表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔剣から始まる物語  作者: ほにゅうるい
第二章 神と敵対する剣
28/45

022

彼は自身を思い知る。


 昼休み。うん、時間の流れも元の世界と大差ない。これならすぐになじめると思うな。授業の難度も今日みたいのがずっと続くんだったらやってけそうだ。


「よし、ご飯を食べに行こう」


 もちろんどこへ食べに行けばいいかなんて知らない。これは間違いなく誰かに話しかけてどこにあるか聞かないといけないんだけど。


「……誰もいない」


 頼りのシェスもいないというこの由々しき事態。さらに、編入初日はチヤホヤされるというお決まりも、シェスという存在に馴れ馴れしく関わる愚か者という事で誰一人僕に近寄ろうともしない。


「……あのぉ」


 僕が弱弱しく話しかけるも、気づかない振りをしてそそくさと去っていってしまう。


 ……ぼっち、か。


 別に寂しくないやい。ただ、食堂の場所が分からないのは本当にどうにかならないか……?


 きゅっきゅっ


 ん、なにか、ガラスを布で拭くような音が聞こえる……。この部屋から?


 きゅっきゅっと気持ちいい音があの辺りから……。


「あれは」


 カメラ? 教室の片隅でカメラらしき道具を拭いている……男、かな。髪が長くて分かりにくいけど、胸はないし、多分男だと思う。


 男ならまだ話しかけやすいし、もう部屋にはお弁当持参の女の子しかいない。っていうか、お金持ちばっかりのぼんぼんばっかり来てると思ってたけど、案外普通の子もいるみたい。


 判断基準は、女の子なら、小物や、アクセサリーに注目していればなんとなく判断できる。例えば……いま教室を出て行った女。髪留めに小さな宝石みたいなのがついている。制服のボタンにも普通の人とは違うつやみたいなのがあるのと、単純に高そうな宝石を持っていたりとか。あと、僕が前まで見につけていた神聖術を彫り込んだ道具を身につけていたりしていた。そんな道具を持っていたり持っていなかったりで判断が出来る。と思う。正しいかどうかは分からないけど。


 男でも、そんな感じでそれぞれ持っているものに結構金の差を感じた。


「埃が、まだ少しついてるな……」


 おっと、話しかけるのを忘れていた。観察は後でも出来るや。この男、暗い紫色の髪と目の色をしている。第一印象はカメラ大好きな、いい意味でのオタクって感じがする。制服の色が暗いせいなのか、さらに暗いオーラを纏っているような気がする。


「な、なぁ……」


 きゅっきゅっ


「……」


「僕、ユぅ、ユベルって言うんだけど」


 きゅっきゅっ


「はぁ……」


 きゅっきゅっ


「食堂の、場所を……」


 きゅっきゅっ……


 だ、駄目だこいつ。カメラばっかり気にして僕に気づいていない。これは本当に気づいていない……。なにか、気を引くには……ん? こいつの机の引き出しになにか入って……。……シェスの、写真。ただの写真なのに、凄く綺麗に取れている気がする。


「……ぬ、貴様。何を見ている」


 うわ、凄く低い声出そうとしてるけど、子供っぽい声だからそんなに高い声に聞こえないっ。予想に反していい声してた。


「あ、ごめん。綺麗に撮れているものだから、見入っちゃって」


「……わかるか!?」


 あれ? なんかテンションが少しあがったぞ?


「あ、ああ。僕はユベルって言うんだ。君は」


「僕っちは、クロムン」









 僕っち?










 激烈に僕のつぼに何かが突き刺さった。しかし噴出してはいけない。ここで堪えなければ、僕はまた1人に逆戻りだ。でも、でも、なにその一人称希少価値高すぎだろ!? 元の世界のファンタジーに脳みそを汚染された隆介だってなかなかそんな一人称使わなかったぞ!?


