表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔剣から始まる物語  作者: ほにゅうるい
第一章 異世界の剣士の一年
7/45

006


彼の持ちうる術は、この世界では付け焼刃



 夕方。セリアの指定した商店街にあるお店の前に戻ると、セリアが暇そうに空を眺めていた。


「遅いですよ!」


 なんとなく、いらっとした。


「はいはい、帰るよ~」


「え? ちょ、ちょっと待ってください~!」


 セリアも僕も用事を済ませていたので、帰ることにした。昼に僕を変な目で見てきた門番に軽く挨拶をして、シャルルを後にした。ざくざくと、村とシャルルを繋ぐ道をひた歩く。少し立ち止まって振り返ると、夕焼けの赤色がシャルルを囲うクリーム色の壁に写って、壁が赤く輝いているように見えた。また、来ることもあるだろうな……。


「何してるんですかー?」


「なんでもない」


 女に呼ばれて、すぐにまた歩き始める。さってっと、……お腹がすいたなぁ~。完全に陽が落ちる前には村に戻れるかな?


 舗装された道路から木々の生い茂る森へと入っていく。林が夕日に当てられて綺麗に見える。そういえば、太陽系って、どうなってるんだろう。元の世界と同じように月と太陽があるけど、他の惑星とかはあるのかな……。宇宙に行った人とかいるかな。


 しばらく歩き続けていると、隣にいたセリアが震えて、歩く速度が落ちた。どうした……ん? ここ、なんだか血生臭いな……ここは血まみれのゴブリンの死体があったばしょか? でもゴブリンは既にいない。処理されたんだろうな。


「あ、あのぉ!」


 急に大声でセリアが話しかけて来た。なんだなんだ??


「シャルルでユウさんは何したんですか?」


 思わず笑ってしまった。


「な、なんですか!?」


「年下に、敬語」


 かぁーっと赤くなるって言うのは今のセリアみたいな感じなんだろうな。


「く、癖なんですよ! もう、酷い人ですね!」


 怒っちゃった。気にしてたのかな。


「まぁ、さっさと行きましょう。また襲われるかも」


「ひっ」


 驚かすつもりは無かったんだけど、襲われるという単語に酷く反応した。ちょうど血生臭い道を抜けた直後だったから効果が強かったのかも。逆に僕より早く移動し始め、はやく行こうと催促してくるほどびくびくしてる。怖がりなんだなぁ。


 でも、そう何度も異変があるとは思わないけどねぇ……。


「た、助けてくれぇええええ!!」


 ……無いと思うんだけどねぇ。隆介でいう、フラグを立てたのが良くなかったに違いない。


「ゆ、ユウさん悲鳴です!」


「そうだね」


「……助けに行かないんですか?」


 え?


「行かないけど……?」


 思ったままのことを言った。嘘を尽く必要も無いと思ったけど、セリアみたいな善人なら。


「な、なぜですか!? モンスターに襲われているかもしれないんですよ!?」


 言うと思った。うーん。面倒だな。


「いいですか。危険を冒して助けに行く、メリットありますか。それに、この辺りじゃ強い魔物は出ない、話」


「で、ですが、助けを求めてるなら、助けに行かないと死んじゃう」


 それは、僕らだって同じだ。助けに行ったら、死んでしまうかもしれないだろう。なにより


「僕ら、関係ない」


 ため息でも吐きたい気分だ。僕には何にも関係が無いじゃないか。正直言ってセリアに怒鳴られようが何されようが、構いもしない。助けにいった結果、万が一ゴブリンの大群がそこにいて、僕一人で何とかできない状況だったら無駄死にしに行くようなものだ。僕らはさっさと悲鳴とは逆方向に走って村に向かうべきだ。なのにこの馬鹿は。


「助ける力があるのに、助けに行かないのは罪ですよ!」


 はぁ。そういうのは一体誰が決めるんだよ。自分が罪の意識で潰されたくないからって、僕に押し付けないで欲しいな。こういうときは


「助ける力、無いから、助けに行かない、理由にはなりますか?」


 こういえば、反論できないでしょう。おとなしく逃げよう……一抹の間が、空いている。これはもしかして……やばい、言葉間違った! こういうこと言ったらこのタイプの人間は。


「わかりました、もう頼みません!」


 うわぁあああああああやっぱり特攻したぁああああああ!!


