112:毒殺屋ですが毒ウサギだとバレ始めました
それからの事を少し話しましょうかねー。
フラッドボスであるエビルクラーケンを倒した私たちは【誇りの剣】【唯一絶対】そして騎士団の人たちと共に、ダンジョンから溢れて来る魔物を片っ端から討伐していった。
もしエビルクラーケンを倒せていなかったら、フラッドボスに率いられたこれだけの数のダンジョンの魔物――それも高ランク――が地表に溢れていたと……何とも恐ろしいもんだね。氾濫って。
そうは言っても小砦の瓦礫とか洞穴の崩落とかで、ダンジョンの入口から地表へと出て来る道は狭い。
従って出ようとする魔物は渋滞していたようだ。各個撃破する私たちにとっては都合が良かった。
出て来るのも地表に近い階層の魔物から順々にという感じだし、浅層の魔物は深層を調査探索していた大手クランにとって対処し易いと。
問題は絶え間ない連続戦闘になってしまうので、継戦能力を維持する為にローテーションしたりする戦力が不安な点だった。
もちろん私たちも大手クランと入れ替わりで戦ったり、少し戦ってはまた交代したりと繰り返した。
ダンジョンの入口が修復されるまでの数時間とは言えしんどいなーと。
しかしその問題もすぐに払拭される事になる。
やっと王都から騎士団の援軍が来たのだ。
こちらの戦闘は随時伝令が走って報告を行っていたらしく、フラッドボスを抑え込んで戦っていたとは言え、騎士団としては第一に王都の守りを固めなければと、やはり王都に防衛陣を張っていたようだ。
しかしフラッドボス討伐の報を受け一転、陣を解除し、こうして駆け付けたと。
リーナが前線に居るのに援軍よこさないとか……これ指揮した人、国王に殺されるんじゃないだろうな?
ともかく騎士団の数が十分揃ったという事で、ダンジョン入口での氾濫封じはお任せ。
冒険者組はみんな帰還しましょうとなった。
「後はどうぞお任せ下さい!」
「リーナ、騎士さんたちもそう言ってるし、私たちは帰るよ。騎士さんたちの仕事を奪っちゃダメだからね」
「…………はい、分かりました。どうぞご武運を」
「ハッ!」
リーナも渋々退かせた。張り切るのはいいけどさすがにみんな精神的疲労がすごいからね。
スタミナ回復剤で体力は保っても、精神力は擦れるわけだから。
ずっと精神力を維持できるリーナが異常なんだよ。
「ご苦労様、君たちが居てくれて助かったよ」
「本当にな。同じ固有職として理解出来ない点も多かったが……まぁ皆まで言うまい」
ストレイオさんとミルローゼさんにも労われつつ、握手を交わし、それぞれ王都へと帰って行った。
私からすればミルローゼさんの能力の方が理解出来ないんだけどね。
あの光の剣、何だか分からないけど超カッコイイし。
ともかく疲れた身体を引きずって、私たちはギルドへと向かった。
本当ならホームに直行したい所だけど報告しないわけにもいかない。
ギルド内にはすでに『禁域』で氾濫が起こった事、そしてフラッドボスであるSランクの魔物、エビルクラーケンが討伐された事が伝わっているらしかった。
同時に「どうやらあの【輝く礁域】が活躍したらしい」という噂も……。
先に帰還したストレイオさんやミルローゼさんたちからの情報なのか、あの場に居た他の冒険者パーティーやクランが流した情報なのかは分からない。
私たちがギルドへと入るなり拍手やら声援やらが送られて来たので驚いた。
受付に行けば、すぐに三階へ行ってくれと言われ、ギルドマスター室を訪れる。
「おお、聞いたぞ? 大した奮闘ぶりだったそうじゃないか! よくやった!」
リムリラさんはかつてないほどの笑顔を見せて握手してきた。
なんかもう苦笑いしか出来ない。ハハハ……。
ギルドの方でも色々とてんてこ舞いの状況という事で、この場は報告だけにして、報酬やら何やらはまた明日来て欲しいと言われた。
【誇りの剣】や【唯一絶対】も同じ感じらしい。
そこからの報告も受けてはいるが、私たちからも同じように聞き取りたいと。
私は、私たちが地震を感じた所から実際に戦った所までを説明した。
ただ能力の事は言えない部分も多い。
リムリラさんの知っている中での説明という事になり、私の毒と剣技で頑張って戦ったという感じにしておいた。
間違ってもネルトの<空間魔法>の事は言えない。
それとエビルクラーケンの素材と魔石については、結果的に私たちが持って帰って来てしまったので、これも提出しておいた。
これは騎士団や他の冒険者とのレイドで手に入れたようなものだし、私たちだけの手柄とするわけにはいかない。
