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非日常よりの日常  作者: 御門九様
2/12

2.とある女の子と鳥と猫の邂逅

「状況を整理しよウ」

 あの後、猫の横柄な喋り方に少女が怒りケンカになり、その隙に逃げ出そうとした私は難なく掴まり、またケンカになり、何故、私が喋っているのか聞かれ、また意味もなくケンカしたりと、どうにも収集がつかなくなった。

 そこで私も、もう誤魔化すのは無理だと悟り自己紹介と状況説明となったわけだ。

「ワたしの名前はフォーミディブル。

 ナがい名前なのでフォルと呼んでくレ。私は次元鳥という種族デ、色々な世界を旅していル」

 猫が落ちてきた時一緒に倒された椅子を直し、その上に乗りながら私は説明する。

「色々な世界? この世界以外にもそんなのがあるの!?」

 同じく少女も倒れた椅子を直し埃を払って、座り興味津々で聞いている。

「アア、コの世界が唯一のものだと思うのは傲慢というものダ」

「なるほどねー」

「ソれで、君は何故、私を追ってきたんダ?」

「アタシ? アタシはそういう不可思議な現象を調べてるのよ。

 ちょっと事情があってねー。ちなみにアタシの名前はおおやすきっかよ」

「事情は人それぞれにあるだろうから詮索はしないガ……身近なところならば聞いてもいいのカ?」

「どうぞ、答えられる範囲ならね」

「フム、デは『おおやすきっか』とはどんな字を書くんダ?」

「うわっっと!」

 私の質問に、きっかはバランスを崩して転びそうになりながらも慌てて言い返してくる。

「どっ、どんな字でもいいでしょ!」

「モしかして……大安吉日と書くのカ?」

「っつ!」

 私の言葉に顔を真っ赤にするキッカ。

「タイアンキチジツとは何なのだ?」

 会話に参加せず、ビルにある物を興味深そうに見ていた猫は「大安吉日」という言葉に興味を持ったのか首を傾げながらそう問い掛けてきた。

「コの世界ですべてにおいて良い日のことダ」

「そっ、そうよ! 悪い!? フルネームは嫌いだけど、キッカっていう名前は気に入ってるのよ! 間違ってもフルネームで呼ばないでよね!」

 キッカは顔を真っ赤にしたまま口早に弁明を始める。

 この世界の名前のセンスはよくは判らないがキッカの様子から『大安吉日』とは恥ずかしい名前らしい。

「? 何を怒っておるのだ? 目出度い名前ではないか」

「なんか誉められているのに、その高圧的な喋り方がムカツクわ……。で? そういうアンタの名前は何なのよ?」

 複雑な表情をしながらもキッカは話を逸らすように猫に名前を聞く。

「名前か……思いだせんな。まぁ、名前などどうでもよいが、まったく以前の事を思い出せぬ」

「思い出せないって……記憶喪失ってやつ!?」

「厳密には記憶障害だがナ」

「……なんでそんな事知っているのよ」

「コの世界の知識は一通り勉強したからナ」

「外見オウムなのにカラスの鳴き真似したしたクセに……」

 ……誰にだって失敗はあるだろうにしつこい奴だ。それはともかく。

「ナにか思い出せないのか?」

「うむ、何か思い出そうとすると、何故かキッカより少し幼い少女の事を思い出すのだが……。う~む、気になる、何とか思い出せる方法はないのか!」

 もどかしそうに猫はそう叫ぶが、何か考えているのかキッカは反応しないので仕方なく私が相手をする。

「……フム、ナらばこの世界での奇妙な事件を調べればいいと思うガ?」

「奇妙な事件だと?」

「アア、ドこの世界にも私や猫、お前のような存在がいル。

ソんな奴等は得てしてこの世界での特技と同じ様に特殊な能力を持っている場合が多イ。

モしかしたらお前の記憶を呼び起こせる能力を持っている奴もいるかもしれン」

「ほう、なるほど。調べてみる価値はありそうだな」

 感心したかのように頷いている猫。

 だがその横のキッカはまだ何か考えているようだった。何となく嫌な予感を覚えながらキッカに聞いてみる。

「……トころでキッカ、サっきから静かだがどうしたんダ?」

「ん? うん、そうね! そこの猫! 名前を決めてあげるわ!」

 何を考えているかと思えば……。猫も不思議そうな顔でキッカに聞き返している。

「何故だ? 名前など何でもいいだろう?」

「よくないわよ! 名前っていうのは呼んでもらえるだけで元気になれるものなのよ。だから、私が決めてあげるわ!」

「別に決めていらぬ」

 素っ気無く断る猫。しかし、キッカも諦めない。

「決めてあげる」

「いらぬ!」

「決める!」

「いらぬ!!」

「決める!!」

切りがない。このままではさっきのケンカの二の舞になりそうだ。私が止めるしかないな……。

「ストップ!!」

「なんだ!」

「なによ!」

 しまった……。ケンカを止めるに集中していて何も考えていない。どうする……そうだ!

