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魔剣から始まる物語  作者: ほにゅうるい
第一章 異世界の剣士の一年
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001

彼は助けられる。人の手が彼を明るみへと運んだ。彼の運はここで尽きる。残るは悪運か。

 僕は向井むかい ゆう。男だ。


 趣味は観光名所巡り。趣味にはお金は惜しまない。と言っても、まだ日本の数箇所しか見て回れない程のお小遣いしか持ってない、一般的な中学2年生だけどね。観光にロマンを感じて観光名所巡りをしてるけど……。未知かつ未発見で、誰も見た事のないような絶景を探すって事をしたいと思っている僕としては、ちょっと物足りなさを感じる。今やインターネットやら、雑誌やら、何かを使えば簡単に絶景の写真が簡単に手に入る。そういうのをデータとしてじゃなくて、生で見るってのも観光の醍醐味だろうけど、やっぱりちょっと物足りなさを感じる。


 勉強には普通に熱心で、スポーツもそこそこやっていると自負している、普通の中学生。






 だった。








「小僧! さっさと掃除を済ませろ!」


「ごめんなさい……」


 怒鳴らなくても掃除くらいするよ。飯を食うには仕方ない。さらに言葉も教えてもらってるのだから、頭が上がらない。けど腹は立つね。はぁ……。


「いいか。俺の食堂で失敗はゆるさねぇからな!」


 失敗って言っても、言葉を知らない僕にどう仕事しろと! とりあえず、ウェイターみたいな事はやって手伝ったりはしてるけど、言葉が上手に操れないから注文を受け取るのも難しい!


 とにかく、今は掃除。掃除機的な道具が無いから、拭き掃除が基本だね。今はあったかい時期だからいいけど、冬みたいな寒い時期になったら僕はシンデレラになれるんじゃないだろうか。……ってあれ、おっさんどこいくんだ?


「アンデの、店長、どこ、行く?」


「買出しだ! 仕事を済ませとけよ!」


 と、アンデが店のドアを激しく開け閉めして出て行った。あれだ、カルシウムが足りてないな!




 ……はぁ。まさかここが異世界なんて思わないよなぁ。もうあれから33日経つけど、慣れないよなぁ。



 僕が異世界って気づくのには時間はかからなかった。初めて会ったあのおっさん、アンデが種も仕掛けも本当に無い手のひらから急に炎をだす、元の世界で言う、魔法を使っているところを目撃したからだ。魔法と言うと奇跡を起こしたり、RPGで出てくるモンスターを倒すために扱われたりするけど……。アンデは生み出したその炎を、食堂で料理を作るときに使っていた。


 まぁそれ以外にも、アンデに会う前に、景色とか、村とか、森とか、あと、盗賊とか。元の世界じゃ非常識な出来事があったから、うすうす感づいてはいた。けれど、なんだか、魔法を見るまで実感を持てなかったっていうのが本音。


 とにかく、こりゃぁ、もう異世界としか言いようが無いと僕は確信したんです。隆介が非常に行きたがっていたから、変わってあげたい気分だ。良い事何て全然ない世界だよって諭してあげたい。魔法が使えたらどれほどかっこいいか、とか事あるごとに嘆いていたからね。ただ異世界の魔法使いは料理屋を営んでいて、魔法で料理を作っているだけで、そんなにカッコイイわけじゃない。いつかもとの世界に帰れたら隆介に教えてあげよう。


 よしっ、掃除おっしまい。うむ、ほこりのある部分が見つからない綺麗具合だ。アンデもこれには大満足のはず。家事は得意なんだよね。さて、休憩……っと、まだ仕事が残ってた。インクと紙が視界に入ってしまった。


 ……はぁ、食うためには仕方ない。仕事を済ませてしまおう。ペンはどこだ?