「【誇りの剣】と【唯一絶対】は揃って【輝く礁域】の手柄だと言っていたがな」
「それはないです。騎士団もそうですけど深層から戦い続けて遅滞戦を行いながら地上へおびき出し、そこでもまた戦っていました。私たちじゃそもそも十何階までも行けないですよ。五人だけでエビルクラーケンと戦えるわけないですし」
「ふむ……」
これは謙遜とかじゃなく実際そうだと思う。
もし私たち五人だけで最初からエビルクラーケンと戦っていたら、まず勝てない。
それこそ超運が良くて、始めの方で毒ってくれればいけるかもしれないけど……あの時点で毒ってくれたのも運が良かったと思えるレベルだしなぁ。
と、そんな軽い報告が済み、やっとの事で帰宅。
門番(近衛騎士)さんから聞いていたのか、セラさんも出迎えるなりリーナを心配していた。
その日の夕食はさすがのポロリン料理長も出来合いのもので済ませ……しかしピンクマッサージは受けて就寝した。日課だからね、仕方ないね。
翌日、少し遅めの出勤となった。
朝の混雑時を避けてギルドへと行き、改めてリムリラさんと話す。
リムリラさんは疲れた表情だ。目の下の隈が痛々しい。
「さて、まずは報酬の件から話そうか」
どっこいしょとソファーに腰かけ、早速とばかりに切り出した。
ちなみに報告自体はまとめて国の方にも提出済みらしい。
「間引きのドロップに関しては一階の窓口で買い取りをしてくれ。これは通常通りでいい。ここで言うのは『禁域』の氾濫という緊急依頼に対する報酬だ。これにはエビルクラーケン討伐報酬も含まれる」
ようはフラッドボスの討伐と、それに付随する魔物の氾濫全てに対する報酬って事だね。一括すると。
さすがに緊急依頼扱いになったって事か。ワイバーンの時もそんな感じだったなぁ。
「【輝く礁域】には白金貨二枚(約二千万円)。分配するだろうから金貨二百枚で用意しておいた」
「『!?』あ、ありがとうございます」
多いな! いや緊急依頼でSランクの魔物を討伐だからこれくらいなのか?
国王から白金貨五枚とか貰ってるから麻痺してるけど、ギルド報酬としては間違いなく最大だね。
ローテーブルにドンと置かれた金貨の袋を、そのまま貰う。
「一応確認しておけ」と言われたので数えつつ仕舞った。
「それとピーゾンの昇格試験についてだが、これは間違いなく合格。帰り際に窓口でCランク用のカードに更新してくれ」
「分かりました」
「それに付随してだが……ポロリンもこの一月の働きと今回の緊急依頼分で、Cランク昇格が可能となった」
「えっ、じゃあまた指名依頼ですか?」
「それでもいいんだが、緊急依頼の達成と合わせて昇格させてもいいと思っている。真面目に試験を受けたピーゾンには悪いがな。どうだ?」
なるほど。私は昇格試験を受けてCランクになったけど、ポロリンは試験を受けずに緊急依頼達成の実績だけでCランクに上げていいものかと。私の意見を聞きたいと。
もちろん上げてもらった方がいいね。
面倒な試験は受けないに越した事ないし。喜んで了承です。
「ふむ、ではポロリンも窓口で更新してくれ」
「わ、分かりました! ありがとうございます!」
これでCランク二人とDランクが三人、パーティーランクはDだね。
ネルトも早々に上がりそうな気がするけど。
「それとここからは依頼ではなくお願いなんだが」
何やら改まって真剣な表情になるリムリラさん。
こういう時はろくな事を言わないから怖いんだけど。
「出来ればでいいんだが、『禁域』の間引きに引き続き協力して欲しい」
「まだ『瘴気水晶』があるかもしれないからですか?」
「それもある。と言うかそっちは別口ですでに依頼している。フラッドボスが現れた影響で瘴気の量が少なくなり、魔物の出現数も少なくなっているはずだが、かと言って油断出来る状況でもないからな」
また【誇りの剣】とか【唯一絶対】に潜らせるのかな?
それとも騎士団が行くのか? いずれにせよ私たちには無理だね。
「エビルクラーケンがダンジョンを破壊しつつ地表に出たおかげで、深層の魔物が浅層に上って来た。エビルクラーケンを討伐し、ダンジョンは修復しただろうが、魔物はその階層に留まったままなのだ」
「例えば地下一階に五階の魔物とかが居るって事ですか?」
「ああ。出現階層の違う魔物は一度討伐すれば、次に現れるのは元居た階層だと言われている。だから一度は間引きが必要なのだ」
あー、スポーンポイントが五階にあるから一階で倒してもリスポーンするのは五階って事かな?