「……? なにか、面白かったか?」


「い、いや、なんでもないぞ。げふんげふん。えっとな、僕今日来たばっかりで、食堂の場所がわからないんだ。教えてくれないか?」


「む? ……むぅ」


 僕とカメラを交互に見ている。まだメンテナンスが終ってないのか。結構時間かけていたように見えるけど……。


「あ、あと、カメラが珍しいんだ。少し、カメラのことについて教えて欲しいなぁって、思ったり……して……」


「……」


「だめ、かな?」


「……食堂、こっち」


 どうやら、釣れたようだ。眼の輝きが尋常ではない。もしかして、釣れたのは僕かもしれない。








「このカメラは単純構造型で、通常レンズと神素注入方式の神聖閃光術リング。フィルムは小型のものがセットできる。神素を一定量注ぎ込むことが撮影トリガーになっている。神素の強さで色々撮影方法を変えることが出来る」


「なるほど、光を投射する原理を全部神聖閃光術の術式で代わりに演算を行っているのか」


「……代わりに演算?」


「えっと、自分の代わりにある程度処理してくれること」


「……そう。その通り」


 どうも、この世界にも撮影する技術っていうのは揃っているらしい。フィルムに光を投影して、写真を作るもの何だけど、面白いことに神聖術を使うことでフィルムに写る前の情報を調整できるみたい。パソコンがないから、撮影時に修正もしてしまおうって言うことらしい。凄いな。


「こっちは複雑構造型可変倍率カメラ。取り外し可能レンズ、今は短焦点レンズをつけてる。それと、神素注入方式2重・3重変更可能神聖閃光術リング搭載。フィルムは大型のものが使える。神素の扱いで光彩と彩度を操ることが出来る。難しい。


 こっちは初心者用、単純構造型の、これには専用のレンズが必要で、僕っちは今短焦点レンズしか持ってない。ただ、これのいいところは大型フィルムがセットできて、交換式神素蓄積方式の神聖閃光術リングが使われている。閃光術の扱いが下手でもこれを使えば一定の美しさで撮影が出来る。初心者用だけど、実はとても上級者にも好かれている。僕が疲れ果ててもこれがあればほんの少しの神素をトリガーにすぐさま撮影が出来る」


 小型フィルムと大型フィルムの違いは、情報量を取り込む上限が変わる上に、写真の美しさも全然違うらしい。


 リングって装置は、カメラの核となる、レンズを通して凝縮して手に入れた光情報をフィルムへ投影する前に通す閃光術で加工することが出来る装置みたい。フィルムに焼き付けるのもリングを扱う部分らしい。


 あんまり饒舌じゃなかったクロムンがここにきて大爆発している。食堂で僕は元の世界で言うチャーハンみたいな食べ物を頼んだわけなんだけど、全然食べる暇がない。


 食堂は思ったより広くて、木の長い机と椅子がたくさん並べられていて、高等部の生徒たちで溢れていた。でも、食堂の広さに対して生徒たちの数は少なく感じた。100くらいかな? そんなに多くはないな。何でだろう。


「それで、このカメラなんだけど……」


「ん、お、おぅ?」


 クロムンが頼んだ、卵と、よくわからない生物の肉をあわせた、親子丼? みたいなものに口をつけずにマシンガントークを僕にぶつけてくる。


 僕個人は楽しいし、こっちの世界のカメラは仕組みを知らないと撮影も難しいみたいだから説明を聞けるのはものすごくためになるんだけど。


 周りの視線が凄く集中して、恥ずかしいのと、早く食べないともう午後の授業が始まっちゃうと言う焦りで色々と困っている。時計って言うのがないから、昼休憩の終わりに合図っていうのが学園に響き渡るって事だったんだけど……なんだろう?


