007
彼にとって偶然は、その世界での奇跡
「痛い、痛いいたぁああああ!?」
目を覚ますと、全身が物凄く痛かった! 特に左腕なんか痺れと痛みと熱さと相まってむちゃくちゃ痛かった! 痛みと言う存在が僕の体の中で駆け回っている!! ちっくしょ~目覚め悪いわ!!
「って、生きてる? ……ここは、どこだ?」
体を少し起こして周りを見ると、木々が回りにあるから、森の中にいるのは間違いない。遠くに川の音が聞こえるから、川も近いだろう。僕が気絶したあの時点で川の音は聞こえてなかったから、誰かが僕をここに運んだんだろう。
その証拠に、ふさふさの草のベットに僕は寝かされている。僕の上に草は乗ってないので、左腕以外寒い。
「一体誰が」「……がぅ!?」
おぉぅ!? 今の鳴き声は誰だ……って、小熊?
なんで小熊がいるの? ……びくびくしながら僕へゆっくり近づいてきた。そして、ちょこんと座ると、じっと僕を見つめたまま動かなくなった。え、えっと。どういう状況だ……。あ、あれだ、僕を自分の寝床まで運んで、それからゆっくり食べる。ってことかも。餌は家で食べる的な?
「僕、移動させた、お前か?」
「がう」
うお、ちゃんと返事したぞ。人の言葉がわかるのか。賢いな……。
今は、昼間か。空が明るい。ということは、丸一日以上寝ていたのかな。って、痛い?
「いたぁい!?」
いきなり熊が僕の傷口を舐め始めた!?
「がぅ?」
痛いイタイイタイ! 傷舐めないでぇえええ!! わき腹舐めないで! なんか、ジュウウウ、って焼ける音してる! こんがり焼けちゃう! ちょっと食べるなら生で食べてよ!
いやいや、消毒も必要か!?
僕ってもしかしてばい菌だらけかもしれないし……ほら、脂分には余計なばい菌とかいっぱいあったり、僕にだって流石にばい菌が溜まる箇所だってあるだろうし、ね。それ考えたら確かに僕だって焼いて食べる必要がああああいたいぃいいいい!!
斬るぞこの野郎!! と、僕は体を急激に起こす……?
「……ってあれ?」
舐められたところが全然痛くなくなってきた。もしや治ってる!? さっきまで体を起こすことすら出来なさそうなくらい痛かったのに、起き上がっても不思議と左腕超痛い!!
「グォオオオオオオ!?」
これは、熊の叫びではなく、僕の叫びだ。左腕が凄く痛い!! 左腕も舐めてくれてたし、見た目もばっちり普通だったから治ったと思って左腕を使ったら、骨は折れたままだったっぽい!!
「が、がぅ……?」
熊がきょとんとした顔で痛がる僕を見つめていた。出来れば左腕をもっと舐めてくれませんかね……。とにかく左腕が折れてたの忘れてた。僕が無言で右手で左腕の折れた場所を指差すと、小熊が舐めてくれた。折れた場所は手首と肘の間だな。舐められた場所が熱を持って、焼けるような音と共に細かな傷が左腕から消えて治った。けど、左腕の奥深いところがむず痒く痛いままだ。……骨は治らないみたいでな。腕が変な方向に曲がったままだった。
舌が直接触れないと効果ないのかな? 折れた場所が第三間接みたいになってて凄い痛い。しかたない、治るまで放置するか? でも、このままの状態でほっといたら、このままくっついて目も当てられないことになる……。
仕方ない、矯正するしか……。
「……木の棒とかある?」
しばらく僕の絶叫が響いた後に。適当にちぎったズボンで木の棒と一緒に腕に巻きつけ、仮ギブスのようなものを作った。
「はぁ、はぁ、これで、しばらくは大丈夫……」
痛みのせいで疲弊しきった体をもう一度倒す。剣道のときに、複雑骨折じゃないけど、関節が外れた人の簡易治療を先生が行っていたのを思い出して、とりあえず、正しい腕の形にして木の棒で固定してみた。これが骨の正しい位置かどうかわからないけど、無駄でないと願いたい。
「にしても、助かったぜ小熊」
「がぅ」
さっき気づいたんだけど、この熊もやっぱり魔物の類なのだろうか。額に変な模様がある。三日月を十字に配置したような見た目してるな……。傷を回復させる能力を持っているんだから、普通の熊ではないことは確かなんだけど。にしても、こんなに小さいのに親なくしちゃって、大変だな……。
「やばい。情が沸いてきた」
生物になかなか興味がわかないのに、ひとたび気にし始めるとすぐに情が沸いて気になっちゃう。しかも、僕の命を助けてくれた熊だ。くそぉ。どうにかならんかね。
とか考えていたら、僕のお腹からも小熊のお腹からもぐぅ、っと腹の虫が無く音が聞こえた。
「……僕に気にせず、何か食べておいで」
「がぅ」
本当に気にせず洞窟の外へ行って、食べ物を探しに行った。……ちょっと薄情……いや、そういうのは人間の感情なのかもしれない!! ほら、熊とかだったら、固体の生存が大事なのかも……。それに、気にしなくてもいいって言うのは本当のことだ。さっきからお腹はすいてるのに、不思議と気分は悪くないし。
キィン
って、なんだ? ……え、食べなくても生きていける効果なんてあるの?
