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魔剣から始まる物語  作者: ほにゅうるい
第二章 神と敵対する剣
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彼は屈するのか?


 身体強化を適度に施して、悪魔とルードが交戦している場に走って突っ込む。もちろん、背後から。


「ルード!! 加勢するぞ!!」


 僕は大声を張り上げて、悪魔へ走りこんだ。羽を狙って、走った勢いのままベルジュを振り下ろした。僕の叫び声に反応して、悪魔は僕に気づく。でも、これでいい。僕は僕の存在をわざと悪魔に気づかせた。狙いは悪魔の攻撃の誘発。さっきルードが叫びながら悪魔に背後から攻撃したとき、それに気づいて反応した。なら、同じように反応させれば、同じように攻撃が飛んでくるはず!


 悪魔は僕の狙い通り、ベルジュを回避して、ルードに反撃したときと同じように僕に反撃をしてきた。狙い通りだ!

 

 悪魔の動きはかなり素早い。僕の動きよりも悪魔のほうが僅かに速いと思う。でも、予め予測しておいた攻撃を回避する事は簡単だ!


 僕は、ベルジュを前へ突き出しながら強く地面を蹴り、悪魔の懐に踏み込むことで攻撃を回避した。そして、その勢いのまま悪魔へ、ベルジュを突き刺す。剣がずぶずぶと悪魔の体に沈む。重い手ごたえを感じた。


 ベルジュの半分ほどが悪魔へと食い込んだ。悪魔の背中は見えないけど、完全に貫けているはずだ。ベルジュから青い炎が拡散して、胴体から悪魔の体に燃え移った。今まで散々燃やしてもらったお礼だ! 遠慮なく燃えてくれ!!


「ギャアアアアアアアア!!」


 ぐっ、なんて耳障りな悲鳴だ。耳が痛い! これも攻撃なのか!? このままベルジュで焼き滅ぼしてしまいたかったけど、このままじゃ僕が駄目になりそうだ!! 僕はベルジュを引き抜いて、飛び引いた。そのまま悪魔から距離を離しながらルードの元へ移動する。


 悪魔を確認すると、青い炎が悪魔の傷口からじわじわとに燃え広がっていた。純粋な魔素の体だから浄化の炎がよく効くな……。


 む、悪魔が口から炎を吐き出して、自分に張り付いた青い炎を払っている、だとぉ!? ……自爆かな? いや、自分の吐き出した炎によるダメージはまったくない様子だ。残念。


「おい、ユウ! それって上級聖剣か!? しかもオリジナル!! 中位騎士でもなかなか持ってない大層なもんだぞ。なんで持ってるんだ!?」 


 オリジナル? ……とにかく凄いってことか?


「譲ってもらったんだよ!」


「グルゥウウウ!!」


 悪魔が青い炎を払いきって、僕を睨みつけてきた。怒らせちゃったかな……?


「おお、怒ってるな」


 軽い調子でルードが言った。


「やっぱり怒ってるのか」


 悪魔が突撃してきた。ルードと僕はそれぞれ別の場所へ移動して避けた。僕がよほど気に入らなかったのか、ルードを見向きもせず僕に狙いを絞って攻撃仕掛けてきた! ベルジュで受け流したり、時には避けたり、反撃したりと攻防を繰り返す。けど、悪魔と僕の体格差がありすぎてなかなか深く踏み込めない。さらに悪魔の攻撃が大振りなんだけど機敏さも相まって隙がなかなかない。そのせいで致命的な一撃を与えることが出来ない。このままじゃジリ貧だ。どうしたらいいかなっ?


「なぁユウ!!」


「何!? 忙しいんだけど!!」


 悪魔の猛攻を避けながら会話って、かなり辛い、のだけども! 動きを遅く見ることが出来るけど、僕の動きは悪魔より速くないしっ。本当、悪魔の動きにフェイントがないから助かる。フェイントがあって動きを読み違えたら僕なんかすぐに倒されてしまうだろなっ。にしても、完全に狙いが僕に定まっているなぁ。


「俺の剣じゃ決定打にならない!! 俺があいつの動きを止める! その隙にお前がどうにかしてくれ!!」


 それは助かる!


「分かった!!」


 でも、どうやって悪魔の動きを止めるんだ?


「じゃあ、時間稼ぎ頼む!! 術は苦手なんだ!!」


 術? 術を使うのか。ルードはかなり悪魔と僕から距離を離して、剣をしまった。


「『閃光を操る神よ!!』」


 その叫び声に呼応して、ルードの周りに神素が震えた。ルードは次々と言葉を紡ぎ、それに呼応した辺りの神素がルードの下に集め始めた。これは、ルニがやっていた言霊による環境作り! ルードの周りの神素が活性化し、普段見えない神素が光り輝き目視できるようになる。これは期待大だ! でも、ルニと比べると神素の集まりが凄く悪い。


 なるほど、時間稼ぎ必要だな……。僕は、攻撃の手を止めて、神素を活性化させているルードに注目している悪魔を睨む。


 時間稼ぎを頼まれた以上。避け続けるなんて消極的な行動じゃ駄目だ。こっちに意識を向かせないとね!!


「うぉおおおりゃっ!!」


 僕は悪魔へと思いきり斬りかかった。ルードへ気がそれていたおかげで、斬りつけることができた。青い炎が悪魔の体にともり、体を焼く。


「グギュ!!」


 悪魔は自分で生み出した炎ですぐさまその青い炎を払うと、改めて敵意を僕へと向けてきた。でも、その足はルードへと向かおうとしている。大技を止める気だな!?


「させないぞ!!」


 ベルジュを振るい、連続で斬りつける。流石にそれが気に障ったのか、悪魔の口から僕へサッカーボールほどの火炎弾が放たれた。僕はそれをギリギリを見切って避ける。悪魔はそれを何発も僕へ放ってきた! 攻撃するために近づいたから、かなり避けづらい……な。


 あ、そうだ。さっき悪魔が青い炎を自分の生み出した炎でどうにかできていたから、ベルジュでこいつの炎をどうにかできるかもしれない! ためしに火炎弾をベルジュで斬ってみると、手ごたえも無く悪魔の炎が消失した。よし、これならもうしばらく避けていられそうだ。ベルジュで斬れそうな火炎弾は斬って、手が回らないのは避ける……くっそ!! 早くしてくれルード!!


