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異世界でアイドルプロデュース!?前編

変態の方は放置でのリハビリ文。

前編後編で終了させる為、内容ぎゅと詰め込み凝縮しております。

さらっと流してお読みください。


※校正がゆるいので、間違いとかは気付いたらちょこちょこ直します。

※主人公の精神年齢を下げる為年齢も16歳に引き下げ、ちょこちょこ修正しました。(28.7.8)

 下校中私がうっかり階段を踏み外して落っこちた先は、死者が逝くあの世…ではなく、地球の常識とは全く異なる世界の森の中だった。


なにせ空には太陽が4つもあるし、森の木に茂る葉は毒々しい紫をしているし、明らかにここは地球じゃない。


 けれどこれが現実じゃなくて夢かもしれないと頬をつねってみても痛みはあったので私は寝ている訳でもなさそうで、 階段を踏み外した事で痛みと死を覚悟していた分、痛みもなく命もあるのは良かったけれど私の置かれている状況はあまりよろしくないようだ。


なにせドシンドシンと大きな足音を伴って現れた恐竜のような大きな生物に獲物認定(ロックオン)されていて、あの世の方に逝くのが遠ざかってはいなかったからだ。



「わ、私なんて肉もそんなに無いから美味しくなんてないと思うんだけどなぁ…」



私は性格上、焦ると早口になる上に思ってる事をポロッと口からこぼしてしまう。今も目の前の生き物に言葉は通じないだろうけれど恐怖から口が勝手に動いてしまう。


何とか目の前の恐竜っぽいものから逃げようとするけど恐怖で腰が抜けゆっくりと後退る事しか出来ない。


兎に角目だけは逸らしちゃ負けだと思った。

狩りをする生き物は逃げるものを追う習性があると聞いたことがあったので背中を見せて逃げるのは危険だと思ったのだ。


だからこの際制服の汚れなんて気にしてられない。命の方が断然大事だし。


けれど恐竜(仮)の視線は私に合わされたまま、私の希望空しく間合いを詰めてくる。そして大きく吼えたかと思ったら私にかぶり付こうと勢いよく迫ってきた。



「いやぁぁっっ!!」



 再び死と痛みを覚悟してぎゅっと目を閉じ身を硬く縮めた。


しかし近くで大きな物がどしんと落ちる衝撃はあったものの、いくら待ってもかぶりつかれる衝撃も痛みもやってはこなかった。


 もしかして奇跡的に助かった…?


恐る恐る目を開けると目の前には巨大な恐竜の顔があって息が止まりかけたけど、それと胴体は綺麗に2つに分かれていてもう動かなくなっていた。



「怪我はないか?」



 まるで空から舞い降りた天使かと見間違えそうになったけど、木の上にいたと思われる男性が私の目の前にストンと身軽な動作で着地した。

その登場の仕方とその姿はまさに物語の中のヒーローそのものだった。


木漏れ日を受けキラキラ輝く白銀の長い髪を後ろで一つに三つ編みし、同じく白と銀の装飾で飾られた騎士のような軍服を身に纏い、顔も彫刻品の様に恐ろしいほど整っているし、瞳も銀の宝玉のように美しい。


だからと言って中性的な容貌じゃなくて、しっかりとした野性味溢れる男性の色気が溢れ出ている。

しかも声すら低くて色気があるし、人の上に立つ立場の人間の様に貫禄というかオーラも感じられた。


 助けてくれたのもどうやらこの人のようで、この容姿にこの登場では一目惚れしない女性はいないんじゃないかと思う。そんな訳で私も胸をトキめかせながら彼をじっと見つめてしまっていたが、その人も驚いた様に私を見ていた。



「…黒髪…?……これが…あの…?いや、それよりも怪我はないか?」



 イケメンのお兄さんは私の前に膝をついて怪我がないか軽く見回した後私の顔を覗きこんだ。


けれど異性(イケメン)の顔がこんなに近くにあるという経験が無かった私は彼のその行動に顔を真っ赤にして焦りに焦ってしまった。



「わ、私階段から落ちそうになって落ちたと思ったらここにいてあわあわしてたら恐竜みたいな生き物が現れて驚きで腰が抜けて逃げれなくてでも死にたくなくて逃げなきゃと思ったんだけどでも恐竜が口を開けたらもうだめだ食べられると思ったらあなたが助けてくれてそれで…」



