異世界でアイドルプロデュース!? 後編
※ちょこちょこと修正しました。(28.7.8)
どうもこんにちは。
異世界に来てつくづくあちらの世界の便利さと裕福さを痛感している私こと、チトセです。
当たり前だけどこちらにはネットもないし、漫画もない。TVゲームもなければアニメも見れない。
生粋の二次元至上でアニオタの私には癒し成分が不足し過ぎてあちらの世界の恋しさが増すばかりだった。
けれど唯一、癒しとなるモノを私はこっちの世界に持ってきていた。
初バイト代の殆どを注ぎ込んで買った、スマートフォンだ。
ネットには繋がらないけど、ダウンロードしていた私のお宝動画や画像はネットに繋がなくても見る事が出来る。
けれど使えば使うだけ電池は消費するので充電器がないこちらでは電池が0になってしまえば唯一の癒し道具もただの鉄の塊になってしまうんだけど…ね。
一日でも長く使う為に使用時間や回数を制限していても電池は少しずつ消耗していく。
減っていく電池残量とのにらめっこで落ち込んだりしたけれど、奇跡は予期せぬ所から起きた。
それはスマホを眺めてしょぼくれていた時のことだった。
私の頭の上にいた精霊の一匹が突然スマホの上に着地して毛(?)の一本を触手の様に伸ばして充電器の差込口に差し込むと淡く発光したのだ。
あれ?もしかしてこれって…と思ってスマホの電源を入れると、充電中の表示になっていた。
まさか綿毛…いや精霊がスマホを充電出来る充電器にもなれるなんてと、調子のいい私はテンションを上げ感謝感激雨霰というように彼(性別は分からないけど)に感謝とキスの雨を降らしたのは言うまでもない。(…お陰でスマホに我先にと集まる綿毛集団が出来たけど。)
勿論与えられるだけというのは良心がチクチクと痛むのでグリスさんに精霊の好物をあげたいと尋ねたところ、彼らは魔力を糧とするらしいので私の傍に置いておくのが精霊も喜ぶし満足する1番の方法らしいので充電してくれる1匹を日替わりで連れ歩くことにした。
精霊収納用に作った胸ポケットはなかなかに好評のようで精霊たちは顔を出したり中で静かに寝いたり好きに過ごしているようだ。
最近は言葉が分からなくても何となく彼等の感情が伝わってくる。(…ような気がしている)
だから最近おや…?と思うことも出てきた。
件のラディウスさん達への彼らの態度だ。
ラディウスさん達といると確かに精霊は逃げる。
そして寄ってもこない。
でも胸ポケットの中の精霊は顔は出さずそわそわしてるけど私に怖がってる感情は伝わってこない。
だから怯えているわけでも嫌っているわけでないのかもしれないと思い始めたのだ。
じゃあ何故?と聞かれても答えはまだ分からないんだけど…。
まぁ精霊のおかげでスマホは使いたい放題になったので、私のスマホ内のお宝・大好きなアニメ【トキメキ☆プリンス様】(略してトキプリ)の動画も画像も見たい時に見る事ができ、癒されたい時に癒しを貰える様になった。
本当に精霊様々だ。
…が、欲求が満たされると人間というのは更に欲が出て次にやりたいことが出てくるそう言う生き物なのである。
それはあのリアルプリンスなイケメン集団の写真を家宝に加えること。
あっちの世界でだって出逢えない程のレベルの桁が違うイケメン集団だし、記念に1枚位欲しいと思うのも無理のないことだと思う。
でもこっそり盗撮するという勇気もない私は、直接撮影をお願いするために片手にスマホを、胸ポケットに精霊を入れ朝練中の彼等の訓練所に向かった。
まぁ訓練所と言っても屋敷の裏手の森なので屋敷の裏手から出ればすぐそこに広がっている。
自然の森ではあるもののちょっと強すぎる彼らのせいで所々木が無くなり広い平地になってしまっているので近くで野生の動物を見かけることは殆どないけど。
剣の交わる音がしない所を見ると今日は剣術じゃなくて体術の稽古中みたいで、丁度今カタル君とコールさんが組み合っているのが遠目に見えた。
そんな私にいち早く気付いたのはラディウスさんで近付く私に急ぎ足で歩み寄ってくる。
「おはよう、チトセ。今あちらに近付くのは危ない。こちらで話をしよう。」
「お、おはようございます、ラディウスさん!あ、えと…はい。」
さり気ない仕草で背中に手を回されてカタル君達から離れる様に誘導される。
チートな彼らは拳一つでも衝撃波を飛ばす。なので衝撃波と共に小石等が飛んできて危ないので見学には鉄壁のガードになる彼等の誰が常に傍にいてくれる事になっている。
今日はラディウスさんがそのガード兼お守り役になってくれるみたいだけど、、、、、何だかラディウスさんに抱きしめられたあの日から、ラディウスさんにこうしてさり気なく触れられることが多くなった気がする。
じ、自意識過剰ではないと思うけど、ラディウスさんは本来スキンシップの多い人なのかもしれない。
少し場所を移動した後も腰に添えられた手は微動だにしないままだし、まぁいやらしく撫でるわけでもなく家族の様に守る感じなので他意はないのだと思うけど、男の人に免疫が無さすぎて緊張してしまう。
