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ふたつめの話 2


 はーい、佐藤茜でーす。

 ……ああ、無理。テンション高い感じはホント無理だ。

 本日は平日。

 一週間の折り返し地点でもある、水曜日である。

 今朝は久しぶりにちょっと寝坊をしてしまって焦ってしまい、母の作ってくれた朝食を食べ損ねてから、家を出るハメになった。

 ……冷静に考えれば朝食を摂る時間くらいはあったというのにね。

 寝起きで頭がうまく回っていなかったということもあるし、いつもと違うことが起こるとつい焦って選択を誤ってしまうものではあるが、手痛い失敗であった。

 とりあえず、学校には遅刻せずに到着できたのだからそれで良しと、自分を納得させることしかできなかった。

「…………」

 しかし、学校というのは個人の都合を考えて動くものではない。

 決められたカリキュラムに則って、連絡や授業が実施されていくだけの場所だから当然だ。

 だから、朝食を抜いた影響で空腹感にしくしくと疼くお腹の感覚に耐えながら、午前の授業を受けることになったし。

 昼休みになって、母の持たせてくれた昼食を口にしたときの幸福感といったらもう、筆舌に尽くしがたいものがあったのは言うまでもなかった。

 そうやって空腹感を解消した後で、午後は満腹感と疲労感から来る睡魔に耐えながら授業をやり過ごすのは、いつものことではあったけれど。

 そして、最後に教員からのつまらない連絡を聞き流せば、放課後へと時間が移るというわけだ。

 放課後はカリキュラムが干渉しない、それぞれのための時間である。

 部活に行くやつは部活に行くし、遊びに行くやつは遊びに行くことだろう。

 私か?

 私は放課後になったら、図書室に行くことに決めていた。出された課題を片付けるのが主だが、予習や復習もそこでやるようにしていた。時間の有効活用というやつである。

 まぁ家だとつい遊んでしまうから思うように進まないので、仕方なくやっている面もあるけれど。

 ……勉強は真面目にやっとかないと後悔するって言われてるからね。

「……はぁ」

 ぶっちゃけ、遊ぶ友達があんまり居ないというだけの話でもあるのだが――考えるのはよそう。溜息しか出ないからね。

 さて、その目的地であるこの学校の図書室は、校舎内の一室として設けられている。

 この中学の校舎は、上から見るとアルファベットのHに横棒をひとつ足したような形になっている。二本ある横棒は、それぞれ特別教室のある棟と教室のある棟の両端が渡り廊下というわけだ。

 件の図書室は特別教室のある棟の三階にあった。

 対して私の教室は教室のある棟の二階中央部分にある。

 遠いと言えば遠いと表現できる距離ではあるけれど、言っても同じ校内だ。大した距離じゃあない。

 終礼が終わった後にのんびり行けば、すぐにつく程度の距離しかない。

 それでも、あえて問題をあげるとするならば、

「はぁ、はぁ……」

 階段を上がるのが少し辛いくらいだろうか。

 ……我が事ながら情けないね。運動不足のつもりはないんだけどなぁ。

 体育の授業も真面目に受けているというのに。

 なかなか努力は成果に結びつかないものである。

「…………」

 そんなこんなで図書室の前まで辿り着いたら、息を整えてから、図書室の扉を開ける。

 扉を開いてまず目に付くのは、カウンターに座っている司書さんだ。

 話をしたことはないが、最早顔見知りと言ってもいいと一人で思っていたりする。

 入学してからこっち、この図書室に通い続けているのだから、そう判断してしまうのも間違いではないはず。そのはず。

 ただ、会話をするかというそういうわけでもなく。

「……ども」

 会釈だけをしてから、図書室の隅にある、人目につかなそうな場所にある机に向かった。

 その後、鞄の中から勉強道具を取り出すと、まずは宿題の消化から始めることにした。

 今日の最初に取り掛かろうとした宿題は数学のもので――正直、一番苦手な科目である。

 ……つっても、基礎がわからないと後々困る科目だからなぁ。

 苦手だからと避けていては、それはずっと苦手なままなのだ。たとえ努力をしている時間に見合う成果が見えてこなくても、続けることでしか道は開けない。

 加えて、宿題の提出は成績に直結するものだ。やる以外の選択肢は選びようもない。

「…………」

 とは言え、今日は数学以外にも出ている宿題が多いのが辛いところである。

 いくつも授業を受けているのだから、そういう間が悪いとしか言いようが無いタイミングというのが出てくるのは仕方ないと理解しているけれど、苦手な科目の宿題が多い時に重なるのは精神的に結構くるものがある。

 しかも、数学の宿題は一問目から難題だ。こんなの習ったか!? と言い出したくなるほどに、解き方の糸口が見出せなくてイライラする。

 ……これは全部片付けるまでには相当な時間がかかりそうだ。

 なんて、これから費やすだろう時間の量を思ってうんざりして、思わず視線をノートから外してしまったけれど。

 頭と手を動かさなければ絶対に終わることはない、という事実も理解しているので、現実逃避はすぐに止める。シャーペンを持ち直し、視線をノートに戻す。

 そして、意を決するように吐息をひとつ吐いた後で、

「……今日はホント、いやなことが重なる日だよまったく」

 目の前の問題を解いていく作業を開始した。


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