23:くさむらからへんしつしゃがあらわれました
「おいーっす」
森で採取に励んでいると木陰から無精ひげの男が出て来た。
まさかこんな街に近い所に山賊!?
……いや、こいつは知っている顔だ、つまり――
「出たな、変質者!」
「へ、変質者!?」
「ちげーよ! 誰が変質者だ!」
「気を付けてポロリン! このおっさんは変質者だから!」
「えっ!? う、うん!」
「おっさんでもねーよ! 俺はまだ三二歳だ!」
一通り変質者のおっさんをいじった所でポロリンにちゃんと紹介する。
森で急に出て来るのがいけないんだよ。部屋に侵入されるよりマシだけど。
「えっ国の役人さん!? あ、ピーゾンさんが言ってた人?」
「そうそう」
「おう、改めて職管理局、固有職監視員のアロークだ。よろしくな」
「あ、よ、よろしくお願いします」
「んで何しに来たのよ」
「お前はとことん俺に敬意を払わないな。もっと年上を敬ってもいいんだぞ」
誰が敬うかっつーの。
ポロリンも役人って聞いてビクついてるけど、こんなおっさんに怯えることないのに。
て言うか、その怯えた表情と仕草ヤメロ。庇護欲刺激する感じヤメロ。
「まー確認だよ、確認。そこの少年……少年? ……少年だよな? いや確か資料には少年だと……」
「合ってる合ってる」
「ボクは男ですっ!」
「お、おう。で、少年、ポロリンって名前だな。お前は学校に行かず冒険者になるって事でいいんだな? そこの毒娘とパーティー組むと」
「はいっ」
「誰が毒娘だ、誰が」
私しかいないって、言ってる自分がよく分かってる。つらい。
その愛称、払拭したい。
「別にお前の職を危険視してるわけじゃねーんだ。監視もつく予定なかったし。でも進路を決めずにいたから経過観察みたいな感じだったんだよ。それがどういうわけだか超危険人物のピーゾンとパーティー組むってなったもんでな」
「誰が超危険人物だ、誰が」
「だからピーゾンの担当の俺がついでにポロリンも見るはめになった。その挨拶と仕事増やしてくれた事に対する愚痴を言いに来た」
「正直すぎるでしょ」
「す、すみません……」
ともかく私の監視を継続するついでに一緒に居るポロリンも見るってことね。
どうせ報告するのは一緒なんだろうし別に仕事増えてないでしょうが。
ん? という事はポロリンの職やスキルについてもアドバイス貰えるのかな?
ちょっと聞いてみよう。
「【セクシーギャル】は聞いたことねえな。過去にも居ない未知の職のはずだぜ。お前も大変だなぁ、男なのに……さすがに同情するわ」
「うぅぅ……」
やはり【セクシーギャル】の詳細は分からないか。
本当使えないおっさんだな。何の役にも立ちゃしない。
「男女それぞれ専用の職ってあるじゃない? それがあべこべになった事例とかは?」
「有名所だと女性限定職で【巫女】とか【魔女】とかあるけどな、男がそれに就いたって事は俺の知る限りねえな。おそらくポロリンの場合、固有職特有の現象だとは思うが」
「特有って言うのは?」
「お前だって毒とか扱った事ないのに【毒殺屋】になったろ? 想像もしない、全く経験のない職になる事が固有職の場合は結構あるんだよ。なんでこんな職に就いたのか意味分かんないってな」
全くもってその通りだね。私に毒要素なんて微塵もないし。
「そういう意味じゃポロリンを研究したいってヤツもいると思うぜ? 男なのに【セクシーギャル】とか珍しいって騒いでもおかしくはない」
「うわぁ」「ひぃぃ」
ますます王都に行きたくなくなってきたね。
国の義務的に行かざるを得ないんだけど。冒険者になって正解かも。
気を取り直してスキルの事を聞いておこう。
「じゃあ<挑発>と<呼び込み>は?」
「それなら分かる。他の職でも同じのあるしな」
良かった。敵と戦える段階になってからスキル考察するつもりだったんだ。
ここで知れるならラッキーだね。たまには使えるおっさんだな。
「<挑発>は戦闘状態の魔物の敵意を自分に向けさせるものだな。レベルが上がればより自分に執着させる事ができる。基本は単体向きだから、複数の魔物を自分に向かせるなら<挑発>は何回も必要ってことだな」
やっぱヘイト上昇か。レベルが上がればヘイト管理も楽になると。
となるとやはりポロリンは盾役一択かな。トンファーが盾代わりになるけど。
ステータス的にも【防御】が一番高いしね。
王都に行ったらちゃんとしたトンファーと防具を見繕う必要があるね。
中期目標に入れておかねば。
「<呼び込み>は一番近くの魔物をおびき寄せる。それが単体なのか群れなのか分からねえ。とにかく近くのヤツだ。レベルが上がればその範囲が広がる感じだな」
くちぶえか!
てっきり店の前に立って「お客さ~ん」ってやると確実に呼び込めるスキルかと思ったが……これはレベリングが捗りますなぁ!
かなり有用なスキルだ。個人的には嬉しい。
「<セクシートンファー術>ってのは知らねえ」
ですよね。
「そもそもトンファーを扱える【武闘家】も<トンファー術>ってスキルを持ってるわけじゃねえし」
「えっ、そうなんですか」
「【剣士】の<剣術>みたいな感じじゃないんだ」
「【武闘家】は<武術>を覚えるな。それで武器の適性が増えて、その中の武器の一つとしてトンファーがあるって話だ。だからトンファーより棍とかの方が使われるんだろう」
「トンファー不遇だねぇ」
「悲しいです……」
結局のところ<セクシートンファー術>とは何なのか。
普通のトンファーとは何が違うのか、ただセクシーなだけなのか、それは分からずじまい。
まぁ私からすれば武器を持てるってだけで羨ましい限りなんだけどね。
「とりあえず<挑発>と<呼び込み>が分かっただけでもラッキーだね。トンファーは扱いに慣れていかないと、どっちにしろ意味ないし」
「うん、ですね! 頑張ります!」
「そうだそうだ。俺的にもお前らに簡単に死なれちゃ困るんでな。せいぜい鍛錬に励め。……ただピーゾンよぉ、お前教え方が……」
「何よ」
「あーまぁいいや、とにかく死なねーように頑張れよ」
それだけ言ってアロークのおっさんはぶらりとどっか行った。
なんだ? 私の教え方? 言い残しは気になるんだよなぁ。
「何だったんだろ」
「さあ」
「ま、とりあえず採取の続きやろっか」
「うん」
おっさんは監視してるようでしてなかったり、呼んでも来ない時もあれば突然現れる時もある。
覗き魔で流浪者で変質者だね。頼っちゃいけない大人だ。捕まればいいのに。
まぁ今後もいないものとして考えておきましょ。
今回はスキルの情報が手に入っただけでラッキーだったと。
「あのさ、ピーゾンさん」
「なーに?」
「……なんで薬草避けて毒草だけ採取するの?」
……薬草、採取した事ないんですけど?
「なんでこんな職に就いたのか意味分かんない」みたいな事言ってますが、ピーゾンにもポロリンにもそのジョブに就くような潜在的な何かがあったのは確実。
認めたくないだけです。もしくは気付いていないだけ。