「あ、あのラ、ラディウスさん記念に写真撮ってもいいですか!折角なので皆さんの勇姿というか素晴らしい御身を是非とも私のスマホに残したくて!決してやましいことに使うのではなく記念として家宝の様に大事に保管するためでして!い、嫌だったら全然全く断っていただいて構わないんですけどっ!」
「チトセ、落ち着け。緊張しなくて大丈夫だ。だからゆっくりとでいい。説明してくれ。」
緊張で早口になる私を落ち着かせるように両肩に手を置きポンポンと撫でるように叩くラディウスさん。
私も落ち着く様に大きく深呼吸して落ち着いて来たのを見計らうとラディウスさんにもう大丈夫ですと言う意味で笑いかけた。
するとラディウスさんも微笑んで頷き
「男として意識されるのは嬉しいができれば早く慣れてくれると有難いのだかなチトセ。」
私の頭のてっぺんに口付けるという爆弾を落とした。
「!??!」
おかげで再び落ち着いたはずの心臓が壊れそうな程騒ぎだしたのと羞恥で固まったのは言うまでもない。
「すまない、チトセ。反応が面白くてつい、な。」
私の反応に笑うラディウスさんにムッとしたけれどそれも笑うラディウスさん色気に見惚れてすぐに霧散してしまった。
最近どうしちゃったのラディウスさん!?と聞きたくなる位ラディウスさんの色気が増した気がして仕方が無い。
いや増えたというか…だだ漏れしているというのだろうか。
何か良いことでもあったのか…。いやもしかしたら熱があるのかもしれない。
昔40度近い熱を出した時の私のテンションもおかしかったからその類なのかも…?
いやいや全員の健康管理は毎朝晩アーシュさんによって(医師免許や薬剤師とかの免許も持ってるらしい)細かくチェック管理されているので体調不良だと強制的にベットに押し込まれてるはずだし…。(経験者は語る)
と言うことはやっぱり浮かれてしまう程いい事があったのかもしれない。わたしも此方でスマホが使いたい放題になった時の浮かれ様は凄かったし。
とりあえず私が落ち着く様に少し距離を空けてくれたので、私は緊張を解してからスマホを取り出し、写真を撮りたい旨を伝えた。
こちらでは存在しないものだからラディウスさんも興味津々のご様子だけど壊されては困るので(チートな怪力能力もお持ちなので)私が手に持ったまま色々と説明する。
まず写真とは何だということから始まり、最後はスマホの説明までわかる範囲で噛み砕いて話した。
けれどそんな話をしていると
「隊長だけチトセと遊ぶなんて狡いよー!僕だってムサイオッサンよりもチトセのがいいー!」
「誰がおっさんだ!コラァ!」
「僕よりずっと年上じゃんかー。」
「隊長だってそうだろうが!」
「隊長はいいの!だって隊長だしー!」
「意味がわからんわっ!」
カタル君とコールさんが(正しくいうとカタル君を追いかけてきたコールさんが)声をあげてこちらに走ってきて、その後ろからは2人を見ていたアーシュさんとアンヘルさんもこちらに歩いてやってくるのが見えた。
折角なので全員が集まった後、私はもう一度写真とスマホの事を説明した。
そして実際写真を撮って見せるとみんな驚きの声を上げた。
「うわっすげー!俺がもう一人いるぞ!」
これは被写体第一号のコールさん。興奮がすごかった。
「凄いですね。一瞬にして姿を写し取るとはチトセの世界の技術はなんと素晴らしい…。」
アーシュさんは研究好きらしくいろいろ聞かれて困ってしまった。
目を子供のように輝かせていたから研究魂を刺激してしまったかもしれない。
「ね、ね!次僕を写してよチトセ!僕も僕も!」
コールさんのを見て興奮したカタル君のお願いで今度はカタル君をパシャリ。
見せてあげるとコールさんと同じぐらいテンションをあげていた。
「チトセの世界の話を聞く度に思っていたけれど不思議なものが溢れているよね。
私も是非行ってみたいよ。さぞチトセに似た素敵な女性に溢れている世界なのだろうからね。」
写真の事より女性の事ですか…。流石アンヘルさんだ。
ただ、私に似たというより私より美人な人はいっぱいいるからと言うことはしっかり伝えておいた。
「それは素敵だね。それでもチトセ以上に私の心を揺さぶる女性はそうはいないだろうけど。」
そう一言付け加えウィンクして見せるアンヘルさんはやはり女心をよく分かってらっしゃるなぁと思う。口説き慣れててお世辞なんだろうけど悪い気はしない。
「俺も記念にチトセと写したものが欲しいが写したものは取り出せないのが残念だな。」
「隊長の言う通り取り出せるなら僕もチトセと写したのが欲しいなー。」
「そうですね。姿絵は仕上がりに時間がかかりますしチトセのシャシンというものが取り出せるなら私も部屋に大きく飾りたいです。」
「チトセの黒髪も綺麗だから部屋に飾っても映えるだろうな。」
「私は飾ってチトセの代わりに毎日キスを送りたいね。」
ラディウスさんの言葉から内容が変な方向に代わり出したので私はものすごく慌てた。
話の内容の軌道修正を謀ったのだけれど…
「いやいやいや私の平凡な姿なんて飾る価値ないですから!
