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魔剣から始まる物語  作者: ほにゅうるい
第一章 異世界の剣士の一年
9/45

008

彼が生きるために人では必要



 小熊の住処に戻るという案は破棄し、素直に家に帰った。あの様子だと、僕の気配は完全にキャッチされていて、逃げようとすれば追跡者のようにストーカーしてくるに違いない。大事なことだから2回言いました。


 はぁ~。


 とりあえず、早速アンデの食堂・デトラオンに戻った矢先にきつい一撃(拳骨)を貰った。ちょ! 話くらい聞いてくれよ!?


 しかも……凄く痛い。左手とわき腹に響く!!


「が!? がぅ!!」


 ……小熊が僕がやられたのを見てアンデに攻撃を繰り出そうとした。気持ちはありがたい。でも、なんとなくその攻撃がアンデに及ばないってのが感覚的に分かった。


「!!」


 アンデが小熊を鋭く睨みつけた。そして、直接目を合わせていなくても分かる殺気。……アンデ大人気ないぞ!! その殺気にやられた小熊は完全にガクブル状態になってしまった。可哀想。可哀想だが、どうにもしてやれない悲しさが……。今口を開けばまた殴られそう。


「てめぇ、5日も何してやがった」


 ? 5日?


「……へ? そんなに経ってる?」


「経ってるよ!!」


 えちょ!? ぐはぁっ!! あ、あ、頭がくわんくわんする。暴力は良くないね。暴力反対!!


 そんな僕の気持ちをぶつけるべく、アンデを睨みつけるけど、反してアンデはなぜか気持ち悪い目をしていた。世間一般的に言えば優しい瞳って感じだけど、普段のアンデを知っている僕から言わせれば気持ち悪い。本当に気持ち悪い。なんていうか、飴玉あげるよおいでおいで! っていうちゃちな手法で子供を誘拐しようとする大人みたいな気持ち悪さだ。


 しかし、これを告げてしまえば恐らく拳骨が僕の頭を強襲するに違いない。危機を回避するにもここは1つ、穏やかな反応で


「……無事で、何よりだよ」


 対応を、と思ったけど、アンデが急に変なことを言い出すものだから、反射的に


「うわ、気持ち悪い」


 と口に出てしまった。





 追加で3コンボいただきました本当にありがとうございました。……いやちょっと、垂直に振り下ろした拳骨が3発連続であたるってどういう技術!? もうアンデ拳で餅つき出来るよ!


「たく、人が心配していたってのに、この糞餓鬼は……」


 小僧から糞餓鬼にランクアップ! あまりの嬉しさに涙しながら痛みにもだえ苦しんでいると、僕の後に着いてきたアンデは小熊に近づいた。殺気にやられたときから変わらず、ずっとぶるぶる震えている。


「……非常食か?」


 そう呟くアンデに小熊はさらに震えだす。やめてあげてください。


「えー、と、友達だよ」


 なんて説明すればいいか迷いに迷ったが、友達っていうのが無難な気がした。


「ゴブリンに親を殺されちゃった、で、着いてきた」


 漠然とした説明だけど、アンデもあまり深い説明を求めていないような気もするので省略!


 アンデがずっと熊を観察しているけど、急に熊を観察している目が細くなる。


「……こいつは"幻獣"じゃないか」


 む、初めて聞く単語が出てきた。えっと、意味的には幻の獣ってとこだな。元の世界で言う幻獣ゲンジュウのことかな。有名なのはドラゴンとか、ユニコーンとかだね。


「この熊の額を見て見ろ。三日月のような模様が複数あるだろ? こんな模様がある熊はこの辺りには一種類しかいない。癒しの力を宿している幻獣だ。そして、この国の特別保護種だ」


 え、それって、許可無く狩猟したり、勝手に飼ったら罪になるって感じ?


