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閑話1:とある少年の幼馴染



■アルフェドアランケリウス(略称アルス) 【剣士】 10歳



 俺が住んでるファストン村ってところは、小さくて退屈な村だ。


 一応、北にある大都市『オーフェン』と南の街とを繋ぐ街道沿いってことで、人の行き来はあるが、小さすぎて滞在する人もまばらって感じだな。

 だから街道沿いのくせして人は少ない。


 ガメオウ山ってのが割と近くにあって、そこ目当てで泊まる冒険者なんかも居る。

 ただ出て来る魔物が強いのか弱いのか、あんまり人気はないみたいだけど。


 俺も出来れば冒険者になりたいっていう憧れはずっとあった。

 やっぱかっこいいからな。冒険して魔物と戦って。

 英雄譚よりも身近なヒーローって感じでさ。

 俺じゃなくても男だったら憧れると思うぜ?



 ただ俺の場合は父ちゃんが村の衛兵だから、やっぱ俺も冒険者じゃなくて衛兵になんのかなーとも思ってた。


 衛兵だって魔物から村を守る立派な役目だと思う。

 父ちゃんもカッコイイと思うよ。

 だから衛兵になるにせよ冒険者になるにせよ、剣は使えた方がいいと思って毎日がんばって訓練してたんだ。



 でもなぁ……。


 いや、俺の幼馴染でピーゾンって女が居るんだよ。

 小さい村だから同年の子供なんか俺とそいつくらいなもんでさ、親同士も仲が良かったから俺たちも子供同士で遊べとか言われてた。



「えっ、私があんたと? 遊ぶの? いやいや、いいです。私食堂のお手伝いしますんで」



 変なヤツなんだよ。

 当時五歳の俺が「あそぼーぜー」って言った途端にコレだぜ?

 それから事あるごとに遊びに誘ってみたが、全く遊んでくれなかった。虫取りとか。砂遊びとか。


 で、俺が父ちゃんから剣を習い始めたってのもあって、ピーゾンも誘ってみたんだよ。

 このご時世、女だからって戦っちゃいけませんとかないしな。

 女で有名な冒険者とかいっぱい居るし。強くなって損ないだろ?



「あー、剣ね。なるほど。まいっか」



 初めての手応え。

 ピーゾンは随分と悩んでから俺の差し出した木剣を手に取った。

 右手に持ち、構えからビュンビュンと素振りをする。

 うんと頷く。何か満足したらしい。切っ先を俺に向けた。


 ……正直、素振りの段階で嫌な予感はしてたんだ。


 ……あれ? なんかすごい堂に入った素振りしてる?


 ……剣なんか握った事ないはずだよな? って思ってた。



 剣を向け、半身になって構える姿勢は、正直父ちゃんより怖く感じた。

 睨みつけるような視線は俺の目を見ているはずなのに、剣と俺の身体全部を見られているような気がした。



「うらああああ!!!」



 無理矢理気合いを入れて突撃。最初から渾身の一撃を出したけど、あっさり避けられた。

 その事に驚きながら、自分でもよく分からない動きで連続して振る。とにかく振る。

 当てたい。何とか一撃当てたい。

 そう思ってとにかく振った。


 でも一発も当てられなかった。

 まるで木の葉みたいにひょいひょい避けて、最後には逆に一撃入れられた。超痛え。



「あー、全然ダメだわ……ブランクがすごい。片手剣ってのもなー」



 なんか悔しがってる。

 俺の方が一億万倍悔しいんだけど!?



 それから毎日の特訓により一層身が入った。

 衛兵とか冒険者とか関係なく、ピーゾンに勝ちたいってそれだけ思って特訓した。

 事あるごとに再戦を申し込み、「お手伝いあるから今度ねー」と軽く返され、それでもめげずに申し込んで、時々は模擬戦した。


 まぁ一回も勝てないどころか、一発も当てられなかったんだけど……。

 なんなんだよこいつ、まじで……。



 何度目かの敗戦で、俺のどこが悪いのか聞いてみた。



「うーん、アラ……アレ……アルスはね、姿勢が悪いし、振りも大きすぎだし、単調だし、分かりやすいし、振ったあとに体勢崩れてるし、防御考えてないし、馬鹿だし、視線でどこ狙うのかもバレバレだし、無駄に力んでるし、馬鹿だし、頭が悪いんだよ」



 し、指摘事項多すぎぃ!?


 しかも途中悪口入ってなかった!?

 バカって言うヤツがバカなんだぞ、バーカバーカ!


 食堂の娘に負ける衛兵とかありえないだろ?