キィン
ついでに回復力も高める?
キィンキィン
なるほどなぁ。生命力の使い道にはそんなこともあるのか。体の回復にエネルギーをまわすとか、理屈が良くわからないな。
キィン
どうしてだから人間を切ろうってなるんだ。他の生物より生命力があってもそれで殺される羽目になったら世話無いだろう。
キィン
そのおいしさは僕にはわからんぞ!?
……一人コントなんて寂しいぞ。
しばらく待っていると、小熊がいろんな木の実を持ってきた。僕の知識から言うと、どんぐりみたいなのだ。それが20個ほど。それをおいしそうにむさぼり始め、僕の傍に9個置いた。
……見た目はただの木の実だ。うん。木の実、だ。ええっと、いままでグロテスクなものを食べて生きてきたけど、さすがに、木の実は……。人間の僕がこれを、食べれるだろうか……。
せっかく持ってきてくれたんだからと思って、右手でひとつ持って、硬い皮を岩に叩きつけて殻を割った後、中身を取り出してみる。刺激的な色はしてなくて、白っぽい、胡桃のようなものが中に入っていた。
あ、これならいけるんじゃない? と口に放り込んで、1回噛んで吐き出しそうになった。
まぁ、なんていうのかな、渋くて、すっぱくて、まず、い……!! 小熊の前で吐くにも吐けず、無理やり飲み込んでやった!! も、もう食えないっす……。
「……僕は、食べれないし、しばらく大丈夫らしいから、食べていいよ」
「……がぅ」
「すまなさそうにしないで。僕は大丈夫だから」
にしてもなんていい子なんだ。さっきから言葉も理解してるみたいだし。逆に熊がその程度での食べ物で足りるのかという不安が出てきた。本格的に情が移ってるな……。ふと辺りを見回してみると、魚の骨みたいなのが転がっているのが見えた。やっぱりどんぐりだけじゃ子供の成長にはよくないだろうな。
外は真っ暗だし、明日でもなにか食べるものを……川が近いし、魚でも獲りに行こう!! 魔剣があれば魚だって何とかなるだろう! なぁ、明日までに左腕ってどうにかならない?
キィン
なるのかよ!? すごい! じゃ、任せた!!
キィン
いや、人は切らないよ?
キィン……
翌朝、簡易ギブスを取り外してみると、赤く腫れあがっているが、骨はくっついたらしく、激しい痛みがする以外なんとも無かった。まぁ、激しい痛みはなんともない部類に入らないけど……。
「う、ぐぅ……! 痛いけど、動くな……」
動けるほどには回復した。結構生命力を使ったのかな。ためしに剣を取り出してみると、初めて見たときほどではないが、ボロボロになっていた。やっぱり、エネルギーの量で切れ味が変わるのね。
「なんか、ごめん」
キィン
気にするなってか。お前人斬りたい斬りたい言う割に、僕にはやさしいのね。
キィン
……いやぁ、お礼に人斬ろうってか……。まぁ……考えておくよ。多分やらないけど。
よし、動けるようになったし!
「熊ー! おきろー! 朝飯探しに行こうぜ!」
「が、がぅ?」
「朝飯探しに行こう! 魚だ魚!」
小熊を無理やり起こし、川に案内させた。魚を取れば万事解決だと思ったからだ。美味しい魚も食べれるし、お腹も満たされる!