「いや、……幻獣が人を選ぶ。だから、密猟は死罪だが、こいつが小僧を選んだなら、いいだろう」


「あ、なんだ。いいって、よかったよかった」


 俺は無事な右手で小熊をなでる。背が高いので頭をなでるのも一苦労。そんな僕を気遣ってか前足を下ろし、4足歩行状態に。


「がぅがぅ」


 ……今までずっと2本足で動いてたから気にならなかったけど、熊って本来移動は4足歩行だよね? この村に来るまでの道のり、ずっと僕を抱えて二足歩行で移動してたよな……? ま、まぁ、いいか。にしても小熊は完全にアンデを怖がっているようで、対角線上に必ず僕を挟んでいる。僕より少し体大きいんだから逆に守って欲しいくらいなんだけど。


 撫で終わると、すかさず前足をあげて、二足歩行状態になる。やっぱ元の世界の熊とは違うね。


「本当は人に懐くなんて有り得ないんだが……まぁいい、小僧と熊、てめぇら腹減ってるだろ、食ってけ」


「ま、待ってましたぁ!」「が? がぅ」


 久々に食べたアンデ飯は神の味がした。やっぱり、ザリガニモドキとは比べ物にならないおいしさだった。見た目は良くないけど。





「それでゴブリンはどこで出た」


「多分この辺とこの辺。帰りは戦ったから。処理されてなきゃ親熊の死体がこの辺りにあるはず」


 アンデが持ってきた国の保護域内の地図に指を指して場所を伝えた。地図にはいくつもの村と中心部に大きな町。それ以外に森や、川などが描写されていた。結構見やすい。だから、大まかだけどどの辺りで襲われたかがわかった。村とシャルルの町のちょうど中間辺りだ。


 アンデは僕が指差した場所に×印をつけると、腕を組んで唸った。


「……おかしい。首都の聖域の中のはずだ。この村からシャルルまでの内側に魔物が出るなんて本来有り得ない。いるだけでも魔物はダメージを受けるほどの区域だ。魔物が出たんだったら、聖域を構築する機関に異常が出たのかもしれん。いや、だが……」


 ……つまり、聖域ってシステムのある場所だから魔物が出ない。だけど、その聖域に異常があったから魔物が出たと。……聖域って何ですか?


「聖域? 機関って?」


「聖域は、聖域だぞ? ……機関については……そうだな、簡単に言うと、聖域を広域に展開する仕組みを構築している機関があるんだ。それで魔物を退けているんだが」


「……はぁ」


 聖域がなんだかわからないままだったけど、それがシャルルにあるから安全なはず。ってことか? でも、異常が出たからまずいってことね。


「噂は本当かもしれないな……」


 噂?


「実はな……お前がいない間にシャルルにある聖域を構築する機関の定期検査があってな。店に来る連中から聖域に異常はなかった、と話を聞いている」


 店に来る連中って、シュッテイマン達のことか? 僕がいない間ってことは、既にゴブリンが現れた後の出来事だ。なのに、異常はなかった。ということは、聖域の異常が原因ではないってことか?


「なら、何が原因なんだ?」


「小僧以外にも、聖域圏内で魔物に出くわしたという報告が各村から挙がっていてだな。もしかしたら、この村の近くに魔窟があるのかもしれないと、そういう噂が出回っている」


「魔窟があるって噂……」


 どういうこっちゃ。


「俺は最近魔素が濃くなっていることと魔物が出たって話から噂は本当だと思っている。小僧にはわからんと思うが魔法が使えるとわかるんだ」


 魔窟? 魔物の巣ってところでいいのかな。


「本来聖域の中で魔窟が現れるのも有り得ない。魔窟は魔素を生み出し、神素の力を退ける効果がある。聖域の効果をほぼ相殺できるから、そのせいで魔物が入り込めるようになっているんだろう。だが、逆に聖域では神素の力を底上げして、魔素を退ける効果がある。だから、魔窟が生まれるなんて有り得ないんだが……」


