閑話12:王都からの手紙+老獪な密談
拝啓 お父さん、お母さん
お元気ですか? 私は相変わらず元気に冒険者やってます。
ホームの暮らしにも慣れ始め、五人で和気藹々と冒険者活動をしながら暮らしています。
ひょんな事から暗殺者に狙われたりしましたが、傷一つなく倒せたので安心して下さい。
やっぱり都会は危険がいっぱいあるなーと感じました。ファストン村が懐かしい……。
これからも色々と気を付けつつ、みんなと楽しく暮らしていこうと思います。
その暗殺者の流れから、国王陛下とお会いしたりして、色々とご褒美をくれました。
あんまり持っててもアレなので、そっちにも仕送りします。気にせず使って下さい。
……あれ? 私、国王陛下と以前にも会ったって言ったっけ? そういえば手紙に書かなかった気がする。
えっと、リーナが第七王女なので私のパーティーでお預かりしますよーと顔見せに一度行きました。今回は二回目です。
あとサフィーのお爺さん、ストライド公爵家当主のロートレクさんにも一度お会いしました。
まぁお偉いさんと会うってすごく緊張するのであんまり会いたくはないんだけどね。
同じパーティーに関係者が居るから仕方ないし、私リーダーだからちゃんとしないといけないしね。
そんなわけでこれからも頑張ります。そっちも食堂頑張ってね。
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「だから暗殺者に狙われる『ひょん』って何だよ! いつもいつもこいつは!」
「うるさいぞベルダ! しかし都会はやっぱり怖いんだな……よおし! 俺が行って守ってやるぞ! 待ってろピーゾン!」
「ま、待って貴方! これ、仕送りって……白金貨じゃない! 金貨が一枚かと思ったら白金貨よ!」
「何ぃ!? なんだってこんな大金……あ、そうか! 国王様もピーゾンの可愛さ故に褒美を多く出しちまったって事か!」
「なるほど! そういう事ね! ピーゾンなら仕方ないわね!」
「待て待て待て! んなわけあるか! お前ら落ち着け! 座れ! ……って言うか、ピーゾンのやつ、何、国王陛下とか公爵家の当主様とか普通に会っちゃってんだよ……」
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(前略)とまぁそんな感じで『禁域』っていうすっごく難しい未管理ダンジョンで、ひたすら戦ってます。
難しいって言ってもAランクの人たちとかはもっと深い階層に行ってたりするし、ボクらは精々三階層くらいまでしか行けないんだけど、それでも魔物が強いんだよね。
でもみんなすごく強いしバンバン魔物を倒してくれるので、ボクはひたすら守るって感じです。
ネルトさんも難しい魔法をいっぱい使うし、リーナさんはズバズバ斬るし、サフィーさんは縦横無尽って感じだし、ピーゾンさんは……まぁ言うまでもないと思うけど。とにかくすごい人たちです。
ボクはみんなに助けられているけど、男はボクだけだし、役割が盾役なので、ボクがしっかり守るぞ! という気持ちで毎日頑張ってます。
あと、装備もまた変わっちゃったんだけど、まずクマ……ああ、これは書かないでいいや。
えっと国王様にまたお会いして、ピーゾンさんへのご褒美のついでって感じで、ボクにも武器を下さいました。
この武器の事もあんまり書けないんだけど……今度帰った時にでも説明します。
それからこないだ夕食で(後略)
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「ポロリン、本当に大丈夫なのです、これ!?」
「大丈夫……って書いてはあるけどねぇ……さすがに心配になるよ」
「『禁域』って言ったら王都周辺で唯一の未管理ダンジョン! 最難関の上級ダンジョンなのです! そんな所に潜ってるだなんて!」
「……シェラちゃん、相変わらず博識だねぇ」
「おまけにジョバンニ・フォン・ジオボルト国王陛下から武器を下賜されるとか……お姉さんは何やってるんです!?」
「……よくフルネーム知ってるねぇ」
「ああっ! ポロリンが心配なのです!」
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シスターとこじいんのみんなへ
ネルトです。さいきんは『くろねこ』っていわれてます。
ダンジョンによくもぐるようになりました。
おうとのなかのダンジョンにももぐったけど、さいきんはずっと『きんいき』ってとこです。
ピーゾンのしょうかくしけんのしめいいらいです。
いっぱいまびいてます。
ダンジョンのまものはたおすときえちゃうので、はぎとりできません。
おにくをとりたいけどきえちゃいます。
それがかなしいです。
たまにもりにいくのがたのしみです。
でもポロリンのりょうりがおいしいのでそれもたのしみです。
あと、こくおうからまけんをもらいました。
おこづかいでおっきなくまのぬいぐるみもかいました。
ねるのもさみしくありません。モフモフです。
かいたいものもかえたので、あまりはきょうかいにきしんします。
みんなにもおいしいものをたべさせてあげてください。
