び下さい。普通に接して頂けると幸いです」
普通かぁ、その方が楽だけど小市民にはキツいものがあるね。
とは言え相手は学生として、こっちは護衛・指導する冒険者として接しないといけない。
んじゃお言葉に甘えますか。
「えーじゃあ私は【輝く礁域】のリーダーでピーゾンです。よろしく、リーナ」
「ちょっ! ピーゾンさん!? あ、ボクはポロリンですっ! よろしくお願いしますっ!」
「ネルト。よろしく、リーナ」
「ネルトさん!?」
「結構ですよポロリン様。わたくしからお願いしたのですから。どうぞそのようにお呼び下さい」
自分には様付けさせないのに、こっちには様付けすんのかい。
と思ったら、リーナは誰にでも様付けするらしい。男子二人が言ってた。
「俺はディオ。よろしくお願いします」
「私はマックスです。よろしくお願いします」
男子二人も大人びている感じがする。十一歳には見えないなー。教育のせいか?
ディオはガタイが良くて明るい感じ。元気な前衛リーダータイプって雰囲気がある。
マックスは細身だけど腰の得物は剣だね。敏捷系の剣士タイプかな? ディオに比べると冷静な雰囲気。
二人とも礼儀正しい。こっちが小娘だからって嘗めてこない。
学校は貴族とか富豪が行く場所だって聞いてたからこんなのは予想してなかったなぁ。
まぁSクラスだからディオとマックスが庶民なのか貴族なのかも分からないけど。
しかしどうも私やネルトの装備、そしてポロリンに目が行きまくってる。
かなり興味があるご様子。まぁ装備に関しては説明がいるだろうね。
それは後でするとして……ポロリンに色目使うのはやめておきな。火傷するぜ。
「えっと、第1班はこの三人なのかな?」
「いえあと三人おりま――」
リーナがそこまで言いかけると、離れた所から声がした。
「んまぁ! なんと、貴女方がワタクシたちの護衛ですの!? なんと珍妙な!」
そう言いながら歩いてきたのは金髪ドリルで扇子を広げた女子生徒。
その後ろにはさらに取り巻き女子二人を引き連れている。
うわぁ……。
「ほぉら御覧なさい、シャボンさん、トトゥリアさん! ウサギに黒猫ですわ! なんとお可愛らしい護衛ですこと! オーーッホッホッホッホ!」
うわぁ……。
でもなんか安心するぅ……。
金髪ドリルにも色々とありますが、彼女はロングヘアーで触覚部分が太いドリルになってるタイプ。
貴族令嬢を出すならばこういうのを出さないわけにはいかない(使命感)