ただ、魚をとる方法なんて考えてなかった。いや、正確には魔剣を使わない方法を考えていなかったって言うのが正しい。
熊と一緒に近場の川まで移動すると、見た目グロテスクな魚がうようよいた。僕は魔剣を取り出し、水中に魔剣を入れる。すると水面が一切揺らがずに魔剣が水中に刺さる。その状態ですっと魚のいるほう剣を動かす。すると魚は逃げる様子も見せずに、魔剣に切裂かれる。魔剣の切れ味が凄すぎるのかどうかわからないけど、まったく水面に乱れが起きない。これは凄い!!
簡単に魚を獲れる!! ……そう、獲れはするするんです。
「……魔剣で斬ったら、肉が真っ白になるぞ……!?」
最初は、魔剣を使って大きな魚を刺して獲ってみた。なんということでしょう。魔剣が魚の生命力吸い取っちゃって、緑色の魚肉が真っ白になってかっすかすになった! 食べるどころの問題じゃないぞこれ!! そもそも、これ、生命力吸い取る剣だよな。そんな生命力取られた魚食って栄養が得られるわけがない。
畜生~。じゃあ……ほかの道具を使うしかないか……。
僕は適当な小枝を剣で斜めにカットして、槍っぽいのを作った。後は、これで魚を突き刺すだけ……。僕は水面をゆらゆらを泳ぐ魚目掛けて木の槍を突き出した!! これで、今度こそ食事にありつける!
でも現実はそんなに甘くなかった。魔剣が水圧無視して水の中でもすいすい振り回せるから、さっきまで水中の魚を斬る事ができていた。でも木の槍はばしゃっと音を立てて、水にかなりの振動を与える。それに反応して魚は逃げてしまう。小熊がさっきから頑張ってやっと1匹捕らえてうれしそうに僕に見せてきた。反して僕は1匹も捕らえられない。
「……お、恩返しできない」
愕然と川に両手両足をつく僕。情けない! 情けないぞ僕! そんな僕をあざ笑うかのように、ザリガニのようなものが目に入った。
……ザリガニ?
殻が真っ黒で目が真っ赤だけど、ザリガニだ!!
ザリガニっぽいやつは熊の大きな手では捕らえることができない、岩の陰に隠れていた。僕の腕は細いから、その岩陰に手を伸ばすことが出来る!! そのザリガニっぽい何かを手探りでどんどん捕らえて、水上に上げていく。
合計12匹!! よっしゃぁあ!!
「僕の細い腕なら出来る芸当なのです! どうぞ食べてください!」
「がぁ~ぅ」
おいしそうにザリガニっぽい生物を殻ごとばりばりほうばる小熊。その殻の隙間から見えた身は透明じゃなくて、ショッキングピンク色だ。出来れば口にしたくない色をしてるけど……美味しいのかな。熊がばくばく食ってるから、僕も食べたくなってきた。気になって1匹木の槍でザリガニの頭を刺して、動かなくなってから殻をひん剥いて、刺身の状態にしてみた。……すっげぇ、ピンク……ちょっと、気分が悪くなった。でもまぁ、食べるしかない。川で適度に洗って、ピンク色の謎の刺身を口に運ぶ。
「……うまい、のか?」
凄くどろどろした身。ぷりぷり感なんてなかった。刺身の甘エビの触感を想像通りの悪い方向へ100倍走り抜けた感じで、しかし甘みは失わず、へんなお菓子を食べているような、食べていないような……。
「……食べれないわけじゃないからね。いいか」
食わなきゃやってけないもんね!! というノリで数匹食べる。腹ペコよりはまし、くらいには回復した。剣が生命力生命力うるさいので、葉っぱを数枚切ってあげたところ、ふてくされて不貞寝をし始めた。剣って寝るの?
