雪降る夜に
フリムン二作目の短編。
暖かい缶コーヒーを啜って、ほう、と吐いた息が白く染まり、長く伸びる。
部活終わり、皆と別れて一人歩くなか、寒さに耐えきれず買った缶コーヒーの温もりが、悴んだ指先にじんわりと熱を与えていく。
まぁどうせ、すぐに無くなるだろうが。
しばらく握って温くなった缶コーヒーを一気に飲み干し、そして、手袋を持ってくればよかったと後悔しながら、マフラーを口元まで引き上げて、上着のポケットに両手を突っ込む。
雪が降る。
しんしんと。
一歩歩く度に、アスファルトに絨毯の如く敷かれた雪がきゅ、きゅ、と独特な音を鳴らす。
もう一度、白い息を吐きながら空を見上げる。
陽はとっぷりとくれて、月も星も見えない曇天の夜空から、白い雪がゆっくりと落ちてくる。
もう一月も半ば。
そろそろ、故郷と大きく違うここの気候には慣れてきたけれど、それでもやはり、雪を見るのは好きだ。
遠く離れた故郷から出てきて早2年。
やりたいことがあって、ここの大学に進学した。
数学が苦手だから、大学では結構苦労してる。自分が進んだのは、理系だったから。
でも、この場所で学びたいことがあったから、ここを選んだ。
何度か、その意味を、目的を見失いかけた。
何度も挫折仕掛けた。
けれども、帰省する度に、頑張れと言ってくれる人達がいた。
この土地で、自分を抱き締めてくれる人が出来た。
やりたいことがある。夢見た道がある。
未だ朧気で、ハッキリとしたものじゃ無いけれど、確かに選択した未来がある。
下宿先のアパートの、門に手をかけると、ビックリするくらい冷たくて、結局手を使わずに器用に足で開けた。
自分の部屋の前に来て、鍵を差し込んだけど、余り経験の無い雪をもう見ないのが、なんだか名残惜しくて、結局そのまま外に佇む。
しんしんと、雪が降る。
先程飲んだコーヒーの温もりは既に消えて、指先が悴む。
五枚も重ねた上着を貫通して来る寒さに少し震えながら、それでも、街灯に照らされる雪が綺麗で、じっと見つめる。
今日もまた、課題で寝るのが遅くなるだろうし、明日も頑張らなきゃいけない。
要領の悪い自分は、こうでもしないとついていけないから。
苦しくて、逃げたくて、何もかもを投げ出したくなるけど、これが自分で選んだ道だから。
この道の先を、自分の意思で目指したから、だから頑張れる。
昔ながらの知り合いが誰もいないこの土地で、でも今は一人じゃなくて、友達がいて、恋人がいて。
俺はまだやれる。頑張れる。
「だから、頑張らなくちゃ」
そう呟いた言葉に合わせて、吐息が白くなる。
誰も聞いていないのにそう呟いたのが、なんだか気恥ずかしくなって、マフラーを引き上げる。
もっとも、誰かに聞かれてたらもっと恥ずかしいんだろうけど。
しんしんと、雪が降る。
歩く度にきゅ、きゅ、と音を鳴らして。
明日は積もるかな? 積もるといいな。
積雪はまだ見たことが無いから。
部屋に入ったらまずは風呂に入ろう。
それから暖かいものを飲んで、そこからだ。
頑張ろう。もっともっと。
そう、雪が降る夜に決意した。
学校行きたくないでござる(台無し)