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よっつめの話 8


 その後、一時限目から四時限目まで、教室にやってきた教員に対してそれぞれ担任にした質問とまったく同じ質問を行ったが、誰もが私が気を引くためにやっていると結論づけた。

 教員から似たような返事が返ってくる度に笑われることになったけれど、そこは気にならなかった。

 ここまで来るとむしろ、この学校にいる連中の民度がやばいなと、対応の悪さに呆れ返るばかりだった。

 もっとも、周囲の反応を全て受け流せるのかと言われればそんなわけもなく。なんとか我慢を重ねた先にやっと辿り着いた昼休み――だったわけだけれど。

 そこでもまたひと波乱生まれそうな事態が発生した。

 なんとタイミングが悪いことか、今日この日に恭二が教室に来てしまったのだ。

 綾子が卒業した後でもたまに、恭二はこうして私の居る教室にやってきては昼食を一緒に摂ろうと誘いに来ることがあった。

 それ自体は構わない。むしろ有り難いことですらある。

 しかし、今日はまずかった。

 恭二は教室に来て私の机を見るなり、表情を激変させたが。

「――おい茜、その机はどうしたんだ」

 感情のまま叫ぶことはなく、爆発しそうな気持ちを抑えつけているような、そんな声音で、恭二は私に声をかけてきた。

 私はそんな彼を見て少しだけ笑った後で、ポケットに入れた携帯を取り出さないまま操作し、朝の空き時間に作成したメールを送信してから言う。

「気にするな。この教室では誰も気にしていないことだ」

「それがおかしいんだろうが!」

 私の言葉を聞いて我慢の限界が来たのか、彼が叫ぶようにそう応じると、周囲がしんと静まり返る。

 そしてそのまま沈黙が降りた教室内に、小さく、低い振動音が鳴り響いた。

 これの音源がどこにあるのか、それがすぐにわかったのは私だけだろう。

 だから言う。

「携帯。君のが鳴ってるんじゃないのか?」

「今はそれどころじゃな――」

 彼は食い下がるように口を開こうとしたが、それを視線で制してから続ける。

「いいから、携帯を見ろ。緊急の連絡かもしれないだろうが」

 彼はこちらの視線を受けて口はつぐんだものの、それでも何かを言おうとしていたが――やがて諦めたように、気持ちを吐き出すように大きく息を吐いた後で、言われた通りに携帯を取り出した。続く動きで画面を確認すると、何かを確かめるように私と携帯の間で視線を何度も往復させ始めた。

 そのまましばらく黙り込んでいたが、

「……っ、茜、わりぃ、ちょっと別件で用事ができた。

 昼飯はまた今度、一緒に食べようぜ」

 彼はどこかぎこちない表情を浮かべながらそう言うと、こちらに背を向けて教室の外へと歩き出した。

  私はその背中に向けて口を開く。

「ああ、その時は是非誘ってくれ。――あと、心配してくれてありがとう」

 彼はそんな私の言葉には返事をせず、苛立たしげに足音を立てながらこの教室から出ていった。

 ……悪いことをしたかな。

 恭二が確認したメールの発信元は、私の携帯だ。

 文面は次の通りである。


『恭二、このメールの文面は誰にも見せるな。

 そして、余計なことを言わずにこの教室から外に出て行け。

 何も聞くな。何も言うな。

 これは私の問題だ。君を巻き込むわけにはいかない。

 私は大丈夫だ。この騒動に決着がついたら、必ずまた連絡する。

 だから、それまでは絶対にこの教室へは来るな』


 今回のことの遠因は確かに恭二にもあるのかもしれないが、恭二本人には全く非のない出来事である。

 それに、友人と呼べる数少ない人間を、こんなクソみたいな出来事に関わらせたくないと思うのは当然のことだろう。

 本当なら、昨日協力をお願いした斉藤さんにだって話を持っていきたくはなかったのだ。

 ただ、私に新聞に近い記事を書くスキルは無かったから――だからどうしても、彼女には協力を仰がざるを得なかった。

 ……言い訳かなぁ。

 彼女には今度、機会を見てきちんとお礼をしなければならないなと、そんなことを考えながら、次第に音が戻っていく教室の中で溜め息を吐くのだった。




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