もっと飾り映えのある女性なんていくらでもいますからっ!」
「飾りたいのがチトセなのだから仕方ない。」
「そうそう。チトセ以外の女なんて皆香水臭いし我が儘だし同じ空間とか正直耐えられないんだよねー。」
「見目が良くても中身が伴わなくては食指は動かない。料理と一緒ですね。」
「俺はチトセ以外別にどーでもいいな。元々女なんて弱っちいしギャーギャーうるせぇし。」
「私も遊ぶだけなら蛾でもいいんだけど替えの効かないチトセは別なんだよ?」
私を褒め殺したいのかという程褒めちぎってくれるから反応に困る。
みんなは家族の様に慕っている人物とモンドールさんみたいに信用に値する人物にはとことん甘い。
でもそうじゃないと別だ。
最近優しいだけじゃなく裏の顔もあるのだと知った。
私に向けられたものじゃないけれど絶対零度の目とかそれが私に向けられたら汚い言い方だけどちびっていたと思う。
彼等の環境に自分がいたらきっと病んだだろうなぁと思っていたから真面に育った彼らが正直凄いと思っていたけど、あれは取り消す。
彼等もちょっと病んでた。(多分…ちょっとだけだと思いたい。)
だから懷く私に甘いのだとも思うけど…
「そ、そうだー(棒)。実はこのスマホには他の機能もあって動画も見れるんだよー(棒)。」
強制的に話を変えるため、私はダウンロードしていたアニメ【トキメキ☆プリンス様】(略してトキプリ)のOPムービーを再生し全員の前にスマホを見せた。
流れ出る爽快な音楽。
スマホの中では5人のイケメンキャラが歌いながら踊っている。
これは歌と踊りに出会って人生が変わったアイドルの卵のイケメン達とそれを支えながら新人マネージャーとして奮闘する女性の乙女ゲーが元の大人気アニメなのだ。
「人形みたいなのが踊ってる…。何これ…。」
動画は終ってしまったけれど皆食い入る様に小さな画面をのぞき込んでいる。
気に入ったのかなと思い私はもう一度再生ボタンを押した。
「私の大好きなアニメなんだ。
アニメっていうのは…うーん絵本を動かして動く画像にするって事かな。」
「でも歌っていますよ?絵が歌うのですか?」
「それは声を人がつけてるんだよ。まるでその絵の人物が喋っているようにね。」
「チトセの世界はホントにすげーなぁ。」
「で、チトセのタイプはどの男なんだい?」
「私は真ん中の黒い髪の人。硬派で強くて歌も踊りも上手いんだー!」
何気なくそう言って笑った私の目には彼等の目が一瞬怪しく光ったなんて気付くこともなかった。
ただ、あれ?ちょっと空気が変わったような…?という位の薄い変化しか感じなかった。
だから動画が終わった後カタル君がすくりと立ち上がって私を真剣な目で見た時には驚いた。
しかも…
「僕この踊り覚えたよ!チトセ見てて!」
そんなことを急に言い出して少し距離をとって私の前に立つもんだから更に驚かされた。
急に何を言い出すのかと思ったけど驚きはまだ続く。
踊り出したカタル君は確かにトキプリのリーダー桐生隼人様(私の一押しキャラ)のダンスを完全にコピーしていたのだから。
2回しか見ていないのに完全コピーとか、ホントチート様だ。凄すぎる。
でも生で隼人様のダンスを見れるなんて思ってもなかったから、踊り終わったカタル君には手が痛くなるほどの拍手を惜しみなく贈った。
「凄い!凄いよカタル君!完全に隼人様だった!私なんて全然覚えられないのに!」
「そ、そんなことないよ。こんなの普通だし!」
照れながらこちらに戻ってくるカタル君とそれと入れ替わる様に立ち上がる残り4人。
「カタルの言う通り、こんなのちょろいぜ。」
「けれど少し違うね。まだお子様のカタルには分からないかもしれないから、直接教えてあげるよ。」
「そうですね。大事なのは“真似“ではなく、主張すべきは“自分自身”ですからね。」
「チトセ、もう一度それを流してくれ。」
彼らの言葉にむくれたカタル君が私の隣に座る。
なんだかやる気の満ちた4人に圧倒されて私は黙って動画の再生ボタンを再び押した。
流れ出すのは先程と同じトキプリのOP。
そして完全にダンスをコピーしているのはカタル君と同じ。
ただ、アーシュさんとアンヘルさん、ラディウスさんは自分の売り方をしっかり理解している。
自分が女性にどう見られどうすれば相手が柔軟な態度になるのかちゃんと知っているから自分の見せ方を心得ている。
今踊っているダンスはトキプリの物なのに彼らは完全に自分独自のダンスに進化させていた。
おそるべし年長組!その色気も半端ない。
「凄い!もう完全にアイドルだよ!お金取れるしファンが湧くレベルだよ!っていうかもう私がファン一号になるっ!」
ダンスを終え戻ってきた4人にも惜しみない拍手を贈る。
あれだけのダンスを踊っても汗一つかかず呼吸一つ乱さないのも素晴らしいです!