 ちょっと説明が不足気味に感じるけど、アンデなりに一生懸命話しかけてくれてるんだから、我慢我慢。後で情報をまとめよう。それに、神素やら魔素やら、なんのこっちゃ。


「だが、1つだけ有り得る場合ってのがある。それが、人工的に魔窟を作って、魔物を引き寄せているという場合だ」


「いや駄目だ我慢できない。全然言ってることがわからない!!」






 アンデを質問攻めすることで必要な知識をなんとか得られた。その結果をまとめると


・魔窟の効果は 神素 を退けて、魔素を生む

・聖域の効果は 魔素 を退けて、神素の力を強くする。

・魔素を用いた魔法を行使するアンデだから、魔素が濃くなっているのがわかり、魔窟があると断言できるらしい。

・魔物は、魔素の濃い場所に惹かれる性質がある。

・魔物は、聖域に近寄ると少なからず被害が及ぶ。なので、聖域に好んで近づく魔物はいない。

・魔窟は、魔素が濃くなったところに偶発的に出来る性質がある。だから聖域で出来るなんて有り得ない。

・上位の魔法使いは、ある道具を用いると魔窟を生成可能らしい。この国じゃ死罪。魔法嫌いすぎ。


 こんなもんだな。……ふむ、はた迷惑な。何も僕が出かけるって時に作らないで欲しい。


「俺がこの村にいる限り、この村で魔物による被害なんて出さないようにはする」


 なんて頼りがいのあるアンデ。ナイスガイだよ。流石元騎士。


「が、外に出るやつまでカバーは出来ない。だから小僧。しばらく村を出るのは禁止だ」


 それは、仕方ないね。でも、万が一僕しか手を出せない状況になったら、そのときのために、僕は。


「……アンデ」


「何だ。今の説明で不備があったとしても俺は責任を持たないぞ」


 そんなの百も承知だよ。そうじゃなくて。


「剣、教えて」


「……あ?」


 え、怖い。何でそんなに殺気出して睨むの!? でもここで折れたらいけない。こんな殺気日常茶飯事。バイト中に殺気が飛び交うなんて良くある話。……なにその殺伐としたバイト現場、怖……。元の世界じゃ考えられないね。


「……本気か」


 しばらく僕に襲い掛かってくる殺気に耐えていると、アンデが話を進めてきた。


「なんとか、今回は大丈夫だったけど、次は勝てるとわからない」




「お前、強いんじゃないのか」


「強いのは、剣」


 そういって俺は左手をぽんぽんとたたく。それでアンデには伝わったはずだ。……初めて人を殺しをした日も、ゴブリンと始めて遭遇したときも、この剣がなければ僕はとっくに死んでいた。


「強くなりたい」


 いつか、旅に出て綺麗な景色を求めに行くのに、この世界じゃお金より強さが必要だって身に染みてわかった。


「……いいだろう。だが、その体が完治してからだ。熊の力である程度回復したんだろうが、親熊じゃない限り表面的な治療しか出来ないはずだ」


 その通りである。


「わかった」


 そこらへん文句を言ってもしょうがないので、甘んじてうなずく。


「それより、この5日間の集計。溜まってるんだ。無償で働いてもらうぞ」


「……Sir」


 そこらへん文句を言っても殴られるだけなので、甘んじてうなずく。


「さー?」



「えっと、わかりました。って意味」






 家の中じゃ狭くて、重くて飼えないので、小屋が出来るまで家の裏で寝泊りしてもらうことになった小熊さん。アンデとの会話と集計の仕事を切りのいいところで切り上げて、小熊に会いに来た。


「がぅがぅ」


「もう夜。まだ寝てなかったね」


 ふふふ、ちょっと小熊にビックサプライズを持ってきました。


「まだ、名前ないでしょ。僕、名前を考えました!」


 せっかく一緒に住まうことになったのに、小熊と呼ぶのはやめないとと考えた結果だった。


「がー?」


「小熊だから、リトルベアー!」


「がっ」


 首を横に振られた……だと……!?


