嫌な予感しか当たらない
とうとう最悪を知らせる手紙がエミリアの元へと届けられた。
手厚く封をされた手紙には王族主催の夜会の招待状。
このような時期に一体なんのための夜会なのかも書いていない。表向きは交流のためとあるが、もしかしたら王女殿下の婚約を発表するのではないかとエミリアは思った。
それだけならまだいい。
しかし、招待状は二通あり、一方は父に、そしてもう一方は私が名指しで招待されていたのだ。
突然のことに背筋が凍る思いだった。
(やはり殿下は私とアルのことをお知りになったのでは…)
いくら結果論として関係ないと言っても十年の間仮初めの婚約者出会ったのは、事実。
リンとランの話が本当ならば殿下はエミリアたちが会うことにも怒ってらっしゃる。
エミリアを呼び出されたのは最終警告なのではないかと推察した。
ため息を一つこぼし、椅子に腰掛けもう一度招待状を見返そうした所一枚のカードがひらりとエミリアの足元へと落ちた。
なんだろうと拾い上げ、エミリアはとうとう確信する。
(やはり殿下はそのおつもりなのね…)
無地ながらも質のいいカードには『十時、会場前にて。迎えを送る。』とあった。
まさかこのような形で呼び出されるとは思わなかったが、なるほど、これならエミリアに直接渡る。
エミリアはアルの顔を思い浮かべた。
小さな頃からアルは私の王子様だった。
おとぎ話に出てくる王子様ほど明るくはないけれど、包み込むような優しさを持った男の子。
照れた時には耳を赤くする。
表情はあまり変わらないのにすぐにわかってしまう所が可愛くて好きだった。
『キスしていい?』
彼の真剣な瞳と子供の頃と違う低く落ち着いた声を思い出す。
今思えばあの時キスのひとつでもすればよかったと思わなくもない。
思い出はたくさんあるけれど、いつも私は今ひとつ素直になれていなかった。
こんなことになるならもっと素直で可愛い女の子でいれればよかったのに。
(今更、なにもかも遅いけれどね)
今度こそ、お別れだろう。
アルとは今後一切関わらないと姫様に誓いを立てて許していただこう。なんなら今後夜会に出席しないと約束したっていい。
私のせいでアルの将来やアルの家に迷惑をかけたくない。
むしろ、こんな秘密裏に警告してくださる姫様に感謝しなくては。
(わたしがきえて、アルを守れるなら…)
なんだってするわ、神様。