22:リーダーなのでパーティーメンバーを鍛えます
オーフェンには防具屋も三軒ある。これも武器屋と同じく、冒険者のランクによって使う店が異なるようだ。
私たちの場合は低ランク用のグレードの低い店で十分なのだが、なにぶん私がローブか服しか着られない為、一番種類の置いてある高ランク用の店に来ていた。
どうせ王都に行くのでちゃんとした装備は王都で揃えるつもりなのだが、だからと言って防具が増えて困るものでもない。
ワイバーン資金もあるので、ここでも新調しようという事だ。
「ただどれもこれも渋いんだよなぁ……」
ハンガーに掛かっている服やローブを見回しながら呟く。
私は生前二五歳という妙齢にしてカワイイ物好きを自負していた。
部屋の中はピンクを中心とした淡い色で埋め尽くされていた。
『クリハン』でも防御力は二の次で見た目重視の装備。
真っ白のフワフワフリルのドレスを着ていたので『舞姫』と言われたわけだが、この世界ではもちろんそんなものはない。
いかにも「素材の色味を大事にしました」と言わんばかりの茶色系が並ぶ。
ファストン村より都会であるはずのオーフェンでもどれも渋い。
おっ派手なピンクだったらあるじゃん! と見てみれば蛙の魔物の皮素材だと言う。ちょっと嫌だ。
結局、せめてもの抵抗として緑色の布の服(防御+9)とカラシ色の布の外套(防御+7)をチョイスした。
お値段銀貨一三枚(一万三千円)なり。やっぱこの店高くない?
「あの、ピーゾンさん……」
「ん? ポロリン決まった?」
「いや、問題があって……」
それぞれ物色に分かれていたポロリンに話しかけられた。
その顔はなぜか泣きそうである。
「ことごとく装備できないんです……」
「うわっ」
そうか、私がローブと服しか装備できないようにポロリンも装備条件があるのか。
……ん? 【セクシーギャル】の装備できる防具? 嫌な予感がする。
「何かしら装備できるのないの?」
「あるにはあるんですけど、これとか、これとか……」
「ブハッ!」
ビキニ鎧とレオタードっぽいインナーを指して言う。吹いた。
いやぁまさかビキニ鎧が存在するとは思わなかった。さすがグレードの高い店だね!
で、改めて聞くと男物は全滅らしい。
女物でも重装・軽装問わず装備が限られる。やはりセクシー縛りのようだ。
他に着られるものを探した結果、ナース服やらチャイナ服やら……えっこれ装備なの? というようなものばかり。
武器はトンファーのみ、防具はセクシーな女物のみ。
これはまたハードな職だなぁ。
「強いて言うならこれかなぁ」
「ワンピースじゃないですか……」
「今着てる服の上から着ればセクシーじゃないでしょ」
さすがに盾役が防御ゼロというわけにもいかず、とりあえず何かしら着せる方向で考える。
で、胸元の開いたチュニックっぽいミニスカワンピを勧めた。
一応布の服(防御+6)扱いだし下にズボンを穿けばいい。
ローブとか外套はトンファー振るのに邪魔かなぁといったん保留。
雨とか降った時用の装備品でないローブはもう持ってるらしいしね。
あとはワンピースに合うようなブーツも購入。
そんなわけでこうなりました。
―――――
名前:ピーゾン
職業:毒殺屋Lv15
装備:武器・鉈(攻撃+0)
防具・布の服(防御+9)
皮のブーツ(敏捷+3)
布の外套(防御+7)
―――――
名前:ポロリン
職業:セクシーギャルLv1
装備:武器・鉄のトンファー(攻撃+15、防御+10)
防具・布の服(防御+6)
皮のブーツ(敏捷+4)
―――――
「いやぁ完璧だね!」
「先行き不安なんですが……」
「トンファーあるだけマシじゃん」
「それを言われると……」
そんな事を話しながらいつもの南門へと向かう。
「あれ? ギルドで依頼は受けないんですか?」
「うん、今日はポロリンのスキル検証とかするよ。魔物と戦う前にトンファーに慣れないといけないしね」
「あ、なるほど」
まぁ毒草とか採れるようなら採っていって、ギルドに行った時に依頼票が残っていればその場で報告すればいいからね。
おそらく毒草は残ってるでしょ。人気ないし。
……という事にやっと気づいた。
後から依頼を受けてもいいじゃんと。
今まで角ウサギの角とか無駄にしてたなぁと若干後悔。
適当に狩って、帰った時に依頼票が残っていればそれを受けて、即報告。そんな感じで行ってみる。
もちろん事前に依頼を受けた方が安心・安全だとは思うけどね。
今日はいいでしょ。ポロリンの検証と特訓メインで。
♦
――カンカンカンカン!
