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彼は今、殻の中
僕はボロボロで、月明かりが少しだけ差し込む暗い洞窟に入った。で、地面に落ちていたボロボロで変な形をした剣を拾った。
本当にボロボロだ。刃の部分がほとんど錆びていて、微かな月明かりだけでも刃こぼれがはっきりと分かるくらい、刃がボロボロだった。これ、剣として使えるのか?
ちょっと振ってみよう。
重さ的には、木刀くらいかな。鉄で出来てるんだろうけど、この軽さはおかしいな……。でも、手に妙に馴染むし、振りやすいって点じゃ、変に本物の重い剣を振るうよりいいかも。模造刀を持ったことあるけど、あの重さはびっくりしたもんなぁ……あれを中学生が振り回すって言うのは無理だよ無理。
……ん、あれ、熱い。左腕が、熱
「あっつっ!?」
なにこれ、左の二の腕が、熱い……!! 何がどうなって……!!
急いで左袖を巻くって、ってああ、服が炭化してたから簡単に破けちゃった!! て、暗いな、見えない!! 洞窟に出て、月明かりを頼りに。
「ん、え、タトゥー?」
僕の左の二の腕に黒い模様があった。ちょうど二の腕を一周するように、輪になっていた。僕はこんなタトゥーは前からしてなかったし、今出現したんだと思うけど、一体なんで? この剣のせい??
キィン
ん、今頭の中で声が聞こえたような。
キィン
人を、切りたい?
キィン
人を……
キィン
キリタイ
キィン
……ははっ。
僕は別にそんなこと無いんで。他の人にお伝えください。
キィン!?
なに驚いてるんだよ。つか、お前誰。刃鳴りみたいな音するから……もしかして、剣?
僕は先程拾ったボロボロで切れ味が非常に悪そうでお世辞にも武器とはいえない武器を見た。見てみたけど、まぁ……口なんてどこにもないし、ただのボロボロの剣にしか見えない。
キィン!!
なに怒ってるんだよ。事実を述べたまでだろう。ってやっぱり剣が喋ってるの!? もう、僕幻聴まで聞こえるように、なってしまったのか。仮に現実だとして、物が喋るなんて物凄くファンタジーだけど、お前切れるのか?
……あ、黙りやがった。やっぱり何も切れないんだろ? 捨てようかなぁ……。木の棒のほうがまだ軽くて使いやすそう。
キ、キィン!!
生命力あるモノなら切れるって? 本当かよ……? にしても、ここはファンタジーの世界なのか? 意思を持つ剣とか、元の世界じゃ聞いたことないし。にしても、結構この剣でかいな。運ぶのが面倒だなぁ。鞘とか無いのかな。このまま背負うには危ないって何だ!?
急に薄く輝いたと思ったら、光になって、僕の左腕に消えた!?
な、なにそれ!? 本当にファンタジーなのかよ!? 半ば幻聴だって諦めてたんだぞ!?
キィン
うわ、なにその自慢げな声。腹立つ。どうやって出すの? ……あ、いや。なんか。体にあるって言うのがわかる。これをこのまま、出す!!
僕の予想通りに、左腕から光が現れて、光が剣をかたどって、具現化した。これは、魔法の剣か?
よし、早速腹立ったからへし折ろう。
キィン!?
ばかじゃないよ。ボロボロで勝手に人の体に住まおうとしているヘンテコな武器なんて必要あると思わんでしょ。まぁ、代理品が見つかるまで、保留だな。
てか……ファンタジー世界。なのかな。異世界に着ちゃったのかな……。それとも天国ってこういうところなのかな。いや、僕が天国に来れるとは到底思えないし、地獄……? それを考えるのも保留にしよう。
洞窟を出たらどこは一面木々が生い茂る、森って言うのかな。そよ風が吹くたびざわざわ木々が鳴いてるようにも感じる。まだ夢を見ているなんてことは、ないよな。こんなはっきりとした夢なんて見たことないわ。ファンタジー世界だよ。……でも、もう少し現実逃避しよう。
現実逃避しながら現実を見よう。とにかく、こんな暗い洞窟付近でうろうろしてても餓死するし、どうにか人のいる場所に移動しよう。
ん? 向こうの木々の隙間から煙が見える。火でも炊いてるのかな? もしかして、人がいるのかも!!