「容姿がこれだからね。チトセ以外のファンなんてつかないと思うよ。」
「魔力もないし、精霊にさえ好かれない私達だから大抵は奴隷ぐらいの価値しかないと思っているしね。」
「それなんですけど…私ちょっと違うんじゃないかと思うんですよね。」
アンヘルさんの言葉に私はずっと気になってることを試してみることにした。
今も胸ポケットの中で寝ているのか静かにしている精霊を取り出し、空いてる方の手で隣のカタル君の手を取る。
そして握ってる精霊をカタル君の手の中に乗せ、もう片方のカタル君の手もたぐり寄せて両手で精霊を包み込むような形にする。
カタル君の手の中の精霊は手の中で焦った時の私のようにわたわたしていたけれど、暫くすると少し大人しくなった。
精霊の見えない彼らには分からないだろう。みんな不思議な顔をしている。
そんなみんなの顔を見回してから私は口を開いた。
「ずっと気になってたの。精霊はみんなを避ける。
でも距離を空けるだけで怖いから逃げてるのとは違うようだった。
でも、今分かった気がする。」
よくよく考えれば精霊の反応には嫌でも見覚えがあった。
あれは私が、よくやる反応だから。
「…照れてる、んだと思う。反応が私と一緒だから。」
「「え…?」」
5人の声が重なる。何言ってるんだと言う反応だ。
私だって自分が何を言ってるんだとは思う。でもそうとしか思えない。
今もカタル君の手の中でモジモジしているが飛び出さない精霊の反応から嫌な感情は伝わらない。
でも5人の反応はやっぱり疑心に満ちている。
今の光景が見えていないからやっぱり信じられないという思いなのだろう。
だけどどうしたら信じてくれるのだろう。
彼らが今精霊を見れたらきっと信じてくれるのに。
『私の愛し子の言う通りそれらはただ、緊張しておるだけだ。』
私の背後から伸びてきた手が、カタル君の手の上の私の手に重ねられた。
黒いマニキュアを塗った様な黒い爪を持つ男。
それが今私の背後に寄り添う様にいる。
私はびくりと身を強ばらせたけど、その不審者の正体を見るべくそろりと振り返る。
けれど振り返ってみると驚きでぽかんと口が開いてしまった。
ただそれは私だけじゃなくて周りの皆も同じように驚いている。
「えっ…?ラ、ラディウスさん……のご兄弟…?」
私の後ろにいた黒い爪の持ち主はラディウスさんにそっくりだった。
でも彼はラディウスさんとは違い、この世界では絶対に存在しないと言われる私と同じ色を持っていた。
黒い髪に黒い瞳はあちらの世界では馴染みのある色だけど、こちらの世界の黒は闇の精霊しか持たないものらしい。
本当かどうかわからないけど、この世界が出来た時闇と光の精霊は精霊の愛し子以外への加護を拒んだのでこの世界には黒と金の色をもつ者はいないという話だった。
だからラディウスさんそっくりということもそうだが、黒を纏うその姿にも混乱した。
『いや、体はその名の物だが、私は全ての闇と死と眠りを司る精霊王ザラーム。
私の愛し子の為に馳せて参ったのだよ。』
ザラームと名乗る男は私を抱きしめるように片腕をするりと腹に回してきたので、私が更に身を強ばらせると今までぽかんとしていた4人もザラームと名乗る男に険しい目を向けた。
しかしザラームは余裕げに笑い、私の手に重ねていた手を離して、追い払うような仕草で手を軽く振った。
『“動くでない”。お前達は暫く黙って聞いておれ。
私も余り長居はできぬのだから愛し子との逢瀬ぐらい楽しませよ。』
ザラームの放ったその言葉通り4人は体の自由が効かないらしい。
目だけがそれを私に伝えてくる。
魔法を使ったのだろうか?でも魔法は彼らには効かないはずだ。
『彼らにただの魔法は効かぬが我らは特別だ。』
「…特別ってどういうこと…?…精霊王だからってことなの?」
『彼らを造り遣わしたのが我ら精霊王だからさ。我らがこの地へ降りるための器としてな。』
「?!貴方が造って…遣わした…?じゃあ魔力がないのも全て貴方が…?」
『生身で我らがこちらに降り立つと影響が強過ぎ世界を壊しかねないのだよ。
だから器に魔力はいらない。必要なのは封じること。だから何より頑丈に造り上げたのだ。』
「じゃあ彼らが生まれた意味は貴方の器としてだというの?」
『ほんのひと時、器を間借りするというだけだ。この世界の様子を見るために。
それ以外に干渉はしない。彼らは彼らの人生を好きに歩めばよい。』
「いやいやいや貴方の干渉のせいで彼らの人生ひん曲がってるからね!責任問題だから!責任とってよね!」
精霊王の器として誕生させられてたなんてそりゃチート能力あるはずだし、魔力が有る無しより普通の精霊もおいそれと寄りつけないはずだ。
ただその部分は納得するけど理不尽だ。
『それこそ人が勝手に決めつけたものだ。我等は皆平等に見守るだけ。
