102:魔剣所持者ですが他の魔剣も見せて下さい
国王に下賜された手前、能力を隠すわけにもいかず、応接室で大体の事は報告した。
それから王城を出て、一度ホームに戻る。
お茶を飲みながらやっと一息。
「まさか全員に魔剣を下賜とは……陛下も思い切りましたわね!」
「お父様というより宰相の考えのようでしたが、何にせよわたくし達にとっては有難い事です」
「んー、ネコネコじゃなくなって残念……」
「魔剣もそうですけど、ピーゾンさん一気にお金持ちですね!」
ポロリンも私も庶民派感覚だから白金貨五枚ってとてつもない大金に思えるけど、冷静に考えたら魔剣四本の方がよっぽど高価だと思うよ。
下手すると魔剣一本で白金貨五枚……いやもっとするかもしれないね。
ともかく各々の魔剣を今一度見てみよう。
装備した状態のステータス画面で、性能とか分かってるし。
そんなわけで、パーティーの武器一覧がこちら。
―――
・ピーゾン 【魔鉈ミュルグレス】(攻撃+50・状態異常特攻)
・ポロリン 【魔ンファー・デュランダル】(攻撃+40・防御+70・鉄壁)
・ネルト 【魔杖プレシューズ】(魔力+80・消費MP半減)
・リーナ 【魔包丁ベリサルダ】(攻撃+80・氷の刃)
・サフィー 【魔刀ムラマサ】(攻撃+60・射出・自動装填)
―――
まず、突っ込み所一つ目……私の魔剣弱すぎぃ!?
いや魔剣屋のハゲ親父とかアロークのおっさんとかには「弱い」って言われてたけどさ、こうやって比較するとなー。
ホント<状態異常特攻>なかったら終わってるわ。
そして突っ込み所二つ目。
「ハハハハッ! ま、ま、魔ンファー! ハハハハッ!」
「わ、笑わないで下さいよっ!」(美少女憤慨ポーズ)
あの応接室で爆笑したのは私一人だったが、みんな顔を隠して笑っていた。
ミス無表情のネルトでさえ「プププ」って感じだった。
唯一笑わなかったのはミス生真面目のリーナ。
「なるほど魔剣のトンファーで魔ンファーですか」と普通に頷いていた。さすがです殿下。
とまぁそれはそれとして、一つ一つ見ていきますよ。
まずは【魔ンファー・デュランダル】。
見た目が手甲っぽくてごつくなったと思ったら、性能的にも防御寄りだった。
ポロリンが盾役として意識したのかは不明だが、パーティー的には非常にありがたい性能。
<鉄壁>はアクティブスキルが付与されているって事だね。
使うと短時間ではあるが『防御力上昇大+ノックバック耐性大』という盾役垂涎のスキル。
非常に有能な武器だ。魔ンファーのくせに。
唯一問題なのが、真っ黒でゴツゴツした手甲のようなトンファーと、モフモフのピンククマが全く似合わない事だ。
これは由々しき事態であるからして早急に打開策を練らねばなるまい。
「えっ、いや、クマをやめればいいんじゃ――」
さて次にネルトの【魔杖プレシューズ】。
『魔力+80、消費MP半減』これは本当に素晴らしい。
特に使用率の高い<念力>は検証の結果、魔力依存だと判明しているので非常に助かる。
もしかすると諦めていた『浮遊』もいけるかもしれない。ネルト一人を飛ばすくらいなら。
欠点はやはり見た目だろうか。上が丸まっていて下が若干尖っているから『杖』っぽくは見えるが、木材でもないし長いし。
ネルト本人はネコネコじゃなくなって悲しそうなので、マリリンさんに言って杖のカバーみたいなものを作ってもらえないだろうか。要検討である。
というか今まで杖で防御する特訓してたけど、取り回しが全く変わるからね。そこも問題。
続いてリーナの【魔包丁ベリサルダ】。
素の攻撃力も素晴らしいし、<氷の刃>は武器に氷を纏わせ、属性ダメージを追加するスキルだ。
相手によってはかなりのダメージを叩き出せるだろう。
しかし問題は形状が『包丁』だという事。
現状の二刀流で使おうとした場合、左手に持つ脇差よりもだいぶ短い。
せっかく日本刀サイズにして扱いに慣れてきたのに……魔剣を使おうと思ったら逆戻りなんだよね。