 って、あれ? いやいや、時計あるじゃん。


 食堂の柱の天井付近に円盤型の時計っぽいものがあった。


 僕は初めてこの世界で時計を見た。いや、時計って言うか、ストップウォッチみたいだ。円盤に数字は一切なくて、長い針だけがついていて……ちょっとづつ動いてる。今は、元の世界で言えば長い針は11を刺している気がする。


「ふぅ……始めてカメラの話をわかってくれる人に出会えた」


 ん、僕が始めて?


「カメラってそんなに有名じゃないのか?」


「……カメラでの一瞬を捉える撮影美をわかる人がいなかった」


「こんなに面白いのにな」


 これに関しては激しく疑問だ。美術的なセンスはまだカメラの一瞬の美って奴に追いついてないのかな? 美しい風景探しを旅の醍醐味にしようとしている僕としては、カメラはどうしても手に入れたい一品だ。初心者用の交換式神素蓄積方式のリングだっけ? あのカメラが欲しいなぁ。でも話を聞いている感じ高価そうだ。


「それで、クロムンは何を撮っているんだ」


「……美」


 そういってさりげなく僕に差し出してくれた写真は数を数えるのが億劫になるほどの女の子の写真。僕は1枚1枚丁寧に撮られている女の子の写真をじっくりと眺めて、なにか、心打たれるようなときめきみたいなものを感じた。


 そして、僕は何かに捕らわれたかのように一度視線をカメラに移して、次にクロムンを見る。


 それから起こす僕の行動は、クロムンに頭を下げること。そして


「……師匠と呼ばせてください」


 と言う事。


「……僕っちの特訓は厳しい」


 僕はそれを同意と受け取り、腕を差し出した。そして、僕たちは無言で握手を交わした。そう今の僕達に言葉はいらな


 ゴォーン、ゴォーン……。


 さっと反射的に時計っぽいストップウォッチを見た。ちょうど長い針が、元の世界で言う12の部分を指していた。やっぱりあれ、時計的な役割を持っている……!?


 って気づいたら食堂を賑やかにしていた生徒が誰一人いない!!



「……」


「……ねぇ、この鐘の音。何」


「……お昼休憩の終わりを告げる鐘」


「今僕達に必要なのは、カメラじゃない、スプーンだっ!!」


「「……ッッ!!」」(ガツガツガツガツ









「クロムン。ユベル。私の授業に遅刻とはいい度胸だ。神素呼吸を私の合図が出るまでやっていろ」


 1周1kmはあるんじゃないかと思うくらい大きなグランドの中央で、僕たちは息を切らしてエヌディー先生の説教を受けていた。結局急いで食べたもののジャージへ着替えたり準備を色々していたら、結局遅刻と言う事になってしまった。


「くっくっく……」


 かすかに聞こえてきた笑い声のほうにちらと見てみると、ヤンキーが僕のことを笑っていた。ヤンキーの周りの取り巻きも笑っていた。


 く、屈辱だ。今日は朝からあいつがやたらとうざいぞ……!!


「……ユベル」


「あ、ああ」


 クロムンに腕を引っ張られ、他の人達がなにやら様々な準備運動をし始めた。僕らは、神素呼吸をやらないといけないわけだけど。


「神素呼吸ってなんだ?」


「……基礎だよ」


「……僕、神素苦手で」


 無意識で言ったこの発言が、クロムンの警戒心を引き上げた。突然クロムンから発せられる戦闘の意思に僕は僕なりに警戒心を高めることになった。


「……ユベル。魔素使い?」


「……ど、どちらかと言うと、魔素のほうが扱いやすい。かな。でも、神素で身体強化も出来るし……」


「……」


 しばらく睨み合いが続く。嫌だな。せっかく友達になれそうだった人とこうやっていがみ合うのは……。


「……いや、カメラ好きに悪い人はいない」


 急にクロムンの警戒が解かれて、それにあわせて僕も警戒を解いた。


「なんか、ごめん」


「……僕っちも、ごめん。魔素使いだって、別に悪いわけじゃない」


「……お、おう」


 変なわだかまりを作ってしまったみたいだけど、敵愾心は作らずにすんだみたいだ。まったく、魔素使いは肩身が狭い。早く神素の扱いにも慣れないと……。


 そうだ。最近口開かないけど、僕はちゃんとお前の反応が時々あるの気づいてるんだぞ。


 ……キィン?