「き、気に入らないと申すか」


「がぅ」


「ぐ、じゃ、ビッグベアー!」

「がっ」

「返答早い!? 気に入りませんか……」


 しまった、断られると思ってなかったからすぐに残りの弾がなくなってしまった。えっとえっとえっと~~????


 そうだ、英名が駄目なら日本語の名前にしよう。そうだそうしよう。


「熊吉」

「がっ」

「なぜ!?」


 もう何がいけないのかわからない。


「五郎ぉ」

「がぅ」

「えええええええええええええええええ!?」

「うるさい黙れ小僧!」

「なんで熊吉がだめで五郎がいいんだ!?」

「しばくぞ小僧!」

「信じない、僕は認めない!」

「いい度胸だ潰してやるぞ小僧!」

「がぅ」

「ちょちょちょ包丁持ってなんですかアンデやめうわあああああ!?」







 その晩はカオスだった。僕が認める。
















 次の日。ボロボロだった服を捨てて、綺麗になった僕で久々にバイトをし始めた。左手も脇腹もまだ完全に治りきっていないけど、魔剣のおかげでほぼ痛みは感じないくらいに回復していた。魔剣万能すぎ。


 食堂は相も変わらず冒険者であふれ、わいわいとにぎやかに飯を胃袋へと収めていく人が大勢入ってきたり出て行ったりしていた。中には村の住民がいたりするが、村の人達も冒険者と会話に花をさかせたりして楽しんでいる様子だった。


 それと、窓ガラスがまた2枚ほど割れているのに気づいた。お金を集計しているときにも、ごっそりとお金が減っていたところを考えるに、あの糞共が僕がいない間に着たんじゃないかと、そう思う。


「おお、ユウじゃないか。無事で何よりだ!」


 まぁそれはさておき、ごちゃごちゃと人であふれかえる食堂に既にお馴染みの客がいた。


「シュッテイマンさん。久しぶりです」


「アンデのオヤジが飯作りをミスしまくって大変だったんだぜ。心配かけさせやがってよぉ」


 なんだかんだ殺伐とした野郎だらけの空間で、幼い僕の存在は意外と癒し系のキャラクターを確立させていたらしい。にしても、アンデには結構心配かけさせたんだなぁ。今度改めて謝らないと駄目かな。……いや無理。僕、また反射的に気持ち悪いって言いそう。


「にしても、すまないな。魔窟が出来たなんて、あの時は知らなかったんだ」


「いえ、運が悪かったと諦めます」


 もしワザとならご飯の中に生ものとか辛い調味料とかふんだんに入れてやろうと思ってたけどね。


「そうか……これは前回の狩で手に入れた道具なんだが、お詫びの印にやる」


 といって、僕に髪留めのようなものを渡してきた。長い爪のような、バネで挟むタイプの髪留め、のようなものだ。でも、髪留め以外には見えない。でもまさか少し髪が伸びたままだからといって、男の僕に髪留めなんて……。ないよね?


「髪留め?」


 聞いてみた。


「髪留めだ」


 髪留めらしい。っておい!?


「僕、男だよ」


「いや、知ってるけど……」


 なん、だと。知っててこんな女物みたいな道具を僕にプレゼントだと!?


「もしかして、男が好きなの!?」


「は!? ち、ちげぇ!!」


 これが噂に聞くホモって奴なのか!? 僕の発言を聞いた、シュッテイマンの仲間たちが後ろで爆笑し始めた。その笑いは話の内容と共にどんどん店の中に広まり、口々にシュッテイマンは男が好きだったという発言が飛び回った。気づいたら食堂全体がシュッテイマンを無類の男好きという認識になっていた。噂って怖いね。


 シュッテイマンはその様子を心地よく思うわけもなく、慌てながらお店の各テーブルを回って誤解を解きまわっていた。


「……酷い目にあった」


 そう呟くシュッテイマンはどこか疲れている様に見えた。僕自身もこんなに話が広まってシュッテイマンがダメージを受けるとは思わなかった。ちょっと悪い事したかな……?