 !! 剣で払うのも、避けるのも難しいコースに火炎弾が! ちょっとこれは、無理! 僕は大きく跳び引いて、悪魔から離れて火炎弾を回避。


 って、悪魔が僕へ攻撃するのをやめてルードへ、走り出したっ!?


「まず!!」


 僕は急いで距離をつめて、悪魔の背後から斬りかかる。けど、警戒されていたらしく避けられてしまう。そして、腕や足を用いた悪魔の猛攻が始まる。距離を離したいけど、離したらルードが危ない……下がれない!!


 右手が振るわれる。僕は素早く屈んで避ける。反撃にベルジュを腹に向けて振るうけど、1歩後退され、回避された。そのお返しとばかりに体を回転させて翼・足・腕と順々に僕を薙ぎ払おうとする無茶苦茶な攻撃を繰り出してきた。なんだその攻撃方法!? 無茶苦茶な攻撃だけど、巨体な悪魔だから攻撃範囲的には申し分ない上に、かなり速度があって危険だ。厄介だなぁっ!!


 翼・腕を屈んだり、ベルジュで受け流す。


「ぐぅ!!」


 下段狙いの足払いは小さく飛んで回避。そしてまた翼がやってくる。それをまた剣で受け流すけど、次の腕を受け流す暇が無い!!


 む、無理!?


 剣を盾に、防御した。足が地面から離れて悪魔が僕から遠のいていく。いや違う、僕が離れてるんだ! 吹っ飛ばされた! くそ、どうにかしないと!!


 僕は素早く空中で姿勢を直しながら神素呼吸をして、神素を集めなおす。そして、着地と同時に足を重点的に強化。吹っ飛んだ距離を一気に詰めて、ルードの元へ飛びつこうとしている悪魔を斬りつけて、それを邪魔してやった。その代わり、次の悪魔の反撃を回避できない!


 くそ、もう一回防御! ルードはまだか!?

 

 悪魔の腕が叩き潰すために腕を振り下ろしてきた。腕に神素を集中!! 刀身で、受るっ!


「ガァアアアアアアアアア!!」


「ぐぅ!?」


 足と体の中から軋む様な嫌な音が響いた。地面と悪魔の腕で挟まれた僕への衝撃が全て足と胴体に流れる!! くそっ。腕に神素をまわした分、ほかの部分の防御が足りなかった!!


 僕のわき腹にどんどん痛みが集まり、次第に痛みが無くなり熱くなってきた。痛みを越えるようなダメージを受けちゃった。まずいなっ。


 キィン?


 治療? ……もう少し、もう少し自分の力でやらせてくれ!!


 少し飛び引いて、神素呼吸。痛みに集中力が切れそうだ……!! おちつけ~、おちつけ~。……ふぅっ!!


 神素を適当に集めて、身体強化!! 悪魔の意識は相変わらずルードに向いている。だんだん僕の攻撃にも動じなくなってきている。悪魔も焦ってるのか!?


「こっち、むけぇえ!!」


「ギィ!?」


 ベルジュを振りかぶって悪魔の気を引く。ルードと悪魔の距離はもう数メートルしか無い。悪魔が飛びつけばすぐに詰められる距離だ。もう一度も引けない!! 悪魔がさっきと同じように体を回転させて、翼・腕・足と順に攻撃を繰り出す。翼を避けて、腕を剣で受け流す。足を小さく飛び避ける。


 このままじゃまた吹っ飛ばされる! 一か八か翼を切裂いてやる!! 


 集中しろ!!



 ドクン ドクン 



 ……辺りの動きがさらに遅くなっていく。自分の心臓の音がゆっくり聞こえる。自分の呼吸がしっかり聞こえる。悪魔の回転が、止まっているように見える!! 僕を薙ぎ払おうと翼が迫ってくる……ここだ!!





 ベルジュを悪魔の翼の根元目掛けて、振り下ろす!!


 喰らえ!!


 鈍い手ごたえを一瞬だけ感じた。何かが切れ落とされるような音が、僕の耳に届いた。


「グギャァアアアア!!」


 よっしゃぁ!! 最後の翼を斬り落とせた!! ……で、でも勢いが落ちだけで回転が止まらない!! また僕は悪魔の腕に払われ、吹っ飛ばされた。


「ぐはっ!!」


 防御できなかったけど、回転の勢いが落ちていてダメージは軽微だった。助かった。でも、吹っ飛ばされたのは良くない!! 畜生、ルードまだか!?


「早くしろぉおおお!! もう2分以上たってるだろぉお!!」


「待たせたな!! 神聖閃光浄化術・裁きのパニシャブル・ランス!!」


 ルードの手には光の槍が握られていた。術が完成したんだな!?


 よし、ルードがきっとチャンスを作ってくれる。それを信じて、落ち着いて神素呼吸をするんだ。……全身に神素を滾らすんだ。ベルジュにも、今日最大の神素を。全力の一撃が放てるように。


「喰らえこのくそ野郎!!」


 ルードが、翼の切断面に燃え移った青い炎を払おうと暴れている悪魔に光の槍を放った。光の槍はまさに光のような速度で悪魔の胸に突き刺さり、地面に縫い付けた。。


「グギ!!」


 悪魔の動きが止まった。この隙を逃さないぞ!! 止めだ!! 僕は、地面に縫い付けられた悪魔の首元を一閃した。

 

 動けない悪魔にダメ押しで、胴体も深く斬り付ける。ベルジュで斬りつけられた首と胴体から青い炎が燃え広がる。光の槍に動きを封じられている悪魔は、青い炎を振り払うことが出来ずに、もがいていた。その様子を確認して、僕は悪魔から離れた。


 瞬く間に青い炎が悪魔の全身に燃え移り、光の槍の力を借りながら悪魔を青い炎で焼き尽くした。悪魔は最初のほう、大きく体を痙攣させてぶるぶる震えていたけど、次第に悪魔は呻く事すらしなくなって、動かなくなった。青い炎が消えるのと同時に悪魔も消え去り、その場には力を失いつつある光の槍だけが残った。その神素で作られた槍も、しばらくして空気中に霧散した。


「……よし!!」


 なんとかなったな……! ふぅ……? ん、い、いて、いてててて!? 思い出したらわき腹が燃えるように熱くて痛い! 魔剣!! 表面治したらばれるかもしれないから中身だけ治して!!