 用事ならあるぞ。一応魔剣だから、神素の邪魔してるんじゃないかなって思ってな。出来る限り力を抑えて欲しい。僕もなるべく左腕から魔剣の力がもれないようにコントロール手伝うから。


 キィン……


 おう、ありがとう。あと、お前なんだか眠そうだな。大丈夫?


 キィン……


 ? まぁ、いいや。よし、左腕にある魔剣の力を抑えて……右側の体をフリーにする。


「……いい?」


「あ、うん」


「神素呼吸は……」


 体に神素を上手く大量に取り込む訓練法らしい。普通皮膚から神素やら魔素やらを体に取り込むわけだけど、呼吸法を少し意識することで、神素を多く含んだ空気を体に取り込んで、体の中で神素を取り込む技術らしい。もちろんその魔素版、魔素呼吸って言うのもある。


「おぉ、凄い……」


 体の中に急激に神素が満ちるのがわかる。普段意識することない肺の中に多くの神素の気配を感じることで肺を意識することが出来る。なんか、これ、気持ち悪い。


「……ユベル上手い」


「へへっ。でも、呼吸法は出来ても上手く体に取り込めないんだよな」


 やっぱり、魔剣はあまり関係無さそうだ。本当に僕の体が神素に適してないのかな。


「……神素体に集めるとき。どうしてる?」


「え? えっと、体の奥底にある部分に、神素を溜めようと」


「……それは、魔素のやり方って聞いたことある」


 え? 魔素と神素で溜め方が違うの?


「……神素は、体の隅々まで行き渡らせるように。最初のうちは、神素呼吸をしながら、吸った空気を血液にのせてちょっとづつ充実させていくようなイメージ」


 クロムンが目を瞑って、ゆっくりを呼吸をし始めた。すごい。神素の掃除機みたいに口にどんどん神素が集まって、クロムンの中に吸い込まれていく。


 時間をちょっとづつかけることで、どんどんクロムンの神素濃度が上昇しているのがわかる。体全体から神素を発しているような、そんな雰囲気を感じる。そういえば、クリスもそうだったな。全身から神素の波動が出てた。このあいだ少しだけ見たルニ姉さんも、馬鹿女もそうやって集めていたような気がする。


 あんなイメージで神素を取り込めばいいのか?


「……ふぅ」


 クロムンの1度のため息で一気に神素が霧散する。そして、もう一度神素を集めて、もう一度開放して。これを繰り返して練習するのが神素呼吸。


「よし、僕も……」


 神素を、体中に染み渡らせる……!!





「おい遅刻2人。もういいぞ。皆身体強化の練習している。この後の摸擬戦に響きかない程度に身体強化の練習をしておけ」


「はい」


「ユベル。お前の模擬戦武器だ。木剣だ」


「ありがとうございます」


 うわ、かなり軽い。鍛錬のときに使ってた木刀より全然軽い。


「……ユベル」


「はい?」


 エヌディー先生に呼び止められた。なんだ?