 超悔しくて帰って一人で泣いたよ。

 さすがに女の前じゃ泣けないけど。父ちゃんの前でも。



 そんな事が続いて十歳になった。未だに一度も当てられていない。


 俺はピーゾンと二人、村に迎えに来た馬車に乗ってオーフェンまで行ったんだ。

 そう、『職決め』の日だからな。


 初めて行ったオーフェンはやっぱすごい都会で村とは全然違う。

 祭りみたいに人がいっぱいでさ、建物も人もみんなカッコよく見えた。

 やっぱこういう都会を拠点にしてる冒険者もいいなーと再び憧れたりした。


 冒険者になるにしても衛兵になるにしても『職決め』で戦闘職にならなきゃ意味がない。

 俺はゆっくりしてるピーゾンを連れて神殿へと急いだ。

 こいつは本当に平常心というか、オーフェンに来ても感動とかないみたいだし……相変わらず変なヤツだ。



 で、『職決め』の結果、俺は【剣士】になった。

 本当に嬉しかった。


 今までずっと剣の稽古をしてきて、これで戦闘職じゃなかったらどうしようってすごく不安だった。

 でもこれで<剣術>スキルが付いたはずだし、もっと剣が上手くなるはずだ。

 ピーゾンにも勝てるかもしれない。そう考えるとすごく嬉しかった。



 しかしそのピーゾンは『職決め』を受けた直後から呆然としていた。

 神官さんが「固有職(ユニークジョブ)」と言うのが聞こえた。

 何それ? そういう(ジョブ)


 ピーゾンは神官さんに別室に連れて行かれ、俺は出て来るのを待った。一人じゃ帰れないからな。

 部屋から出て来てもピーゾンの顔色は悪い。

 何を聞いても小声で「うん……うん……」と言うばかり。


 ホントどうしちゃったんだよ……こんなのピーゾンらしくないじゃないか。

 いつもみたいに太々しくビシビシ言う感じが全然ないじゃないか。

 やっぱ固有職(ユニークジョブ)とかいうのになったのが原因なのか?


 帰りの馬車でもしつこいくらいに聞いてみたら、突然腹パンされた。超痛え。



「アルス、私が固有職(ユニークジョブ)だって事、内緒だからね」


「うぅっ……」


固有職(ユニークジョブ)は国が管理してるらしいから、言い触らしたら騎士さんに捕まっちゃうからね? アルス逮捕されるからね?」



 えっ! 固有職(ユニークジョブ)って言うと捕まっちゃうのか!?

 そんな怖い(ジョブ)に就いたのかよお前!


 俺は絶対に口に出すまいと、帰りの馬車では無口になった。



 後から聞けば、固有職(ユニークジョブ)って言うのは『世界に一人しかいない珍しい(ジョブ)の事』なんだそうだ。


 なんだよそれ。そんな特別な(ジョブ)だったらもっと喜べばいいじゃん。

 何、この世の終わりみたいな顔してんだよ。



 結局ピーゾンが何の(ジョブ)に就いたのかは分からなかったけど、世界に一人しか居ないとかスゴイと思う。

 やっぱピーゾンは只者じゃねえ。

 前から変わり者だと思ってたけど、やっぱそうだったと改めて思った。



 村に帰って父ちゃんに【剣士】になったって言ったら喜んでくれた。それもまた嬉しい。

 明日からさっそく特訓メニューを厳しくするそうだ。

 望むところだ! 早く【剣士】としての力を上げて、ピーゾンに勝たないといけないからな!


 ……そう思っていた翌日。

 なぜかピーゾンが村を出るという話を聞く。

 しかも冒険者になって王都に行くと。



 えっ!? うそだろ!? 昨日帰って来たばっかじゃん!

 しかも王都で冒険者!? お前戦闘職だったの!? 確かに腹パン痛かったけど!


 頭の中はぐるぐるしたまま、とにかく木剣を持って村の入口に走った。

 ピーゾンは親御さんと別れを済ませ、馬車に向かうところだった。間に合った!



「どうしても行くって言うなら……行く前にもう一勝負だ!」



 まさか村を出て行くなんて、まさか王都に行っちまうだなんて。

 俺が一回も勝てないどころか、一発も当てられないまま勝ち逃げされてたまるか!

 せっかく【剣士】になれたのに!


 そう思っての最後の一勝負。

 ピーゾンの目付きと構えは、今までのものとは確実に違った。


 今までは食堂の休憩中に暇つぶしのお遊びみたいな雰囲気だったが(それでも全く当てられなかったが)今回はすごく真面目に剣を向けていた。


 多分、冒険者になるって決めた、その決意みたいなものが出てるんだと思う。

 村を出て、冒険者になって、魔物と戦わなきゃいけない。

 だから木剣でも真剣に見えるんだと思った。



 俺は自分のステータスをとっくに確認していた。

 【剣士】になる前より格段に強くなってるし、動き自体も良くなっているという自覚があった。


 ……でも無理だった。


 ……また一発も当てられないまま負けた。



 やっぱりか。悔しい気持ちの中にどこかそんな安心感があった。

 固有職(ユニークジョブ)とか言うのになっても、冒険者になっても、やっぱりピーゾンはピーゾンなんだなって。

 絶対に勝てない壁であると同時に、とてつもなく変な女だ。何も変わってない。



「アルスは【剣士】になったんだからこれから強くなるでしょう? 今度帰ってきた時に見せてもらうよ」



 ピーゾンが冒険者になるんなら俺だってなりたい。

 負けっぱなしは嫌だし、いつか勝ちたいとずっと思ってる。


 でもそう言われたら村で頑張るしかない。

 特訓して父ちゃんみたいな立派な衛兵になってやる。

 そんでピーゾンが帰って来た時には絶対に勝つ。

 見返してやるんだからな!


 ピーゾンが乗り込んだ馬車がだんだんと小さくなっていく。

 それを見ながら、俺は両手の木剣を握りしめ、父ちゃんの下へと走って帰ったんだ。

 父ちゃん! 特訓してくれ!




アなんとか君……きみってやつは……やるだけ無駄だから諦めなさい……。

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