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閑話3:とあるモブAの遭遇



■モブエイ 【スカウト】 26歳



 俺の名前はモブエイ。オーフェンのギルドに所属しているCランクの【スカウト】だ。


 冒険者ギルドの酒場でパーティーメンバーと飲み食いしていると、若い新規登録の冒険者がよく見られるようになった。

 もうそんな時期か、毎年そんな事を思い感慨深くなる。



 俺も十歳の『職決め』で戦闘職だと分かってから、すぐ冒険者登録したもんだ。

 やっぱ冒険者への憧れがあったしな。職業専門学校に入れるほど裕福でもないし。


 俺だけじゃなくて『職決め』で戦闘職に就いたヤツは冒険者や衛兵や騎士とかになる事が多い。

 今年の新人たちも同じだろう、皆嬉しそうな表情で登録していく。



 そんな中、一人の女の子が気になった。

 ああ、別に恋愛対象どうこうじゃないぜ? 確かにかわいい顔してるがそれとは別だ。


 その娘はまず威風堂々といった立ち振る舞いでギルドへと入って来た。

 普通、子供っぽくキョロキョロしたり、オドオドしたりするもんだが、その娘は違った。

 なんつーか堂に入った熟練冒険者っぽかった。



 なんの(ジョブ)だ? と腰に下げた得物を見てみれば……鉈だ。



「……鉈って、あの鉈だよな?」

「武器用の鉈ってあるのか?」

「聞いた事ないけど……」



 俺のパーティーメンバーも首を傾げる。

 あれじゃ訓練用の模擬剣でも使ったほうがマシじゃないか?

 どうせどっちも攻撃力ゼロなんだし。

 よほど愛着があれば別だが……。


 その娘はそのまま新規登録に向かう。

 そして別室に連れていかれた。

 説明で別室を使うってことは……貴族か著名人か固有職(ユニークジョブ)かな?


 あの娘の場合固有職(ユニークジョブ)の可能性が高い。

 ま、詮索するのは冒険者としてご法度だから聞きはしないが。


 ……となると鉈を武器として装備できる固有職(ユニークジョブ)って線もあるのか。【鉈使い】とか?



 それからもその娘を何度か見かけたがついつい目で追ってしまう。なぜか気になる娘だ。


 初心者らしくFランクの依頼を受けていたのはいいんだが、なぜか毒草採取ばかり受ける。

 街中でのお手伝い系依頼は全く受けず、ゴブリンや角ウサギの討伐、そして毒草……。

 なぜ薬草を採取しないのか。まぁ薬草より毒草採取のほうが報酬は若干高いが。


 道具屋でその娘を見かけたメンバーが初級解毒ポーションを五本も買っているのを見たらしい。

 毒草採取する際に毒腺のある葉脈を切ると毒液がかかる場合がある。

 初心者にありがちな失敗ではあるが、一度経験したのだろうか。


 ……いや、それにしたって五本は多いだろ! 赤字確実じゃねーか! 大人しく薬草採取しとけよ!



 毎日討伐依頼をこなしているとか、狩る量が初心者離れしてるとか、たった五日でEランクになったとか色々あるんだけど、どうも毒草のイメージが強すぎる。あと鉈。


 不思議なやつが新人になったもんだよ、ホント。



 そんなある日、ギルドに急報が入る。



「た、大変だー!」

「南の森にワイバーンが出た!」

「新人の女の子が襲われてるんだ!」



 いきなりギルドに飛び込んできたのは同じ村出身の後輩、二年目のパーティーだった。

 ワイバーンだって!? 南の森に出るなんて聞いた事ないぞ!?

 しかも詳しく聞くとその女の子の特徴から、例の毒草鉈娘らしい。なんてこった!


 どうする!? ワイバーンはBランク対象だがこの場にBランク冒険者なんて居ない!

 俺たちが一番高いのか! くそっ! 行くしかねえ!

 俺はメンバーを見回し頷きあう。皆気持ちは同じだ。

 よし! 毒草鉈娘を助けにいくぞ!