愛し子の様に特別に気をかける者はいても迫害はしない。
まぁ精霊を傷つける者でなければ、だが。』
ザラームの言葉に私は反論できず言葉を詰まらせた。
確かに魔力のあるなしで区別したのは人の方だ。綿毛の精霊も彼らを嫌ってるわけじゃない。
ザラームに全ての責任を押し付けるのは間違いだ。
私が押し黙ってしまうとザラームは慰めるように私の頭を撫でた。
『…彼らを精霊王の器だと宣伝し特別にするわけにはゆかぬ。
それ以外ならば愛し子の望みのままに。』
ザラームの方に視線を向けると優しく微笑む黒い瞳と目が合った。
ラディウスさんの体だけれど微笑み方が違うのでやっぱりラディウスさんとは違うのだと思わされる。
私はザラームの言葉を信じていくつかお願いしてみた。
迫害を無くすというのはすぐには難しいから彼らが普通の生活を出来るように、彼らの色と魔力を一般人ぐらいにしてと。
たが答えはノー。
自分以外の色のついた器には入りたくない。
器は魔力も0でなくてはならないの一点張り。
全く折れてくれなかった。
『だが、一時ならば可能だ。我が魔力で黒く染め上がる様に彼らは魔力で干渉される。
彼らが望めばどの様な魔力も受け容れることが可能だ。
精霊の王である我ら全てを受け容れることができる器だからな。
試しに愛し子の魔力を与えるといい。』
ザラームに手首をとられカタル君の額の上に移動させられる。
魔力を与えるのにコツは必要なく、要は受け取る側が受け入れるか否かだそうなのでカタル君次第みたいだ。
未だ抱きしめるように密着しているザラーム(外見はラディウスさん)のことは意識せず私は目の前のことに集中する。
「カタル君、やり方分かんないけど私の魔力を受け入れてね?」
とりあえずカタル君の方に魔力が流れるようなイメージを頭に浮かべる。
未だザラームさんの術中なので皆動けずにいるけれど後でちゃんと解いてもらうから、もうちょっとだけ我慢してもらおう。
こんな方法で魔力とやらが受け渡せているのかと思ったけどすぐに変化は現れた。
カタル君の白銀の髪の一部がまるで黒のメッシュを入れた様に染まったのだ。
『余り与えてはいけない。愛し子の魔力は甘美すぎて依存してしまう。
…もう手遅れかもしれないが。』
ザラームに再び手首を掴まれカタル君から離される。
それと同時に彼等の体の自由も戻ったらしい。
各々自分の体を見回したり手を動かしたりしている。
魔力の過剰摂取は体に悪いみたいな事をザラームが言っていたので私はカタル君に、変化ある?体大丈夫?と聞いてみた。
魔力に味もへったくれもないと思うけど副作用とかあったら大変だ。
まぁ私の魔力なんて染色機能ぐらいしかないかもしれないけど。
でもカタル君は自分の両手の中を見つめてぷるぷる震えている。
もしかして…悪影響が!?
「カ、カタル君…?だ、大丈夫?」
「チトセ…僕…見えるよ。この…ふわふわしたの…。精霊が…僕の手の中にいるの…見えるよ…!」
顔をくしゃくしゃに歪めているカタル君は今にも泣きそうな…というかもう目尻に泪が溜まっている顔をこちらに向けた。
どうやら体調が悪いのではなく初めて精霊を見て感動しているらしい。
嫌われていると思っていたものが大人しく手の中にいるのが嬉しくてたまらないみたいで泣きながら目を輝かせて手の中の精霊をなでている。
「チ、チトセ!お、俺にも!」
「わ、私もお願いします!」
「わ、私もお願いするよ!」
「えっ!?」
3方から伸びてきた手に両手を掴まれる。
切羽詰った表情に断れる雰囲気ではなくてカタル君と同じ様に3人に魔力が流れ込むようなイメージを浮かべる。
すると暫くしてカタル君と同じ様に彼等の髪にも変化があったその直後ザラームよって3人の手は弾かれる。
けれど3人はそんなことを気にすることも無くカタル君の周りに集まった。
そしてその手の中の綿毛(精霊)に目を奪われ夢中になっている。
「うわー!これが精霊か!」
「な、なんと可愛らしい…」
「い、癒しだ…」
すっかり精霊に夢中になって一匹を撫で回している4人は見たこともないデレ顔でデレている。
赤ちゃん言葉を使いだした頃には私はそっと4人から視線を逸らし見なかったことにした。
「…とりあえず皆喜んでいるようだからお礼を言っておくわ。」
『精霊の全ては愛し子に従う。それは絶対だ。』
「…どうして私が愛し子なの?私何にもしてないのに…」
『精霊は綺麗なものを好む。そして面白いものを愛する。チトセを選んだことにも意味が有る。』
「…それって私が変革を起こすと思っているから?」
『未来を見通す力はないがそれに似た予感は感じている。
だからチトセはチトセの思うように動けば良い。きっと人の作った理も変えられよう。』
ではまたなという簡単な言葉を残してザラームは黒い色と共にラディウスさんの中から去った。
