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よっつめの話 3


 想定外の出来事が起こったのは、放課後になってからだった。

 帰りのHRが終わってざわざわとした空気の中で。帰り支度を済ませた丁度その時に、それは起こった。

 まず、声をかけられた。

 佐藤さん、と呼びかけられて視線を動かすと、そこには女子生徒が四人ほど固まって立っていた。

 ……誰だっけ、この人たち。

 少し考えて、このクラスの女子ヒエラルキー上位のグループだったかな、と思い出す。

 すぐに思い出せなかったのは、普段関わり合う機会がなかったためである。

 全く自慢にもならないことではあるけれど、この中学校内において私の友人と呼べる人間は殆どいない。そして、その殆ど居ないがわずかに存在する友人は、このクラスに所属していなかった。

 加えて言うならば、私は自分に直接害がないのであれば、集団において自然に発生するだろう階層意識にも興味はない。

 要するに、私はこの教室ではぼっちであり、したがって彼女達が自分に興味を持つ理由について思い当たるものも無い、ということを言いたいわけなのだが。

「…………」

 彼女達の顔を見ると、その表情には明確な敵意の感情が浮かんでいて、なにやら物騒な雰囲気すら漂っているように見えた。

 それらの気配は、こちらが黙っている間も徐々に強まっている。

 ……まぁ、なんにせよ。このまま無言で居るのもまずいのか。

 そう考えてから、彼女達に向けて言う。

「何のご用でしょう?」

 こちらの問いかけに対する返答は、すぐに来た。

「ちょっと時間貸してよ。話があるんだけど」

 グループの中心――だったはず――に居る女子生徒からの言葉だった。

 ただ、問答としては成立していないなと、そう思う。

 私としては、彼女がしたいという話の内容について聞いたつもりだったのだが、その意図はどうやら伝わらなかったようである。

 とは言え、そのことには言及しない方がいいだろうとも思う。余計な刺激を与えるとどんな反応があるやらわかったものではない。

 それに、沈黙は金というしね。

 時と場合によるけれど。

「……まぁ、構いませんが」

「ついてきて」

 私の言葉にそう返すと、彼女は先立って歩き始めた。

 私も荷物を持って彼女についていく。

 彼女の取り巻きは、私の周りを囲うようについてきた。

 ……逃がさないようにしている?

 彼女達の行動を見てそう考えたものの、誘いに乗った時点で手遅れだった。

 ……命の心配までは、たぶんしなくていいとは思うのだけれど。

 そんなことを考えながら大人しく歩いていると、やがて体育館裏の、人気のないスペースに辿り着いた。

 そこに到着すると、彼女達は私を壁に追いやり、彼女の取り巻きが逃げ場を封じてから、呼び出し主である彼女が話を始める。

「佐藤、あんたさ――坂上くんとどういう関係なわけ?」

「坂上……?」

 聞いた覚えのある苗字ではあるが、彼女の用件に該当する相手というのはすぐに浮かんでこなかった。

 彼女の口ぶりからすると、その坂上とやらは私と親しい人間の誰か、なのだろう。そして、その該当者のことを坂上くんと呼んでいることから、それは男子生徒を指しているのだと推測できる。

 つまりそれは、この中学校に所属している男子生徒で私が親しくしている相手ということになるわけだが――と、そこまで考えたところで一人の名前が浮かんできた。だから確認するように聞いてみる。

「坂上くんというのは、恭二のことかな?」

「……っ、そうよ。彼のことよ。どういう関係なの?」

 私の問いかけに、彼女はわずかに表情に険を乗せて、苛立ったような声色で問いを重ねてきた。

 私には私の発言のどこが彼女のしゃくにさわっているのか検討もつかなかったけれど、問われたことに対してはこう答えるほかにない。

「どういう関係も何も、ただの友人ですが」

「なんで!」

「……友人関係になぜと問われても困るんですが」

「どういう関係か答えなさいって言ってるの! なんであんたが坂上くんとそんなに親しくなってんのよ! どうしてあんたなんかがっ、彼を呼び捨てにしてるの!?」

 ――何言ってんだこいつ。

 そう思ったのが顔に出たのか、彼女の表情が怒りで歪んだ。

 彼女の取り巻きたちは彼女と私の反応を見て、私に対してにやにやとした笑みを浮かべながら、ひそひそと会話を交わしている。調子に乗ってるよね、だとか、そんなことを言い合っているようだ。

 私がそちらに気をやっていると、ますます盛り上がっている彼女が勢いよく話し始める。

「生意気なのよ。地味な根暗のくせに、坂上くんと昼食一緒にしたりだとか。身の程を弁えたらどうなの!?」

 彼女はそう言って、私の胸倉を掴んで引き寄せた後で、思い切り突き飛ばしてくれた。

 背中が壁に当たる。ちょっとした痛みがあって、わずかに顔をしかめてしまった。

 彼女は私の表情が痛みで歪んだことでわずかに喜色を見せたが、すぐにまた怒りの表情へと戻して続ける。

「いい!? 彼はあんたなんかが近づいていい人じゃないのよ! 身の程を弁えて、これからは彼に近づかないようにしなさいよね! じゃないと、あんたが学校に来れなくなるようにしてあげるから!」

 そして彼女はそう言い捨てると、憤懣やるかたないと言った様子でこの場から離れていった。

 彼女の取り巻きたちは相変わらずにやにやと笑みを貼り付けたまま、

「言うこと聞かないとやばいよ~」

「〇×ちゃん怒らせると怖いんだから」

「まぁ居なくなったらなったで、誰も困らないんだから。――早く学校から消えれば?」

 などと言葉を残して、彼女に追従するようにこの場を離れて行った。

「……何なんだ、いったい」

 嵐のように、勝手に騒いで去っていった彼女達の姿が見えなくなったところで、溜め息を吐く。

 ……さて、どうしたものかな。

 本来であれば、今日は家にまっすぐ帰って、本でも読みながらのんびり過ごすつもりだったのだけど。

「先に準備をしておいた方がいいかもしれないなぁ」

 呟いて、これから降りかかるだろう面倒事を思って溜息を追加すると、私もこの場から移動することにした。



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