117:禁域の難易度が上がってますがこっちも聖女が加わってます
翌日、私たち六人は早速『禁域』へと足を運んだ。
本来なら特訓を含めて六人での連携をもっと深めたいし、ソプラノの装備も当然出来上がっていない。
それで氾濫の爪痕残る『禁域』に潜るというのは、少々危険性が高い。
しかし『禁域』が安定しないと王都民も安心出来ないし、深層調査をするであろうストレイオさんたちが調査しやすくなるように、浅層の間引きは必須だ。
何よりリーナとソプラノが、早く『禁域』に行かねばとソワソワしている。
なので、朝一から『禁域』に入り、間引きを早めに切り上げて、空いた時間で特訓に充てようと目論んでいる。
まぁそれも『禁域』の様子次第なんだけど。
下の方の階層の魔物が上がって来ているって言うし、それが私たちだけで戦えるものかどうか。
実際に見てみての様子だ。
「おおー、すごいね」
「騎士団の皆さん、お疲れさまです」
西門を出ていつもの道を通り『禁域』に着くと、そこにあった小砦はない。
しかし瓦礫によってほとんど塞がれていた洞穴の場所は綺麗に拓かれている。瓦礫を左右にどけた感じだ。
あれから二日。おそらくダンジョンの入口が修復してから、騎士団が働いたのだろう。
と言うか、実際にまだ働いている騎士団の人とか居るし。
一応、受付代わりのギルド職員のおっさんも居たので、また潜る旨を伝えておく。
中の様子を後で教えてくれと言われた。
深層調査組はまだ潜っていないらしいが、浅層間引きの依頼を受けたパーティーは少しだけ潜っているそうだ。
まぁまだ二日しか経ってないからね。潜る準備出来ている方が稀でしょう。
小砦の破壊、洞穴の一部崩落。瓦礫が撤去されたとは言え、ゴツゴツとした岩や石の残る荒道を進む。
洞穴の奥にあった、ダンジョンの入口を囲む鉄格子も消えている。
おそらく破壊されて撤去したのだろう。
じゃあ最初から鉄格子なんか置くなよって言いたいけど……なんか入口を囲わなきゃいけないルールでもあるのかね?
ともかくそうして地下一階へ。
私たちにとっては通いなれた道だがソプラノは初探索。若干緊張気味だ。
「一戦やってみて仮に大丈夫そうでも今日のところは一階だけね。他の間引きパーティーがどう動いてるか分からないから、虱潰しに回る感じで行くよ」
『了解』
『禁域』の道幅は広く、三人並んでも十分に戦える。
浅層では罠もほとんどなし。その代わりに魔物が強いというのがこのダンジョンの特徴だ。
隊列は前衛に私・ポロリン・リーナ、中衛にネルト・ソプラノ、後衛にサフィー。
サフィーは殿で警戒もしてもらう感じだ。
そしてすぐにこのまま隊列のまま魔物と戦える布陣でもある。
そうして歩き始めて一分もしないうちに、もうエンカウント発生。
「げえっ! オーガ! 一階層で!?」
「オーガナイトも居ますよ! あれBランクです!」
「ナイトが一体とオーガが四体ですか。やはり強力になっていますね」
「ん! 火の蛇も来る! 三体!」
「んまっ! フレイムヴァイパーも追加ですの!? そっちはワタクシが対処しますわ!」
「私はバフをすればいいですか!?」
「お願い! 攻撃と防御ね! サフィー以外はさっさとオーガから片付けるよ!」
『了解っ!』
オーガ自体は三階で戦った事がある。Cランクの魔物だ。
ただ上位種であるオーガナイトはBランクで戦った事はない。
フレイムヴァイパーはDランクで一階に現れる魔物だから、やっぱり色々とごちゃ混ぜになってるっぽいね。
でもこれでオーガを倒せば少なくとも一階にリスポーンする事はない。
これを順々に間引いていけば、元通りの『禁域』になるのだろう。
まぁ『瘴気水晶』が残ってて、また氾濫が起きなければの話だが。
さて、私も気合い入れていきますか!
訓練ってわけじゃないし、遠目だったら<枯病毒>も使っちゃうよ!
ガンガン間引いていこうぜ!
