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ふたつめの話 13


 もっとも、今日起こった出来事をそのまま全て彼女に伝えられるかと言われれば、勿論答えは否だったので。

 悪魔に連れ去られたこと、悪魔の王と呼ばれるものに会ったことは正直に話したけれど、彼らと交わしたやり取りについては、昨日の交渉内容を再度説明させられたことにしておいた。

 彼女達は人の命を救う側の人間だ。

 その救いの精神が死刑囚やそのほかにまで向いているのかどうかなんて、私にわかることではないけども。

 少なくとも、いい顔をされないことだけは間違いないのだ。

 たとえ、そうしなければ私が死ぬことになっていたとしても、である。

 それに、折角あの場から生きて帰ったというのに、この話題が彼女達の逆鱗に触れる形となって死ぬ羽目になっては元も子もない。

 ……いずれバレることかもしれないけどね。

 未来は未来、今は今。考えても仕方ないことは気にしないのが一番です。

 さて、とりあえず話に矛盾が生じないように考えながら話したけれど、彼女はどんな反応をするだろうか。

 そう思って視線を向けると。

 彼女は、信じられないといった顔をした上で、

「信じられない……」

 と実際に口にして、大きく溜息を吐いていた。

 ただ、その発言は私の話した内容が信じられないという意味ではなく、おそらくは、そんなことが本当に起こっていたのかという意味なのだろう。

 ……どこまで信じてもらえたかは、定かじゃないけれど。

 そのあたりは今気にしても仕方の無いことだろうと、考えないことにして。

 彼女のほうに視線を移す。

 視線の先に居る彼女はしばらく愕然とした様子で固まっていたけれど、やがて意気を取り直したのか、顔を上げてこちらに詰め寄ると、口を開く。

「どうして私を起こさなかったの!?」

「いや、起こすも何も、気付いたときには見えなくなってましたからね。どう頑張っても無理なもんは無理です」

「無理って、あなたね……」

 彼女はまだ言い足りないような様子ではあったけれど、これ以上不毛な会話に時間を費やすのは勿体無いなと考えて、まぁまぁと彼女を落ち着かせるために肩を軽く叩きつつ、ちょっとだけ距離をとって言う。

「……そんなことよりも。まずはお礼を言わせてください。

 私の腕を付け足してくれたの、アヤコさんですよね? 

 ありがとうございました。本当に、助かりました」

 急にお礼を言われて驚いたのか、彼女は顔を真っ赤にしたかと思えば私から距離を取るように後ずさって、視線をよそに向けながら答えた。

「と、当然のことをしたまでよ」

 彼女でも照れることはあるんだなぁ、と。なんとなく和んだ気持ちになって小さく笑ってしまった後で、言葉を続ける。

「あのときに私を見捨てなくて良かったでしょう?

 命の借りをきちんと返せてよかったと、そう思うことにしますよ」

「……今度は腕を作り直してあげたけどね、私」

「二人分で概ね勘定は合っているでしょう」

「……すごい神経してるわね、あなた」

「褒めても何も出ませんよ」

「褒めてないっ」

「そうですか。――まぁ、正直そのあたりはどうでもいいんですけど」

 私はそう言ってから、立ち上がって軽く伸びをする。

「とりあえず、気持ちの面でようやっと整理がついた気がしますね」

「……どういう意味?」

「私が死に掛けた件について、自分なりに全て終わった気分になったと、そういうことですよ」

「それは――」

 彼女が何かを言いかけたけれど、その言葉に被せるように私は言う。

「まぁ、単に気持ちの置き所が正しくなってすっきりしたと、そういうことですよ。

 ――ところで、そろそろ帰って休みたいんですけど。私の荷物の行方と、親にどう伝えておいたのかだけ、教えてもらってもいいですか?」

 そしてそんな風に笑って頼んだ私を見て、彼女は言いかけた言葉を飲み込んだような様子を見せた後で、代わりと言うように大きな溜息を吐いていた。


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