 キィン!!


 ぐっ!! 急に足とお腹が熱くなった!! き、気もちわるいぃっ。 ……おぇ~吐きそう……。


 ……って、お? もうほとんど痛くないぞ?


 キィン


 ふぅ、ありがとう。マセガキの魔剣を壊したときのエネルギーがけっこうあったから回復も早く済むね。この程度なら何度でも治せそうだ。もうしばらくは安泰だね。


 キィン……


 また魔剣斬りたいってか? あんなのそう何度も遭遇してたまるかよ。僕の苦労も考えてくれ!


「ユウ! よくやったな!!」


「ルード!! ……遅いよ!! 間に合わないかと思ったよ」


 僕がルードに怒鳴りつけると、ルードは頬を指でかきながら申し訳無さそうに笑った。


「ははっ。わりぃわりぃ。あの術強いんだけど、苦手でな。まぁ何とかなったんだ。大目に見てくれよ」


 まったく……でも、ルードも結構辛そうだ。感謝しないと。


「でも、助かったよ。ありがとう」


 僕がそうお礼を言うと、ルードは一瞬ぽかんと呆けた顔になったけど、すぐににんまりと笑顔になった。


「へへっ。一応これでも騎士だからな! そもそも俺は接近戦闘が得意なんだ。ユウみたいに上級聖剣があればなぁ。それがありゃ俺1人でもぼこぼこにしてやれたさ」


「本当かよ~。じゃあ次ぎ悪魔に出くわしたら剣かすから1人で戦ってよ」


 僕が茶化すと、「えっ、……あ、あはは」とルードが誤魔化すように笑った。


「ギイイイイイイイ!!」


 !? 新手の悪魔が!!


 ……ひーふーみー……。7体くらいいるな。ちょうど西の広場とは逆の方面から現れたから、一応逃げることは出来る。けど、これだけ疲労困憊の人達がいる中で悪魔7体から逃げるのは至難の業だ。おいおい、さっきの発言は別にフラグを立てたわけじゃないんだぞ!?


「……この剣貸すけど、どう?」


 苦笑いを浮かべながらルードにベルジュを見せてみた。ルードは肩をすくめて僕と同じく苦笑いすると「ふ、複数は無理だ……単体だったらいけたんだけどなぁ~」と言った。


 たしかに、単体ならなぁ……。ふぅ。……シェスをここまで付き合わせちゃったし。ここで死なせるわけにはいかないよね。ボディーガードって仕事もあるし。


 キィン?


 ああ、やってやろう。せっかくだからこの騒動にまぎれて逃げよう。まったく、村の魔物襲撃のときみたいだな。でも、あのときみたいに、シェスは死なせたりは……。


「しな「たぁああああああああああああ!!」……い?」


 僕が魔剣を出そうとした瞬間に、7体いた悪魔のうち1体の胴体から槍が生えた。その悪魔は小さなうめき声を上げて、消滅した。悪魔が消滅して、背後に立っていた槍を持った騎士の姿があらわになった。 な、なんだ!? き、騎士? 20人くらいの騎士の団体が来たぞ!


 あの悪魔を貫いた騎士の人の鎧、ものすごい輝いてて、装飾が派手だ。悪魔を貫いた人に続いてきた騎士達も、ルードの着ている簡素な鎧より綺麗に装飾されている。


「……上位騎士と、中位騎士だ! 応援が来たぞ」


 ルードがほっとした様子で息を吐いた。応援か。魔剣出す前でよかったぁ~。まだこの国で生活できそうだ。


 キィン……


 まぁ、残念がるなよ。生きてればそのうちいいことあるって。それにしても、よかった。やっと一息つけるな。




Side ???

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「ぬ、主様、こちらから侵入できます。はぁ、はぁ……」


「グルル……」


 主様から与えられた悪魔を従え、今騒ぎが起こっているエイオーツ南部の城壁を内側から破壊した。1人通れるかどうかほどの大きさだ。流石に厚さが1m以上あり、神素で加工している城壁を壊すのは骨が折れたが、悪魔の力を借りてなんとか貫通させた。


 今回の騒動で、私は邪法使いになった。この国じゃ死刑だが、主様のためなら……。しかし、慣れない魔素を使ったせいで体が重い。やはり魔素は毒素のたまりが早い……。


「ふむ、狭いな。こんな道を通れなど、舐めているのか?」


「申し訳ございません……はぁ、はぁ」


 悪魔では神素で加工された城壁を破るには、骨が折れる。私が神素で城壁の耐性を無効化しながら悪魔に城壁を掘らせていたが、流石に1日ではこの程度の穴を作るのが限界だ。そう主様がため息をつくと、右手から例の剣を出現させ、まるで柔らかい物を斬るかのように、そっと刃を当てた。それだけで分厚い城壁はいとも容易く斬れてしまった。


 す、素晴らしい。私があれ程苦労して貫通させた穴を……。


「まったく。くだらないことに剣を使わせおって。使えんな」


 主様はそういうと右手を私の頭の上に乗せ……え?


「え? 主……いや、き、貴様!? わ、私は一体なんてことを!!」


 何てことだ!! その剣は、盗み出された宝剣!! そして、私が故郷へその悪人の侵入を許そうとしているだと!? その上、私が邪法に手を染めるなど!!


 私の両手が黒いあざで多い尽くされている……!! なんて汚れた両腕だ!


「ご苦労。ずいぶん役に立ってくれたよ」


「い、一体どうやって……!?」


 魔素による精神支配はあると聞くが、神素使いである私相手にそれを行うのは至難の業であるはず。しかも、上位騎士である私を支配するほど強力な術を使うこの男。いや、支配は剣によるものか!? いずれにしても……危険だ。今この場で殺さなくては!!