「よっ! ほっ! えいっ!」
「うーん、なるほどなるほど」
南門から少し離れた平原。私はポロリンと打ち合っている。
と言っても今はポロリンがひたすら私にトンファーで殴りかかり、私はさっき買った木剣で防ぐだけだが。
自前の鉈でも木剣でも攻撃力ゼロだから同じなんだけど、なんとなく鉈で斬りかかるのに抵抗があったので木剣にした。
最初は私に殴りかかることに抵抗したポロリンだが、レベル1のポロリンの攻撃をくらったところで、私のレベルは15だしHPは102もある。
死ぬはずがないと言い聞かせた。
ちなみにポロリンは私がレベル15だとは知らなかったらしい。
そういや【毒殺屋】だって説明した時にレベルや細かいステータスまでは触れてなかったなぁ。
ま、そんなことがあって今に至る。
ポロリンはセクシーな動きからトンファーを次々に繰り出して来る。
回して振るい、突いては薙ぐ。
それはやはりと言うか″体術″の動きなんだけど……。
「はい、やめ~」
「ハアッ、ハアッ、ハアッ、ぜ、全然当たらないんですけど……」
「そりゃ防いでるしね」
思いの外トンファーが扱える事に気を良くしていたらしい。
これが戦闘職になったばかりの少年が魔物に無茶して挑んでいく現象なのか。
でも私には全く当たらなかったので早速へし折れてくれて万々歳です。
「トンファー自体の扱いが出来るのと、使う為の身体の動きが身に付いてることは分かったよ。でも、逆に言うとただそれだけなんだよね」
「……どういう事?」
「次の動作に移る為の攻撃じゃなくて、どれも単発なんだよ。こう防いだあとにこう攻撃したい、こういう姿勢に持って行きたい。この攻撃のあとにはこの攻撃を繋げたい。そういう知識・経験と技術がないんだよね。――つまり実際の戦闘では使えない」
「そ、そんなぁ」
「いや、最初から出来るわけないから。まずは連続して攻撃できるように体捌きと繋ぎを意識してやってみよう。あと下がらせる目的で蹴りも入れる。その次は防御のみね。で、最終的にはちゃんと模擬戦するから」
「ひぃぃ……」
それからしばらくポロリンの稽古を続けた。
初日という事でかなりの時間をとったがこれは毎日続けたほうがいいだろう。
何気に私の防御と回避の訓練にもなるしね。
ヘトヘトになったポロリンにスタミナ回復剤を飲ませ、今日のところは見学という事で私の後ろに引き連れて森へと向かう。
まだ魔物と戦うには早いけど初見でいきなり戦わせるのも心苦しいのでね。
ついでに採取とかも分かる範囲で教えるつもりだ。
♦
「これ、ピーゾンさん一人で大丈夫なんじゃ……」
私たちの前には麻痺ったゴブリン四体が寝ており、その上で<衰弱毒>状態にしたところだ。
襲い掛かるゴブリンにかわいらしい悲鳴をあげたポロリンだったが、近づく前に麻痺らせた。
やはりゴブリン相手なら100%麻痺らせるらしい。
「そんなことないよ。私の『毒』は確かに強いんだけど穴だらけでね」
「穴?」
・ 毒が効かない敵が居る。
・ 効いても相手の抵抗力次第で効きにくい敵が居る。
・ 味方への誤爆が怖い。(<毒霧>の使い時が限られる)
・ 麻痺らせても攻撃しない限り倒せない。
・ 毒らせても倒すのに時間が掛かる。
・ どうあがいても戦闘時間が長くなる。
「ざっと思いつくところでこんな感じ」
「ふぇ~そうなんですかぁ」
「だからポロリンには私の毒が効かない相手か、麻痺ってない相手を防いでもらう必要があるんだよ。ついでにトドメを刺すのもポロリンの役目かな」
「えっ」
私一人で戦って圧勝したように見えたんだろうけど、実はポロリンの仕事って多いんだよね。
<衰弱毒>で殺すよりポロリンが殴った方が早く死ぬだろうし。
それを自覚してもらわないと困るんで、戦って見せたんだけど。
それから何回かゴブリンや角ウサギと戦って分かった事が二つある。
一つは、昨日麻痺らせたゴブリンがまだ麻痺ってた事。
つまり私の<麻痺毒>は<衰弱毒>と同じように永続効果らしい。
私とポロリンが同時に誤爆したら助かる術がないという事だ。
やはり<麻痺毒>の<毒霧>は自重しよう。
そして二つ目は、ポロリンが戦闘に参加しなくてもレベルは上がるという事。
寄生し放題。パワーレベリングし放題……いやマジで?
全く戦っていないのにレベルアップしたらしいから経験値は入っているのだろう。
ただそれが半分なのか全部なのか分からない。
職によってレベルアップに必要な経験値は違うと聞くし確かめる事もできない。が、寄生可能なのは事実だ。
でも考えてみれば研究対象となった固有職もレベル上げしてスキルを調べるだろうしなぁ、国的に。
寄生ができなかったらレベル上げ自体できないのかもしれん。
まぁ非戦闘職なら戦う以外のレベル上げ方法もあるんだろうけど。
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名前:ポロリン
職業:セクシーギャルLv2(+1)
装備:武器・鉄のトンファー(攻撃+15、防御+10)
防具・布の服(防御+6)
皮のブーツ(敏捷+4)
HP:37(+7)
MP:11(+1)
攻撃:22(+7)(+15=37)
防御:27(+8)(+16=43)
魔力:2(+0)
抵抗:4(+1)
敏捷:9(+2)(+4=13)
器用:14(+2)
運 :21(+3)
スキル:挑発Lv1、魅了Lv1、セクシートンファー術Lv1
―――――
ステータスは今は頻繁に載せていますが、そのうち章に一回とかになります。
いちいち計算するのめんどいですし(小声)




