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みっつめの話 6


 しかしまぁ、これまで彼女が担当した人間とは違うと言われたところで、私は私だ。

 彼女がやけに神妙な顔でそんなことを言うものだから、場の雰囲気がちょっぴり湿っぽくなってしまった気がするけれど。

 かつて経験した命のやり取りが前提の真っ黒なだけの世界に比べれば、今のところは少し見慣れない景色が広がっているだけに過ぎないのだ。しかも、気持ちの持ちよう次第で死ぬことはないという保証つき。

 だったら別に、ことさら慌てる必要はないだろう。

 ……我ながら嫌な慣れ方をしているもんだ。

 そう考えながら実際に溜め息を吐いた後で、彼女に視線を向けてから言う。

「とりあえずは、他に確認したいことが出来たら、思いついたその都度に聞くとするよ。今はこれ以上思いつかないしね。

 ……しかし、これからどうしたもんかなぁ」

「どういう意味ですか?」

「そのままの意味だよ。ナビくんの話では、私は少なくとも三日はこの世界に居ることになるんだろう?

 三日という時間は長いじゃないか。何もしないで過ごせば、なおさらにね。だから、どうやって暇を潰そうかなって、そういう話」

 彼女はこちらの言葉を聞いて、しばらく思案するような時間を置いてから言葉を作る。

「……観光でもしますか?」

 なるほど、と彼女の言葉を聞いて思わず頷いた。

 観光というのは確かに良い案かもしれない。

 知らない場所、どころの話ではなく。今の私はまったく知らない世界に来ているのだから、そこにあるだろう異なる文化を味わうというのは、有意義な時間の使い方と言えるだろう。

「……?」

 ただ、そこまで考えてからひとつ疑問が浮かんできた。だから言う。

「……観光と聞いて、ひとつ聞きたいことを思いついた」

「何でしょう」

 この世界に来て、最初に居た建物から出て感じた印象を思い出す。

 ――私はこの世界の風景を見て、まずどこを思い浮かべた?

「今いるこの場所はどこの土地がベースになってるんだい?」

「ああ……ここは佐藤さんの住む日本がベースとなっている場所ですよ。

 他にも各海外の土地をベースにした場所があります。

 その間の行き来に、佐藤さんが最初に入った建物を使うんですよ。まぁ、あそこは着いたことを記録する場所であって、別な場所へ向かうための場所は違うところにあるんですけど」

 ……やっぱりそうだったかー。

 露骨に落胆してしまったことが彼女にも伝わってしまったのか。

 彼女は慌てた様子で、補足情報を付け足してきた。

「あ、あの。確かに佐藤さんが暮らしている周辺環境に近いかもしれないんですけど。

 でも、でもですね、別に、佐藤さんの暮らす現実世界と全く同じ地理関係になってるわけじゃないはずなんですよ?

 えっと、その――この世界は簡単に言うと、有名な場所の密集地のような形になってるんです。位置関係は地理関係を、ある程度踏襲しているらしいですが」

 そうやって必死に、全身を使うようにして説明を続ける――こちらの気分を回復させようとしてくれる彼女の姿を見て、私は思わず小さく笑ってしまった後で言う。

「ああ、わかった。それ以上の説明はいいよ。よくわかったから」

「そうですか? ――それなら、いいんですが」

 私の言葉を聞いて、彼女は身動きを止めて、ほっと安堵したような吐息を吐いた。

 ……まぁどちらにせよ、見える景色が違うことに変わりはないしな。

 そう考えてから、口を開く。

「じゃあ、とりあえず歩こうか。

 ……私は出不精でね。こういう機会でもなければ観光地になど行くこともないだろうし。良い機会だと思って観光を楽しむことにするよ」

「わかりました」

 そして、彼女の返事を聞いた後で、椅子から立ち上がって歩き出す。

 私の言葉に従ってか、彼女も私の後についてきたのだけれど――歩幅の関係か、彼女はすぐに私の横に並んできた。

 ……やっぱり体格の違いって大きいよね。

 そんな風に地味に悔しい思いをしていると。

 私の表情の変化に気づいたのか、窺うように彼女が尋ねてきた。

「どうかしましたか?」

「なんでもない、なんでもないんだよ、本当に……」

 まさか自分の背の低さに打ちひしがれていると言えるわけもなく、私はそう答えることしかできなかった。



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