取材という名の免罪符
ぼくら物書きの最大の利点は、老けないってことだ。
普通、人は年をとるにつれて色々億劫になっていくものだよね。
作家にはそれがない。
精神が若く保たれるのだ。
作家趣味いいよ作家趣味。
みんなももっと「取材」を言い訳にするべき!
ぼくらは『取材』と称することにより子供以上の好奇心を発揮できるのだ!
えっ、この年になって遊園地?
えっ、この年になってお化け屋敷?
まさか、一人で観覧車に乗るの?
うそだろ、あのおっさん、コーヒーカップでドリフトしてるぜ!
などなど。
『取材』の名のもとに、気恥ずかしさなんて乗り越えられるものなのだ。
そう、だからぼくが仕事終わりに暴君ハバネロのスナック菓子をついつい食べちゃうのもいずれそれをネタにエッセイを書くための取材ッ!
お金ないのに、マッカラン12年を買っちゃったのも取材ッ!
そうすべての罪は取材の名のもとに許されるのだ。
最近ぼくは、メイン作品の『いたもん』で、でっかい甲殻類と戦う話を書いているのだが、あいにくなことに、ぼくは、シャコの味を知らなかった。
生まれてこの方、シャコを食べたことがなかったのだ。
お寿司屋さんで、ヤツを目にする機会は何度かあった。
でも、なんとなくシャコはグロい気がしたし、食べたら高確率でエビのほうがうまいんじゃないか? と常々思っていたし、値段も高かったので手が出なかった。
だけど、待てよ? とぼくは思った。
『味も見ておかなければ』、リアリティのある話は書けないのでは?
ジョジョの中でも一際奇妙な岸辺露伴大先生は、蜘蛛の味すら見たのだぞ?
アマチュアなぼくでもシャコの味ぐらいは知っておくべきだろう。
いたもんの大蝦蛄に勝ったなら、みんなでそれを食べる機会も書くかもしれないし。
とくに猫獣人のラグさん(ラグドール)なんかは喜んで食べるかもしれないにゃ。
そんな事を考えて、お寿司屋さんに入ったらシャコがない。
途方に暮れながら、涙をのみながら、お茶をおかわりしたぼくは、かわりに目についたアブラボウズなる魚を食べることにした。
アブラボウズ。
恐ろしい響きだぜ。
アブラギッシュな禿げたおっさんが思い浮かぶ。
カロリーがすごそうだ。
そして名前がやばい。
同じアブラの名を持つアブラソコムツは、人類には消化できないワックスエステルを多く含む魚で日本では流通が禁じられているものの、海外のエセ日本食屋ではホワイトツナとして提供されている。
アブラソコムツだのバラムツだのは、犬がお尻からアブラを流すという異名を持つほどで、食べるとしたらオムツは必至。
食べると人類の尊厳が、お尻から垂れ流しになっちまうというやべーやつだ。
アブラボウズはどうなのか?
エイヤッと意を決して食べてみた。
意外とおいしかった。そして、セーフ。
確かにすごいアブラだが、カレイのエンガワよりは上品な気さえした。
目的が達せなかったぼくは、結局3軒お寿司屋さんめぐりをしてとうとうシャコを食べた。
尻尾の部分の食感は一食の価値あり。不思議な感じだよ。エビとは全く違う。
でも美味しくはなかった。
食感もネタの甘さも、エビには全く勝ててない。
ティタノカリスは食べなくてもいいや。
そんなことを思った週末の夜。