「魔剣を使いたい気持ちもありますが、二刀流のままで居たいという気持ちもあります」
「併用するのはどうですの? ここぞという時に突っ込んで魔剣に持ち替えるですとか」
「左手を包丁にしちゃダメなんですか?」
「どちらも難しそうですね……訓練あるのみです」
難題だね。私もアドバイスしたい所だけど、非常に悩ましいね。
これもちょっと相談やら何やら必要な感じ。
最後にサフィーの【魔刀ムラマサ】。
名前はともかく、形状は普段使っている忍刀とほぼ同じなので問題ない。
攻撃力は+60と魔剣としたらやや弱め(ただし私のより強い)。そこだけが欠点らしい欠点かな。
素晴らしいのは<射出>と<自動装填>という鬼畜スキル。
どうもこの魔刀、一つの黒い金属に見えて、刀身と柄が分離するらしい。
そして<射出>で刀身の部分がバビュンと飛び出る。ようはスペツナズナイフの短刀版、強化版という感じ。
さらに<自動装填>で飛ばした刀身が消え、柄のみとなった所に刀身が現れる。
「<射出><自動装填><射出><自動装填><射出>……」と無限ループ出来るんじゃないかと。
後衛のサフィーからすればかなり有難い魔剣だろう。
「オーーッホッホッホ! まさに! まさに完璧なワタクシに相応しい魔剣ですわ! オーーッホッホッホ!」
うっとおしいが、本当にすごい魔剣だから何も言えない。
まぁ使い方や戦術に組み込んだりは、特訓してみての様子だけど、間違いなくサフィーにとってはプラスだろうね。
いきなりパーティーの四人が武器変更という事で、さすがに『禁域』で特訓というわけにはいかない。
まずは南の森で試運転がてら、連携を深めてからじゃないと怖いね。
というか、それより先にやる事がある。
♦
「おう、いらっしゃ…………ぅええええっ!!??」
魔剣屋の店主、ハゲ親父に突貫である。
布に巻かれた私の大鉈を一目見ただけで魔剣と言い当てた親父だ。
店に入った瞬間に、全員が魔剣所持者だと分かったらしい。ナイスリアクション。
「えっ、ちょ、おまっ、どうなってんだよこれ! ウサギの嬢ちゃんだけじゃなくてパーティー全員!? まじかよ!」
「ひょんな事から四本ほど入手しましてね」
「どんな『ひょん』だよそれ!」
「みんなの鞘とか柄巻とか、見た目で魔剣って分からないようにして欲しいんですけど」
「はぁっ!?」
親父を混乱させつつ色々と相談しながら注文する。
リーナとサフィーは鞘と柄巻でいいんだけど、問題はポロリンとネルトだ。
ポロリンはトンファーがゴツくなった影響で、太股のホルダーに入れられなくなった。
で、どうしようかと相談し、腰の裏に左右から刺せるようなケースを作ってもらう事になった。
さらに持ち手の部分には柄巻ね。
収納すると腰の左右から前に持ち手部分が出る感じになる。
なかなかいいんじゃないでしょうか。
ネルトは杖だから鞘もないし、柄巻にしても杖全体を巻くわけにはいかない。
真ん中ら辺の持ち手部分に巻くくらいは出来ると思うけどね。
「って言うか、それを見て魔剣だって分かるヤツの方が少ないと思うぜ? 確かに杖の魔剣もあるにはあるが一般的じゃねえ。どうしたって『魔剣=剣』って固定観念がある。俺みたいに一見で気付くほうが珍しいと思うぞ?」
「ですかね? 杖なのに木材じゃないって不自然じゃないです?」
「メイスやスタッフは木材じゃないだろ? 別に【魔法使い】系職だからって木製の杖って決まってるわけじゃないんだし」
なるほど、そういうもんか。
となるとネルトの魔杖はそこまで気に掛ける必要はないかな。
ただマリリンさんの所で『ネコネコ杖カバー』みたいなの作ってもらいたいから、それ付けておけばより誤魔化せるかもしれないね。
そんなわけでハゲ親父に注文しつつ、店を出た。出来上がりが楽しみだ。
あとはマリリンさんのトコに行ってから特訓かな。
ムラマサはともかく、デュランダル・ベリサルダ・プレシューズはミュルグレスと同じくローランの歌から。