一気に捲し立てるように話たらイケメンのお兄さんは私を落ち着かせるように頭を撫でてくれた。



「…何となく理解した。だから落ちつけ。

腰が抜けて歩けないならすまないが抱えて連れてゆく。

ここはあれらの巣があり危険だからな。」



私を軽く片腕に抱えあげるイケメンお兄さんに私はブンブンと大きく頭を横に振った。



「す、すまないなんて私の方です!綺麗な服だって私のせいで汚してしまうし何なら私の方なんて役得ですし!まるで物語の王子様みたいな人に抱っこしてもらえるなんて生きてるうちに一度だってあるかも分からないしむしろ死んでも悔いない位ドキドキですし!」



私が焦ってペラペラと話す内容にお兄さんは軽く笑った。


…うん。笑うともっと色気が出てで私の心臓ががヤバイです。



「こんな髪の色の王子は流石にいないだろう。」

「髪の色なんて関係ないですよ!要はシュチュエーションです!登場の仕方です!正しくヒーローって感じで!でも綺麗な色ですね!神秘的で本当に物語の中に出てくる月の精霊みたい!」

「しゅち…?…よく分からないが、お前はこの世界の常識を知らないのだな…。」



 複雑そうに笑うお兄さんは私の顔をまじまじと見つめてくる。


どんなに見たって平凡な私の姿が変わるわけでもなく、むしろこっちがいたたたまれなくなってしまう。


 何とかその視線から逃れたくて私は落ちてた自分の通学鞄を指差した。



「あ、あのあれ私の荷物なんですけど一緒に持っていっても良いですか?一応大事なものも入っているんで持っていきたいんですっ。」



 お兄さんは頷いて快く私の鞄も拾い上げ私を抱えたまま忍者のように木の枝を足場に軽々と移動して行く。その間に私とお兄さんは軽く自己紹介をした。


 私は日野千歳と言う名前と16という年齢を、彼はラディウスと言う名前で(本当はもう少し長い名前だったけど覚えられなかった)年は27歳、此処には予言によって現れる精霊の愛し子を探し来たらしい。

そして偶然私がいてついでに保護してくれたらしい。


ラディウスさんの話はよくある物語の中の設定ぽかったけど、彼は魔力が無いので私がその精霊の愛し子かというのは判断出来ないらしく一度一緒に城まで来て欲しいとのことだった。


 私も一応自分の身の上を話した上、(精霊が見えないので可能性は低いと思い)私がその精霊の愛し子じゃなくても異世界で放り出されたら生きていけないので申し訳ないけど暫くの保護をお願いした。


 彼は考えるそぶりをしたけれど、しっかりとサポートするといってくれたのでとりあえず行く末については一先ず安心できそうだった。






それから暫くして森を抜けた先にラディウスさんと同じ服装をした男性達が待っていて、ラディウスさんの姿に気付くと姿勢を正して敬礼をした。

その態度からどうやらラディウスさんの部下らしい。



「成果はどうだ。」

「一通り森を駆けましたがそれらしきものは何も…。」

「こっちも成果はなしだったぜ、隊長。」

「魔物はうじゃうじゃいたけどね。」



 異世界には美形しかいないのだろうか…。


ラディウスさんと同じ白銀の髪をしたイケメンを前にぼんやりと意識を遠くに飛ばしていたら三人の目が此方に向いていた。


一人は物腰柔らかそうな執事系イケメン、そして活発そうな筋肉質の軍人系イケメンに、私と同い年位か少し若めの美少年系イケメンの凝視する視線が痛くて私はラディウスさんが目の前のイケメン集団と同じ生き物だということを忘れてすがり付いていた。