「さて、恩返しも済んだし、戻るかな」
僕は、立ち上がって、魔剣を左腕に戻す。先程まで血まみれだった服を川で洗って、人にあっても不審に思われる程度で済むくらいの身だしなみにした。これで、大丈夫だろう。村で人にあっても驚かれないはず。
「じゃ、達者で暮らせよ」
連れて行きたいのも山々だけど、正直、アンデの迷惑をかけてしまうのもどうかと思う。だから僕は、小熊に片手で別れを告げ、森へと足を踏み入れた。太陽の位置的に、まだ昼だな。なんとか、夜までには戻れると良いけれど……。
何とかシャルルと村を繋ぐ道へと抜け出すことが出来た。この辺りに見覚えがある。間違いない。こっちへ向かえば村にたどり着くはず。あーよかったぁ。手探りだったから、道を探すだけでも結構時間かかった。もう夕暮れだよ……。とにかく、見つかってよかった。
嬉しいことに魔物には遭遇せずに道に戻れた。幸先良さそうだ。
なんて思っている僕に、ここで1つ誤算が生まれた。
がさっがさっ……と後ろから音が聞こえる。
「これは、間違いない」
そう確信せざるを得ない。後ろから足音が聞こえるのだからなおさら。振り返ると僕を助けてくれた小熊がいた。視線をそらし、僕は空を仰いだ。
夕日がきれいだなぁ……じゃなくて、小熊が、着いてきてるよ、ど、どどど、どうしよう!? 今の今まで気付かなかった! ど、どうにかして巣に戻ってもらわないと……。
僕はすぐに振り向いて、僕の後を着いてきている小熊に説得を試みる。
「……いいか、小熊よ。今から行くところ、村。お前を、たべちゃうぞ!」
首を傾げられた、かわいい。じゃなくて!
TAKE2
「小熊よ。僕は、ゴブリンを倒しに行く。だから、危ない!」
ふんふん鼻を鳴らして臨時戦闘態勢を取った。四方八方に注意を向けた!
僕への注意もそらさない! なんて味方思いなんだ! って違う!
TAKE3
「む! 向こうから魚のにおいがするぞ!?」
「がぅ」
しないよって言われた気分だ。
TAKE4
「うぉおおおおお!!」
逃走という由緒正しき手段! これで逃げれないわけがない!
僕の体が万全なら!
「……がぅ」
大丈夫って声をかけてきたんだと思う。なんでかって?
「ゼェッゼェッゼェエ!!」
左腕まだ痛む。わき腹も表面は回復したけど結局中身はまだ痛い。加えて空腹+疲労困憊状態。走ろうと思うほうが間違えていた。なんて考えていたら、小熊はやさしく僕を抱きかかえ、一度走ってそれた道に戻り、先程まで歩いていた方向へ歩き始めた。
いまさらだけど、この小熊、僕の身長ほどある大きさだ。なのにこう、お姫様抱っこされる気分いったら、ええ、なんだか気分がいいといいますか。
……もう、いいや。なるようになる。
村にたどり着いたらもう夜だった。小熊の歩く速度はかなりゆっくりで、ずっと小熊の腕の中で休んでいたら、かなり遅くなってしまった。村の入り口に人がいたのが見えたので、村には入らず小熊から降りて、村の様子を観察する。入り口にはなぜか、おろおろしている馬鹿女と無表情のアンデさんが立っていた。
「……小熊もいるしなぁ。柵超えてさっさ中に進入したほうが」
なんて考えていると激しい殺気を感じた!! それに驚いてアンデを見る。不敵な笑みを浮かべて僕を睨むアンデ。なにがなんだかわかっていない馬鹿女はきょとんとして、後ろに立っている小熊はがたがた震えている。
アンデは口だけ動かし。待っていると、僕に告げた。これは、もしかして死亡フラグを立ててしまったのではないだろうか。それを伝え終えるとアンデは馬鹿女を残し、懐かしき食堂へと歩いていった。馬鹿女もアンデに慌ててついていった。
「小熊よ」
「がぅ」
「もどりませんか?」
「がぅ?」
異世界生活??日
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向井 夕 (むかい ゆう) 現状
武器 魔剣ライフドレイン
防具 異世界での服(血まみれ
重要道具 ミエルお手製神聖術付与指輪( 神聖波動術『魔退破』 ・ 閃光術『光り輝き導く者』 )エネルギー*5%
所持金 0ギス (家に3000ギスと500円を置いてきている。 5000ギスはいつの間にか闇に消えた
技術 剣道2段
異世界の言葉(聞く、話す、ちょっと読む、ちょっと書ける
中学2年生レベルの数学
職業 デトラオン(悪魔の)食堂店員 (バイト)
ステータス 良くない
2012/5/23 見直し、表現の修正、誤字の修正などなど