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「また金貨十枚!? ネルトさんはどれだけ稼いでいるのですか!?」
「新人冒険者ではありえませんよね……何か後ろ暗い事をしていなければ良いのですが……」
「相変わらず情報量が少なすぎてよく分かりませんからね……私たちが宛てた手紙に対する返答でもないですし……」
「あと、さらっと書いてますけど『こくおうからまけんを』って『国王陛下から魔剣を下賜された』という事ですか?」
「……さすがに何かの間違いでしょう」
「で、ですよね、さすがに敬称くらいは分かりますよね? 国王陛下を呼び捨てなわけないですよね? ちゃんと教えてますよね?」
「…………」
「……シスター?」
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「貴様らの言を聞いて魔剣を与えたは良いが……これでダンデリーナに何かあったらどうするつもりだ!」
「宝物庫で腐らせておくより良いでしょう」
「ハハハッ! マーベルの言う通り! なあに、ダンデリーナの抑止力と考えれば良いではないか」
国王、ジョバンニ・フォン・ジオボルトの執務室、テーブルを挟んで座るのは二人の男。
一人は宰相、マーベル・フォン・ベーラム公爵。
もう一人はロートレク・フォン・ストライド公爵だ。
老獪とも言える二人の公爵家当主。表公爵と裏公爵。
ジョバンニも立場的には強く言えるが、言い包められる事もまた多い。
魔剣四本を下賜する事についても、ジョバンニはあまり乗り気ではなかった。
何せダンデリーナに武器を与えるという事は即ち「これで存分に戦え」と言っているのも同じだから。
出来る事ならば危険な事などさせたくない。
王城でぬくぬくと育って欲しい。
そんなジョバンニの気持ちとは裏腹に、ダンデリーナは固有職の戦闘職となってからは、より一層″武″に傾倒し始めた。
魔物からの脅威、国防の為に自分の力を使わなければならないと。
それは王族としては尊い精神だと言いたい所ではあるのだが、親心としては真逆なのだ。
「ただでさえダンデリーナは狙われやすい質なのだ。容姿しかり能力しかり。自身も周囲も強くなって困ることなどあるまい」
「ロートレク卿の仰る通りです。まぁ守護する立場にかこつけてサフィー嬢にも魔剣を与える事になりましたがね」
「ハハハッ! それこそ腐らせて置くには勿体ないわ。どこぞの騎士に使うよりサフィーに持たせた方が良かろう」
「それはそうですけどね。″ストライドの麒麟児″″【幻影の闇に潜む者】の次代エース″なわけですから」
「それ言うとサフィー怒るから気を付けろよ?」
「……貴様らさっきから楽しそうだな」
和気藹々と話す公爵の二人と対照的に、ジョバンニは額に手を当てていた。
「パーティーの五人全員が魔剣持ちだぞ!? より目立って狙われやすくなるではないか!」
「それは事前に何度もお話ししたでしょう? すでに十分目立っていると」
「うむ、むしろ奇妙な装備に目が行き、魔剣に気付かれん可能性すらある。隠れ蓑にしつつ戦力強化を図るには持って来いだ」
二人の言いたい事も分かる。納得出来る部分は多々ある。
だから魔剣を褒美としたのだ。
ジョバンニは「はぁ」と溜息を一つ、もう下賜したものは仕方ないと頭を払う。
気を引き締め直して本題に取り掛かった。
「……で、『禁域』のほうは?」
「【誇りの剣】と【唯一絶対】の合同クランが十二階層で見つけたのを皮切りに、今日までで冒険者の方で二つ、騎士団で一つの『瘴気水晶』を見つけています」
「今日は変化なしか……あとどれほどバラ撒かれていることやら……」
「近くまで行ければ見つけるのは容易いらしいがな、いかんせん魔物が強すぎる。騎士団にうちの暗部連中を付けても怪我人が出たらしいからな」
Aランククラン一組でも厳しい階層の調査。
それは冒険者ギルドにも国にも周知され、今までは騎士団のみで調査に当たっていた国も、追加戦力として【幻影の闇に潜む者】を組み込ませた。
それは功を奏し、『瘴気水晶』の発見に至ったのだが、それでも苦戦は必至だと言う。
しかしロートレクの言う通り『瘴気水晶』の近くまで行けば、その発見は容易い。
瘴気を噴出しているが故に階層自体の瘴気が濃くなっているし、近づけばより顕著になる。
比例して魔物も強くなるから分かりやすくはあるが、苦戦もすると。
壊され回収した『瘴気水晶』は国の方で色々と調べてはいるが、何も分かっていないのが現状だ。
製法も素材も技術も術式も、未だ確たるものが出ていない。
分かっているのは人為的な仕掛けという事であり、誰かが大掛かりな嫌がらせをしているのだろうという推測のみ。
王都壊滅までをも目論んだ嫌がらせではあるが。
「引き続き調査に当たらせろ……くれぐれも【輝く礁域】は間引きで留めておけよ?」
「そっちは冒険者ギルドの管轄だからなぁ、ハハハッ!」
「おいっ! 冗談じゃないぞ!?」
国王とW公爵のトリオは結構お気に入りです。
ジョバンニは国王という立場がなかったら二人にパシリにされてそうですね。