僕は剣を左腕にしまって、その場所目指して歩き始めた。幸い、靴があんまり被害を受けてなかったから、森の中を歩くのはそれほど苦じゃなかった。問題は肌寒さだった。気温的に、これは春かな。春の夜はまだ寒い。ボロボロの服じゃ今晩過ごせたとしても次の晩を過ごせるか怪しい。どうにか助けてくれる人を探さないと本格的にやばい。
うわ、そう考え始めたら、へんな冷や汗出てきた。どうしよう。死を覚悟してこの世界に来た手前、ちょっとまた死を覚悟するのって結構、来るものがある。あの時は緊急で必死だったから、今回は時間があるから変なこと考えて、ちょっと怖くなる。
「はぁはぁ……」
あーやめやめ!! とにかく、人を探そう。
数十分歩いて、たどり着いた場所は木の背より小さな小屋と焚き火と、開けた空間があった。最近火をつけたものなのか、焚き火に使われている木が全然燃えていなかった。燃え始めみたいな。とにかく、これで人がいることはわかった。
「……火がついてるし、誰か居るよね」
焚き火の近くに水がたっぷり入っているバケツが置いてあったし、ちゃんと後のことを考えてる。なら、ここから遠く離れてるってことはないと思う。きっとちょっと席をはずしているんだろう。
もしかしたら小屋の中?
と思って、小屋の扉をノックしてみたけど、中からの反応はない。失礼だとは思ったけど、窓から中の様子を確かめた。うん、人の影なし。
勝手に小屋にあがるわけにも行かないし、少し待っていよう。僕は小屋近くに座り込んで、ため息を着いた。なんだか、疲れた。
キィン
はー。だから、人は切りません。
キィン……
いつ切るの、って言われてもなぁ……。そうだな、僕がどうしても殺したいと思うよう、場面なら。殺したい理由がある敵がでてきたら、切ろうかな。
『良いだろう、契約……だ』
……? 今すっごい渋い声で喋った? 聞こえなかったんだけど。 ……お、おーい。急に喋らなくなるなよ……。
「-----!! ---!!」
まったく僕のわからない言語で女性が叫んできた。急な叫び声に僕は心臓が飛び出るんじゃないかと思うくらいどきっとした。僕は剣から意識をはずして、声の主へと視線を向ける。すると、30代くらいのおばさんが弓を構えて僕を狙っていた。思わず手を挙げて、戦意がないことを相手に知らせた。相手が戦意がないと理解してくれたらだけど。
それに……え? 今の何語? 英語じゃないし、日本語でもない。これは、隆介風に言うと、オワタかもしれない。
「-----!! ーーー!?」
おばさん、は失礼だし、とりあえず謎の女性は、薄い緑色の髪と薄い緑色の瞳をしていた。そして、ものすっごい細身。ちゃんとご飯食べてるのか心配になるほど。身長は、僕よりずっと高い。170はあるんじゃないかな。
お、落ち着け。とりあえず、相手とコミュニケーションをとらないと……。
「え、えっとですね。僕は向井夕といいます。ユウです」
「!? ----?」
コミュニケーション取れない!! どうすれば。
……って、あの。なにかついてますかね。僕の体をじろじろ見て観察して、なんだか恥ずかしい。
「あのー。一晩泊めて欲しいのですが」
「---」
弓を下ろしてくれた。言葉が通じない相手だって理解してくれたのかな。それとも、特別な事情があると察してくれたのか? と、とにかく、こういうときはどうしたらいいんだ。学校じゃこんなの習わないし、えっと、初めてあった人とはとりあえず自己紹介が必要なのかな?
僕は自分に指差して
「ユウ」
と告げてみた。女性は首をかしげた。うーむ。伝わらない。僕はその行動を何度か繰り返してみた。
「ユウ---?」
「そう、ユウ!」
「ユウ」
伝わったー!! ジェスチャーはこの世界でも通じそうだ!! すると女性も自身に指を当てて
「ディハイル」
「ディハイル?」
そういうと、嬉しそうに肯いてくれた。ディハイルさんと言うらしいな。
僕の異世界の初日はディハイルさんと出会うことで始まった。
異世界生活1日目
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向井 夕 (むかい ゆう) 現状
武器 ???
防具 燃えカスの服
重要道具 もってない
所持金 500円
技術 剣道
中学2年生レベルの数学
職業 中学二年生だった
どうもお待たせしました。再開です。
二章の前に、ちょっとした過去話になります。
更新頻度はだいたい3日おきに1度を目安に更新していく予定ですが、思った以上に下書きが進んでおりません。うむむ……。
あ、更新時間は6時に変更しました。
12時更新だと、読者数が日数で大きく割れるので少し早い時間帯を選びました。