 どうしよう、流石の僕も知り合いが死ぬのは寝覚めが悪い。やっぱり人と関わるのは最小限がいいよ!


 あああああどうしようどうしよう!


 キィイイン


 うるせぇ!


 キィン!?


 お前が切りたいとか関係ないんだよ。とりあえず、お前を使うと有名人になるらしいから、最大限ば使いたくないんだよ……。あ、あれかな、人間も切り伏せちゃ……いやいや、元も子もないな。切り伏せず打撃で気絶とかさせれないかな。


 でもなぁ、そういうの習ってないし。剣道の分野じゃないよなぁ。……この指輪……どうなるかなぁ……。


 …


 …


 …


 あー畜生!!






「や、助けてー!」


「早く!こっちへ!」


「ひ、人!?助かった!」


「またゴブリン……!? 早く逃げましょう!」






さっき教えてもらったこの道具の使い方、何だっけなぁ。確か、波動術のほうが、指輪を目標に向けて


「魔退破!」


 そう叫ぶと、指輪が一瞬光り輝き、見えない力が何匹かのコブリンを吹き飛ばした。反動はない。ただ、光った瞬間、前方にいるゴブリンが吹っ飛んでいた。上手くいった!


 ゆっくり周りを見回してみると、ゴブリンが先程と違って8匹もいた。さらに、奥からまだいる感じがする。かなり、数が要るな……。しかも、道から外れたせいで足場が悪い。昼前に戦った時と同じように戦えないかもしれない。


「ゆ、ユウさん……ありが」


「黙れ馬鹿女、早く、そいつ連れて、村に戻れ」


 僕の沸点は低い。ただ、沸点に届くようなことが結構少ないんだ。あんまり気がたたないんだ。だからあんまり怒らない。でも、怒るときはすぐに怒るぞ僕は。こういう馬鹿を見ると本当に腹が立つ。戦えないんだからさっさとどっか逃げて欲しい。


「なっ、馬鹿なんて」


 反論なんて、はぁ。


「力あるやつだけ、助けること出来るんですよ。自分、守れないやつが、他人なんて気にすることが出来る、世界じゃないでしょ」


 それは初日に思い知ったことだ。あのときのことを思い出すと、本当に左手に宿る剣には感謝しきれない。


 キィン


 だからって人を切ろうぜって話にはならないよ。


 ……キィン


「……でも」


 にしてもこの馬鹿女もわからないやつだな。




「反論は後で聞きます。だから、早く逃げろ!! 魔退破!」


 ゴブリンの接近に気づいていた僕は落ち着きながら波動を発射。反動もなしに、数匹近づいていたゴブリンが、吹き飛ぶ。吹き飛んだゴブリンがよろよろと立ち上がる姿から、多少なりダメージは通っているのがわかる。その光景を震えながら見上げる二人。ああ、くそっ、邪魔だ。邪魔だ邪魔だ邪魔!!


「さっさ、行け、邪魔!」


「!?」


 痺れを切らした僕は二人を蹴り飛ばす。すると馬鹿女と、ゴブリンに追われていただろう男が小さく悲鳴を上げて、シャルルと村を繋ぐ道のあるほうへと走っていった。後は勝手に村でもシャルルにでも、行くだろう。


 もう一度、波動を発射し、ゴブリンたちと十分な距離を取る。……いくら武器が優れていても、身1つ、剣1本で全てを圧倒するのは難しいだろう。頃合を見て、僕も逃げないと……!


「来い!」


 左手から素早く剣を取り出し、右手で剣を握る。突然現れた剣に驚くゴブリンに容赦せず剣を振るう。


「面!」


 一匹斬る。おそらく絶命したと判断。次を横になぎ払うように剣を振るう。


「胴!」


 もう一匹斬る。上半身と下半身がずれたのを確認し、次のゴブリンへと目を向ける。が、棍棒が目の前に迫ってきているのを確認し、防御姿勢をとる。剣の柄の部分で棍棒を受け止めよう。ゴブリンの棍棒の流れを読んで、柄に当てることが出来た。でも防御としては失敗した! 向こうのほうが力が強すぎる!!