「ラディウス様…そちらの方が例の…?」

「いや、分からない。チトセ本人も違うのではないかと言っているが、城の神官長に見せないことには何とも言えんな。」

「黒髪なんて珍しい人間はいないだろうし間違いなさそうだけどな。」

「魔物の森の中で生きてたってことがまず奇跡だよ。加護持ちなんじゃないかな?」

「わ、私魔力とかないですよ!?地球のごくごく普通の会社員の娘だしラディウスさんが来なかったら今ごろ死んでたと思いますっ!精霊とか見えるわけでも……ぅわっ!」



 わたわたしながら喋っていた私の顔にぽよんと何かがぶつかって、ラディウスさんに抱えられてる私の足の上に落ちてきた。


 緑に淡く発光する球体にビックリしたけど不思議と怖い感じはしなかったのでそっとつかみ上げる。


 野球のボールより一回り大きいサイズの綿毛のような手触りのそれは手の中でふにふにと動いているので生き物……ではあるようだった。



「?これはこっちの世界の生き物ですか?…綿毛みたいだし植物の種…とか?

 何だか風で飛ばされて来たみたいだったし…」



 謎の生き物を差し出して聞いてみたけど何故か三人の目は謎の生物じゃなくて私の方を見て呆けたように口と目を開いて固まっていた。



「…え?」



 何事だと思ってラディウスさんを振り返り尋ねようとしたけれど、ラディウスさんも驚いた顔で私を見ていた。



「……えぇ?」



状況を理解できないでいる私にラディウスさんがぽそりと口を開いた。



「魔力のない俺達には見えないが、見えるものから聞いた話によると多分それが、精霊だ。」

「!?ええーっ?!」



 ラディウスさんの言葉に私は盛大に驚きの声を上げた。


だってよくある物語やゲームの世界では精霊と言えば人型だったり獣だったりと何かしらの形をしているから精霊はそういうものだと思い込んでいた分、こんなボールみたいな発光体がそれだとはとても思えなかったのだ。


 そしてよくよく回りを見渡せば、木の影や葉の影にこそこそ隠れるように緑以外の赤や青色の発光体も何匹かいるようだった。



「いやいや、違います違います!そんなもの私の世界にはいなかったので違いますよ!これは目の錯覚ですよきっと。死にそうな目にあったしちょっと疲れているんだと思います。いやもしかしたらこれ全部夢かもしれないし、うん寝ます!寝て起きればきっと笑い話ですみますよね。うん!最後にイケメンなラディウスさんを堪能して寝ますから!起こさないで下さい!」



 自分でも訳の分からないことを口にしながら私は手の中のものを投げ捨てて、ラディウスさんに引っ付く様にしてぎゅっと目をつぶった。


この時の私に乙女の恥じらいは無く混乱しかなかったので大胆な行動が出来たのだけど、後で思い返した時に自分の大胆すぎる行動に羞恥に身悶えた。


まぁ全て黒歴史として綺麗に葬りたいと思う。



「ラ、ラディウス様…」

「…良い。今はそっとしておいてやれ。見知らぬ世界で彼女も混乱しているのだろう。」



 ぽんぽんと優しく頭を撫でられる。

慰めるようなそんな仕草に次第と緊張の糸は解け私は知らぬ間に意識を手放してそのまま眠りついていた。













◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 




「…夢だと思いたかったのに…夢じゃなかった…。」



 余程疲れていたのか私は彼等の所属先(お城)に着くまでラディウスさんにしがみつく格好でがっつり熟睡していたらしい。


馬を結構な早さで走らせていたらしいけどそれでも起きなかった私をラディウスさん達は呆れているんじゃなかろうかと思ったけれど、生暖かい目で微笑まれただけだった。多分内心は図太い性格だと呆れられていたと思う。


