第34話 拮抗! 氷上VS光亜麗先輩!
「理想は引き分けなんだけど。ジャージ姿の氷上と違って、先輩は制服だから、竜巻攻撃を続ければスカートが……。氷上、頑張れ!」
「応援の、熱意、理由がわかって、めちゃ、やる気、無くなってきた」
氷上は辛うじて水弾攻撃を避けているが、動きが鈍り始めている。
「先輩、俺達、部活見学に行きます。そうだ、水泳部を見学しに行くつもりだったんだ」
「本当ですの? 紅様は私の泳ぐ姿に興味がおありですの?」
先輩が俺に意識を向けたため、水弾による氷上への攻撃が緩んだ。
「あります。あります! 超興味津々。光亜麗先輩の水着を間近からたっぷり見たくて、しょうがありません! ああ、水泳部を見学しに行きたいなあ。な、氷上」
「……いや、私は、帰る」
「おい、氷上!」
「ふっ、ふふっ……。取り締まりですわ!」
先輩が嬉々として声を張り上げると、海面から水流が浮かび上がり、獲物に噛み付こうとするアナコンダのように、獰猛な勢いで氷上に襲いかかる。
「氷上! トンファーじゃ防げない。逃げろ!」
「いや、むしろ、チャンス。受け、と、攻めは、表裏一体」
氷上は直撃する寸前に飛びはね大蛇に乗ると、足場の細さを物ともせずに走りだした。
攻撃の瞬間にのみ触れることの出来る性質を逆手に利用した、先輩への最短経路だ。
「不用意に手札、晒しすぎ。水の攻撃は、一度に、一つだけ。見切った」
「あっまーいですわ!」
先輩の左右から水の槍が伸び、氷上の進む先に真っ直ぐ向かう。
どうやら先輩は敢えて操作可能な水の数に制限があるように見せかけて、氷上の行動を誘ったようだ。
「私の勝ちですわ!」
「それ、負けフラグ」
氷上は大蛇の上で側転し跳びはね、先輩の頭上を伸身の宙返りで飛び越し、背後を取る。
「全力、攻撃の直後。すぐバリア、張れる?」
片膝着いた氷上がトンファーを逆手に構える。
「氷上、肛門突破はダメだーっ!」
「喰らえ、必殺、トンファー、ビーム」
氷上は立ち上がって振り返ると、トンファーを頭上で交差させる。
同時に先輩が振り返り、咄嗟に頭を両腕ガード。
そして、がら空きになった先輩の腹めがけて、氷上は喧嘩キックを放った。
ドゴオッという音と共に、足がめり込み、先輩がくの字に折れる。
「氷上の卑怯者! 喧嘩キック駄目! 先輩、大丈夫ですか!」
「ふふっ、ふふふっ……。大丈夫ですわ」
不敵な笑いと共に先輩が上体を起こすと、いつの間にか腹部と氷上の足の間にビート板が挟まっていた。
「なっ!」
「ふふっ。驚くのは未だ早いですわ。ワッフル状態に畳んだビート板に攻撃をしたこと、後悔するのですわ!」
「ま、まさか。しまっ――」
氷上が驚愕の色に顔を染めた瞬間、ビート板の反発力が開放される。
氷上の小さな体は、校舎の三階付近まで吹っ飛んだ。落ちればただではすまない。
しかし、氷上は、くるくるっと回転し、綺麗に足から着地。
僅かにバランスを崩してよろめくだけだ。
「大丈夫か、氷上」
「手強い」
「遠距離は水の壁が、近距離はビート板が全ての衝撃を殺しますの。私との実力差が分かったかしら」
「圧倒的な、差、感じた」
氷上は悔しそうに俯いている、かと思ったら、口がニヤリと裂けている。
「私達の間に、ビート板が挟まれたら……私だけ、吹っ飛ばされる。つまり、先輩のが、体重、重い。圧倒的、差、感じる」
「なっ!」
先輩は俺に視線を移し、わたわたと手を振りだす。
「紅様、誤解しないでくださいまし! けして私が太っているわけではいのです。これは、その、えっと、あの……筋肉! いえいえ、違います、けして筋肉だらけで女らしさが欠如しているわけではなく。か、かと言って、胸の差だなんて言えるほど大きくないし、あうう」
たった一言で先輩を混乱に陥れるあたり、やはり氷上は肉弾戦よりも陰湿な知能戦の方が得意なのだろう。
ニタニタしてるし。
「氷上、何でそんなにえげつないんだよ」
「ふっ」
「いやいやいや、勝ち誇るところじゃないから。せんぱーい、安心してください。別に先輩が重いわけじゃないですよ。ほら、どう見ても氷上だって胸がまな板だし。先輩が重いんじゃなくて、氷上がちびで軽、おふうッ!」
突如お尻の穴に謎の激痛が走り、俺はつま先で一歩、二歩とふらつく。
いや、お尻というか、内蔵から頭部に熱した鉄の棒が突き抜けたかのような、内側の痛みだ。
俺は灼熱のようになったお尻の穴から逃げるようにして股間を突き出し、仰け反りながら、背後の悪魔を睨み付ける。
「おま、おまっ、こんなの、あひっ、ひ……!」
「ふふふっ。『歪み無き聖剣』の、最初の獲物、なれたこと、喜べ。足りなければ、次は、『だらしない剛直』が、水取を、貫く」




