153:後処理を終え、やっと王都に帰還しました
朝食を食べた後は早速出発。
<ロングジャンプ>を見られるわけにもいかないので、普通に村を出て、森に入ってから六人で転移する。
浮遊感のようなものもなく、瞬間移動は終わった。
気付けば景色は王都の西門だ。
と言っても西門の脇。死角になっている森の中だけど。
「よお、おつかれー。なんだ全員で来たのか」
第一変質者発見。疲れもあってか、いつも以上にくたびれた感じに見えるね。そのままスラムを歩いても全然不自然じゃないよ。
ともかく全員で来た理由に加え、色々相談事をしなくてはいけない。
考えなくてはいけないのは以下の通り。
1:神殿に行って転職(最優先事項)
2:ギルドへの報告をどうするか(特にオーフェン)
3:素材回収の為の段取り(転移場所の確保等)
4:ガメオウ山の間引きに関して
「こんなとこかな」
「マジかよ、えっ、六人全員、上位派生先あんの!? ってかもうLv50なの!?」
やはり未知の固有職という事で、上位派生しないパターンも可能性としては大きかったらしい。
もしくはレベル上限に達しても転職条件を満たさずに転職出来ないパターンも考えられたと。
それと十~十一歳の子供がLv50に達する事なんてありえないと驚かれた。
そりゃまぁこれだけ戦っていればねぇ。
『禁域』探索からずっと、強い魔物との連戦続きだったから仕方ないでしょ。
「はぁ、とりあえずまぁ話は分かった。ギルドの報告に関しては問題ないと思うぞ。俺から管理局と頭領、陛下には伝えておいた。そこから王都のギルドにも行ってるはずだ」
「オーフェンにはどうすればいいの?」
「ギルド間で連絡させればいい。その手段はギルドで持ってるはずだからな」
「じゃあ一先ず考えないで大丈夫かな。と言うかよく陛下に直接報告なんて出来たね」
「したくなかったが帝国が絡んでんだから仕方ねえだろ。殿下の事も伝えないわけにいかないし。ドラゴンの事とか話した時には酷かったぞ? 頭領と宰相閣下が居なけりゃ抑えがきかなかったからな」
「はぁ……お父様が大変ご迷惑を……」
そりゃ帝国のヤツの仕業でリーナが危険な目にあってると知れば国王が剣を抜いてもおかしくはない。
おまけにその報告をしている最中も千剣竜と戦っていたわけだし、それを聞けば即座に王城を飛び出すレベルだろう。
それを止めたロートレクさんと宰相さんが有能。
で、結局捕らえた六人は帝国の暗部で確定らしい。
魔物使い系固有職を集めた特殊部隊的な連中だったようだ。
狙いはやっぱりスタンピードを起こし王都まで攻め入るつもりだったらしいけど、その前段階として魔物を徐々に増やし、王都から援軍を呼びよせ、それを各個撃破した上で王都に攻めようと。ようは王都の戦力を手薄にしたかったんだね。
私たちはスタンピードを起こす前段階で仕掛けたから、相手からすれば出鼻をくじかれた感じだっただろう。
実際は『禁域』探索でAランククランとかが動かせないから指名となったわけだけど、ある意味私たちが行けて良かったよ。
仮に私たちが『禁域』の依頼を受けていてオーフェンへの派遣を別パーティーとかが受けた場合、スタンピードは発生していただろうし、ファストン村は消滅していただろうしね。下手すればオーフェンも。
「間引きに関しては国かギルドから沙汰が出るまで継続でいいだろうな。ファストン村とかはある程度現場判断でいいと思うけど。近衛騎士が居るんだしなぁ」
「まぁそうだよね」
「あとは素材の運搬か。<ロングジャンプ>を使う事も考えればギルドに直接卸さずに国を通すべきだろうな。固有職の管理は俺らに任せられてるけど、さすがに管理局じゃ手に余る」
「んじゃ神殿経由で王城行って、リーナから陛下にお願いして貰う感じでいいかな?」
「はい。お父様に場所を確保してもらいましょう」
「おっさんもしばらく付きあってもらうよ?」
「おっさんじゃねーし。まぁ監視だけってわけにもいかねーよな、しばらくは」
そんな感じでこっちの話はまとまったので、後は国王との相談になるかね。
で、その前に西区の大通り沿いにある起神殿に行かなければならない。
むしろこっちがメインイベントだからね! 私的には! さあ、足早に行きますよ!