 しかし恥をかいてまで休んだお陰で私はラディウスさんの手を煩わす事なく自分の足で歩いて行くことができたのは良かった。


イケメンに抱っこされたままの移動なんて小心者の私には周囲の視線に耐えられそうもないし。


 そう思っていたけれど周囲の視線を避けるように城の裏手から裏道のような所を通って城の中をいくものだからすれ違う人もいない。


 一体何処へ連れて行かれるのか不安に思い始めた頃に辿り着いたのは、神様を奉る神殿の様な造りの一室だった。


 天井の一部がガラス張りでそこから差し込む日差しは暖かく、室内の花壇に注がれている。


その周りにはふよふよと綿毛の様な精霊が浮いていたけど、私達が入室すると花の影に隠れてしまった。


けれど花の影から此方を窺うようにぴょこぴょこ顔(……何処に目があるとかは分からないけど)を覗かせている。


 それに気をとられていたので私はラディウスさん達が一人の男性の前で跪いて頭を下げていたことに気付くのが遅れた。



「陛下、精霊の愛し子と思われる少女をお連れ致しました。」

「ご本人は否定されており、私共にも判断つきませぬ故、陛下と神官長殿のご判断に一任したく存じます。」



 ラディウスさんの陛下という声でそちらに視線を向けると、威厳ある出で立ちのイケメンおじ様とその前に跪いているラディウスさん達とそこから少し離れた所にいる白いローブを着たまるでサ●タさんの様なお髭をお持ちのおじいさんが目に入った。


 偉い人を前に私はどうしたらいいのか分からなくておろおろしていると、陛下と呼ばれたそのイケメンおじ様が目元を緩めて私に微笑み、ラディウスさん方に楽にする様におっしゃってお髭のおじいさんと共に此方に歩み寄ってきた。



「ようこそ、精霊の愛し子様。私はこのアデート国国王モンドールと申します。

 さぞ混乱しておられる事と思われますが、我々が貴女様に危害を加える事は精霊に誓って一切ありませぬのでご安心召されよ。」

「えっと……あ、あの私は日野千歳です。

 わ、私自分が何故此処にいるのか分からなくて……そ、その精霊の愛し子と言われてもなんの事なのか……」

「チトセ様、私はこの国で神官をしているグリスと申します。

 この世界にとって精霊は何より尊ぶべき存在で、この度精霊王から愛し子を遣わすとのお告げを頂いたのです。

 愛し子とは全ての精霊に愛されし者、その加護を制限なく受ける者です。

 先程からこの部屋の精霊達が彼等が居ても逃げずに貴女に近付きたいとソワソワとしております。

 この様な事は初めてなのです。」

「???彼等が居ても??」



 そんな私の疑問の声に答えたのは、グリスさんではなくて



「それは俺達の事だ、チトセ。」



少し離れた所に控えていたラディウスさんだった。










この世界には魔力というものが存在していて、魔法が当たり前の様に使えるのが普通の事らしい。


大なり小なり皆魔力を持っていて属する属性ごとにこの世界の人々の髪の毛の色はバラバラで、例えば炎属性だと髪は赤だったり、水属性だと水色だというようにとてもカラフルなのだそうだ。


それはすなわち属性ごとの精霊の加護を受けているという証でもあって、色を持たないラディウスさん達は魔力も精霊の加護も持っていないらしい。


 こちらでは精霊を信仰している為、加護のないラディウスさん達の様な存在は忌むべき者だと思われてきたようだった。


勿論時代と共にその様な差別を無くすべく昔から改革を進めてはいるものの、精霊信仰の厚い者は未だに彼等を忌むべき存在の様に扱うらしい。特に歴史ある貴族には未だにそんな考えをする人が多いようだ。


 そしてそれは件の精霊も同じらしく、彼等が来ると姿を隠してしまうらしい。


物語の中の精霊の様に綺麗なものが好きだと思っていた精霊が、魔力が無いというだけでこんな世界の宝の様なイケメン集団を嫌うなんてと、私の中の精霊像はがらがらと崩れ落ちた。


 精霊が魔力がないだけで彼等を避ける生き物だというなら私だってそんな生き物は嫌だ。そんな精霊無視してやるっ。


 何故だか無性に対抗意識を燃やして、この時私は自分を愛して受け入れてくれる精霊よりも彼等と一緒に行動してやるという意欲に燃えていた。




まあそんなこんなで話は纏まり、私は自分の世界に帰りたいことを主張し、その方法が見つかるまでここにお世話になることになったんだけど、城で私の身柄を預かるという陛下の言葉に私はラディウスさんと一緒がいいと駄々をこねた。知らない人より少しは知ってる(名前位だけど)人と一緒の方が安心するから、と。