 えっと、これ、どう読むんだっけ? 売り上げ、だっけ? う~ん、忘れた。英語っぽいけど英語じゃない言葉だから、聞く分にはあまり苦労しなかったんだけど、話す、読む、書くとなるとだいぶ苦戦する。なんだこのふにゃふにゃした文字は。英語だってもっと直線が多いぞ。もう1月くらい過ごしてるからちょっとづつは話せるようにはなっているけど、苦労が耐えないぜ。ホームステイってこんな気分なんだろうな。


 ただ1つ救いだったのが、数字の概念が元の世界と一緒だった事だ。だから僕は会計の仕事とか、主に数字に関係する仕事をアンデ店長から貰えて、今がある。


 実際僕はかなり運が良かった。アンデに拾われなかったらと思うと、異世界のきれいな景色を見れずに死んでしまうところだった。意味も無く怒鳴り散らす人だけど、根は優しいと思う。ご飯はお腹いっぱい食べさせてくれるし、教え方は上手くないけど、一生懸命言葉を教えてくれようとしてくれるし。……腹立つけど。


 せっかく言葉も覚えて、お金も稼いでるからいつかはこの世界の名所とか観光をしたいな。けど、今の生活もままならない状況じゃそんな事も言えないよな。この店に借金もあるみたいだし、どうにかして現状を打破しないと。元の世界であった小説とか漫画みたいなファンタジーの世界だから、戦ってお金稼ぎなんて、出来るかな? ……いや無理だよなぁ。例え戦ってお金を稼ぐ仕事があったとしても、僕なんかすぐ死ぬよなぁ。剣道はやってたけど、魔法は知らないし、現実は甘くないよなぁ。


 この魔法っていうのが曲者で、三年間訓練しないと使えない上に、魔法使うには免許がいるらしい。とてもじゃないけど今は訓練してる暇なんてない。……っあ、ここ計算間違った。消しゴム……なんてないよな。紙は貴重品なのに、おっさんごめん。


 にしても、正直この借金は無いよなぁ。なんでこんな借金あるんだ? 謎だ。家の事情とかまったく話してくれないし、強そうな体してるのに騎士って職業はやりたくないって言うし。騎士のほうがいい生活してそうなんだけどなぁ。それに、なんだこの修繕費の高さ。毎度毎度何か壊してないとこんなにお店に金がかかるはず無いぞ。


 冒険者御用達のお店だからか? 味がいいし量も多いから若い人にうけるのはよくわかるんだけど。気が荒い人も来るって事だよなぁ。


 ご飯、確かに味はいいんだけど、見た目がなぁ……。お店に来る人はまったく気にしてないみたいだから、多分見た目が悪いと感じてるのは僕だけだろうな……。


 山菜に関して言えば特に問題はないけど、肉や魚は酷い。最初は本当にこれは食べれるのか? と思ったくらいに酷い。グロテスクな見た目と、刺激的な色をしている。例えば、魚の切り身とか、鮮やかな青だ。青身魚だ。黄身魚までいる。生肉は鮮やかなピンクで、焼いても、表面がこげて茶色くなる程度で、中はどれだけ焼いてもピンク色。中には緑色の肉もある。どっちも味は……普通の魚と普通の肉だ。味は、普通なんだよ、味は……。一体どうしてそんな色なのか、わけがわからない。


 なんて色々やってると、たしかまだ準備中の看板を出していたはずなのに、アンデ以外の人間が入ってきた。アンデに借りている布で作った簡易な短パンと半袖シャツを着ている僕が言えることじゃないけど、けっこう質素な服を着た男性だ。ただ、腰に棍棒みたいなのが引っさげられている。


 ……営業時間前に人が来るなんて、初めての出来事だ。もしかしたら、お店が開いてると思って入ってきたのかな? ええっと、こういうときは。


「これから、お店、準備してね」


 だったかな?


「はぁ? 何言ってるんだ?」


 どうやら違うらしい。僕が対応について考えていると、一番最初に店に入ってきた男に続いて、ぞろぞろと男が4人ほどお店に入ってきた。見た目は皆ほとんど同じで、棍棒を持っている。背格好が違うくらいだ。……嫌な予感しかしない。とにかく、店から出さないと。


「えっと、まだ、お店、開いてる?」


「うぜぇ」


 罵倒された。それだけならまだしも僕のお腹に蹴りを入れてきた!?


「がはっ」


 いつっ! 肺の中の空気が口から鼻から一気に掻き出された様な感じがする! 凄い痛い。そのせいで上手く声を出すことが出来ない。 息をするのも苦しい!! 


 はぁ……はぁ……。なるほど、こんな客がいるから修繕費が高いのかね。くそ、こいつら何しに来たんだ?