その拍子にふらりとよろめくラディウスさんを慌てて支えたけど、真っ白に戻ったラディウスさんはザラームに乗っ取られていた間も意識はあったらしく、すぐにしっかりとした感覚を取り戻した。
それから未だに精霊に夢中な4人と同じ様に魔力をねだられたので、ラディウスさんにも同じ方法を施した。
ラディウスさんは4人の輪には加わらなかったけど、周りに飛んでる精霊の姿に目を輝かせていた。
魔力も無く精霊の加護さえない事に苦い思いをしてきたのだろうから、精霊と無邪気に楽しむ彼らの邪魔を私は出来なかった。
だから彼らの気が済むまでの間空気と化しながら私はザラームに言われた言葉を頭の中で反芻して考えていた。
彼等が落ち着いた後これからの事を全員で話し合った。
私の魔力を受け取れるなら他の人からだって魔力を受け入れられるんじゃない?ということで、試しに精霊に協力してもらった。
予想通りどんな魔力でも身に宿すことが出来た上に、赤色の精霊なら炎の、青色なら水の魔法をというようにその属性の魔法も使えることが分かり彼らのチートレベルは更に上がった。
精霊王の器という加護はとんでもないものなのでこれはいろいろと風潮して回らない方がいいと判断し、モンドールさんへの報告も私によって能力が開花したことにしておこうという事になった。
そして差別撤廃の為の民衆へのアプローチの方法も考えた。
彼らを物語にミュージカルを彼ら自身で演じる事で彼らを受け入れてもらうのだ。
娯楽の少ないこの地ならミュージカルもうけるのではないかとそう思って案を出すと、彼らも面白そうだと受け入れてくれた。
モンドールさんも大々的に宣伝する事を許可してくれたので細々した事は精霊達に協力をお願いしている。
そうして考えた演目は魔力なしの青年と精霊の愛し子とのラブストーリーで、これを精霊と精霊王達の力を借りて世界に拡散する事にした。
皆が仕事を終え食事をしたりして寛ぐ夜の7時ぐらいに、魔法で映画のように人々の前に上映するのだ。
世界の全ての人々に、少しばかり拒否できない強制で強引な方法でだけれど。
この世界には映像を記録するという魔法や物はないらしく、私はザラームにスマホの動画をみせ、こんな感じで映像を残せる魔法道具を所望した。
目的を達成出来たら使用しないので簡単でいいからと言ったのに、協力代として使用後は引き取ると拳ぐらいの宝石をくれた。
これに魔力を注げばカメラの様に写して動画を残せるらしい。(後からのカットや編集も可能という優れものだ)
そうして準備に準備を重ね、私達は動画を撮影編集し、それを世界に拡散した。
動画の始まりはまず精霊の愛し子である私の挨拶から。
少しの時間を頂く事を謝って少し昔話に付き合っていただくことをお願いする。
全体の語りは私で、物語を読むように進める。
これは古い古い忘れられた物語。
異世界から精霊の愛し子がやってくる。(これも一応私の役ね)
精霊の愛し子は精霊に好かれると同時に魔物にも狙われ易い。
魔物に襲われている愛し子を助けに入るのがこの世界で迫害を受ける魔力なし(この役はラディウスさん)。
愛し子は魔力なしの青年に恋をするが青年は自分の出生の為に受け入れない。
そんなある日愛し子が魔物に攫われてしまう。
王宮の騎士さえも太刀打ち出来ない程の強さで、魔力なしのチートな青年でさえ苦戦する程だった。
そこで精霊王達が現れ(←精霊王を宿したアンヘルさん達)魔力なしの青年に彼が愛し子専用の騎士として生まれたことを告げる。
愛し子の愛と魔力を受け取ることで青年は覚醒。
精霊達の力を借り強大な魔物(幻影で制作)を打ち破る。
そうして愛し子と青年は精霊に見守られ幸せに暮らしました。
めでたしめでたし。
…という内容だ。
もちろんミュージカルなので歌もある。
主にラディウスさんのだが、演技を忘れちゃうぐらいの美声だから私も演技中何度か聞き入ってしまたこともある程素晴らしい出来だった。
そうして物語が終われば再び締めの挨拶で出演者全員で名前を名乗りお礼を言う。
彼らに魔力はないけれど、魔力を注げば魔法は使えるしぶっちゃけ普通の人より凄いし、精霊達が彼らを避けるのは乙女心と一緒で極上のイケメンを前に恥ずかしがってるだけだという説明を入れ卑下するのではなくこれ程のパーフェクト男子はまずいないので兎に角愛でよう!と全国の乙女に通達した。
世界に拡散するのと同時に私達も自分達の動画を見ながら皆と次も何かしたいねぇなんて酒の席であーだこーだいいながらわいわい食事をしてその日は酔っ払って(こっちの世界の飲酒年齢は15歳だから飲酒OKらしい)寝たんだけど、次の日からの反響は凄かった。
城に多くの人(主に女性)が押しかけて大混乱になったとか、遠い地の王国からご招待が来たり、街を歩けば黄色い声が飛び交かった。
