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よっつめの話 7


 翌日、平日は火曜日。

 私はいつも通りの時間に登校した。

 しかし、どうやら私の学校での生活はいつも通りとはいかなかったようだった。

「……早速やったのか」

 教室に入って自分の机を見た後で、溜め息とともにそんな言葉が口から漏れる。

 昨日帰る前には何事もなかった私の席は、今朝になって酷い有様となっていた。

 もう少しだけ具体的に言うと、机の天板に胸中でさえ読み上げるのが嫌になるような悪罵が所狭しと書き込まれていたのだった。

 文字のかすれ具合などからすると、チョークで書き殴ったのだろうということは理解できたけれど――それ以上は認識するだけ無駄なので理解を放棄することにして。

 私は机の惨状から周囲へと視線を移す。

「…………」

 これが誰かの仕業であることに疑いの余地はない。よって、誰かがこれを書き上げる最中の姿を誰かしら目撃しているはずだが、未だにこの状態を解決するために動こうとしている誰かはいなかった。

 ……まぁ、当然と言えば当然か。

 仮に付き合いのある人間がいじめられる場合であっても、同様の被害に遭うことを避けるために容赦なく切り捨てるのが普通の人間だ。

 ましてや、私のように特別誰とも関わり合いになっていない人間がいじめの対象であれば、我関せず、遠巻きに眺めるか無視を決め込むといった対応になるのは当然のことといえる。

 とは言え、やはり頭で理解していることであっても、感情が納得できるかと言えば別の話だ。

 ……気にしないつもりではいたし、多少の覚悟はしていたけれど。

 実際に目にすると来るものがあるなと、そう考えてから――その思考を吐き捨てるように溜め息を吐いた。

「…………」

 思考を、気持ちを、切り替える。

 そして鞄を下ろした後でまず行うのは、状況の確認と保存だった。

 机と椅子の状態をよく確認する。いたずらをされているのは、机の天板だけのようだった。

 椅子に何か仕掛けられてはいるか、あるいは机の中にまで何かしらの被害が出ているのではないかと考えたからだったが、今日のところはそこまではしていなかったようだった。

 状況を確認したら、ポケットから携帯を取り出して、机の天板のアップ写真、斜めから机の状態を見た場合の写真をそれぞれ撮影しておく。

 写真映りを確認して、状況が確認できる資料であると判断してから、携帯をポケットにしまう。

 それらの作業を終わらせた後は、現状でできることは何もないので、大人しく椅子に座って授業を受ける準備を始める。

 鞄から一時限目に使う教科書類のみを取り出して机に入れると、事前に用意しておいたチェーンと南京錠を二個取り出した。

 チェーンは机の横にある金具のフックに巻きつけた後で、鞄の持ち手に巻いて南京錠で留める。また、鞄の開閉口にあるチャックの金具に南京錠を通してそちらも留めた。

 なぜそんなことをするのかと言うと、それは当然、物を盗られたり、移動させたりされないようにするためだ。

 正直なところを言えば面倒くさいことこの上ないのだが、こういう対策というのは少しおおげさなくらいの対応でちょうどいい。

 もっとも、起こって欲しくない嫌な出来事が起こらなくなることに期待しているわけではなく、ここまでやってダメなら何をやってもダメだと、自分で自分を納得させやすいからでしかないのだけれど。それはさておき。

「…………」

 周囲の様子にはもはや興味も湧かない。近づいてくる人影には一応注意をしているが、それ以上の気配りをするつもりもない。

 状況を整理するために机を見る。

 そこには悪罵が書いてある。

 この状態になったのがいつからなのか、今はわからない。しかし、この状態を見た上で無関係を装うのであれば、それはたとえ実行犯でなかったとしても私の敵である。

 敵としての認定は、大人であっても子どもであっても判断基準は変わらない。それは、年齢によって分けられるものではなく、彼らが選択する行動によってのみ決められるものだからだ。

 椅子に座ってしばらくしてから、入れ忘れていたICレコーダーのスイッチを入れた。

 朝のHRが始まるまで、まだ少し時間があったので、

 ……一応、準備しておくか。

 時間を潰すついでとして、メールを一件作成しておくことにした。本文を作成し、送り先を設定して、いつでも送付できる状態にしてから携帯をしまう。

 ほどなくして、教員が教室にやってきてHRが始まった。

 起立、礼、着席の三個一式の挨拶が終わった後で、私は座らずに立ったまま、教員に尋ねてみる。

「教員、この机を見て何か言うことはありませんか」

 教員は少し間を置いて、私の問いに答えた。

「……いくら構って欲しいからと言って学校の備品にいたずらをするな、佐藤」

 教員の発した言葉を聞いて、私以外の生徒が笑い声をあげた。

 このクラスに所属する生徒のうち、何人が笑っていて、何人が顔を伏せているを数える必要はない。それらを窘める行動をせずに放置するのならば味方ではないのだから。

 周囲の反応を無視して、私は教員に向けて更に問いかける。

「教員、あなたはこれを私が行ったというのですね」

「……いいからさっさと座れ。くだらないことに時間を使わせるな!」

「……わかりました」

 そう応じてから、私は教員の言葉に従うように椅子に座った。

 くすくすと、周囲から嘲笑の響きが聞こえてくる。

 ……味方が誰も居ないというのは、やはり少し堪えるものがあるな。 

 そう考えて、胸の中心がほんの少し重くなる錯覚を覚えたけれど。

 私はそんな弱気を、黙って奥歯を噛み締めることで押し殺した。



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