 ラディウスさんに迷惑をかけるのは申し訳ないと思ったけれど、私は一度こうだと決めたら考えを変えない頑固者なのでラディウスさんに折れてもらうしかなかった。


館には手伝いをしてくれる侍女がいないので城の方がいいとラディウスさんも説得してきたけれど、私はラディウスさんの腕にくっついて頑なに離れなかった。


 その結果私はラディウスさん達の暮らす寮のような館にお邪魔することになった。


そしてその道すがらラディウスさんの部下の方々とも自己紹介をし、執事系イケメンがアーシュさん、活発そうな筋肉質の軍人系イケメンがコールさん、それと私と同い年位か少し若めの美少年系イケメンがカタル君と言う名前だと分かった。


 ラディウスさん含む彼等は魔力はないけれど物理以外の魔法の全てが無効な上、身体能力がチート並らしく【白い悪魔】と言う名の特殊騎士部隊をしているらしい。


更に驚いたことにラディウスさんは王弟で(王位継承権は返還済みとのこと)先程のモンドールさんの弟にあたるらしい。


 色々驚きの情報を得た後、辿り着いたラディウスさん達の寮は城の裏手にひっそりと建っていて、そこで新たな隊員の一人アンヘルさんに会った。


見た目は遊び人の様なチャラチャラした感じだったけど、まぁ…出会って早々ナンパするような言葉をかけられたので中身もそう変わらないみたいだ。


 今日が彼の食事当番だった様で自己紹介を終えた後お風呂で身体を綺麗にしてから私も一緒にアンヘルさんの作ってくれた食事を共に頂いた。


そして食事中こちらの世界の事を聞いたり私の世界の話をして盛り上がった後、私は与えられた部屋で一人ベットに入った。


けれど一人になってしんと静まってしまうと途端に寂しさに襲われた。


 不安とホームシックで涙が溢れてくると、何処から入ってきたのか綿毛の様な精霊達が私にくっついて私自身が大きな綿毛の塊になった。


 彼らが慰める様にすり寄ってくるものだから、彼らを嫌うに嫌えそうになかった。元々動物は大好きな方だったから余計にだ。


 私はその中の一匹を捕まえて手の中でふにふにと揉む。



「……精霊て綺麗なものが好きなんじゃないの…?

 ラディウスさん達あんなに綺麗でいい人なのに……」



 だけど精霊の声は私には聞こえない。


愛し子だというなら声ぐらい聞こえてもいいと思うんだけど。


 そう思いながら私は精霊達に埋もれたまま静かに目を閉じた。












 それからの生活はラディウスさん達と殆ど一緒で、人間離れした超人的な訓練を見学したり、食事の用意を手伝ったり、お掃除を手伝ったり、時々訪ねてくるグラスさんと話をしたりという生活をしていた。


 強大な魔物が出ない限り彼等が出向く仕事もなく殆ど皆館で過ごす日々だった。


そんな毎日が続いて私が飽きているのではないかと気分転換の為にカタル君とアンヘルさんが街に連れていってくれたけど、街でも私の黒髪や彼等の注目度はひとしおでこの街の印象は余りよくなかった。


 あからさまではないけれど、魔力なしと言うのは街の中でもやはり好かれてはいないらしい。私の世界だと間違いなく引く手数多でモテ街道まっしぐらだろうなと思うのに本当に残念だ。


まぁあちらの世界だと私が彼らとこういう風に側で話す事なんて出来なかっただろうなとも思うけど。


 そんな訳で街に行くのは諦めて近場で気分転換を考える事にした。


暇を持て余しているのは彼等も同じ様で特に年の近いカタル君とは私の世界の遊びを教えて楽しんでいる。それにアンヘルさんやコールさんもたまに加わる。


基本的にラディウスさんとその秘書をしているようなアーシュさんは参加せず書類仕事をしながら此方を微笑ましく見ているというのが多い。


 そんな生活を1ヶ月程過ごして再びモンドールさんと面会の機会を作られた。


話したのは私の世界への帰還方法(過去にも精霊の愛し子が来たことがあるらしい)が過去にあったかを現在捜査中とのことと、私の近状を尋ねられたので私は皆に良くしてもらっていることをしっかり伝えておいた。