こういう光景をあちらの世界でも良く見ていたし、実際私もトキプリのイベントでラブコールを叫んでいた一人なのでファン心理も理解している。
こちらもあちらも乙女は同じなのだと思いながら、過激なファンもいるので私はマネージャーのように握手会以外のお触り無しですからねーとファン捌きもしている。
アイドルのような生活に一変してしまった彼らも初めは戸惑っていてけれど、最近は慣れてきて笑顔でかわす技も身につけてきた。
魔物の討伐などの仕事は変わらないけれど、空いた時間はミュージカルの練習をしている。
ラディウスさんが主役だったあのミュージカルの主役を自分もしたいという彼等の意向でだ。
最初はラディウスさんの役を別の人が演じるという役者だけの交代で練習をしていた。
誰に見せる為でもなかったけれど折角やるなら劇場でやってみようよということで、劇場を借りたらチケットは直ぐに売り切れた。
もっと見たいというお声をいただくものの、ミュージカルは練習に時間も取られるのでそうそうやってられない。(主に私が)
ということで考えたのが、ライブ、だ。
歌なら私も役者として借り出されないし、チートな彼らはすぐ歌と踊りもコピーしてくれるからこっちなら月一開催もできそうだったのでライブを開くことにしたのだけど、こっちのチケットも直ぐに完売が相次ぐ事になった。
いや、予想以上に凄いよね、彼らのカリスマ性は。
あっちの世界ならアイドルとして生きるために生まれたと絶賛されてると思う。
まぁ、騎士なのにそんなチャラい活動してといちゃもんをつけてくる騎士もいたけれど、そこは精霊が楽しいことを望んでるんだから仕方ないと私が言い返すようにしている。
愛し子というレッテルはいろんな場所で無罪放免だから相手も黙るしかないのでとても便利である。(悪用はしないけど)
だからと言って何時までも彼らにアイドルをさせる気もない。
アイドルだって引退するし、彼等が嫌だと言ったら辞めたらいいと思っている。
だってもう彼らを魔力なしだと馬鹿にする人は殆ど居なくなったし、目的としてはとりあえず達成出来たしね。
それを彼らにも言ったんだけど…
「チトセの一番好きなアイドルは?」
「え?前に言わなかったっけ?トキプリの…」
「聞いた!聞いたよ!それは!そうじゃなくて僕たちは!?」
「チトセの傍にいられる私達の方がいいのでは?」
「触り放題だしね?」
「いやいやいや。私痴女じゃないから見てるだけでいいからむしろ遠くから眺めるのが生きがいだから。」
「僕たちはチトセだけのアイドルだよ!」
「チトセの一番になるまではアイドルは辞められないよ。」
どうやら私の崇拝するトキプリに対抗意識を燃やしているようで、彼等のアイドル活動はまだ終わらないみたいだ。
けれど私もひとつ彼らに言わなければいけないことがあった。
とても言いにくい事ではあったんだけれど、私もあちらの世界に未練がある。
一度だけでも帰りたいとこっそり遊びに来ていたザラーム(体はラディウスさん)に漏らしたら、帰ることが願いなら叶えられるって簡単に言われたのだ。
「そりゃ私は皆を応援するよ。ファン一号だし!
ただ少しだけ私……お暇を頂いてもいい…かな?ちょっと自分の世界に帰りたいかなぁ…なんて。」
あまり深刻な発言にならないように半笑いで言ったんだけど、直ぐに空気が重苦しくなった。
みんなの顔から笑顔というか表情がすとんと消えたことに加え、
「帰るって…僕らを捨てて?ダメだよそんなの。絶対許さない。」
「…教育が必要なのかな。この手から逃げてしまうなら私達無しではいられない体にしてしまおうか…。」
「貴方の体を痛めつけず自由を奪う薬なら幾つかありますしね。」
「チトセは帰れないよ。俺ら帰す気ないから。だから諦めたほうがいいって。」
「チトセには申し訳ないが、もう手遅れだ。俺達は幽閉してでもチトセは手放さない。」
今し方殺人でも犯してきたような雰囲気を纏った男5人の病んだ発言に、私は背筋がゾクリとして竦み上がった。
楽観的に私ってなんか凄く愛されてるぅ~♪とは全く喜べない。
16歳のまだ小娘(普段なら子供扱いすれば怒るけど、今は子供でいい。)に病んだ大人に囲まれるとか無理だ(イケメンだとしても)。それは2次元だけにして欲しい。
一生会えないわけじゃないし、すぐ遊びに来るよ??という言葉を付け足しても彼らの雰囲気が柔らかくなることもなく…我が身可愛さにチワワのようにぷるぷる震えた私が彼らに言えたことはただひとつ……。
「今日は忙しい中集まってくれてありがとー!」
「君達と暫く会えなくなるのは悲しいけれど、また直ぐに会えるから。」
「今日は特別な日ですからね。存分にご奉仕致します。」
「よっしゃー!今日は最後まで盛り上がっぞーっ!!」