■■■
「あー、暇だなー」
とある山中に造られた洞穴型のアジト。
それは最早洞穴とは呼べないほどに拡張され、広い部屋がいくつも造られている。
壁も天井もしっかりと固められており、家具や魔道具の明かりも充実している。
秘密の施設ではあるが、″賊のアジト″とはとても呼べない代物だ。
その一室、長いテーブルを囲む椅子に浅く座り、だるそうに揺れながらそうごちたのは一人の少女。
金髪を一つにまとめたものがピョンと真上に向いている。
そばかすのある顔とツナギのような服を着ているのを見れば、どこかの田舎の村娘と間違われそうだ。
彼女――イグルは、少し離れて椅子に座る眼帯の男に目を向けた。
「マニュエズさーん、まーだ時間掛かるんですかねー」
「そろそろだとは思うがな。いずれにせよ報せを知るのはお前次第だろ、イグル」
「だってまーだ帰って来ないんだもーん。あーあ、どうせだったら王都が壊されるの見たかったのに」
二人しか居なかった部屋の扉が開かれる。
入って来たのは三人。
ソフトモヒカンでピアスをしている男、おさげ眼鏡で大人しそうな女、2m近い筋肉質な男。
イグルの声が部屋の外に漏れていたのか、ピアスの男は入ってくるなり声を掛ける。
「だよなー、あれだけ王都に近い上級ダンジョンだろ? あそこが氾濫したら面白そうだよなぁ」
「まぁ騎士団もすぐに駆けつけちゃうから防げそうだけどねー。でもフラッドボスがどんなんなのか気になるー」
「防げるかねぇ。ま、適度に削ってくれりゃあ御の字じゃねえか?」
ピアスの男とイグルが喋りながら、三人とも席についた。
そのタイミングでマニュエズはピアスの男に聞いた。
「ベオウルフ、そっちの準備はどうだ?」
「まぁ順調ですけど、この辺弱いのばっかなんでね。それが気に食わないッスね」
「プラティとフロストンは?」
「わ、私の方は一応、その、大丈夫そうです、はい」
「……(コクリ)」
「プップルは?」
「あいつはまだ育成中ですねぇ。楽しそうにやってますよ」
一通りの進捗を確認したマニュエズは少し頷くと、周りの四人を見回して告げる。
「時期的にはもうすぐだろう。ただイグルの鳥が帰って来てもすぐに、というわけにはいかん。ゆっくり時間を掛けておびき寄せないといけないからな。準備だけしておけ」
『はい』
その後彼らは、フラッドボスとして現れたのがSランクの海の魔物、エビルクラーケンだったと知って数名は喜んだが、その日のうちに討伐され、氾濫もほとんど起こらずに処理されたと聞いて唖然とした。
■ピーゾン 【毒殺屋】 10歳
なるほどなるほど。
今日一日、一緒に戦ってみて感じたけど、やっぱりソプラノは非常に良い拾い物だったね。
さすが【七色の聖女】様。
今までの五人の連携を継続させたまま、純粋にバフ強化してくれる。
「経験なのかもしれないけど、私たちに合わせるの上手いよねー」
「国中巡った旅の経験はありますけど、色々な人にバフを撒いた経験はそんなにないんですけどね」
「そうなんですの? それにしては状況判断も的確だと思いますけれど」
「判断してから撃つのが速いですよね」
「ん。助かる」
「能力を使いこなしているというのは努力の賜物なのでしょう」
「ありがとうございます。でも皆さんの動きは本当に速くて複雑ですから大変ですよ」
だよねー。普通の回復職と違って、泡をコントロールしないといけないって結構なハンデだよ。
自分で言うのも何だけど、私もサフィーもリーナも動きが速いし、そこを狙って当てなきゃいけないのは大変だ。
それが出来ているのは本当に経験と努力の賜物だよ。
聖女という立場に胡坐をかかず、努力を怠らず、民を救おうと邁進する。
やっぱりリーナと似てる部分があるよね。
リーナも美人天才王女なのに努力家で精神力が異常だから。
となるとパーティーの連携に関しては特訓って言うより、実戦を重ねてソプラノに慣れさせるのを目的にした方がいいかもしれない。
模擬戦はやりたいけどね。
ソプラノが攻撃されるのはパーティーにとっても致命的だろうから、杖で防御くらいは出来た方がいいんじゃないかと。
ともかく、そうしたソプラノの力もあり『禁域』の間引きは非常に順調に進んだ。
前に間引きしてた時と違って特訓の意味合いも薄かったから私も<枯病毒>を解禁してたし。
なんなら<石化毒>も使ったし。
使ってもソプラノの<マジックヒールバブル>があれば安心だし。
近接で斬るにしても<アタックバブル>掛けてくれるしね。
私だけじゃなくてリーナやサフィーにもね。それで殲滅するのが楽になる。
やはりソプラノの加入は大きい。
んで結局三階層までぐるっと回ってしまった。調子のって。
Bランクの魔物も安定して倒せたしね。
厳しいって言うか時間が掛かったのは、複数種族の混合の時と、単純に数が多い時。
Bランクのデュラハン二体とCランクのスケルトンジェネラルが五体って時が一番きつかった。
その時に思ったけど、ソプラノって神官とかにありがちなアンデッド特攻の攻撃手段がないんだよね。
本当に回復とバフ特化。
いやまぁ贅沢は言えないんだけどさ、文句はないんですけど。
ともかくそんな感じで本日の間引きは終了。ドロップ的には非常に美味しかったです。
さて、四階層以降はどうしようかね。
色々とやりたい事もあるからなぁ、行くタイミングを見ないとね。
な、なんかよく分からない集団が出て来ましたね……ゴクリ。




