1.とある女の子と鳥と猫の遭遇
「ナんとも騒がしい世界ダ……」
とあるビルの屋上から街並みを見回す。
煌びやかで活気のある街、一般人ならばそう表現するだろうが……私に言わせれば、ただ、けばけばしく雑多なようにしか見えない。
私は嘆息しながら屋上から飛び立った。今、街の上空を飛んでいる私を目撃した人物がいるならば不審に思うことだろう。こんな夜中に鳥が飛んでいるのだから。
それにしても……やはり騒がしい……。街の中心街を見ていたがいまいち興味をそそられるものはない。
「フぅ……もう少し静かな所に行くカ」
私は目に付いた適当なビルとビルの間に降りた。降り立った場所は悪臭が漂っている。
悪臭の元はどうやら私の立っている青いバケツのようだ。
まったく、この世界にはろくな印象を持てない。やはり、さっさと次の世界に行くべきだろうか……?
「居たっ!」
そのように悩んでいると通りに面した方向から声が聞こえてきた。
そちらの方向を振り向くと少女が仁王立ちしている。確か、ポニーテールという髪型だったか、それにこの世界の学生服を着ている。
「怪しい……怪しいわ! こんな夜中に梟でもないのに鳥が飛んでるなんて……」
その程度ではそこまで露骨に不審には思わないと思うが……ともかく誤魔化しておいた方がいいだろう。
「カァー、カァー」
「成る程、カラスがゴミ漁ってただけか……って! そんなカラフルなカラスが居る訳ないでしょう! 明らかにオウムだし!」
……しまった。そういえば私はこの世界ではオウムに酷似しているのだった……。
興味がなかったからといって勉強不足だったの早計だったな。さて、掴まると面倒だし、ここは……逃げるか。
「あっ! 待ちなさい!」
私は五階建てのビルよりも高く飛び立つ。まさか、飛んで逃げる鳥を走って追いかけるほど馬鹿じゃないだろう……。
そう思い、下を見れば物凄い勢いで人をかき分け追いかけてくる少女の姿が見える。
「ま・ち・な・さ・い〜〜!」
正気か? ともかく、どこか隠れれる場所へ行かなければ……。ん、丁度いい、あそこにするか。
「ハァハァ、どこに行ったのよ〜。まったく〜」
……どうやら行ったようだ。一安心して改めて周りを見回すと、椅子や机が乱雑に倒れている。
どうやらここは廃棄され、そのままにされたビルのようだ。ふむ、ここならば今日の寝床にもなりそうだ。
羽を休めながら先程の事を考える。いったい先程の少女はなんだったんだろう。
わざわざ飛んでいる鳥を追い駆けるとなると何か事情があるのか、それとも、私を見世物にしたかったのか。
前者はともかく、後者をするほど頭が回るようには見えなかったが……。
キィィィィィィン
どこからか甲高い音が聞こえてきた……その音源は天井。
ウォォォォォォン
見上げると天井に直径四十センチメートルほど黒い穴が忽然と出現していた。
「アレハ……」
その黒い穴の中心から一匹の猫が今にも吐き出されようとしていた。
茫然とそれを見て、その現象に思い当たる。私にとっては馴染みのある現象。しかし、滅多なことで自然発生しない現象。
「コれはじ「いったい何の音――?」の穴――?」
何者かの声が背後から聞こえ、振り向くと部屋の入口に先程の少女が立っている。
「あーー! アンタ今喋ったでしょ……あ!」
少女がこちらに歩みながら問い掛けてくるが、途中で驚いた表情で私の上にある黒い穴を見ている。
……そういえばいつの間にか音が聞こえなくなったような気がする……。
強烈な悪い予感を感じ黒い穴を見上げてみると、いつの間にか黒い穴は小さくなり消えようとして、吐き出された猫は今にも落ちようとしている。
っつ!
その猫の落下地点はどう考えても私と少女のいる場所だった。
『落ちてくる!?』
ドンッ、ガッシャン、ガターン、ドガシャ
猫は私と少女を巻き込み、更に乱雑に並べられていた机や椅子を巻き込む。
暫く舞い上がった埃の中呻いていたが、三人とも……一人と二匹とも埃が落ち着くころに起き上がりだした。
「いった〜、何なのよいったい……コラー! そこの猫、いきなりなにすんのよ! ……って言っても分からないか」
その少女の言葉に反応したのか暫く目を回していた猫は立ち上がった。
短い足で器用にも二本足で立った猫は、こちらを向いてこうのたまった。
「うるさいぞ、小娘。で、ここは何処だ? それに我輩は誰なのだ?」