「死ね! 神聖術・ら」


 ……男がさかさまになっている? あれ、わたしの からだ


「最後の最後にエネルギーをありがとう。礼だ。痛みも無く死ね」


 ……あ ぅ く、ク  レ ぃ    ア


――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 


 翼ありの悪魔を倒した後、どんどん中位騎士達とそれを率いる上位騎士の応援が現れ、上級聖武器でどんどん悪魔を掃討していった。あれだけ苦労して倒した翼つき悪魔も現れたけど中位騎士3人程で難なく倒していた。やっぱり、身体能力云々より高価な武器を使えば誰でも戦えるものなのかな?


「そういえば、ルード」


「ん? 何だ?」


「僕の剣がオリジナルとかなんだかと」


「ああ、俺たち騎士に支給されるのは、ある規格にそられて作られた剣なんだ。同型で能力も同じ剣なんだ」


 なるほど、大量生産された剣ってわけなのか。


「だから、そういう一品ものより、能力が多少劣るんだ。お前の剣は青い浄化の炎がともるけど、ほかの人達は何も変化がないだろう?」


 確かに、さっき悪魔を倒していた上位騎士の槍も光っているだけで燃えていたりはしなかったな。僕の剣がオリジナルといわれた理由はそういうことなのか。


 ……応援が来てくれたおかげで、僕らも逃げ遅れた人達も無事に西の広場にたどり着けた。悪魔を掃討し終わるころには鎮火作業も同時に行われ、事態は急速に収まっていった。僕とルード、クロムン、シェス、そしていつの間にかついてきていたセレネイと一緒に、西の広場で一息ついた。いやぁ、よかったよかった。シェスには本当迷惑をかけちゃった。今度御礼をしないとなぁ。



 なんて考えているときに、僕の左手がざわついた。





 キィン!!


「な!?」


 何だこの気配!?


「う、うぉ!? どうした?」


 ルードが僕の急な動きに大きく驚いて見せた。


「……なんだろう。凄い、やばい」


「あ~?」


 この気配は、なに? 突然悪魔が遠くに現れたのはわかる。さらに、何か危ない奴が現れた。僕の左手の魔剣も激しく反応している。ちょうど、エイオーツの西側からかなり広い範囲で異変が起こっている。何が起こったんだ?


「ん、なんだ? 向こう側から悪魔がまた現れたみたいだな」

「かなりの数だな。隊長!」

「おう。中位騎士15名を適当に選出して、行くぞ」


 中位騎士達の団体も悪魔の存在に気づいたみたいだ。中位騎士を纏める隊長含めて16人か。異変については感づいてないみたいだけど、それだけいれば大丈夫だよな? 大丈夫、だと思うんだけど、胸騒ぎがする。


「ユウ。ちょいと、俺もあっちの様子見に入ってくる。縁があったらまた会おうな」


「あ、おう。ありがとう。またね……って行っちゃった」


 僕の返事も待たずして、ルードはさわやかな笑顔を比べて、騎士達の中へ混ざって見えなくなった。ルードも広場に行くのかな?


「ユウ」


「あ、シェス。お疲れ。んでごめん。危ない目に合わせて」


 戦闘の影響ですすやら何やらでぼろぼろになったシェスが疲れた様子で僕に寄ってきた。それと同時に、女、えーと、セレネイさん? の視線が僕に突き刺さる。なんだ?


「ユウと私は友達。だから気にしないで」


「そ、そう? 体とか、大丈夫? 怪我とかない?」


「筋肉痛くらい」


「ん? な、なんで?」


 身体強化で筋肉痛? 使ってる力が神素と魔素だから体がそれで筋肉痛になるっての初心者だけのはず。シェスが筋肉痛なんて、考えられない。


「……それ、僕のせい」


 く、クロムンのせい? クロムンが頭をかきながら何かを言い淀んでいる。何をしたんだお前? ……いやいや何怒ってるんだ僕。クロムンが酷い事をするとは考えにくい。何か事情があったのか、それともどうしようも出来ないミスがあっただけかもしれない。クロムンがゆっくり口を開いて、喋りだそうとした。その瞬間、シェスが喋り始めた。


「応援を頼まれたの。だから、無理やり私が体を動かすのに術を施したの。それは直接体を活性化させて、強くする術。その術でちょっと無茶したから、反動で筋肉痛」


「へぇ。そうなんだ?」


 話すことを取られたクロムンは唖然として、シェスを見つめていた。まぁ……なるほど。そういう事情があったんだね。それならなんで身体強化しなかったんだろうって疑問が残るけど、きっと僕にはわからない事情があったに違いない。


「……そうだ、ユベル。ユウって名前はなに? ユベルじゃないの? それになんで、シェス様と友達?」


 焦りながらクロムンが僕に近寄ってきて、持ちうる疑問を僕にぶつけてきた。


「あ~」


 どうしようか。い、いや。クロムンになら話してもいいかな。セレネイに聞こえると厄介だから、クロムンの耳を借りて、小声で説明した。


「実は僕はシェスの家の使用人なんだ。それで誤魔化すのにちょっとユベルって偽名を……」


 僕の発言を受けてクロムンは一瞬ぽかんとすると、すぐに拗ねたような表情になった。


「……ずるい」


「え?」


 なにがずるいんだ?


「……シェス様はみんなの憧れ。そんな人と友達なんてうらやましい。そして写真を取りたい」


「え? わ、私も……!!」


 クロムン、友達云々より、最後のほうが狙いだろう本音だろう。そして、セレネイさん。事情がわからなくても流れに乗ろうとするのはいいけど、大声出さないとシェスに聞こえないぞ?


