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14 求める者たち④ 自分の感情~軍や警察に任せた方が確実だ

「うちの『T - SERA(ティーセラ)』本部の方でも感知したよ。

 彼女の言う通り異生物がこの近くに転移したようだ」


 エヴァは携帯も使ってないのに何かを察知したように外の状況を喋べり出した。

 どうやら異能のシンクロニティを使用して研究所にいる自分のクローンと情報同期をしたようだ。


「異生物の詳細は二足型の大猩々(おおしょうじょう)、リガンドレス。

 これは大獣級だね。」


「・・・・ふーん。」


 俺は特に食い付くわけでもなく聞き流す。

 その様子をエヴァは不思議がったようだ。


「あれ?現場に向かわないの?」

「なんで?」


「リガンドレスはすごく狂暴なんだ。

 過去これまで四体の転移が確認できてる種なんたけど、

 そのうち中国の大連と、それから韓国で町がひとつ壊滅されたんだよ?」


「古雅崎たちの一派が動いてるが警察に連絡すれば軍が来てくれるだろ・・・

 っておい、まさか俺も討伐に行くのが当たり前になってるのか?」


 町ひとつ潰す大獣に立ち向かう事なんて出来るわけないだろう。

 この屋敷で沈静化するのを待った方がいい。

 武器を持たない俺に戦いには向かない。


 そこへ装束に着替えて薙木刀(なぎなた)と道具一式を持った古雅崎(こがさき)敷雅(しきが)が来た。


悠希(ゆうき)君、さあ行くわよ!」

「・・・おいおまえもか・・・・俺は自警団でも退魔師でもなく一般人だぞ」


「町に降りられたら危険なのよ?」


「守りたい人は俺にもいるがこの町にはいない。

 多摩の人には気の毒だが不特定多数を救えるほどの力を俺は持ってないしこの町の人への義理もない。

 おまえたちのように家業にしてるワケでもないんだぞ?」


 なんでコイツらは自分達の常識を俺に押し付けるんだよ。


「お嬢様、行きましょう。

 やはりこんなヤツは雅と共にすることなどありえません」

 そう言って敷雅は一瞥してこの場を去っていった。


「悠希君、それは違うわ。

 あなたには力があるの」


 古雅崎は言葉に気持ちを込めるように続けた。


「その力はあなたに選択肢を生み出す。

 戦うか見捨てるか、決断を迫るものになる。

 義理があるかどうか、それこそあなたが自分で決められるものなのよ?」


 そう言って悲しげな顔をした古雅崎はうつむき、そして顔を上げた。


「決めなさい。

 立ち向かうかここから逃げるか。

 人任せにして思考を投げ出す事は許しません。

 ・・・あなた自身のために」


そう言って現場へ向かっていった。


 ・・・・・。


「俺にメリットはない。

 軍や警察に任せた方が確実だ・・・」


 気持ちが沈む。

 そこにエヴァが利点を提案してくる。


「メリットはあるよ?

 麒麟の時にも言ったけど討伐した異生物からは

 器官増幅因子、『マドプラズム』が手に入るんだ」


 経験値みたいなやつか。


「・・・・倒したあとに行けばいいだろう」


 いや、それはグズのやる事だな。

 ・・・自分で言って猛烈な嫌気に襲われた。

 たぶん俺は倒した報告があっても行かないだろう。


「討伐後すぐに霧散してしまうのは麒麟の時と一緒だよ。ここからじゃ報告のあとに向かっても吸収が間に合わないんじゃないかな。

 何より軍隊だけじゃ手におえないだろうね。」


「なんでだよ。

 異能なんかよりもずっと火力が上だろ。

 銃機があれば異生物相手だってひとたまりもない筈だ」


「理由はふたつ。

 この日本では今も各地で異生物被害が起きていて、自衛隊は部隊を分散派遣して交戦を続けているんだ。

 新たに異獣転移が起きた多摩に迎撃隊が到着するにはずっとあと。

 ・・・で、その頃には町は壊滅してリガンドレスはもう去っているだろうね」


「在日している米軍だっているだろう。

 そんなに日本中で発生しているのか?」


「米軍はすでに日本から撤退している。

 自国の被害も大きいのだから、他国よりも優先するのは当然。

 日米安全保障条約は破棄されたに等しいよ」


「・・・・ふたつめは?」


「二つ目の方が深刻だね。

 地球の大気構造がかわったせいで火薬の化学反応が弱まっているんだ。」


「世界の酸素でも薄まったのか?