「なぜ魔素で受験した? そのレベルなら神素でもよかっただろう」


「は、はぁ。えっと、魔素のほうが自信があったので……」


「そうか。だが、安心したよ」


 そういい残してエヌディー先生は去っていった。なんというか、僕はまだ五分以上神素で身体強化を続けられた経験がないから神素で受験なんて怖くて出来なかったよ。


「じゃあ、クロムン。ちょっと休憩してからやろう。この神素呼吸思ったより疲れるね」


 ふぅ~。エヌディー先生に言われるまでひたすら、30分くらいかな? ずっと神素呼吸の練習してたけど、結構意識して息しなきゃいけなくて、精神的に疲れるよ。


 それにしても、ジャージ。1年ぶりくらいに着たな。この世界にもジャージってあるんだな。思って頼り生活水準低いわけじゃないのかも……。ていうか、ジャージで模擬戦やるのか? 痛くないのかな……。いや、身体強化してたら少しなからず体が強固になるし、動きが早くなるから無駄に強固な装備よりジャージのほうが運動に向いてるのか。


「……ユベル。神素呼吸上手いね」


「ん?」


「……本当に魔素しか使かえなかったの?」


「あ、いや、魔素のほうがやりやすかっただけで、別に魔素しかってことは」


「……ユベル。ごめん」


 あ? 一体何に謝ってるんだ?


「よ、よくわからないけど、気にしてないさ。ほら、僕沸点低いし」


「……普通、沸点高いって言う」


「あれ? 低いほうが怒り難いんじゃないの?」


「……逆」


 あ、あれ?


「ま、ま、まぁ、ほら、身体強化しようぜ」




Side クロムン

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ……このユベルって言う僕っちの新しい友達はかなり変だ。


「あっち、あちぃいい!?」


 ……神素での身体強化をし始めたのと同時に左手を押さえて熱がり始めた。


「が、我慢できないほどじゃないけど、摸擬戦で左手使えるのかこれ……?」


 ……挙句の果てにはぶつぶつと呟きだした。


「な、なんだよ。別に邪魔したわけじゃ、それよりこの熱いのを……」


 ……誰と話しているんだろう?


 ……このユベルって人。面白い。最初魔素を扱うから、嫌だと思ったけど、やっぱり、魔素使いが悪いわけじゃない。魔素を扱う人に悪い奴が多いだけなんだ。


 ……それに、ユベルは神素を今日始めてまともに身体強化に使ったって言ってたけど、かなり上手い。無意識かもしれないけど、長時間使用できるように、細く強く、きめ細かく神素が練られている。どうしてそんな練り方になっているのかは知らないけど、この練り方なら神素の出力しだいで瞬間的に力を高められる。


「な、なにかな? ぼ、僕、なにかついてる?」


「……変な虫がついてる」


「え? どこどこ?」


 ……嘘だ。ついてない。それに気づかないユベルはひたすら僕っちが指摘した虫を探している。


「よーし。適当にペアを作って、摸擬戦を開始しろ。寸止めにしろ。怪我したら、怪我した奴が悪いからな。必死でやってくれ。身体強化無制限、武器強化は禁止だ」


 ……エヌディー先生の指示が大声で飛ぶ。神聖波動術が少し応用されていて、少し遠くへ声が届くような術だ。その合図を受けて、腰に挿していた木の短刀を2本取り出して右と左に握る。


「……ユベル」


 ……僕っち、ユベルがどれくらい強いのか気になってきた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「!?」


 クロムンから爆発的な神素の集中が感じられる。咄嗟に、木剣を握って、クロムンへ向き直る。クロムンが高速で接近してきていた。僕は迷わず神素による身体強化を施して、急激に速度が落ちたように見えるクロムンと、クロムンの握る短刀にあわせて木剣をクロムンの突っ込んでくる進行上に置くように突き出す。


 ぐっ、左手が、あつい!!


 クロムンは木剣を右手に持った木でできた短刀でそらして、左手の短刀で僕の腹部を狙ってきた。


 僕は反射的に爆発的に足の神素量を増やして脚力を強化。飛び引く。ただ、魔素と違って予め体にみなぎらせている神素があるって言うのに、体中から集める感覚で足を強化したせいで思った出力以上に強化されてしまった。


「うわぁあ!?」


 自分からぶっ飛んだ形になった。か、かっこ悪い!?