「友達になりたいだってさ、シェス?」


 シェスの意思も確認したいなと思ってシェスに話を振ってみた。すると、シェスはあからさまに嫌そうな顔をした。クロムンもセレネイもその様子に気づいて落胆した。こりゃ駄目か……? 理由は知らないけどシェスは身近な人間以外を嫌う傾向がある。今回だって無理をしてくれたに違いない。


「……ユウの友達なら」


「ん?」


 シェスは難しいことを考えているのか、眉を寄せて、ゆっくりと口を開いた。


「私の友達、だよね?」


 ……えっと、それはなんか間違っているような。でも正しくないともいえないし……。と僕が答えに迷いながら首をかしげていると。シェスは無表情を少しだけ崩して、口元だけ笑むと。


「頑張る」


 そういって、クロムンに手を差し出した。


「クロムン。よろしく」


「!? ……よろしく!!」


 クロムンは突然明るくなって、嬉しそうにシェスと握手を交わした。


「あ、あのぉ~。シェス様。私も、と、と……友達に……い、いやっ! 恐れ多い! どどど、どうしよう……! でも友達になれたら……きゃ~っ!」


 後ろのほうでセレネイ? だっけ。シェスを見ながら物凄く1人で葛藤したり悶えたりしている。シェスの行動で一喜一憂してる、変な人だな。シェスもそんな様子のセレネイにどう対応していいか分からないみたいだ。


 そういえば、なんでシェス、というかスタンテッド家に皆憧れているんだ? ……小貴族ってのは結構数いるって話を聞いたことがあるから、部隊隊長騎士って地位がなんかあるのかな?


「なぁ、部隊隊長騎士ってどれくらい強いんだ?」


「お父さんのこと?」

「……ユベル、失礼」


 シェスは首を傾げる程度だったけど。クロムンはあからさまに呆れていた。セレネイに関しては僕の顔を見て酷い表情で絶句していた。そ、そんなに変なこと言った!?


「……ユベル。さっきいた中位騎士より数倍強い上位騎士。その上位騎士を大きく上回る実力で、万にも及ぶ騎士達を纏め上げることが出来る指揮能力持った人間が就ける栄光の地位、ホーリィーリーダーと、パラディンリーダー候補ともいえる地位が、部隊隊長騎士」


 カメラの話以外で珍しく少し興奮気味なクロムンが一息に語ってくれた。中位騎士よりも、その上の上位騎士よりも強いってことは、むちゃくちゃ強いってことか。それに加えてカリスマ性まであると。凄い、凄すぎるよディモンさん。でもこの国にはまだ上の地位があるのか。


「そのリーダーって?」


「……それも知らないのか……」


 クロムン。僕も傷つくからあんまりがっかりしないで。


「パラディンリーダーは大規模な部隊を引き連れて遠征することを許された国の最高戦力とも言われる人。ホーリィーリーダーは、この国を守ることに関して最高の実力を発揮する人」


 なるほど。外に向ける戦力はパラディン。守りに関する戦力はホーリィーと、それぞれ最高責任者がいるってことでいいのかな。


「この国にその部隊隊長騎士とかリーダーの人って少ないの?」


「部隊隊長は10人ほど、リーダーはこの国には5人いるはず」


「あ~。少ないね」


 限られた人しかなれない国の英雄みたいな存在。そりゃみんなの憧れの的になるわけか。じゃあきっと、僕が知らないだけで学園にその人達の子供がいるんだろうな。今度そういった人達について調べておこう。


 ……まぁこれで、なんとなくだけど、なんでシェスが憧れの対象になっていたかわかってきた。有名な親に対してその娘も恥じない強さを持っているわけだし、なにか惹かれるものがあるんだろうな。この世界の人じゃない僕にはわからない価値観だ。


「わかった?」


「わかった。ありがとう」






 しばらく騒ぎが収まるまで西の広場から動かないでくれ、と騎士の人達から指示があった。指示があってから、先程の悪魔たちがいっぱい現れたと話をしていた騎士達がその悪魔の討伐に出かけて、それからしばらく何も騎士から連絡がないでいた。


 だんだん日も落ちてきて、暗くなり始めている。暇だなぁ。早く家に帰りたいけど……。


「そういえばクロムン。クロムンはどうしてこの場所にいたんだ?」


「……僕っちは南部に住んでいる」


「え? 学園は北部なのに、遠いところに住んでるんだな」


 学生のほとんどは学園の近くに住んでいると思ってたから、クロムンも北部に住んでいるものだと勝手に思ってた。確か南部と北部ってだけで距離が数キロあったはず。


「……ん?」


「どうしたのクロムン?」


「……なにかあったみたいだ」


 クロムンが騎士が慌しく動いているのに注目していた。僕も騎士達の様子を伺ってみようかな。


「おい! なるべく多くの騎士を呼べ!!」

「だれか念のため部隊隊長騎士様に連絡を!!」


 なんだか……穏やかじゃないな。そういえば、あのやばい気配はまだ消えてないし、何かあったのか。少しだけ興味があるなぁ。でも、危ないことにわざわざ首を突っ込むのもな。あの村のときとは違って闘える人はいっぱいいるんだ。わざわざ僕が首を突っ込む必要もない、よね。


 キィン


 え? 行ったほうがいいって、どういうこと?


 キィン


 このままだとあの騎士全員死ぬ? あんなに強いのにそう簡単に死ぬか……? まぁ、そこまでいうなら、行ってみようか。シェスとクロムンに余計な心配かけないためにもなんか適当に嘘ついて、覗きに、少しだけ……。


「ちょっと、トイレ」










 西の広場から騎士の目を盗んで誰もいない場所へ移動した。よしよし。久々に本格的に魔素で身体強化を施す。神素以上に素早く、簡単に強い身体強化が施せた。


 やっぱり、魔素が一番使いやすいなぁ~。

 

 そんな状態で僕は走り出す。目指すは、このやばい気配の元。


 にしても、お前が人助けする気になるって、一体なんでだ?


 キィン


 人助けじゃなくて、気に食わない気配がするからたたき出したい? ……うーん? どういうことだろう……!?


 気配の元に近づけば近づくほど……どんどん嫌な感じが高まっていく。この嫌な感じは、マセガキの持っている魔剣の能力の前兆に似ている。


「……おいおい、大丈夫なのかこれ?」 


 これは、前兆じゃないな。これは既に何かの能力が発動しているのか?