「うわっ」


 力で押し返され、姿勢を崩してしまった。そんなときにもう一匹のゴブリンが僕を棍棒で横殴りした。面白いくらいに体が浮いて、まさに吹っ飛んだ。木にぶつかることなく、数メートル吹っ飛んで、地面に転がった。何度も咳払いをするけど、一向に痛みが取れない。痛い、痛い!


 もだえ苦しむ暇なんてなく、ゴブリンが追い討ちをかけようと僕に殺到する。それを許せば僕という名の死体が出来上がっちゃう。


「ごほっ、魔、退破!」


 胸が痛いのを堪えて、指輪をゴブリンに向けて叫ぶ。先程より若干威力の落ちた波動がゴブリンたちを押しのける。その隙に何とか立ち上がり、魔剣を構える。


「は、はっ、はっ……」


 上手くいかないなぁまったく! 昼のときは簡単に勝てたのに。運が良かったんだろうな、多分。今回は足場が悪いし、自分の利、武器の特性を生かせてない。にも加えて、このダメージ。胃がむかむかするし、わき腹の痛みが足の枷になって足を動かせる気がしない。息をするたびに胸が痛む。くそ、隙を見て逃げようと思ったのに、これじゃ無理だ。戦っているうちに元の道への方向もわかんなくなった。


「……ここで死ぬのかなぁ」


 せっかく異世界に着たのに、面白いこと全然体験してない。もったいない。ここにきてようやく目標が出来たのに。


 もったいない。


 本当にもったいない。やっぱり見捨てて逃げればよかったのになぁ。


「……道連れだよ! 来い! 切り殺してやる!」


 やけくそだ! 畜生!!


「グァ!!」


 ゴブリンの奇声とともに数匹突っ込んでくる。剣1本で対応は無理。迷わず準備していた指輪を向けて、波動を放つ。但し、1匹だけ残すように。計画どおり、1匹だけ吹き飛ばさず、その1匹だけが単独で突っ込んできた。


 足はほとんど動かない。回避も無理。真正面からの防御も効果なし。なら、攻撃を受け流すしかない!


 振り下ろされる棍棒に対して、僕は剣を斜めに構えた。剣に棍棒が直撃した瞬間。剣と地面との角度が垂直になるように動かし、振り下ろされた棍棒を受け流がした。ゴブリンの攻撃はすべるように僕の体を避けて、空を切った。やっぱり、ゴブリンは馬鹿だ。突いてくるという攻撃はしてこない。そもそも棍棒で突きなんて攻撃効果的じゃないもんね。


 そのまま的となったゴブリンを縦に切り裂く。魔剣がエネルギーを吸って、切れ味を増す。あと、5匹。にしても、剣道はこの世界じゃあまりにも不向きだ。複数と戦う技法なんて一切ない。生きて帰れたらアンデに少し剣術ってやつ、教えてもらおうかな……。


 4匹突っ込んでくる。それに対して指輪を向けて波動を放つ。ただ、もうエネルギー切れなんだろうな。2匹しか吹き飛ばせなかった。


「ぐぅ! 魔退破!」


 もう1度、一匹に向けて波動を放つけど、その1匹も足を止めるだけにとどまってしまった。


 これで力のない、完全にただの指輪になった。


 とりあえず、突っ込んでくる1匹を切り倒す。足を止めただけのゴブリンも近づいてきたから殺す。


 残り3匹が同時に突っ込んできた。波動はもう無い。光で目くらまし? 指輪内のエネルギーは波動の技と光の技で共通だから、波動が出なきゃ光も出ないだろう……。指輪は完全に使えない。


「くそ、くそ!」


 突っ込んでくる1匹に剣を投擲。上手く突き刺さる。


 残り2匹は、徒手格闘で対応するしかない。でもそんな技術僕は知らない!! 残された手段。左手を犠牲にする!! 痛みを覚悟するんだ!!


