第五夜
こんな夢を見た。
直上に位置する巨大な火球が猛々しく光線を放射し続けている。
その烈しさは百億燭光、一億五千万キロメートル先から注がれる赤外線と紫外線が我が身を深奥からじりじりと灼いていく。
粟粒の如く体中に噴き出した汗が、麻を織った粗末な作業衣をしとどに濡らす。
首に巻いたぼろ切れが、その糸先から滴を垂らす。溶けだした私の命がぽつりぽつりと垂れていく。
しかし手にした反物を穢すことは許されぬ。このためだけに絹で織られたそれは、我々の生命よりも重い。
じわりじわりと命をすり減らす人間の脇では、木々だけが暴力的なまでの生命力を見せつける。
右へ左へ伸ばされたその腕は日光の幾ばくかを遮ったが、しかし天から降り地から湧く圧倒的な暑さは如何ともしようがなかった。
肺が押しつぶされるように苦しく、呼吸がどんどん荒くなっていく。
こめかみが脈を打ち、意識が時折遠ざかる。
拡声器から放たれるがなり声に、青葉繁れる斜面を上下左右に追い立てられる。空気に爪立てる笛の音が、辛うじて私に正気を保たせるのであった。
梢の合間からは、時計盤を戴いたえんじ色の塔が見えている。嗚呼懐かしき我が母校。
生木をへし折るような破裂音がして、腕に痛みが走った。焼け火箸でも押し付けられたかの如く熱い。
皮膚がすっぱりと裂け、割れた肉の奥からじんわりと血がにじみ出てくる。
顔を上げると、そこには怒り狂った監督の赤ら顔があった。
目にも眩しい黄色の狩衣、手には鞭持ちチイパッパ、口の端から泡を吹き、犬の如く吼えたてる。
浴びせられる罵声に背を向け、私は、しぶしぶ作業に戻ることにした。
染みひとつない真っ白な絹布が宙を舞う。
蒼空に筆で線引くようなそれを、男たちが木から木へと渡していくのだ。
そうして林冠が白く塗りつぶされていく。
三千年の 春にぞ山に あらまほしき
未だ見知らぬ 雪となむ言ふ
どこぞのやんごとなきご身分の方が、そんなことを言ったのだそうだ。
西暦三千年まであと十時間。作業を急がねばならぬ。
そうしてこの地が白く覆い尽くされたそのときには、名を失伝して久しいこの山に「きぬかけ山」とでも名付ければ良かろう、そう思った。