 まずいなぁ。もしかしてこのやばい気配は魔剣じゃないか? そりゃ、僕の魔剣が行きたがるわけだよ。


 キィン


 え? ちょっと違う? 何が違うのさ。……あー、だめだ。複雑な意思だと僕が理解できない。


 現場に近くなってきた。騎士が近くにいるのかもしれないし、魔素の身体強化を解除してこっそり現場へ向かおう。


 って、あれ? な、なんだ? このあたり、魔素がほとんど感じられないぞ。嫌な感じはずっとしたままなのに、魔素が全然ない。相手は魔剣じゃないのか? ……念のため、この微かな魔素だけでも集めておこう。神素を聖剣に溜めておいて、魔素を体に溜めておく。身体強化せずに溜めておくだけなら、感知されないはずだし、大丈夫だよな? いざとなれば魔素は開放して逃げればいいし……よし。


 嫌な気配の中心地へとたどり着いた。そこ場に数十人の……この鎧の模様は中位騎士だな。その中位騎士達が倒れていた。


 全員死んでるのか? ……いや、胸の辺りが動いてるから皆生きてはいるんだろう。この人達どうしたんだ?


 辺りに戦闘のあとがあるから、悪魔と戦闘をしたんだろうけど、この様子は異常だ。中位騎士にたちの鎧に汚れはあれど攻撃を受けた様子は少しもない。なのになんで皆倒れてるんだ?


「……ずいぶんエネルギーを吸い取れた。例を言うよ」


「貴様……その剣の能力は……まさか!!」


 だれか、会話しているみたいだ。そーっと覗いてみた。あの眩しいほどの鎧の輝きは、上位騎士だな。その上位騎士と、誰だ? 黒いローブで全身を覆って、白い剣を持っている。そのローブの奴が上位騎士と対峙していた。嫌な気配はあの白い剣から感じるな。


「そうだ、冥土の土産に教えてやろう。フェンリルだよ」


 フェンリル? 確か、シャルルから盗み出された剣だっけ?


 黒いローブの奴が持っている剣は、刀身に複雑な模様が彫ってあるだけの白いロングソードだ。なんの変哲も無い装飾された剣としか思えない。


 そのフェンリルの剣先を上位騎士へ向けた。突き刺すのか!? と思ったけど、突き刺すことはしなかった。じゃあなんで剣先を向けたんだろうと考えていたら、急にフェンリルが震えた。


 そして、上位騎士から何か青い靄みたいなものがあふれ出し、フェンリルに吸い込まれていく。


「ぐっ、ぐぅ、あ、あっ……」


「おお。力が、力が湧くぞ!!」


 上位騎士が苦しそうにうめいて、目がどんどん虚ろになっていく!? もしかして生気が吸い取られているのか!? 騎士達がぐったりしているのはそういう理由からか!?


「安心しろ、すぐにお前の部下も逝く。くっくっく」


 魔剣の予想大当たりだよ。このままじゃ皆死んでしまう。おい魔剣!!


 キィン?


 あいつと打ち合えるか?


 キィン


 じゃあ、あのエネルギー吸収は防げる?


 キィン


 防げるの!? さっすが!! よし、皆気絶してるみたいだし、あの人を助けよう!!


 体に溜めた魔素を使って全身強化。魔剣は、そうだな……ベルジュに合わせてロングソードにしよう。左手から魔剣を出して、右手に握る。左手にベルジュを握る。予めベルジュに溜めていた神素を使って青い炎を灯す。準備完了。


「そこにいるのは誰だ!!」


 僕に気づいたみたいだ。行くぞ!!


「おらぁあ!!」


 物陰から飛び出し、ローブの男に魔剣で斬りかかる。それをフェンリルで受け止められた。上位騎士はエネルギー吸収から解放され、その場に崩れ落ちた。死んではいないはず。ベルジュで防御されていない部分を斬りつけようとしたけど、飛び引いて回避された。エネルギー吸収から開放された上位騎士は少し何かを呻いて、動かなくなった。気絶、だよね? せっかく助けたんだから死なないでよ!?


「む? なぜその剣は壊れない?」


 黒いローブの男が不思議そうに僕の右手を見ている。


「え? ああ、教えない」


 ベルジュであの剣と打ち合ったらやばそうだ。基本的に防御に魔剣。攻撃に聖剣だな。


「まぁいい。君もおいしそうだ」


 そういってフェンリルを僕へ向けた。魔剣!! どうすればいい!?


 キィン


 避けろ? ……え? 防げるっていったじゃん!? しかも避けるって何を避けるんだよ!! とにかく移動!!


「ちょこまかと……」


 剣先からそれるように動いていると、何とかして僕に剣先を合わせようとローブの男は試行錯誤していた。なるほど。フェンリルの剣先を向けられなきゃエネルギー吸収は発動しないのか!!


「しかし、なぜだ」


 なにが!!

 

「……フェンリルの広域吸収の影響を受けてない。お前は何だ?」


「広域吸収?」


 移動しながら既に倒れている騎士達をよく見てみる。少しずつではあるけど、青い靄が少しずつ溢れて、フェンリルに吸い込まれている。……もしかしてお前が防げるって言ったのは広域吸収のほう!?


 キィン


 それを早く言えええ!! あ~畜生。とにかく、急いであいつを退けないと皆が危ない!!


「喰らえ!!」


「むっ!!」


 魔剣で再び斬り付ける。無論防御される。ベルジュで追撃。回避。相手が反撃に出るけど、クロムン以下の速さなんて僕には通用しない!! 難なく魔剣で防御をして、ベルジュで反撃。


「おらあああ!!」


 魔剣でフェンリルを弾き、ベルジュで攻め立てる戦法。何合か打ち合って、ようやくベルジュでローブの裾を斬ることに成功。浄化の炎は魔素を燃やす炎だから、ローブが燃えたりなしなかった。


「……貴様。もしや右手の剣は神魔剣か!?」


 神魔剣? どこかで聴いたことあるような単語だな。でも、今はそれを気にしている場合じゃない。


「どうでも良いだろう!!」


 今持てる僕の全力で黒いローブの奴をどんどん押していく。だんだんベルジュがローブの男に当たるようになってきた。なぜか知らないけど、ローブの男は僕との戦闘だけでかなり息を荒げている。このまま押していけば倒せるかも! やっぱ、魔剣があれば心強いな。


 キィン


 そうだな、折るのは当分先にするよ!