「ぶへぇ!」


 そのまま着地も出来ずにぐちゃっと地面に潰れる。痛い!! 思わず地面に手をついたせいで手首をちょっと痛くしちゃった!!


 あーもう左手が熱っぽいのが気になるなぁもう! 魔剣の拒否反応なんてものがあるなんて思わなかったよ!!


 意識的に左手の身体強化のレベルを下げてみるけど、完全にゼロにすると、今度は体の動きに左手だけついてこれないってことになるし、あー面倒だなぁ!!


「……お見事」


 クロムンが武器を持って、構えたまま、にやりと笑った。


「かっこ悪かったけどね……」


 僕は悪態をついて、木剣を右手一本で握り、左手をそえて構える。一応、二刀流の戦い方は知ってるし、何とかなるかな?


「にしてもいきなりすぎない?」


 魔素に対しての敵愾心が高まりすぎて、やっぱり僕を攻撃したくなったのかとも思ったけど、そういうわけでは無さそう。


「びっくりして今日もう何度目になるかわからないいやな汗をかいているわけなんだけど」


「……ごめん。でもユベル強そうだったから」


 ……。


「……照れてる」


「そ、そんなことないよ」


 クロムンが突っ込んできた。顔は笑顔のまま。やっぱり。純粋に戦いを楽しんでいるみたい。これなら僕も気兼ねすることなく戦える!! 左手を自由に使えないのは残念だけど、仕方ない!!


「ふぅ!!」


 僕もクロムンに向かって走る。クロムンが僕の行動に焦って右手を突き出してきた。それにあわせて僕は木剣を右手首に振り下ろす。すぐに落ち着きを取り戻したクロムンは突き出した右手を引き戻して、コマのように今まで突っ込んできたエネルギーを回転エネルギーにかえて、左手の短刀が僕の首を狙ってくる。


 僕は落ち着いて短刀のリーチを見切って、体を急激にそらして余裕を持って避ける。そのまま身体強化の性能に任せて、右足でクロムンへ蹴りを繰り出す。


 狙いは胴。


 でもそれを右手で防がれた。そして、素早く左の握りこぶしが飛んできた。僕はそれを木剣の柄で受けて、頭突きを繰り出す。クロムンも頭突き。


 そして、お星様が見えた。


「いってぇええ!? めがちかちかする……!!」


 頭突きしたほうがやられてるってどういうことだよ!?


「……まだまだ、身体強化が雑」


 クロムンはまったくダメージを受けていない様子だ。


「ちっくしょ~。まだまだ!!」


 木剣を連続で振りおろして、クロムンを攻める。でも紙一重でクロムンに回避されたり、短刀で攻撃をそらされたり、巧みに僕の攻撃を無力化していく。


「……ユベル剣術習ってる?」


「よ、よく、わかるね!!」


 僕の息が上がってきて、嫌な汗どころか普通に汗をかいてきた僕に反して、クロムンはまったく汗をかいていないし息切れもしていない。くっそー!! 格が違う!! まだまだ神素での強化が下手な証拠だ!!


「……ふっ」


 攻守逆転!?


 僕が剣をおろすタイミングを読んで的確に短刀を突き出してくる!! 小回りが利かない木剣じゃ、柄を立てにしたり、手首をはじいたり、体を捻ったり、刃が返ってきた!? 突き出した刃がそのまま横なぎに!! 右手を盾に防ぎょ


「がっ!!」


 なんだそれ!? 力が違いすぎ、体が浮






 気づいたら僕は倒れていた。


「……ごめん。大丈夫?」


「い、いや、いい経験した……」


 身体強化って凄いな。僕と刃の距離が全然ないから手を盾にしたら大丈夫だと思ったのに……。想像以上に力がこもってて吹っ飛ばされた。


「……ユベル。強いね」


「クロムンこそ」


 くっそ~。悔しい。負けた。ボロボロだよ、ボロボロ。こんなにボロボロにされたジャージにも穴とか開いてるんじゃ、ないのかな、って、あれ、穴開いてない。このジャージ思った以上に頑丈だな……。元の世界と同じ、ナイロンとかで出来てるのかなと思ったけど、実は違うのか?