「なんか、すいません」


 僕は新しく料理を運びながら、シュッテイマンに謝った。手が空いたところで改めてシュッテイマンの近くに行って、この髪留めは何なのかを聞いた。狩で手に入れたものなのだから、多分普通のもじゃないのではないか。と思ったわけだ。


「それは、つけているだけで目が良くなる代物だ」


「目が?」


「そうだ」


 ためしにつけてみる。この世界に着てから散髪は行ってないから、伸びっぱなしで邪魔な前髪をどけるのにちょうどよくもあった。女の子っぽくなるけど……。一番邪魔な前髪をまとめ上げ、髪留めをつける。鏡を見てみる。うん。悪くはないと思う。さて、次は視力だけど、僕は両目とも1.2と、悪くもよくもない視力を持っていると思っている。


 どれどれ……お、おお!?


「おお!」


 店の端にいる客の顔がはっきり見える。これは凄い。流石ファンタジー。魔法って凄い。なんで目がこれくらいで良くなるんだ!?


「凄いですね。こんなもの貰っていいんですか?」


「ああ、優秀な神聖術使いが仲間にいるからな」


 ? どゆこと? シュッテイマンは自身の背後を指差す。


「は~い坊や。いつもありがとうね」


 シュッテイマンが指差した場所には、その優秀な神聖術使いだと思われる白衣のローブを着た女性がいた。見た目は凄く清楚だが中身が元の世界で言うギャルみたいな感じだった。


「いつもご来店ありがとうございます」


 とりあえず、数ヶ月で習った営業スマイルを浮かべておく。ところで、僕にこれをくれる理由に神聖術使いがいるって言ったけれども。


「神聖術にはそういうのがあるんですか?」


 とシュッテイマンに聞いてみると、どうやらそうらしい。ここでようやく神素の正体が分かった。魔素とか神素とか、世界に満ちる不思議エネルギーで、魔法を使うときには魔素が要る。神聖術を使うときには神素が要る。と言う事らしい。そして、神聖術は大きく分類すると4種類ほどある。


 ・神聖波動術 ・神聖治癒術 ・神聖浄化術 ・閃光術


 そのなかの、神聖波動術には、肉体を強化する術があるらしい。その1つで、ウォント・シーイングっていう術があるらしい。視力を強化するだけじゃなく、目が見えない人に目を見えるようにする術だそうだ。流石に眼球がない人には使えないらしいけど。流石ファンタジーだな。


 そのなかでもエンチャントアイテム、今で言うこの髪留めにはそういう術を刻み込み、物が自然に神素を集めて常に効果を発動し続ける特殊な技術で作られた高価なものらしい。


 貴重なのには変わらないけど、刻み込まれた術のレベルが低く、この程度のアイテムは貴重という価値以外に価値が無いらしい。結構凄そうなのに。売れば高値だろうに。とにかく、僕にはありがたい話だぜ。でも……やっぱり男にこういうものをあげるのはどうかと思う。


「じゃあ、ありがたく貰いますね」


 まぁ、断る理由もない!


「おぅ。……あ、そうだ」


「はい?」


 仕事に戻ろうとした僕を引き止めるのは、何用だい?