 後、なぜ精霊の愛し子が此方に呼ばれるのかを聞いたのだけれど、それは分からないらしく、ただ、精霊の愛し子が来た後は大きな変革があるらしい。


例えば大国の戦争が終結したとか、疫病が終結したとか私では無理そうな変革が昔はあったらしい。


でもそんな大それた事が出来る様な人間ではないので私には期待しないで下さいという事もしっかり伝えておいた。


 緊張する面会も終了し今日の晩御飯は何にしようと本日の食事担当ラディウスさんと話しながら城の廊下を歩いていると、一人の若い貴婦人(+付き人3名)と遭遇した。


 いかにも高飛車そうだと思ったら



「あら、陛下弟君のラディウス様ではございませんか。

 この様な神聖な場所で魔力なしの貴方様にご自由を許される陛下のご厚情、本当に感謝されることですわね。」



やはり性格の方も難ありだった。


 普段小心者の私でも彼女の言葉にはカチンときて、ラディウスさんが何も言い返さなかったというのも合わさって私がついケンカを買ってしまった。



「出会い頭にその言い方はないんじゃないですか。言論の自由が此処であったとしても許されることじゃありませんよ。」

「な、なんですのあなたは!貴女こそ失礼ではなくて!この私を誰だと思っているの!」



 私に言い返されるとは思ってなかったんだろう。

彼女は此方を睨んで更に言い返してくる。


どうやら身分が高い人なのだろうけれど、私に身分なんて関係ない。


そこは精霊に感謝したいと思う。



「偉ければ何を言ってもいいと?じゃあ言います。貴女の方が失礼です!無礼です!

 今すぐここにひれ伏せばいいのですっ!」

「なっ!?」



 私の不躾な言葉に彼女の護衛と付き人が彼女を庇う様に前に出て腰の剣に手をかけた。


それを見てラディウスさんも私を庇う様に前に出て彼等を睨み付ける。



「やめろ。彼女は精霊の愛し子。

此処で剣を抜けばそなた等を国家の反逆罪で捕らえる。

 彼女の身の安全は陛下より最重要任務で承っている。」



 ラディウスさんの言葉で彼等の顔色は一瞬で真っ青になる。


良い気味だと思いながら私は更に言葉を続けた。



「魔力なしを貶める考え、改めた方がいいですよ。魔力がなくてもラディウスさんの方が強いです。魔力があっても人として人を思いやる心がないなら魔力なし以下の人の屑です!それに私の世界では白は聖なる色なんです!結婚式に花嫁が着る色です!貴方色に染めて下さいっていう何色にも染まる素敵な色なんです!ラディウスさんは白でも白じゃなくても格好いいんです!人を見た目や環境で判断しないで下さい!精霊のバチが当たったってしりませんよ!」

「……っ!……ふんっ!精霊の愛し子だか何だか知りませんけれど、彼等が精霊に愛されていないことは昔より実証済み!この世界では精霊が全てなのです!精霊が愛さないものを誰が愛すというのです!」



 捨て台詞を吐き出して彼女は供を連れて足早に去っていた。


残された私は目の前の大きな背中を見つめながら悔しさで唇を噛んだ。



「私、魔力なんてない所から来たから魔力が大事なんて思いません。私みたいなのを困った顔をしながらでも放っておかないでくれる優しくて不器用なラディウスさんが大好きですっ。ラディウスさん達の良い所をしろうとしないで嫌う人は大嫌いですっ。」



 彼女の言葉が悔しくてちょっとでも私の気持ちが伝われば良いのにとラディウスさんの上着をきゅっと握ってそれを伝えたら突然視界が真っ白になった。


しかも苦しいと思ったらラディウスさんにぎゅっと抱き込まれていた。



「ラ、ラ、ラディウスさんっ!?」

「…すまない。暫く…このままで。」



 父以外の男性に抱き締められる経験が皆無だった私は真っ赤になって慌てふためいたけれど、動く気配のないラディウスさんに心無い言葉で心はやっぱり傷ついているんだなと思った。


異性だと思うと小心者の私の心臓が壊れるので傷ついた大きな獣だと自分に思い込ませながら、彼が落ち着くまで私はそっとその大きな背中を撫で続けた。

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