「ッギャ!」


 1匹目に左手を突き出し、振り下ろしてた棍棒を振り払う。鋭い激痛付き。嫌な音が左手から聞こえてくる。完全に折れた。


「ああああああああ!!」


 みっともなく口から痛みを訴える叫びが出る。でも僕はそれに構ってる暇は無い! 必死なことと、痛みが来るのがわかっていたことが幸いして、体が傷みで動かなくなると言う事はなかった。すぐさま棍棒を振り下ろしてくる2匹目のゴブリンにも、素早く左手を突き出し、攻撃を払う。折れた左手に再び鋭い激痛が走る。


 でも、次は思ったより痛くなかった。多分、もう左手はだめなんだろうな。


「はっ、はっ、はっ!!」


 痛いだけの体を無理やり動かし、今まで棒のようでまるで動かなかった足を動かし、剣まで走る。もうほとんど痛みは気にならなかった。剣の元までたどり着いたら、ゴブリンたちに振り返って、睨む。


「ぐぅ」


 剣を右手で握り、引き抜く。その際に左手が目に入る。左手の間接が増えていて、指も曲がってはいけない方向へ曲がっている。激しい打撃のせいなのか、皮膚が縦に裂けて、酷く出血をしている。ちくしょ~万が一勝てても助からないだろうこれ……!!


 キィン……


 ……はは、心配してくれてるのか? まぁ、次は僕じゃない、良い主人でも見つけるんだね。


 なんてやり取りもつかの間、ゴブリンたちが突っ込んでくる。でもラッキーなことにゴブリン2匹が足並みそろえて僕に突っ込んできた。僕は何も考えず、横なぎに剣を振るう。


 面白いくらい簡単に、振り下ろしてきた棍棒ごとゴブリンを切り裂いた。


「は、ははははっ、よっしゃ~どうだ、やってやったぜ畜生!! いててっ」


 8匹。殺してやった。左手がものすごく痛むけど、達成感から笑いがこみ上げてきて、抑えられないっ。ははっ……でも、まだ、まだ倒れちゃいけない。倒れて、ただで殺されるなんてもってのほかだ。あの人に、申し訳が立たない……!! 足掻くだけ足掻いてやるぞ!!


 背の高い草が生い茂って、大きな木のせいで暗がりになっている部分を睨む。そこに、何かがいる。


「さぁ。次は何が来る……!?」


 僕の気持ちに呼応してか、心なしか剣が鋭く輝いた。不思議と痛みも引いた気がした。


「はぁ、はぁ……さっきから奥にいるのは何だ……? さっさとこいよ」


 視界がぼやけてきた。僕が倒れるまで動かないというなら、その手はものすごく有効だぞ。もしその手を使うほど知能のある相手なら、僕に勝ち目はないな……。その奥へと目を向ける。絶対に、僕だけで死んでやらないぞ、僕を見ている奴も殺してやるだけだ……!! ……本当に来ないな。一か八かで剣を投げてみるか、いや、目を凝らせば見えるかも……。


 そう思って僕は一度右手で目をこすって、ぼやけていた視界を少しをクリアにした。その視界で、ある生き物を捉えた。


 えっと、……小熊? かわいらしいくりくりとした目だな。でも、小熊でも熊だ。殺さなきゃ殺される。下手したら喰われる。剣を投げることでもう一度、チャンスを。


 とか考えていたら、小熊がなぜか泣きそうになっているように感じた。そんな気配を感じちゃ、剣を投げれないよ。ふと、視線を落とすと、間違いなく撲殺されたと思われる大きな熊が倒れているのが草の隙間から見えていた。その傍には5匹ほど大きな爪あとが刻まれたゴブリンが倒れていた。


 それを確認して、僕は気を抜いた。クリアになっていた視界が再びぼやけて、霞のように消えていった。


「……そういうこと」


 僕は魔剣を左手に戻す。同じ被害者なら、べつにいいや。せめて、痛くないように食べてね。視界が急激に狭まっていき、もうほとんど見えない。


 あ~。これ、意識失う寸前だ。でも、いっか。やるだけやったし……許してくれよ……。


 僕は、次第に遠のいていく意識を、一気に手放した。


 キィン……


 眠いや。疲れた。

 

 




異世界生活91日

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 向井 夕 (むかい ゆう) 現状


武器 魔剣ライフドレイン


防具   異世界での服(血まみれ


重要道具 ミエルお手製神聖術付与指輪( 神聖波動術『魔退破』 ・ 閃光術『光り輝き導く者』 )エネルギー*5%


所持金  5000ギス (家に3000ギスと500円を置いてきている。


技術   剣道2段


     異世界の言葉(聞く、話す、ちょっと読む、ちょっと書ける


     中学2年生レベルの数学


職業   デトラオン(悪魔の)食堂店員 (バイト)


ステータス 瀕死


2012/5/22 見直し、表現の修正、誤字の修正などなど

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