 キィン


 人は斬りません。


 キィン……


「ちっ……」


 黒いローブの奴は大きく跳び引いて僕と距離を開けた。かなり余裕が無さそうだ。追撃しよう。そう思って前へ走りこむと、急に黒いローブの奴が笑い出した。


「……フハハ!! 簡単すぎると思った。やはり、障害物がないと燃えないもものよ」


 ローブに隠れて顔をしっかり確認できないけど、そんなに面白いのかってほど軽快に笑っている。不気味だな……。ちょっと様子見しよう。


「そ~かい。お楽しみ最中悪いけど、その剣置いて帰るか捕まるかしてもらいたいんだけど」


「まさか貴様のような小僧が神魔剣を操ろうとは」


 話し聞いてないな。神魔剣ってなんだ。この魔剣の名前か? 神の魔の剣って、どっちだかはっきりしない剣だなお前。


 キィン


「神魔剣ってなんだよ。んで、どーすんの?」


「……しらばっくれても無駄だよ。ふふ、なら、仕方ないな、今は引かせてもらおう。但し、剣は持ち帰らせてもらうよ」


 なんだこいつの余裕は? 深追いはやめたほうがいいのか?


 でも、こいつの戦闘能力自体はそれほど高くないし、今は魔剣が使える状況だ。警戒するべき剣の能力も対処可能だ。今のところ術を使う気配もないし、強い術なら放つのに時間がかかる。今の僕なら術を放たれる前にこいつをどうにかすることも出来る。なら、完全に追いきれなくなるまでは剣奪取に動いても大丈夫なはずだ。


 魔素をもう一度溜めなおしたいけど、なぜかあたりに魔素がほとんど感じられないな。


「さて、どう逃げようか」


「逃すか!!」


「ふっふっふ……」


 再び魔剣とベルジュを振るって黒いローブの奴を攻撃する。動きに余裕は見られないけど、さっきから聞こえる笑い声が妙に腹立つ。


「そうだ、最後に面白いものを見せてやろう」


 フェンリルを大きく振って、ローブの男は無理やり僕と距離を開けた。


「神喰らう剣と名づけられた所以となった技だ」


 !? あ、これもしかして引き際見誤ったかもしれない!? 能力発動際に感じる嫌な気配が高まっていく!! ドレインとはまた別の能力を持っているのか!? なんだ、何をするつもりなんだ? 黒いローブの奴がフェンリルを振り上げて……


「防いでみろ、神魔剣所持者なら!! この、神の奇跡を喰らう波動を!!」


 振り払った。その際に目視できる青白い靄が発生して、僕へ襲い掛かる!! 僕よりふた周りも、いや、それ以上に広い範囲だ。


 遅く動いているように見える状態の僕から見ても、靄の動きがかなり速いぞ! 直撃はまずいよな。魔素で身体強化したのが仇になったな。体に魔素がほとんど残ってないから急激に身体強化を高めて飛び引くって行動が取れない!! 回避するのは無理だ! なら、防御しないと……えーと。靄ってどう防御するんだ……!?


 キィン!


 斬れって!? わかった、斬るぞ!!


 靄を狙って魔剣を振るう!! なんの抵抗もなく魔剣が靄を切裂いて、魔剣が通った部分の靄が消失した。青い靄がその消えた部分を補おうとすぐに広がったけど、放たれた直後の青さには程遠い。もう一度剣を振るい、靄をもっと薄めるけど、消し去ることは出来なかった。畜生、もう靄との距離がない!


 頼む、効果がありませんように!!




 思わず目を閉じた。





 ズキン




 あ、れ? 全身が痛むけど、あまり、痛くない?



 と、思ったのと同時に、体のいたる部分から急激に力が抜けて、一瞬で痛みも消えた。なんでだ? 力は抜けたと言っても、立っていられないほどじゃない。何が起こったんだ?


 キィィン!!


 目を開けるな? いや、目を開けないとあいつが何してくるかわからないだろう。そう思って目を開いて自分の体を確認した。


「ひっ!?」


 ……腐ってる!? 腐ってる!!


「うっ、うわぁあああああああああ!?」


 全身が腐って、黄土色へと変色してる!!


「ああああああああああああ!?」


 ずりっ


 嫌な音が聞こえた。それは、肉が腐り、僕から剥がれて落ちた音だった!! 何だこれ!! 何だよこれぇ!? 痛い、痛い!!


 キィン!!


「早く、早くなおれっ!!」


 腐敗した肉が崩れ落ちて、そのしたから新しい皮膚が生み出される。なんだよ、これ、現実なのかよ!?


 痛い、痛い!!


「なおれなおれなおれなおれなおれなおれなおれ! ぐうううう!!」


 全身から蒸気が上がる。激しい痛みが走るけど、歯を食いしばって耐える。だんだん腐敗した肉が次第に元の色に戻り、崩れ落ちた部分は再生された。次第に腐った部分もなくなり、もとの健康状態に戻った。


「はぁっ!! はぁっ……はぁっ……!!」


 回復が終った……。腐敗の力が体の内部に行かないように魔剣がどうにかしてくれたみたいだから、助かった……。


 剣を確かめる。ベルシュに異変はない。しいて言うなら神素が全部消えてる。けど、それ以外は大丈夫。魔剣も大丈夫。剣を握る手に力は篭る。生命体と神素にだけ効果がある攻撃だったのか? え? じゃあ……っ!?


「ひぃ!?」


 見てしまった。


 僕の回りに倒れていた騎士が見るも無残に腐り、崩れ、鎧の内側から赤い液体が染み出ている人であったものを。なんだよ、これ。ホラー映画かよ!?