 ……本音を言えば、とっくに殺られてると思う。


 ワイバーンの攻撃に一撃でも耐えられる初心者なんて居ない。

 ついでに言えばワイバーンは爪で捕らえた獲物を巣に持ち帰るらしい。

 だから駆けつけても毒草鉈娘の死体も残ってないんじゃないかと思っている。


 でもさ、そんな事は言えねえよ。

 後輩の手前もあるけど、俺も少しくらい希望を持ってるんだ。


 森の中に逃げ込んで、怪我を負いながらも生き延びている可能性もある。

 だったらやはり早く助けにいかなくちゃな。





 後輩たちの案内で走って来たのは、街にほど近い河川敷だった。

 ホントにこんな街のそばにワイバーンが来たのか!?

 一つ間違えればオーフェンがパニックになってたはずだ。


 戦闘音は聞こえない。

 やっぱりワイバーンはすでに去った後か……。



 …………そう思ってたんだが。



「ん? ……あ、さっき逃げた人たち?」



 …………なんかワイバーンの死体に座って水飲んでた。


 え?

 た、倒したの? え? ワイバーンを?

 死体に座って何くつろいでんの?

 覇王?



「た、助けを呼んで来たんだ! だ、大丈夫なのか!?」


「あーそうだったんですか、大丈夫ですよ。倒しました」



 後輩の叫ぶような疑問に淡々と答える毒草鉈娘。

 見りゃ分かるよ! 見た上で信じられないだけだよ!



「あ、このワイバーン、ギルドに運びたいんですけど手伝ってもらえませんか?」



 ……お、おう。





 大騒ぎだよ。そりゃ大騒ぎだよ。

 俺らのパーティーと後輩パーティーでワイバーン担いでさ、南門に近づいてみろよ。

 見た人全員に驚かれるよ。お祭り騒ぎだよ。



「おおっ! ワイバーンだと!?」

「倒したのか!」

「モブエイたちが!? あいつらCランクだろう!?」

「見ろよ、完全無傷だぜ? 普通に死んでたワイバーンじゃねえか?」

「あっ、倒したんじゃねーのか。そりゃそうだよな」



 そりゃこうなる。こういう声が次々飛んでくる。

 この娘が倒したんですよー! って大声で言いたいところだよ。まぁ言えないけど。


 そんな毒草鉈娘は俺たちの後ろからトコトコついて来てる。

 あ、名前はピーゾンらしい。自己紹介は一応しておいた。


 そんなピーゾンは無傷。疲れてるらしいが無傷。

 一方のワイバーンも無傷。鉈による傷もなく無傷。

 やはりあの鉈は『武器』ではないのか……?


 どんな戦いで、どうやって倒したのか全く分からん。

 なんとなくマナーを気にして聞く気にもならないし。



 ギルドに着いた。

 さすがにギルド職員や冒険者たちは俺たちが救援に向かったの知ってるから俺たちが倒したって扱いはされなかったが、やはりワイバーンの死体を丸ごと持ってきたのには驚いてた。


 当然だよ。

 ここいらじゃまず見ないし、あっても解体済みの部位だけだしな。

 ギルド中が大騒ぎになった。


 毒草鉈娘は速攻で個室に連れていかれたな。

 俺たちは解体屋のおっさんにワイバーンを引き渡してようやくお役御免。

 その後は周りの冒険者たちから質問攻めだ。


 何があった? って言われてもなぁ……俺が聞きたいんだけど。



 ちなみに毒草鉈娘からは運んだお礼をするって言われたけど辞退した。

 俺らにとっちゃあの娘は新人冒険者だし助けるのは当然だ。一応俺らCランクだしな。

 後輩パーティーも逃げた負い目があるらしく辞退。


 ワイバーン丸ごとがいくらで売れるのか知らないけど、少しくらい貰ってもいいと思ったんだけどな。

 ま、なんとなくあの娘には顔売っておいて損ないと思うんだ。


 なんかこれからも何かを起こしそうな気がするし……。




スカウトは斥候職です。

Cランクはベテラン一歩手前って感じ。まぁまぁ強いモブです。

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