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106:禁域間引き組ですがいよいよ時が来たようです



 その日も朝から『禁域』の間引きと訓練の両立に励む。



 私たちと同じく間引きの指名依頼を受けたパーティーも何組か居るが、中には『禁域』の難易度に実際に触れ、荷が重いと判断したのか依頼を破棄した人たちも居るらしい。

 同じように「キツイ」と思いながらも地道に間引きを継続しているパーティーもあるだろう。


 と考えて、一~二階の間引きはそういう人たちに任せ、私たちの主戦場はもっぱら三階層となっている。



 一階層の時点でDランクが六割、Cランクが四割くらいの体感だったけど、三階層ともなると逆転する。

 さすがにBランクは出ないけど、DランクよりCランクの方が出やすいイメージ。


 しかもこの一月で数も増えていると思うし、いくら狩っても先が見えない、そんな重い空気になる。

 多分途中で依頼破棄したパーティーも同じように思ったんだろう。

 この調子でどんどん厳しくなったら、いよいよ死ねると。



 しかし私たちは短期間でレベルも急激に上がり、装備もどんどん強力になった。

 だからそこまで厳しいとは思ってないし、むしろ四階層より下に行きたいという気持ちの方が強い。

 まぁそうは言ってもギルドの命令だから三階層までしか行けないんだけどね。



「先頭抑えますっ!」


「ポロリン様お願いします! 私は右から!」


「ん! カマキリおかわり来る」


「んまぁ! 大所帯ですわね! 後方はお任せ下さいまし!」


「合流させる前にこっちのカマキリ片付けるよ! 陣形3-1!」


『了解っ!』



 ケイブマンティスという2m級のカマキリは単体でCランクだ。

 それが三体と、さらに合流してくる群れもあるらしい。

 Dランクが居ない事を嘆きたい気もするが、実際は複数種族――DランクとCランク混合の群れより単一の方が戦いやすい。


 潜り始めた当初に比べて攻撃力も二倍以上になっているわけで、そうなると殲滅するのも楽だ。

 レベルはともかく、武器とかも総合したステータスを見ると、そこいらのBランクやCランク冒険者より相当強いんじゃないかと。

 パーティー外の人のステータスなんて知る機会もないけど、私はそう思っている。


 これが固有職(ユニークジョブ)だからステータスの伸びが良いのかっていうのは分からないけどね。

 比較対象もないし、そもそも私たちの(ジョブ)は世界に一人しか居ないわけだし。



 と、反省点も出ずに快調な間引きを進めていた矢先の事――



 グラグラッ……



『!?』



 突然、ダンジョンが揺れた。

 震度三程度だが、前世じゃあるまいし、滅多に起きない地震に全員が驚く。



「地震……?」


「ダンジョンで? まさか……」



 そう。ここは地表じゃないし、建屋が揺れているわけじゃない。

 地中のダンジョンなのだ。

 壁も床も天井も、いくら衝撃を与えても揺れないし崩れない。それがダンジョンというものだ。


 だと言うのに、これほど揺れを感じるなんて……これはもう――



「まさか……″氾濫″……?」



 五人で顔を見合わせ、すぐに決断する。



「撤退するよ! 急いで地上へ!」


『了解!』



 そうして私たちは走り出した。

 ダンジョン内を走るという愚行は、ダンジョン勝負の時に小走りしたくらいだが、本来はやってはいけない事。

 ましてや上級ダンジョンである『禁域』を走るというのは危険性の増す行為だ。


 しかし「そんな事は知らん!」とばかりに走る。撤退戦なら当然だ。



 間引き目的で潜っていたから、順路からはだいぶ離れている。階段までの距離は遠い。


 魔物との戦闘を極力避けつつ、どうしてもという時は遠距離から<毒弾><ルールシュレッド><スタイリッシュ忍術>で同時攻撃。

 そのまま突っ込んで近接で殲滅、というのを繰り返した。



 <ロングジャンプ>で逃げるという手はまだ打てない。

 転移する先はホームか西門だし、どうやって移動したんだという話になる。

 使うとすれば本当にピンチになった時だけだ。



 地下二階への階段、そして地下一階への階段へと順路を走る。

 その時、後ろから走ってくる気配があった。

 かなりの速度。相当急いでいる事が分かる足音だった。


 私たちの近くまで来た時、それが誰だか分かった。



「サッチモ!?」


「お嬢! それに皆さん!」



 ダンジョン勝負で私たちの立会人になってくれた暗部【幻影の闇に潜む者(ファントムシャドウ)】の人。


 相当走って来たのだろう、サッチモさんの顔は汗と焦燥感に塗れている。

 立ち止まる事はせず、共に地上へと向かいながら話を聞いた。



「何がどうなっているんですの!?」


「主が! フラッドボスが出ました! 早く避難を!」


「やっぱり……!」



 あの地震はフラッドボスがダンジョンを破壊している衝撃か。

 あれから断続的に揺れてるし。


 聞けば十五階層でフラッドボスが出現、同階層で調査に当たっていた騎士団と冒険者たちがその場で討伐すると決めた。


 全員で地上まで緊急避難する事も考えた。そこでちゃんと布陣して事に当たると。

 しかしフラッドボスが地上に出た時点で、それはダンジョンの入口が破壊される事を意味する。


 すなわち″氾濫″だ。

 だからこそ出現した傍から倒してしまいたい。そう思ったのだそうだ。



 冒険者側からは【誇りの剣(プライドブレイド)】と【唯一絶対(ザ・ワン)】の二つのクラン。

 そして暗部を組み込んだ王国騎士団が同時に戦いに挑んだ。総勢六〇名ほどにもなる。


 しかしフラッドボスの攻勢は激しく、次々に戦闘不能者を出していく。

