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59:新人冒険者ですが新人商人にもなりました



「ゴ……マリリンさん! どうしたんですか?」


「あらぁ~メルルじゃない~。ちょうど良かったわ~。貴女を呼ぼうと思ってたのよ~」


「はぁ、マリリンさんがわざわざお越しになるなんて珍しいですね。どんな御用です?」


「この娘たちの商売のお話をしたくてね~」



 二階の応接室に通された私たちはマリリンさんと並ぶように座る。

 紹介されたのは二〇代のお姉さん。メルルさんというらしい。

 小柄でツインテールというよりはお下げといった感じの髪。そして丸眼鏡。


 小動物っぽくて新米受付嬢かなーと思ってたらマネージャーという役職らしい。

 サブマスの下で実は結構えらい。はぇ~。


 というかそんな偉い人を私の担当につけようとしているマリリンさん。

 何者なのよ。【幻想魔装】のゴンザレス(笑)とか言われてたけどさ。



「マリリンさんは王都セントリオの商業ギルドが誇る『四天商』の一人です」


「えっ……し、四天商?」


「はい、当商業ギルドで登録している商人のうち四強の一角と言えばいいでしょうか。マリリンさん以上の魔装技師はおりませんので」


「うふふ~、それであたしの担当をしているのがメルルってわけよ~」



 ようはこの商業ギルド王都支部で特に優れたSランク四人が居るらしい。

 冒険者ギルドと同じようにFランクからSランクまであるって事だね。

 ランクは納税額等で変わるらしいが。


 商業ギルドに登録している人は商人も居れば生産者も居る。


 他のSランクがどんな商売をしているのかは知らないが、ともかくマリリンさんは王都最高の【上級魔装技師】であり、『ファンシーショップ・マリリン』が閑古鳥であろうとSランクに上がれるほどの腕前という事だ。



 つまりあの店は本当に片手間の趣味でやってるって事だね。

 私にとっては唯一無二の店なんだけど。



 とにかくマリリンさんが王都最強の魔装技師だって事は分かった。

 果たしてその″最強″ってのが商人としての腕なのか、パワーなのかは分からないが……。

 マリリンさん、戦っても普通に強そうだし。戦闘職じゃないけど。



「失礼ですが【輝く礁域(グロウラグーン)】の皆さんでしょうか」


「あ、はい。よく知ってますね」


「最近よくお聞きしますよ、新星が現れたって。オークキングを含む集落の討伐に、固有職狩り(ユニークハンター)もですね」


「えっ、昨日の事をもう知ってるんですか」


「商業ギルドの特性上、情報は入りやすいので……しかし思ったとおりマリリンさんとお付き合いがありましたか。その装備品はマリリンさんのお店でしか売ってないでしょうからね」


「うふふ~、すっかりお得意様よ~」



 メルルさんはマリリンさんの魔装技師としての仕事だけでなくお店の担当でもあったようだ。

 お客さんが全くいないのも案じていたらしく、ようやく現れた固定客が活躍し始めた新人冒険者という事で嬉しかったらしい。


 そこから私の商売の話になる。

 リバーシを取り出して実際に遊んで見せた。



「……なるほど、単純で面白いですね。こうしたゲームは『ウォーボード』というものがありますが、これはそれよりも親しみやすい。庶民にも理解できて楽しめそうなものですね」


