君と花
アルと出会ったのは5歳の時だった。
お母様たちに連れられていったお花畑のある丘で私は花の王冠を作りながら一人遊んでいた。
他の子達は皆お母様たちのいる木陰か、その隣にあった小川での遊びに興じている。
ひとつ、ふたつ。
これはわたしとお母様の分。
あとお父様の分とお兄様の分もつくろう。あ、お母様のおなかのなかにいる弟か妹にもつくってあげなくちゃ。
でもなんだかねむい。
少しばかり目をこすりごろんとしてしまったのがいけなかった。
わたしはすっかり眠りこけてしまったらしくそれを揺すって起こしに来てくれたのがアルフォンスだった。
うっすらと開けた目には陽に照らされた真っ黒な髪がさらりと揺れるのが見えた。
見覚えのない男の子をわたしはしばらく寝ぼけ眼に起き上がりもせずに見つめる。
「そろそろもどらないと。」
男の子が言った。
ほっぺをつん、と指で押してくる。
それがなんだかくすぐったくてわたしは笑った。そしてようやっとむくりと身体を半分起き上がらせたわたしは聞いた。
「なんていうの?」
主語もなにもない問いだが男の子は答えてくれた。
「アルフォンスだよ。きみは?」
「わたしはエミリア。おこしてくれてありがとう。」
にっこりと微笑むとアルフォンスは少しばかり照れたように俯いてわたしの頭をなでてきた。
父からも兄からも溺愛されていたわたしにはなでられることなど日常茶飯事なので特に何も思わないはずなのにアルフォンスの手はなんだかいつもと違ってどきりとしてしまう。
「こ、これあげる。」
わたしはどきどきをごまかすように立ち上がり握っていた王冠をひとつ彼に被せた。
「いいの?」
「うん、とくべつ。」
ほんとうはお母様の分だけど。
アルフォンスは王冠を手にとってまじまじと見た。
「ありがとう…じゃあお礼にこれをもらって。」
そう言って彼は近くにあった小さなピンクの可愛らしい花を一本手折り、器用な手先で何かをつくり、わたしの指にはめた。
「わぁ、かわいい!」
はしゃぐわたしにアルフォンスも笑う。
お礼をいわなきゃ!
しかし、そこでようやっと迎えにきた母に邪魔され、その日わたしたちはそれ以上話すこともなく帰ることに。
帰りの馬車の中、母は王冠と指輪を身につけた上機嫌なわたしに「お姫様みたいね」と微笑ましそうに言った。