って考えるのは前世のゲーム脳だからかもしれないね。
「今回は三階までと縛るつもりはない。上層から回れるだけ回って欲しい」
「いいんですか?」
「ただ地下一階にしても潜った時より強い魔物が居る可能性を十分に考慮してくれ。安全性を確かめてから探索するように。だからこれはお願いだ」
これは確かにギルドからの依頼としちゃあ、それこそ国王から「まーた危険な依頼出しやがってコラァ」と言われるかもしれない。
私たちの都合で勝手に潜るくらいがちょうどいいかもね。
「一応ストレイオとミルローゼにも確認したんだが、お前たちなら浅層の間引きではなく深層の調査探索でも出来ると太鼓判を押していた。それでこうしてお願いしたわけだが、さすがに深層調査はなぁ……」
「さすがにそれは言いすぎですよ。浅層で一杯一杯です」
エビルクラーケンと戦ってるのを見たからそんな事を言ったんだと思うけど、あれは単体相手で尚且つ私的に与しやすい敵だったからだしね。
前に聞いたオーガキングの軍勢とかが相手だと、逆に私たち五人じゃ戦いづらい。
というか無理だと判断して撤退するレベルだと思う。
<枯病毒>の多用くらいしか勝ち筋が見えない。
「ま、そんなわけで、機を見て行けそうならば行ってくれると助かる」
「分かりました。無理のない程度に行ってみます」
「くれぐれも用心してくれ」
そんなこんなでギルドマスター室を出た。
一階の窓口で、昨日のドロップ品の売却とカードの更新を行う。
何やら奥の方からヒソヒソ話で「毒ウサギ」がどうのこうのと聞こえる……おぅふ、やっぱり<毒弾>使ってるのが知られてしまったか……。
まずいなーこれ。「私=毒」って知られちゃうと日常生活にも支障が出そうだ。
外食に行っても出入り禁止とか、入店禁止とかありそうだし……。
噂が広まるの早いんだよなーこの世界。
「というわけなんだが、何か良い手はないかね?」
一度ホームに戻って緊急会議を行う。
『禁域』に間引きに行く計画を練るのもそうなんだけど、私的には『毒イメージ』の払拭は最優先だ。
「良い手って言われても……」
「今までピーゾン様は無害なわけですから、毒を振り撒くような存在ではないと皆様ご存じのはずでは?」
「リーナさん甘いですわよ。人は理外の力に恐怖するものですわ。ピーゾンさんが若くしてお強いのはご存じでしょうし、それが『毒』によるものだと知れば虚偽であってもそれは恐怖の対象となり伝染するでしょう」
「ではお父様から『ピーゾン様の毒は無害』だと告知してもらえば……」
いやリーナ、それはやめて。って言うか実際無害じゃないからね? 人も毒るから。
国王の口から告知で嘘をつかせるとか、私が潰れます。
「毒イメージを上回るほどの【剣士】イメージを見せるとか?」
「いいですわね。ギルドの地下訓練場で剣技を見せれば周知はあっという間でしょう」
「ですがそれは昇格試験でネロ様と対戦した時にお見せしたのでは?」
だよねー。あれもインパクトがあったらしく噂にはなったっぽいけど、今回はそれを上回るインパクトだったはずなんだよね。
Sランクの魔物を毒で倒したと。実際は違うんだけど。
と、そこで今まで無言だったネルトからの意見。
「んー、回復手段を持ってるって見せればいいと思う」
「解毒ポーションをぶら下げておくとか?」
「なるほど、毒を対処する術はありますよ、安全ですよ、と周知させるわけですか」
「んー、それもいいけど、回復役を入れればいいと思う」
お?
「私たちのパーティーに回復役が一緒に居れば、それで回復出来るって分かる、と思う」
『おお』
なるほど。それは戦力強化の意味でも一石二鳥。
ナイスニート。たまーに良い事言うんだよね、こいつは。
「となれば見た目で回復役って分かる職の人がいいですよね」
「神殿組織の回復役をスカウトすべきですか。神官服ならば分かりやすいです」
「ソプラノさんを頼ってみようか。【七色の聖女】様なら誰か紹介してくれるかもしれないし」
という事になった。
よし、そうと決まれば神殿に行ってみようか。
ヒーラーが欲しいって言うのは一章でポロリンが加入した時から言ってますね。
さて、仲間に入れる事は出来るのでしょうか。