舞台の上から叫ぶ彼らの声をかき消すぐらいの多くの黄色い歓声がライブ会場となった円形闘技場にこだます。
360度全ての席は満員。
大半が女性だが、野太い声も中には混じっているので、男性客もいる様だ。
精霊達のお陰で本日のライティングやスモーク、音響もバッチリだった。
そんな中リーダーであるラディウスさんが一歩前に出て片手を上げると、客席は静まり返った。
「本日のライブをもって我々は活動を一時休止する。短い間ではあったが声援と応援感謝する。
暫しの別れとなるが、この歌を心から捧げたいと思う。
次の再会まで、この歌が皆の心の支えとなるように…。
聞いてくれ。新曲《さよならは言わせない》。」
こちらの音楽楽団の演奏がラディウスさんの指パッチンの合図で始まる。
曲が始まるとラディウスさん達の華麗なダンスと歌声が響き歓声が上がる。
観客と同様に見入っていた私だったけれど、ライブ後の事を思うと気持ちは沈んだ。
あの後話し合いの末、全員が私と一緒に日本へ来ることになった。その事をザラームに話したらザラーム他精霊王も着いてくることになった。
精霊王がこの世界を放ったらかしにしていいのかと思ったけど、半分はこっちに置いていくらしい。(まるでアメーバの様に分裂するのかと思ったがそうではないらしい。)
全員を送るには自分達が着いていかないといけないと、ラディウスさん他全員に憑依した精霊王達が力説したが、私の世界はどうだろうとか何をしようかこそこそ話しているのを聞いたのであまり信用していない。ただ悔しいかな彼等がいないと私も日本に帰れないので黙って従うしかないのだ。
精霊の愛し子とか言われても、その愛されチート能力は綿毛の精霊と精霊王のみだし、精霊王の器な彼等には効かないのが残念だ。
…いやまぁ執着という愛されてる感はある。でも弱肉強食の階級的に私の方が下位の気がしてならない。…何故だろう。
何処で何を間違ってしまったのか…。
原因について考え込んでいた時、一際大きな歓声で私は現実へと引き戻された。
ライブが終わったらしく、惜しみ無い拍手と歓声で会場が包まれている。
スタッフ専用の通路口で暫く待っているとライブを終えた五人が戻ってきた。
一番に走ってやってきたのはカタル君で、そのまま飛び付かれた。その後も続々やってきた面々に抱きつかれながらお疲れ様と形式ばった労いの言葉をかける。
チートな彼らはライブ自体では汗をかかないので汗くさくはない。…けど心臓に悪いのは変わりない。
「これでやっとチトセの世界に行けるね!僕楽しみで仕方ないよ!」
「荷物も用意してるしさっさといこうぜ!」
「そうですね。こちらでやることも終わりましたしね。」
「チトセのご両親にも早く挨拶がしたいしねぇ?」
「チトセは何も心配しなくて良い。あちらに着いたら我々は仕事を探すし、精霊王様方は色々と良くしてくださると言っているからな。」
ニコニコ笑顔の5人に囲まれて私はとてつもなく不安だったけど「…ハイ」以外の返事は出来なかった。
そうして沢山の荷物を抱えた5人に囲まれて、私は我が家へと帰ってきた。
こちらで消えた日に戻ってきたようで、私の捜索願いが出ていないことに安心したけれど家に5人を連れ帰ったら弟と母は固まるほど驚いていた。
どう言い訳をしようかと思って考えていたのだけれど、そこは流石ラディウスさんの右腕の参謀役アーシュさん。
日本に勉強に来たこと、迷子になった自分達に親切にしてくれた私が日本を案内してくれると約束したことなどさらりと嘘を並び立て手土産を差し出しつつつホームステイまで取り付けていた。
そして父が帰ってくるまでには母も弟もすっかり彼等を受け入れ、帰って来た父もラディウスさん相手に日本の酒を酌み交わして打ち解けている。
母もアーシュさんとアンヘルさんに囲まれて料理を教えて至極笑顔でご満悦だし、弟もカタル君とコールさん相手にゲームを教えて楽しそうにしている。
予想外の展開だと頭を抱えながら独り蚊帳の外で彼等を眺めていたら、私の視線に気付いた彼等がにこりと微笑み返してくる。
けれどその微笑みが悪魔の微笑みに感じてしまう私は、ひきつった笑みしかうかばなかった。
やはりイケメンは決まった選択肢通りに行動するゲームの中の住人(二次元)が一番癒される。
リアルイケメンはもうお腹いっぱいだ。っていうか私には無理だ。スキルが無さすぎて扱えない。
後で腹黒くない笑顔を浮かべてくれるトキプリのプリンス達を思う存分プレイして癒されよう(現実逃避しよう)と私は強く心に誓ったのだった。
〈…end?〉
「え?ダメだよ。チトセ。」
「ここは〝完〟ではなく続くの間違いですよ。」
「では現代編で、また会おうね、チトセ。」
〈帰郷endはまだ続く〉
イケメンがイケメンではなくなりました。…あれ?
次のおまけで完の予定です。