「むしろメインターゲットは庶民にしたいくらいです。貴族向けもアリですけど。この他にもいくつかボードゲームを作ったんですけど、まずはこのリバーシをと」


「製造と販売を委託して仲介を私に、ということですね?」


「はい……あっ、販売はマリリンさんのお店にします?」


「いえ、あたしのお店はファッションのお店だからね~。作るのも売るのもベルドットに任せたいんだけど~」


「ベ、ベルドット商会ですか!?」



 マリリンさんのお店で販売じゃないのか。

 まぁ仮にファンシーリバーシみたいなのを作っても魔装具でも何でもないからね。

 でもそうなるとマリリンさんには完全に紹介だけしてもらった形になっちゃうんだけど……心苦しいなぁ。


 そして『ベルドット』って名前に反応したのは隣に座るポロリンだ。


 どうやらオーフェンにも進出しているような超大手の商会だとか。

 オーフェンのお店は完全に富裕層向けの店らしく、ポロリンの実家との接点は皆無。

 冒険者用の商品に関してもあるにはあるらしいが、それこそ高ランク冒険者しか訪れないと言う。ポロリン情報。


 そんな所とマリリンさんは仲良しなのか……そしてそんな所にリバーシを頼むのか……なんか話が大きくなってきたなぁ。



「だ~いじょうぶよ、ポロちゃん。あいつ、あたしの頼みは断れないから。結構あいつから依頼うけて魔装具卸してるんだしね~」


「確かに大商会ではありますがベルドットさんも私が担当ですので仲介はしやすいですよ」



 マリリンさんもメルルさんも問題ないらしい。

 むしろそんなに軽く見られている大商会の会長さんが可哀想だ。


 そして、話は早いほうが良いと、マリリンさんはギルド職員の人に頼み、ベルドットさんを呼び出した。

 ベルドット商会はやはり大手という事もあり、こことも近い大通り沿いにあるらしい。


 ……というか今さらだけど、マリリンさんのお店が流行ってないのに中央区にある理由が分かったよ。

 四天商のお店だからなんだね。



 いきなり大商会の会長を呼び出すという暴挙をしたが、マリリンさんはどこ吹く風。「あたしが呼んでるって言えば来るわよ~」との事。


 そしてメルルさんとリバーシ談義をしつつ待つ事、15分。


 早い! もう来たのか! 会長! ベルドット会長が来た! 呼び出されて走って来た! 可哀想!



「ハァハァ……お待たせしました、ゴ……マリリンさん」


「全然待ってないわよ~、ベルドット。オハナシしたいから座ってちょうだい~」


「は、はぁ……」



 恐縮しまくってんじゃん! もうやめて! 私には大商会の会長にはもう見えないよ!


 ベルドットさんは小太りな中年。髭に立派なローブ姿だ。

 今はハンカチで汗を必死に拭っている。



 ベルドットさんはマリリンさんの魔装具の商談と思ったらしく、内容が私のゲームの事だと言うと少し訝し気な表情に変わった。


 しかしやはりと言うべきか、【輝く礁域(グロウラグーン)】の情報も掴んでいたらしい。

 最近噂の冒険者が新しいボードゲームを販売したいという事で、結構乗り気になった。

 マリリンさんともそうだけど、私たちとも繋がりが欲しいらしい。


 ……いや、私たちと繋がり持ったって意味ないと思うんだけどね。Aランクとかじゃあるまいし。



「……なるほど、面白いですな。庶民向けのボードゲームというムーヴメントを作れるやもしれません」


「あ、貴族向けの豪華な姿容もアリだと思います。一般向けは白黒の石とマット代わりの布とかでいいと思うんですけど、木製の盤にするとか」


「ふむふむ、いいですな」


「あとリバーシが売れたら別のボードゲームも出したいんですけど、リバーシが8×8マスに対して9×9マスなんですよね。それも同じ盤で出来るようにするか、別の盤にするか悩んでるんです」



『ウォーボード』ってのがチェスっぽいはずだから、私が想定してるのは魔法職とかも入れたこの世界風の『将棋』なんだけど、それだと9×9マスなんだよね。チェスなら8×8マスのままいけそうなんだけど。


 ……というかチェスのルールが曖昧だから再現できないんだけど。あとは囲碁ならいけるな。

 ダイアモンドゲームも紙で作ったけど、あれ完全に別物の扱いになるだろうしね。



 そんな感じでベルドットさんとの話し合いは順調に進んだ。

 途中でメルルさんやマリリンさんも口を出し、早いペースで煮詰まっていく。

 ベルドットさんも新しい商機に嬉しそうで、これなら早めに売り出されそうだ。



「では売り上げの三割を商業ギルド経由でピーゾンさんにお渡しするという事で……」


「えっ、いや、多くないですか!?」


「リバーシの大本の権利はピーゾンさんにあります。製造・販売のリベートやギルドへの税を差し引いても三割は決して多くないかと」


「商業ギルドとしても妥当と判断します」


「はぁ、じゃあありがたく」



 一割貰えれば上等だと思っていたら三割とはね。

 ま、貰えるんなら貰っておきます。遠慮なく。


 それから<契約魔法>による契約書の作成と、私用のギルドカードを発行してもらった。

 銀行の預金システムのようなものもあるらしく、ベルドット商会から私への支払いは商業ギルドで預かる事になる。

 当然ランクはF。見た目は冒険者ギルドのカードと似ているね、やっぱり。



「じゃあベルドットさん、メルルさん、よろしくお願いします。マリリンさんもありがとうございました」



 ベルドットさんはホクホク顔で帰って行った。

 マリリンさんとメルルさんは私が依頼した服飾の件で話し合うらしく、私たちが先に出ることになる。


 結局、マリリンさんにはこれだけ協力してもらったのに一銭も入らない契約となってしまった。

 これは今度いっぱい蜘蛛を狩らねばなるまい。



「ごめんね、付き合わせちゃって。時間かかっちゃったね」


「大丈夫ですよ。ボクも勉強になりました」


「ごはん」


「そうだね、じゃあ屋台食べ歩きしよっか」


「ん!」




ベルドットさんは確実にAランク上位です。

それを顎で使うマリリンさんが並外れているだけです。さすがSランク。

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