「いつの間にかいたが、家の裏の、幻獣は、どうした?」


 窓から少しだけ見える五郎の背中を指差して聞かれた。窓から見える五郎は蝶々のような、蛾のような生き物を追って遊んでいた。僕もなんと言うか迷ったけど。


「帰り、なぜか懐かれてしまいまして」


 と、無難なことを言った。僕の発言がよほどおかしかったのか、シュッテイマンはぽかーんと呆けた顔になったあと、ぷっと吹き出して笑い出した。そ、そんなに笑う事ないだろう!? 恥ずかしいぞ……。


「はははっ。……お前、将来大物になるよ」


 笑いながらそういわれたが、僕は首を傾げるしかなかった。





 昼の部が終わって、さて五郎の家を作ろうと意気込んでいるところにアンデがやってきた。


「家を建てるには、村長に申請しないといけない。行って来い」


 ということで、村長の家に五郎とやってきた。


「ひゃ、ひゃああああああああ~!」


 村長は50前後のおじさんで、アンデよりは老けている。そんな村長が五郎を見て杖を取り出したのを見るところ、神聖術使いか魔法使いのどちらかだろう。


「村長。始めまして。僕はユウといいます。こちらは五郎」


 僕がお辞儀をして、挨拶をし、次に五郎を紹介する。


「がぅ」


 真似してお辞儀をする五郎。かわいい。


「げ、幻獣!?」


 額の模様が見えたのか村長は杖を落としそうになるくらいに動揺していた。


「ゆ、ユウといえば、アンデのとこに突如現れた期待の新人バイトさんか。わしのことは覚えているかな」


「……あ、一度だけ来ましたよね?」


 確かに、見覚えがある。一月ほど前だった気がするけど。


「ふ、ふぅ、それで幻獣をつれてどうしたのかね。まさか、密猟したと?」


 眼光が鋭くなる。でも、悪いことはしていないので、僕はそれにひるむことは無い。



「あ、いえ、懐かれまして。飼うことにしたんですが、家を建てても良いですか?」


「なつ、なな、あ、あか、懐かれたあ!?」


 それはもう、死んでしまうのではないかと思うほどに驚いていました。それほど幻獣に懐かれるのは珍しいことなんだろうな。というか、落ち着いて欲しい。




 家を作るのはすぐに許可が下りた。国が保護種に指定している生き物を野ざらしにするなんてもってのほか。とのことだった。


 家を作るのには、丸五日ほどかかったけど、なんとか家を作ることに成功。


「……へたくそだな」


「うるさい!」


 アンデにそう呟かれてもおかしくないほど見た目が汚い六角形の家。なのに屋根は二つ折りの屋根。もう完全にへたくそだ。まだ家にあった3000ギスを使って、木材と釘やら購入したのにこの出来は酷い。家の中は風がびゅーびゅー入ってくるし、ぐらぐらしているし、今にも倒れそう。それに加え、扉もない。


「はぁ、しかたねぇ、ちょいと貸してみろ」


「?」


 アンデが五郎の家の改良をしてくれた。たまに手伝ったりしたけど、主にアンデが作業をした。お店の仕事の合間を縫いつつ作業すること二日。あら不思議。ボロボロで変なところじゃない部分を探すほうが難しい家が、なんだか綺麗になった。近くの木を切り倒して入手した木材で柱を作り、扉には部分には藁をたらし、風が入りにくいようにした。家の床は木材が五郎の重みに耐えられないので、そのまま地面。


 まぁ、五郎的に寝るには不便じゃないくらいにけっこう広い家が出来ました。




異世界生活100日

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 向井 夕 (むかい ゆう) 現状


武器 魔剣ライフドレイン


防具   異世界での服(新品


重要道具 髪留め(エンチャントアイテム:神聖波動術 ウォント・シーイング)

 ミエルお手製神聖術付与指輪( 神聖波動術『魔退破』 ・ 閃光術『光り輝き導く者』 )エネルギー*5%


所持金 28ギス と 500円


技術   剣道2段


     異世界の言葉(完全にマスター)


     中学2年生レベルの数学(暗算が得意になってきた)


職業   デトラオン(悪魔の)食堂癒し系店員 (バイト)



 幻獣の熊、五郎が仲間になった?


 視力が良くなる髪留めを貰った!

2012/07/23 色々修正。

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