 骨すらも風化したように、粉になっていた。なのに、液体は体が染み出て、腐敗した肉を染めている。


 乾燥してこうなったんじゃないのか? 赤い。


 腐るってなに? 崩れて、はがれて、ソレデ


 



 キモチワルイ






「うぐっ!?」


 吐き気が……。もう、無理……。


 キィン!!


 !! 今はだめだ、駄目だ駄目だ。吐いたら、その隙に何されるかわからない。


「ふぅっ、ふぅっ!!」


 倒れるな。足がどれだけ震えても絶対に倒れるな。敵は僕を待ってくれない。敵から目を離しちゃ駄目だ。目を離せばその隙は僕を殺す。


「アアァッ!!」


 叫ぶことで、気合を入れなおす。黒いローブの奴を睨む。アンデがしつこく敵から目をそらすなと教えてくれたおかげだ。僕のこんな状態でもなんとか体が動く。


 キィン


 魔剣の心の中に響くこの声が、狂いそうになった僕をギリギリで引き止めてくれた。はぁ……はぁ……!!


 キィン


 でも魔剣のエネルギーが今ので急激に失われた! もう一度同じ技がきたら僕は死んでしまう。


 ……無理だ。こんな奴を相手に平常心で戦えってほうが無理だ!!


「はぁっ、はぁっ、はぁっ!!」


 生きてる心地がまったくしない。一瞬でも気を抜けば自分を保てなくなりそうだ。


 呼吸をするたびに自分の体中から感覚が消えたような気がして、自分の体だと思っていた部分が腐って崩れ落ちた光景が、頭の中で何度もフラッシュバックする。気持ち悪い!! 気持ち悪い!! 


「うわぁ、かはっ、ぁああ……!!」


 くそ! 震えが全然止まらない! な、なんだよこいつ……こんな技を使う相手を追う……!? 無理に決まってる!! 剣を取り返すなんてもってのほかだ。あの技を何発も放たれたら勝てるわけがない!! 逃げないと、次何するか見極めて、隙をついて逃げないと……!!


「ふぅ、お開きだ」


 黒いローブの男がフェンリルを光へ変えて、右手へしまった。次は何をする気だ!? 周りに神素しかないから、魔素を全て開放して神素で最大限に身体強化を施す。魔剣が拒絶反応を起こして、右手のひらが燃えるように熱い。でも、ここで剣を落としたら確実に死ぬ!! 辺りの動きがさらに遅くなる。相手が何を行ってもすぐに対処できるように……集中しないと!


「やはり、エネルギーを使いすぎる」


 不機嫌そうに黒いローブが呟くが、すぐに機嫌を直して僕に語りかけた。


「でも、流石だ。完全に防げなかったみたいだが、見事生きていたな。私はこの結果に満足しているよ」


 僕が生きていたのがそんなに嬉しいのか声に出して笑っている。何がそんなに楽しいんだよ……!! ローブに隠れて顔が見えないけど、さぞかし楽しそうに笑っているに違いない。畜生!


「縁があればまた会おう。フッフッフ……」


 不適な笑い声を残してあいつは去っていった。二度と、会いたくない!!



 はぁ、はぁ……助かった、のか? 黒いローブの奴が僕に振り返ることなく大勢倒れた騎士の上を歩いて、城壁のほうへと去っていった。……。背中からきりつけたら、倒せる?


「む、無理だ……」


 足が、動かない。


 キィン


 ……ああ、ありがとう。助かったよ……でも、しばらく、しばらく休憩。


 キィン


 心配するなって……。体の震えだってすぐに収めるから。大丈夫。大丈夫。僕はくじけない。死なない。


 キィィン





「おーい!! 大丈夫かー!?」


 !! 遠くから声が聞こえる。増援が着たんだ。僕がここにいたら怪しまれるし、万が一魔剣のことがばれたら殺される。まずいぞ、逃げないと!!


 魔剣を左手にしまって、早く逃げないと!! って、わっ!? ……転んじまった。足がもつれて、上手く走れない。震えて上手く走れない。でも走って、すぐにこの場から離れないと、逃げないと。


「ちくしょぅ」


 惨めだ。凄く惨めだ。僕の力と魔剣の力を合わせてもまだ勝てない相手はいる。そんなことわかっていたんだ。わかっていたけど、どこか魔剣を使えば勝てない相手はいないんじゃないかって、出来ないことはないんじゃないかって、思っていたんだ。


「そんなの、アンデのときにわかっていたことなのに」


 数分前まで魔剣があるから大丈夫だと思っていた自分を殴ってやりたい。


「うっ……うぅ……!?」


 !! 目頭が熱い。泣くな、泣くな泣くな!! ここで泣いたら僕は負けてしまう!! この世界で生きることに負けてしまう!! 泣くな泣くな!!


 泣くな!!


「……はぁ、はぁ……あた、ま、いたい……くそぉ」


 頭を地面に打ち付けて、痛みを感じることで気を紛らわせれた。頭から血が流れる。いてぇ……な。


 くそ、くそぉ。


 ……怖い。戦うのが、死ぬのが怖いっ……!! 人のためなら、春と隆介のためなら、シェスや僕の恩人のためなら死んでも、いいと思っていた。そのための力はいつだって欲しい。今だって欲しい。でも、今はそれ以上に僕は僕のために力が欲しいっ!! 



 あんな死に方したくない!!











 そのとき、少しだけ左手が痛んだ気がした。








使用人兼ボディガード生活 34日目

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 向井 夕 (むかい ゆう) 現状


武器   神魔剣?

     聖剣 ベルジュ (青い剣


     ↓修理中

     聖剣 フラン (赤い剣 損傷:大


防具   学生の服(血まみれ)


重要道具 なし


所持金 400ギス


技術   アンデ流剣術継承者


     魔素による身体強化 


     神素による身体強化(初心者)


     異世界の言葉(但し、書けない読めない


     中学2年生レベルの数学


     暗算


     神魔剣制御


     霊感


職業   スタンテッド家使用人兼スタンテッド嬢ボディーガード


2012/05/01 表現のおかしな点を修正。誤字修正。

      青白い波動→青白い靄 へ変更。

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