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花の咲き誇るあの場所で















「そなたが“エミリア”か。よく参ったな、哀れな娘…そこへかけなさい。」









例の招待状を手に案内されたエミリア。

王女殿下は今日の夜会では使われていない部屋に私を迎え入れた。

外の喧騒が嘘のようにここは静かな空間だ。

部屋はそんなに華美ではないが大きなソファーが対になっても狭く感じない程度には広かった。

入り口には侍女らしき女性も、護衛らしき騎士の姿もない。

王女殿下の後方には扉があるがその奥に控えているのだろうか。




エミリアはソファーの隣まで歩を進め、震えてしまいそうな体を必死に励ましながら深々と淑女としてするべき礼をした。

名を名乗るべきか、声は先ほど既にかけられているので問題はないだろう。



「アズルの地を王より賜っております、ロナルド・ハートが娘、エミリアでございます。」




本来何もないのなら王女殿下に御目通り願った喜びや世辞の一つも言うのだろうが、エミリアは名乗るのが精一杯だった。





「アズルか、あれは良い街だな都会過ぎず田舎すぎない。もうよい、頭を上げよ。かけなさい、私は同じことは三度は言わぬ。」


「失礼致します。」




私は言われた通りソファーに座る。

革張りの真紅のソファーが沈むのと同時にギチチっと音を立てた。





(アルは、いないのね)





私は少しばかり落胆した。





















ー王女殿下と会う数時間前ー













エミリアは父親の書斎に呼ばれていた。

内容は何てことはない、手紙を読んだのか、今夜の夜会に行くのかという確認であった。

父にもなんらかの通知があったのだろうか、少しばかり顔色を悪くした娘の様子にロナルドはいち早く気がついた。



「いや、違うんだ。お前は心配などいらないよ。今夜はロバートも帰ってくるんだ、だから帰りの時間だけ聞いておこうかと思ってね。」



父親の誤魔化し方には些か無理があったが、兄が帰ってくると言うのは思わぬ朗報だ。

弟はまだ学院にいるため滅多に会えないが、兄は兄で父とは違う事業が順調らしくこちらも滅多に帰ってくることがなかった。

その兄が帰ってくる。

いよいよアルを失うかもという日に一人でも多くの家族に会えるのはエミリアにとって支えになる出来事であった。




「お兄様、お元気かしら。」

「お前に会いに来てるようなもんだからね、体調は万全にしているはずだよ。」

「私もはやくお会いしたいわ。」





私は言いながら気分が下がるのを感じた。

「会いたい」と口にした瞬間に浮かんだのがアルの顔だなんて。

違う、と否定してみても一度浮かんだ残像は中々消えてくれない。

どこか不安を抱えながら、それでも確かに会いたいと思うのは本心。

兄にも少しばかり申し訳なさを覚える。




あと数時間もすれば私も夜会に行かねばならない。

準備をするからと父の書斎を出て自室のクローゼットの方へ歩こうとする。

だがその足は途中で止まった。




王女殿下とのやりとりはこの日までいくつもいくつも想像してきた。

罵倒される覚悟も、泣きわめかれる覚悟もしたつもりではある。

しかし、どんなことを言われようと私が言うべきことは一つだ。






(わたしが、私自身がアルとの十年を否定すること…)





脅されようがなにをしようが私はアルには関係のない父親が懇意にしているだけの関係であると言いきること。





アルへの想いも否定して、





アルとの思い出もなかったことにする。





(でももしその場にアルが居たとしたら…?)




私は嘘を突き通せるだろうか。





(いや、例えアルの目の前だって言わなければならない)





愛とは真逆のことを。

それが私の愛ならば。

私の足は昔、アルの婚約者であった頃の自分の部屋へと赴いた。

入るのは何ヶ月ぶりか…。

ギィと軋む扉の向こうには相変わらず色とりどりの花が壁一面に咲き誇っている。

どれもこれも、いつ貰ったものか覚えている。

なんと言われて渡されたかもなにもかも。

アルへの愛に溢れた部屋で、私は迷うことなくクローゼットを開けた。







(そうだわ、いくら嘘紡いでも…アルにだけ伝わる愛があるじゃない)






私は一着のドレスを取り出した。















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