 弾薬はその構造上、充分な酸素をその内部に含んでいる筈だろ」


 水中でも拳銃が発砲できるのはこれが理由だ。


「そう、だから変わったのは大気組成率ではなく、化学反応式そのもの・・・・分子原理が変わっているというのが僕らの仮説なんだ」


 どこかでも電気発電量の効率が下がったという話は聞いた気がする。

 だがそれも俺の行動の理由にはならない。

 すると俺の心理をエヴァが代わりに綴った。


「死ぬのが・・・・君は怖いんだね」

「・・・!!」


 そうか・・・

 これは怖いからという理由なのか。

 やっと自分の感情の正体に気づいた。


 でもそりゃそうか。

 学校の有田、研究所の山田と譲治、エヴァの死体。

 この数日で人の死の数にあまりにも触れすぎた。


 生に無頓着だった俺が、死を必要以上に意識することになって・・・自分が殺される事がとてつもなく怖くなってきているんだ。


「んふふ。

 ・・・その感情はね、僕には羨ましいよ~」


 顔を上げると

 エヴァが今までにない・・・穏やかな顔で笑っていた。


「僕は何度も死の経験をしてきた。

 それこそ数えきれない程にね。

 僕がシンクロニティによってあらゆる情報を多面的に得る事はできる、けど記憶して来れないものもあるんだ。

 それは死後の記憶と・・・・死の苦しみ。」


「・・・・・。」


「たぶん僕の生存本能が作り出している自然リミッターなんだと思う。

 だから僕は死に対して無頓着だし、人の死も軽視してしまう所がある。

 だから君が持つ恐怖は、とても人間らしくて愛しく思えるんだよ。」


 エヴァはその幼い容姿には似つかわない言葉で俺を、

 メリットがないという理由で人を見殺しにしようとする俺を人間らしいと言った。


 ・・・俺は情けない。

 古雅崎と敷雅にもあきれられて・・・。


 ああ、・・・・強くなりたいな。


 死の恐れを跳ねのけるほどの・・・力がほしい。


「・・・リガンドレスってのを倒して因子が吸収できれば、俺はどれくらい力を上げられる?」


「んふふふふ♪そうだねぇ、君の異粒子内包量がいま30だとして、それが5倍以上の150には確実に広がるよ。

 T - SERA(ティーセラ)にいた斎藤譲治で180。

 ベテランとの差を一気に縮められる。

 相手は異能持ちではないけど一級認定の異生物。それだけポテンシャルが高い種族なんだ」


 五倍・・・それだけあればこの先やれることがかなり広がるな。


 これは勝率の少ない賭け事で俺好みではないが・・・


「いくか」

「んふふふふ~、もっといい顔になってきたねー♪」


-------------------------


『はい、もしもし、悠希くん?』

「古雅崎いまどこだ?俺も現場に向かう」


 俺は古雅崎に電話をし、雅一族と共に行動することにした。


『ありがとう。

 君がいれば頼りになるわ』

「期待してる所で悪いが俺は巻き込まれるだけで役に立てないかもしれないからな」


『ふふ。わかった。

 場所は屋敷の階段を降りて鳥居をくぐったら右に。

 その先にある広場で迎撃態勢を整えて

 ・・・・きたわ!』


ドゴオォォォン!!


 遠くで地響きが聞こえた。

 場所は1kmくらいだ。近い。


「身体強化ならあっという・・ま・・・に?」


・・・・。


 広い屋敷を出てみるとそこには神社のエリアがあった。

 その先にはどこまでも続く石造りの下り階段が続いていた。


「どんな所に住んでるんだよ古雅崎・・・」


 ちょっとした登山級の高さの山の上に屋敷はあったのだ。

 降りた先の鳥居なんて遠すぎてさっぱり見えない。


「身体強化・・・・って階段降りる時に有効なのか?」


 上りだったら筋力の恩恵でスピード上げて昇れるだろう。


 けど下りとなると重力加速度に達するくらいしかないぞ。


 ・・・・・・。


-----------------------------


「どひゃああああああ!」

ダッ! ダッ!  ダッ!!


 連続20段飛ばしの階段くだりだ。


 俺は身体強化を加速側には使わず階段飛ばし降りの衝撃緩和のため、筋力補強にだけまわした。


ダッ! ダッ!  ダッ!!


 一回でも足を外せばまっ逆さまに転げ落ちるだろう。


「おおお!おおおお!うおおお!!」


 勢いがさらにつき、ついには40段飛ばしに達した。


 落ち着いて足元と湾曲するルートを見極める。

 ブーストトリガーは異粒子温存のため節約だ。


 あっ・・・・とっ・・・す・・・こ・・・しっ


ズッザアアアア!


「はぁ、はぁ。

 ・・・・あぁビビった~」


 無事にショートカットできた。

 そこらの遊園地のアトラクションよりよっぽどスリルがあるな。


 ふう~~。


 アドレナリンが出てきている気がする。


 異生物への恐怖心は不思議と薄れてきた。


 よし!これなら調子よく立ち向かえるぞ。


ウウウウーーーーーーー!!!


 街にサイレンが鳴り響いた。

 閑静な住宅街に緊迫した空気が漂い

 胸の鼓動がさらに高まる。


 大きな戦いになる予感がした。

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