「ははは、無様だなユベル!!」




「あ、ヤンキー」とその一味がわざわざ僕とクロムンにところにやってきた。一体何用だ?


「や、やんきー? 俺の名前はグレッドだ、覚えておきな虫!!」


 やべ、思わず口から出てしまった。でも元の世界の日本語の発音だったからなんていったかばれなかったらしい。よかったよかった。


「クロムンはこのクラスで誰よりも弱いんだ。それに負けるなんてなぁ~。お前最弱だぜっ!?」


「は?」


「どうした? 腹でも立ったか? ハッ、来いよ相手してやるぜ?」


 にやにや嗤うグレッド、もといヤンキー。いや、僕が気になったのはそこじゃないんだけど。


「今のクロムンが、最弱?」


「ああ、そうだぜ?」


 次に僕はクロムンを見る。暗い紫色の瞳と僕の視線と交差する。昼のときとあんまり差がないように感じるけど、何か目で訴えているのがわかる。


「……そっか最弱か」


「……はっ、とんだチキン野郎だな。ここまで言われてかかっても来ないとは、本当に男かお前?」


 言いたい放題である。でも別に癇に障ることじゃないし。


「へぼっちょろい剣技振り回しやがって、へへっ。弱い者同士傷でも舐めあってるんだなははははっ」


 へぼっちょろい剣技? 僕は神素を集めて、僕の傍から遠ざかっていくヤンキーを追おうとする。が、それはクロムンによって阻まれる。


「……ユベル」


「何?」


 邪魔をしないで欲しい。あいつをぶちのめさないと気がすまない。


「……色々、抑えて」


 む、せっかく集めた神素に、微妙に魔素も集めちゃってる。くそ、落ち着け~。落ち着け~僕。


「くっそ。剣技のことは馬鹿にはさせないぞ……」


「……大切な剣技なんだ」


「僕なんかの命なんかより、大事だ」


 この剣は絶対に、馬鹿になんてさせない。


「……ユベル?」


「ん、どうした」


「……すごく、悲しそう」


 へ? 僕今珍しく怒ってるんだけど、悲しそうって。そりゃ見間違いだよ。


「はっはっは、冗談が上手いな」


「……冗談じゃないけど」


 冗談じゃないって、意味がわからないな……。今全然悲しくなんてないし。


「それより、クロムンはなんで強さ隠してるんだ?」


「……わかる?」


「神素呼吸のときに集めてた神素量と今戦ってるときに使ってた神素量全然違う」


 もっと柔軟で綿のようにふわふわで、布のようになめらか。とにかく凄くやわらかい。それでいて濃密な神素だった。イケメンのクリスには程遠い密度だけど、神素の練り方はイケメンに近かった。


「……感性高いね。このクラスでも僕っちのことに気づいてるの1人しかいない」


「へぇ~。誰?」


「……シェスさん。あの人は僕っちより全然強い」


 クロムンより全然強い? え? なにそれ?


 クロムンに勝てない僕だから言うけど、僕なんていうボディガード本当にいるのかディモンさん!?










使用人兼ボディガード生活 1日目

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 向井 夕 (むかい ゆう) 現状


武器 神魔剣?

 聖剣 フラン (赤い剣

 聖剣 ベルジュ (青い剣


防具   ジャージ


重要道具 なし


所持金 1万ギス(お小遣いに貰った)


技術   アンデ流剣術継承者


 魔素による身体強化 


     異世界の言葉(但し、書けない読めない


     中学2年生レベルの数学


 暗算


 神魔剣制御


 霊感


職業   スタンテッド家使用人兼スタンテッド嬢ボディーガード






2012/3/11 誤字脱字の修正と内容の一部変更

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