♦
「ピーゾンさん、ちゃんと歩いて下さいよ」
「ん。早く王城行く」
「落ち込み方が酷いですわね。昨晩より疲れているようですわ」
「それほどショックを受けるような職ではなかったと思いますが」
「私の回復は心までは癒せませんので……」
「はっはっはっはっは! ああ~~~~面白え、涙出るわ」
神殿から出て大通りを中央へ。大十字路から北進し王城へ。
私は項垂れたまま歩く。心ここにあらず。
五人はともかく、おっさんは後で一発殴ろう。この野郎、爆笑しやがって。
そんな感じで王城に行ったのだが、私が話せる状況じゃないので、リーナとサフィー、そしておっさんに全てを任せた。
出迎えた国王は第一にリーナの心配。装備がボロボロだから余計に心配させる結果となった。
しかしリーナが一喝。そうして本題に入るまで時間を要した。
結論としては王城の中庭に剥ぎ取った素材を運び込む事とし、その隅にある納屋の中に<ロングジャンプ>のブックマークをさせてもらった。
さすがに誰でも覗ける庭を転移先にするわけにもいかないし、納屋ならば外から鍵をかけられるから、ネルトが転移で勝手に侵入してくる事も出来ない。(実際は<念力>で納屋の中から鍵を壊せるのだが)
納屋の外には事情を知る騎士を配備させておいて、転移してきたら庭に素材を出す。
その素材をギルドに卸すか国が買うかはお任せする感じ。
私たちは冒険者として依頼を受けているので自分の手柄を国に無料であげるつもりはない。あくまで売る。
まぁ協力して貰っている分、安くしてもいいけどね。リーナ割引で。
それと、大量の素材をピストン運送するので、王城にあるMPポーションと魔法の鞄を大量にゲットした。
この分は素材を売る分から差し引いてもらう。鞄は借りるだけだけど。
これで一度に大量に運べるし、ネルトもMPポーションガブ飲み出来る。
本当は素材の剥ぎ取りと運搬要員として何人か騎士を連れていこうかという話も出たが、さすがに<ロングジャンプ>を体験させるわけにはいかない。
納屋に転移する時でさえ、見させないように徹底してもらったんだからね。
そういうわけで、剥ぎ取りと運搬はあくまで私たちの仕事だ。
という感じで、話もまとまった事だし、改めて七人でガメオウ山に<ロングジャンプ>。
闘技場の入口に転移し、中を確認したが、昨夜から変わった様子はない。
誰かが侵入した形跡や、魔物が来て死体を食い漁っていたとかもない。あの時のままだ。
「んじゃ俺は先にあの中調べてくるからな。剥ぎ取りは進めておいてくれ」
おっさんは千剣竜が崩したトンネルから中に入り、連中のアジトを探るらしい。
私たちはひたすら剥ぎ取りだ。
「おりゃあああ!!!」
私は憂さ晴らしのように剥ぎ取りしまくった。この野郎、この野郎、と。
しかし<解体>スキルを持つリーナには当然負ける。
剥ぎ取りに関してはリーナを本筋に置き、私とポロリン、サフィーで行う。
ネルトとソプラノは魔法の鞄に詰めて、それを<ロングジャンプ>で運ぶ役目だ。
おっさんも調査が終われば運搬の方に参加させる。
つまり王城に行くのは基本的におっさん、ネルト、ソプラノという事だね。
ネルト一人だと不安だが、聖女が居れば王城でも無下にされまい。
そんな感じで私たちの魔法の鞄と王城から借りた魔法の鞄にいっぱい入れて<ロングジャンプ>で運ぶ、というのを繰り返す。
ドラゴンの肉は腐りにくいという話だったので、Bランクのサンダーライガーとフレスベルグから、Aランクの各種を順番に。
やはりAランクの魔物素材はかなり希少との事で、王城でも大騒ぎになったようだ。
