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魔剣から始まる物語  作者: ほにゅうるい
夢の中 ユウの始まり
22/45

2


彼の幸せは、すぐ傍。


不幸も、またすぐ傍。


 言葉が通じないのは本当に大変だ。ディハイルさんは凄く優しい人で、焚き火で焼いた魚を1尾くれたり、小屋に泊めてくれたり、物の単語を教えてもらったりといろいろ世話してもらった。


 この魚が非常に美味しくて、思わず声を上げて驚いてしまったくらいだ。ただ、見た目が元の世界の深海魚みたいにグロテスクで気持ちが悪いと言うところを除けば完璧な食べ物だと思う。小屋は本当に小さくて、ディハイルさんと僕が小屋の中に入るだけでも結構手狭な感じだったけど、小屋の中にほとんど物がなくて寝る場所の確保には困らなかった。

 小屋の中には、弓と、矢。あとは、山のように積んである薪と斧。布団とシーツ。本当に、それくらいしかなかった。薪は外に置けばいいんじゃないかと思ったけど、それを伝える言葉もないから、どうしようもない。


 翌日。僕が異世界に来て2日目。









 朝目が覚めると、僕はなぜか裸だった。









 え、なにそれ怖い。


 すぐ近くに服がおいてあったので、掛け布団にしていたシーツを身に纏い、よたよたと小屋の中を移動して目的の服を入手すると、そのままもぞもぞと布団の中で着替えた。ちょっと、でかい。ディハイルさんサイズ? いや、違う。服が適当な長さで切りそろえられてる。僕用にもとからあったディハイルさんの服を切ったものだろう。


 小屋の中にディハイルさんが居なかったので、すぐに小屋の外に出てみた。すると、また魚を2尾焼いていた。


 主食は魚なのかな。そして、ものすごい小食。僕個人としては食べたりないんだけど、それを伝えるすべもないし、ただ飯を食べさせてもらってるのにそんなことは言い出せない。


 適当な場所に腰を下ろして、また何の魚なのか良く分からないグロテスクな焼けた魚を1尾貰って、口にした。昨日も食べたけど、この魚美味しいわ。脂が乗ってて、それでもってしつこくない。さくさく食べれてしまう。ちょっと塩分が足りないから醤油が欲しくなるな。


「----?」


「えっと?」


 多分、美味しい? って、聞いたんだよね。


「美味しい」


 ディハイルさんが喋ったことを疑問形にならないように聞きまねで喋ってみた。


「-----!」


 どうやら、あっているらしい。笑顔で何度も肯いてくれた。なるほど、この言葉は美味しい、って言葉なんだな。……言葉が通じないってこんなにも不便なんだな。元の世界に戻れたらもっとまじめに英語の勉強しよう……。


 ……。にこにこいい笑顔だなぁ……。


 僕、こんな素敵な女性に裸見られたんだ……。


「---?」


 恐らく僕は今顔真っ赤だろう。きっとディハイルさんは気にしていないんだけど、僕に言わせてもらえば大変遺憾な出来事である。そう、あってはならない。これは黒歴史。……つまり、恥ずかしい。


「気にしないでください……」


「……?」


 魚を食べ終わったディハイルは急に立ち上がって、小屋ではない、木々の向こうを指差している。向こうに行こうってことなのかな?


 何をするつもりなんだろう。でも、ここで拒否しても、何も始まらないし。もしかしたらお手伝いを頼まれているのかもしれない。ここは1つ。頷こう。


 ということで、僕は頷いた。ディハイルは笑顔でバケツをふたつ僕に手渡して、自分は弓と矢を装備して、バケツを1つ持った。これから察するに、水汲みにいこうってことなのかな。





 結果から言うと、ちょっと違った。


 そして、僕は驚く羽目になる。


「……シッ!!」


 ディハイルさんが一息に張り詰めた弦を放すと、弓から放たれた矢が寸分狂わず水中の魚を射抜いた。これで6匹目だ。


 いやいやいやいや、普通釣竿をですね、使いますよ。普通の人は。なんて驚きながらももくもくと僕はその射抜いた魚を集める。矢を抜いて、バケツに入れる。うわ、ぬめぬめしてて見た目どおり気持ち悪い。でも文句を言ってる暇はない!!


 少しくじけそうになった心に自ら喝!


「---!!」


 なんて思考していたら、ディハイルが嬉しそうにさらに1匹持って戻ってきた。穴が開いた魚から血がだらだらと流れて、そのままディハイルさんの腕を伝っている。


 血まみれなのがちょっとグロイです。


 引きつった笑いを浮かべている僕の反応が残念だったのか、ディハイルさんはしょぼくれてしまった。


「いやいや! 別に残念だったとか、思ってないですよ! 気を落とさないでください!」


 言葉は通じないだろうけど、こういうときはフィーリングが大事! 口を動かして、肩を叩いて、嬉しさをアピール!


 ほら、僕はこんなに嬉しいですよ!!


 そんな僕の真摯な気持ちが伝わったかどうかは分からないけど、ディハイルさんはにっこりと笑ってくれた。つ、伝わったのか今の? とにかく適当に手を振り回していただけだけけど。


 ディハイルさんは僕の疑問とは関係なく、ただにっこりと微笑んでいた。


 僕もなんだか、その笑顔に引きつられて、笑ってしまった。



 そんな、元の世界のような休日を過ごした。


 その日の晩はグロテスクな魚を2匹食べた。結構お腹が満たされた。このとき初めてディハイルさんが薪に火をつけるところを見たんだけど、薪にへんな液体をかけて、それを火打ち石を使って引火させて燃やすってやり方をしていた。


 なんだろうその変な液体。オイルっぽいけど、そうじゃないような、何だろう。




 なんだか、こっちの世界でも僕はやってけるんじゃないかな。ディハイルさんは良くしてくれるし、いい人に出会えてよかった。頼りっぱなしじゃいけないし、迷惑になるかもしれないけどどうにか言葉を教えてもらって、まじめに手伝いできるようにならないとなぁ。


 このときの僕は本気でそう考えていた。


 明日も、こんなのほほんとした1日が来ると信じて疑わなかった。


 なのに、良くないことは続くものだ。


 



 僕が何をしたって言うんだ。


 火事で人助けもしたじゃないか。


 すこしくらい、報われてもいいじゃないか。

 




異世界生活2日目

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 向井 夕 (むかい ゆう) 現状


武器 ???


防具   普通の服


重要道具 もってない


所持金  500円


技術   剣道


     中学2年生レベルの数学


職業   中学二年生だった


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