32:元村娘ですがやっと王都に着きました
「……弱くね?」
「うそっ! 攻撃+50だよ!? 超強いじゃん!」
「いやいや、魔剣って普通もっと強いから。50ってあれだぜ? ミスリルのちょい上くらい。せめてアダマンタイトより上くらいでないと……だって魔剣だぜ?」
うわぁ、そう聞くとしょぼい……。
そう言えば私の敏捷も素で三桁だわ。
あかん、超強くなったって浮かれてたのに凹んできたわ。
「まぁ武器が装備できたって事で万々歳じゃねーの? やっと攻撃できるんだし」
「そ、そうですよ、ピーゾンさん!」
「モグモグ」
そうだ。これで物理ダメージ出せるようになったんだ。それは本当に喜ばしい!
ポロリンもフォローしてくれてるし素直に喜ぼう。
ただしネルト、おめーは何を食ってんだ。ジャーキー? ああ、まだ残ってたのか。それオヤツじゃねーから。
「しかし腰にぶら下げるの無理があるよな」
完全に特大剣サイズの大鉈は、鞘もない。
山賊の荷物にあった布で刃をぐるぐる巻きにして、紐を刃と柄の部分に括り付けて、たすき掛けにしている。
私の前にも後ろにもニョーンと伸びている状態だ。邪魔なんだけどね。
「だって背負ったら背嚢が背負えなくなるし」
「にしたってその状態でも抜けないだろ。鞘は武器屋で発注するとして、背嚢も″魔法の鞄″とかにすればいいんじゃね? あれ腰に付けるタイプあるし」
「″魔法の鞄″なんて高いでしょう。私見たこともないよ」
「そ、そうですよ。うちでも扱ってなかったですし、オーフェンだと高級商店だけです」
ポロリンが追従する。道具屋でお手伝いしてたから相場とか詳しいんだよね。
ちなみにアレです。アイテムボックスの劣化版。
容量制限あり、時間経過あり。それでも超高価らしい。
「王都は人もモノも集まるんだよ。【付与士】も結構いるからオーフェンよりは安くて種類も多いぜ? ま、それでも″魔法の鞄″だからそれなりにするがな。ピンキリだ」
ほう、それじゃ色々と買うついでに探しましょう。
買うものリストに鞘と魔法の鞄を追加。
ポロリンの装備も見たいし防具も見たい。
山賊の荷物にあったお金と宝石類で資金がどれだけになるかだなー。
いやぁワイバーンと山賊に感謝だね。それで足りるか分からないけど。
「とりあえず柄の部分も布で巻いておけ。魔剣ってバレると狙われるぞ」
「えっ、盗まれる!? いや、ポロリンに渡しても装備できなかったし、私専用なんじゃないの?」
「お前専用だから、お前の命が狙われるんだよ。殺せば使えるだろうが」
「「うわぁ……」」
ただでさえ固有職だからって拉致られたのに、今度は魔剣欲しさに命狙われるのか……。
村で平和に暮らしたい……。
装備出来たから浮かれてたのに、どんどん気持ちが沈んでいくのは何でだ?