一泊ファストン村で休んだ後、千剣竜に手を付ける。もうこれだけで一日近くかかった。
おそらくリーナが居なければもっとかかった事だろう。<解体>様様です。
ちなみにファストン村に帰った時に確認したが、ドラゴン肉はちゃんと振る舞われたらしい。
村民はもちろん、冒険者や騎士団にも配られたとか。すごく旨かったと感謝された。
でもお父さんとお母さんに「また変な職になっちゃった」と泣きついたのは余談。
おっさんは初日でアジトのほとんどを調べたらしいが、特にめぼしい書類とかもなかったようだ。
ただ山中に造られたアジトがかなり広く、どうやらスタンピード用に魔物を育成だか保管だかしていたらしく、千剣竜を剥ぎ取った後は、そこの屠殺に勤しんだ。
群れてたからね。皆殺ししかないよね。
闘技場とアジトの剥ぎ取りを二日で終え、三日目からは麓の広場のトレント関係と、山中のゴーレムたちに取り掛かる。
エルダートレントは10m近くあるので、もう完全に木こりになったつもりで解体した。魔剣が鉈で良かった。
ゴーレムも素材らしい素材はないのだが、ミスリルゴーレムに関しては別。
ミスリル自体が貴重なので、全てを運んだ。
レイクスライムは一応という感じで。スライムゼリーも普通だしね。グラトニーとは違うと。
その他、道のりで倒した魔物――オーガやらトロールやら何やら――も出来るだけ剥ぎ取って送る。
道中、普通に魔物に襲われたりもしたが、これまた憂さ晴らしのように滅殺した。
今の私の前に出た事を悔いるがいいさ。もれなく殺してやんよ。
「ピーゾンさん一人で全然問題ないですね」
「わたくしも色々と試したいのですが」
「ん。ヒマ」
「まーだ引きずってますの?」
「心の病は根が深いと言いますからね」
ふぅ、さすがにやりすぎた。うん。確かにみんなにも実戦訓練させなければいけないね。反省。
私リーダーだし。ちゃんとみんなで戦おう。うん。
と、そんなわけで間引きと剥ぎ取りを兼ねた探索を再開。
麓の方はガルティーノさんたち【蒼き風】や、モーブビィさんたち【銀の鎖】にお任せし、私たちは山の方をなるべく回る。
魔物使いが居なくなった影響というのは日に日に実感出来た。
千剣竜やAランクの魔物たちの気配が消えたからか、トロールやサイクロプスは山頂の方へと戻り始め、それに従って下腹の森林地帯や麓の森も次第に落ち着きを取り戻す。
トレントやスライム、ゴーレム系の残党は居るが、遭遇頻度も少なく、モーブビィさんたちでも十分に対処出来るレベルだ。
オーフェンの方でも同じように街まで群れが来るといった事態はなくなったらしく、周辺の村に派遣していた冒険者たちもオーフェンに帰還。
ファストン村は最前線という事で最後まで残された形だが、五日ほどでオーフェンギルドへの帰還命令が下った。
ファストン村を囲っていた土壁と堀は念の為に残してある。
その気になれば村民たちの力でいつでも撤去出来るし、いきなり撤去すると村民が不安だからね。
「冒険者の皆さん、騎士団の皆さんには本当に助かった。村を代表して改めてお礼を言わせて欲しい。そしてピーゾン、お前は村の誇りだ。ありがとう」
村長さんからそんな言葉が送られた。
冒険者の人たちとエッティさん率いる騎士団の人たちは、私たちより先に帰る事になった。
私の都合で最後になるってだけだけどね。
「なんだよ、ピーゾンお前もう行っちゃうのか!? 俺まだ模擬戦出来てないんだけど!」
ア……アレ……アル、ス? とかいうガキが喚いているが無視だ。
というかドラゴンを殺した私に模擬戦を挑もうとか、本当にバカだな、お前は。