 二つのクランも大手なので、数少ない回復役(ヒーラー)を抱えてはいたが、それでも回復が間に合わない。


 ジリ貧。このままでは全滅必死と考えた彼らは、遅滞戦術に切り替えつつ、時間を掛けて地上に向かう事にした。



 その間に地上へと伝令を出し、陣を布いてもらう為。

 少なくとも地上には騎士団と衛兵の予備戦力、そして【七色の聖女】率いる治療班が居る。

 狭い地下で、限られた戦力で戦うよりも、そちらの方が勝ち目があると判断した。


 ″氾濫″を起こす事になるとしても、だ。



「そういったわけで、すみませんが私は先に行きます! 皆さんもお気を付けて!」


「分かりましたわ! サッチモこそお気を付けなさい!」



 サッチモさんはポケットから出したスタミナ回復剤を飲み込み、颯爽と駆けて行った。

 やっぱり暗部の人の本気ってスゴイ。

 ダンジョン勝負の時はスタミナ切れ起こしてたのになぁ、あんなに速く走れるもんなのか。



 グラグラッ……



「揺れが大きくなってる! 私たちも急ぐよ!」


『了解!』





「殿下! ご無事で!」


「ピーゾンちゃん、皆さん! 良かった!」



 地上部には衛兵や騎士団と共に、【七色の聖女】ソプラノさんたち神殿の治療班も居た。

 サッチモさんがすでに伝えてくれていたらしい。

 そして王都にもすでに伝令を飛ばしていると。


 私たちが持っている【言葉運びの護符】を使おうかとも思ったが、サッチモさんが持ってないわけないというサフィーからの言もあり、伝令については完全にお任せした。



「ダンデリーナ殿下! お下がり下さい!」


「ここの防備はどうするのです!」


「王都からすでに騎士団が向かっているはずです! 我々はフラッドボスをこの小砦に留めて戦うつもりです! ご安心を! 王都までは行かせません!」



 騎士団とリーナがやり合っている。


 やっぱりすでに増援は頼んでいる。そしてこの場で布陣して戦うと。

 多分、小砦の外だろうね。

 ボスが入口を壊し、洞穴を出て、小砦から出るか出ないかという所で倒したいと、そういう事らしい。


 騎士団からすれば、リーナには王都に避難して欲しい。

 布陣するのは騎士団や衛兵を中心として、冒険者もそれなりに居る。


 それこそ深部の調査をしているAランク達が上がってくるだろう。

 そうした防衛陣を布くので、リーナは王都へと。



 でもね、この娘がそんな事を聞けば――



「わたくしも残ります! 共に戦います!」


「殿下! それは……!」


「王都を守るのは王族の責務! 魔物を討伐するのは冒険者の務め! なればこそここで退くわけには参りません!」


「し、しかし……」



 そりゃそうなる。

 そして決意の固いリーナに対して騎士さんが言い包める事など出来ない。

 国王だってリーナに負けるんだから、騎士さんが勝てるわけがない。


 見越したようにサフィーが二人の元に近づいた。



「諦めなさいな騎士さん、リーナさんがこう言っているんですから、この状況で素直に王都に避難なんて出来ませんわ」


「しかしサフィー様……!」


「貴方方はリーナさんに避難を乞い、同時にフラッドボスの迎撃に当たる……それだけで良いですわ。これ以上はリーナさんの我が儘。そちらに責はありません」


「それはっ、ですがっ」


「ご安心なさいな。リーナさんはワタクシたち【輝く礁域(グロウラグーン)】の一員。ワタクシだけでなく他の御三方もリーナさんを守れる力をお持ちですわ。ですからリーナさんを守るのはワタクシたちの仕事です」



 サフィーがリーナを守るのはストレイドの仕事でもあるし、幼馴染でもあるから当然。

 ポロリンは盾役(タンク)としてリーナを守るし、ネルトは転移という緊急避難手段がある。


 私は……特に守る手段とか持ってないんですけど……毒しかないし。

 と、ともかくリーナの面倒を見るのは私たちの役目だね。



 騎士さんは渋々下がった。

 そりゃリーナとサフィーに対抗出来るわけがない。可哀想。



 グラグラッ……



 振動はどんどんと多く、大きくなっていく。

 ついには「ドオオオン」と崩落音まで微かに聞こえるようになってきた。

 これ相当、昇って来てるんじゃないの? そんなに時間ないの?



「ともかく砦の外へ! 崖から離れて下さい!」



 騎士さんの声が響いた。



「すいません騎士さん! フラッドボスってどんな魔物なのか聞いてますか!?」



 私はそれが聞きたかった。サッチモさんに聞く暇もなかったし。


 オーガキングを越えるであろうフラッドボス、それは果たしてどんな魔物なのか。

 本当にドラゴンなのか、それともドラゴン級に強い魔物なのか。

 サッチモさんから何か伝わってないのか。


 どうやら騎士さんは聞いていたらしく、外へと下がりながらも叫んで教えてくれる。















「エビルクラーケンだそうです!」









 ……えっ……イカ? ……ダンジョンで?





ドラゴンさん「あ、あれ? 出番が……あれ?」

イカさん「すっこんでな! お前の出る幕じゃねえぜ!」

ドラゴンさん「うそん」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 自分(要人)がいるとその護衛に貴重な戦力割かなきゃいけないってことすら理解できないのはさすがにちょっと... 本人が不要だとイキったところで「はい、わかりました」といくはずもないですし…
[一言] 触手ってピーちゃん大得意じゃん
[一言] イカ刺しの時間だ!やったぜ!
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