♦
そんなこんなで洞穴から王都へと四人で出発した。
どうやらここは宿場町から少し離れて王都寄りの山中らしく、街道からは外れているとの事。案内なかったら絶対ムリだね。
「て言うか、おっさんはどうやってココ見つけたの?」
「おっさんじゃねーし。宿場町でお前らが行方不明って分かったんだけどな、どうしたもんかと悩んでたら近くにヤツらの見張りを発見したのよ。んで後をつけたってワケ」
「へぇ、よくそいつらが犯人だって分かったね」
「そりゃお前、勘だよ勘」
怖いわ、このおっさん。
それで違ってたら私たちに辿り着けないじゃん。
むしろ見張ってた山賊に感謝だよ。
「つーかな、あいつら山賊じゃねーんだわ」
「「えっ」」
「お前ら関係者だから話すけど、あいつら固有職狩りっつって言わば外国の秘密組織だな」
「「秘密組織?」」
おっさんの話だと、レアな固有職をジオボルト王国から攫い、自国の戦力にする外国の人さらい集団があるそうだ。
固有職には当たり外れがあるものの、当たりであれば極めて強力な武力と成り得る。
王国の戦力を削ぎ、自国の戦力を増やす、手っ取り早い方法が固有職狩りなのだとか。
毎年この時期になると全国から王都へと『職決め』で固有職となった十歳児たちが集まる。
だから狙われやすいと。
じゃあなんで易々と拉致られてんの、って話なんだけど、ここ十数年くらいは固有職狩りは現れなかったらしい。
それ以前に捕らえまくって撲滅したかと思われていた。
それが今年になって復活……まじか。間が悪い。
「昔のヤツらはお隣の帝国だったんだけどな、今回のヤツらがまた帝国なのかどうなのか……まぁ王都の取り調べ次第だな」
「あいつら″本隊と合流″って言ってたよ? 後から来た五人が″本隊″なのかと思ったけど……そうだ″明日に本隊と合流″って言ってたわ。じゃあ違うのか」
「マジか! うわぁ……昨日じゃん。取り調べで吐いててくれるのを祈るしかねぇか……」
念の為、おっさんも情報を伝えたいと、私たちは少し早足で王都に向かう事にした。
森の山中をひたすら進む。
私とポロリンは大丈夫だけど、ネルトは平気だろうか。
やっぱ戦闘職じゃないとキツイだろうなぁ。
「ネルト大丈夫?」
「ん」かっくん
「ネルトは王都行ったら学校行くの?」
「んー……まだ分かんない」
「行って見てからから決めるって事?」
「ん」かっくん
「王都ついたら俺がネルトを連れて行くわ。管理局で案内してもらった方がいい」
おっさんがそう言う。
大丈夫かな、ネルト一人旅で拉致られちゃう系少女だし。
変質者に任せていいものだろうか……少し心配。
「誰が変質者だ誰が」
おおう、考えが漏れていたらしい。でも否定はしない。
♦
歩き続ける事数時間。
森を抜け、平原を進み、丘を越えるあたりで王都が見えた。
「うわっ! デカッ!」
「うわぁ~! すっごいですねー!」
「おお」
私、ポロリン、ネルトの反応である。二番目が一番女の子っぽいのはなぜか。
見下ろすほど高い丘ではないが、城壁に囲まれた王都の広さが分かる。
オーフェンよりも高く立派な城壁と、その向こうにある家々の屋根。
オーフェンは二階建てばかりだったが、おそらく三階建て以上の建物がゴロゴロあるだろう。
色とりどりの尖った屋根が乱立しているのが分かる。
所々にそれより高いマンション級の建物や塔みたいのも見えた。
さらに奥には一目で分かる王城だ。
白い尖塔が束になったような立派な城。
それらが城壁で一つにまとまると、とてつもない広さ。
端を確認するのも億劫になるほどだ。
前世で言えば『町』くらいの規模の土地に『都市』くらいの人口と家を密集させた状態か。
普通に歩くだけでも大変そうだ。
「早く行くぞ。感動するのは入ってからにしとけ」
「はいよ」
「はいっ」
「ん」
そうして、見えているのになかなか着かない王都へとやっと着いた。
時間は昼過ぎか、だいぶ早く歩いたと思う。
南門と呼ばれる城門に入場する列があり、そこに並ぶ。
中途半端な時間だけど王都はやはり出入りする人が多いらしい。五〇人くらい並んでいた。
携帯食をモグモグしながら列に並び時間をつぶす。
ネルトはギルド登録などもないらしく、仮証明の手続きを行ってから入都するそうだ。
おっさんもそれに付き添い、衛兵に固有職狩りの言伝をしてから一緒に管理局に行くとの事。
ネルトにはくれぐれも気を付けるよう、強く言っておいた。
首をかっくんしていたから多分大丈夫だろう。
「じゃあネルト、そっちも頑張ってね」
「ネルトさん、またどこかで会いましょう」
「ん。ありがと。また」
こうしてネルトとおっさんと別れ、私はポロリンと入都する。
門をくぐると見える王都の街並み。
広い大通りと立ち並ぶ建物。行き交う人の波。
前世の渋谷とか知ってる身だけど、これはこれで感動するもんだ。
思わず「おお」と言ってしまう。
「ようこそ王都セントリオへ」
衛兵さんの言葉がなぜかよく聞こえた。
第一章、完ッ! 次回から王都編です!
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