素振りでもしてろ。
「また行っちゃうのかピーゾン……辛くなったらすぐに戻って来いよ!? 遠慮する事はない! ここはお前の家なんだ!」
「みんなもピーゾンの事よろしくね? この子は天才なんだけど一人で突っ走っちゃう所があるから心配で……目に掛けてあげてね」
実家に最後の宿泊。そして出る時にそんな事を言われた。
とりあえずハグしておいたけど、もう<ロングジャンプ>のブックマークしてあるから、多分頻繁に来る事になるよ。
そして後ろのパーティーメンバーよ、クスクス笑うんじゃない。
で、村を出て<ロングジャンプ>で一気に王都へ……と思ったが、ファイネルさんたちの馬車もあるし、途中の街で領主さんに報告しないとダメだろうし、何より「何でガルティーノさんたちよりこんな早く着いてるの?」となるので、大人しく馬車旅する事になった。
二日後にはオーフェンに到着。
ギルドと領主のアリアンテさんに報告をしその日は領主館に泊めてもらう。
王都のギルドから詳細は聞いていたらしく、アリアンテさんも事情は知っているようだった。
まぁ詳しい説明はしたけどね。
その翌日にはすぐに出発……という事はせずに我が儘を言って、もう一日オーフェンに留まらせてもらった。
ネルトが興味津々だった大通り沿いの屋台巡りだとか、ポロリンの実家にも顔を出し、泊まるのはシェラちゃんの宿屋にした。
「お初にお目に掛かります、ダンデリーナ第七王女殿下、サフィー・フォン・ストライド様、【七色の聖女】ソプラノ様」
見事なカーテシーを決めるのは八歳児である。ホントなんなんだこいつは。
リーナは普通に対応していたが、サフィーは「なんなんですの、この子!?」という感じ。
普通の八歳児でもなければ平民でもないよね。でもこれがシェラちゃんなんだよ。
ともかくそこからは普通に接して貰いつつ、みんなで和気藹々と談笑しながら夕食会となった。
シェラちゃんはミーハーらしく、冒険者どうこうよりリーナに王城の暮らしやサフィーに貴族令嬢の話を聞きまくっていた。
やっぱ女の子はお姫様とかに憧れるものなのかもしれないね。
王侯貴族に泊まって頂くような部屋なんてない、とシェラちゃんと両親は慌てていたようだが、私の家で雑魚寝してたからね。
それに比べれば断然マシだよ。普通に六人部屋で寝た。
翌日朝から出発し、三日後にはスーコッド、七日後にはサルディへ。
ここでは一泊ずつ。領主館で説明がてら泊まるだけだ。
ちょっとした空き時間に少しぶらついたけどね。
で、やっと王都に到着。途中で<ロングジャンプ>で帰ってはいたけど、依頼の旅路としてはやはり一月くらいか。
久しぶりに帰って来たという実感がある。
「まずはギルドに行って報告かね。あの素材がどれだけの金になったか気になるよ」
「王城にも行きませんと。国の方で買い取った素材もあるでしょうし」
「ん。お金持ち。ベルドットのトコでぬいぐるみ買う」
「買い物の前にマリリンさんの所に行かないとダメですよ。ちゃんと直してもらわないと」
「<生活魔法>の<縫製>で誤魔化してはいますけどねぇ、さすがにこれはマリリンさんに怒られるかもしれません」
「魔剣屋にも行きませんと。こっちもまた怒られそうですわぁ。歪みが酷いって」
予定は多い。
でもみんなどこかホッとしたような表情に見える。
すっかり王都が私たちのホームなんだね。
そんなみんなの顔を見て、私も何だか少し嬉しくなった。
早足になりましたが王都到着。
領主さんに報告とか宿泊とか同じ内容ばかりになりますしね。
で、次が最終話です。
みんなどんなジョブになったのか、お楽しみに。