「エ~ト、トりあえズ、何でもよくて呼べる名前が必要ならば名無しというのはどうだろウ……?」

 我ながら思慮深い私の意見としてはお粗末だが、何も言わないよりはましだろう。当然キッカは反論してくるが

「いやよそんなの――」

「ソれに記憶が戻ればその名前で呼べばいいのだシ」

 素早く捲くし立ててなんとか納得させる。

「むっ、う~ん」

 落ち着いて考えれば、確かに猫が記憶障害で、いつ記憶が戻って本来の名前を思い出すか分からない以上、今あれこれ悩む意味もあまりない。

 それでもキッカはまだ悩んでいるようだが。当の本人は……外の景色なんか見ていてまったく興味なさそうだ。

「デ、猫よ、名無しという名前でどうダ?」

「ふむ、我輩はどんな名前でもいいが、やはり名前がないと呼ばれる時に不便だな。よかろう、我輩は名無しでよいぞ」

「キッカハ?」

「しょうがないわね。納得できないけど、一応名前はできた訳だし納得してあげるわ」

ブゥゥゥン、ブゥゥゥン

 一応の和解を経て一安心しているとどこからか低い振動音が聞こえてくる。

 その音にキッカは制服の胸のポケットから携帯電話を取り出し誰かと会話を始めた。それを見て名無しが私に問い掛けてくる。

「あれは何なのだ?」

「確か……この世界の通信手段ダ。ナかなか文明は発達しているようだナ」

「ほぅ! そんな便利な物があるのか」

 目を輝かして携帯電話を穴が空くほど見つめている名無し。

 ピッ

 話が終わったのかキッカは携帯をポケットに戻しこちらに振り返る。

「あっ、ごめん。ママからもう遅いから帰って来いって。いつの間にかそんな時間になっていたのね~」

 確かにキッカに追われていたのは八時ぐらいだったがもう十一時になっているようだ。

「ソうだナ、もう帰ったほうがいいだろウ」

「うん、あんた達はどうするの? ここに泊まるの?」

「ソうだナ、コこなら誰も来ないだろうからここに泊まるとするカ。名無しはどうすル?」

「我輩はもう疲れた。勝手に休ましてもらうぞ」

 まぁ、私の家でもないのだから構わないが。

「そう、んじゃ、また明日来るからそれまで勝手にどっかに行かないでね! それじゃあ、またね!」

 キッカはそんな勝手な口約束と共に去っていった。


 近くにある窓から空を眺める。

 空には満月に限りなく近い月が浮かんでいた。どうやら今日は満月のようだ。

 空から室内に目を向けると、疲れたと言っていたのに名無しの奴はいつの間にかどこかにいなくなっていた。

 月を見ながら今日、日付の上では昨日の事を思い出す。

 キッカと名無し、色々な世界を旅してきたが、あんなに長く他人と会話した事は初めての事だった。

 そもそも、総じて次元鳥は生まれて一年も経てば親元を離れ世界を旅する。

 その際、次元鳥は立ち寄った世界であくまで傍観者として知的好奇心を満たす。

 それは自分の世界でない以上、あまり干渉をしないようにという不文律があるからだった。

 だから私は干渉を最小限に押さえて一人で旅してきた。しかし、私は不文律を破っているにも関わらずキッカ達と話し困惑しながらも楽しんでいたと思う。

 過去にもそんな情景を見た事がある。それはこことはちがう世界で見かけた情景だ。

 本来一つの世界に留まらないはずの次元鳥がそこでは人と楽しげに暮らしていた。

 私も自分の知的好奇心が満たされる時は満足しているはずなのに、その次元鳥の笑顔は私とは随分違ったものに見えた。

 キッカと名無し、あの二人と共に行動すればあの次元鳥のような笑顔になれるのだろうか?

 もしなれるなら、あの二人に協力してみよう。

 そう思いながら眠りにつこうとして最後に空を見た時、一瞬空が光ったように見えた。


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