「ぐぅ……なに、する?」


「アンデはどこだよ。さっさと払うもん払ってくれねぇと困るんだよ」


 買い物ってどうやって言うんだっけ?


「て、店長、売り買い」


「ちっ、使えねぇ」


 !! 男の足が来る!


「ぐっ」


 両腕でけりの来るだろう場所を覆った。蹴りはそのまま僕の両腕を捕らえて、僕を少し蹴り飛ばした。腕で防御できたから、腹部へのダメージは最小限で済んだだけど、そのかわり腕が痺れるし、今度は腕が痛い!! 靴と腕がこすれて、熱も感じる。あー、店長早く帰ってこないかなぁ……!! 買い物行ったらもうしばらく帰ってこないんだよなぁ。


「おい、酒だ、酒。×××店にも酒くらいはあるんだろ?」


 男が適当な椅子に座るとテーブルを何度も平手打ちした。硬いものを叩く、五月蝿い音が店中に響く。酒? えっと、お酒を欲しがってるんだな。


「いま、売り買い」


 本当はお店の奥にあるけど、お前なんかに誰が出すか! ずきずきと鈍い痛みが腹の奥からにじみ出てくる。ああ、痛い、痛いなぁもう!!


「××××××な店だな。買う余裕があるなら金を払えっつぅのぉ。おら謝れよ。酒無くてすいませんってな」


「がっはっ!!」


 また蹴り。だんだん痛みで眩暈がしてきた。何に対して謝れってんだよ!! 痛い……。たく、お店もまだ開いてないんだから酒無くても問題ないだろうが。……そろそろ避けようかな。でも避けたら避けたらで、この手の輩は難癖つけて逆上しそうだ。春をいじめていた小物がそうだったし。あーめんどくさいな。さっさと帰らないかな……。


「ごめん、なさい」


 口が切れたせいで、喋ると口が痛い。……それでも、この場をどうにかするには僕が惨めに謝るしかない。まぁ、自分が惨めとも思わないけど。確か、こういうのは一般的に惨めなんだよな。ただ今は、そんな感情より早く帰ってくれないかなぁって思いのほうが強い。


 ……っていうか、客じゃなくないかこいつら。気づくの遅かった。さっさと追い出せばよかった。左手の呼応を感じた。


「あはっはっはっは、×××もねぇ×××だな!」


 ……知らない単語で罵倒されてもなんら悔しくない。はぁ。男四人が僕を指差して笑ってるのはなんとなく腹が立つけど、単語を知らないから理解できない分それほど頭にくることもない。


「にしても汚い店だな。掃除はやってるみたいだな」


 そりゃ僕が丹精込めて拭き掃除しましたからね!!


「テーブルも椅子も古びた木材。しょっぱいなぁ。処分に困ってるなら」


 ……こいつ。椅子なんか持ち上げて何するつもりだ。僕に当てるつもりは無いみたいだけど。


「俺たちが代わりに処分してやらぁ!」


 つんざく様な、ずっと聞いていたくない音が僕の耳に響いた。


「うわっ!?」


 何しやがるんだこいつら!! また借金が増え……、ん?


 そっか。修繕費が高い理由がわかった。こういう糞野郎がくるから修繕費が高いのか。男が持ち上げた椅子が窓ガラスにたたきつけられて、激しく音を立てて壊れてしまった。ガラスの破片が飛び散り、店内がガラスのは破片まみれになった。叩き付けれた椅子は、足の部分が折れて、使えなくなってしまった。ガラスって激しく割れると、がしゃーん、ってよく擬音で表現されるけど、本当にがしゃーん、って音を立てるんだな。思ったより高い音でうるさいな。


「はははははっ!」

「こいつぁーいーぜ!」


「……」


 まったく、どこの世界もいじめる側ってやつらは考える事が同じなんだな。……はぁ。アンデに止められてるけど、斬り捨ててもいいかな。この世界のルールってのがいまいちわかってないから危険らしいけど、ここまでされて流石の僕もご立腹だよ。


 キィン……


「あん? 何だその反抗的な目は?」


 僕が男を睨みつけていることに気づいたみたい。反抗的な目? そりゃ、今から反抗しようとしてるから!!


 キィン!


「なにやってる糞共」


 っ!? タイミングが良いんだか、悪いんだか、アンデさんが降臨なさった。助かる。……ただ、助けに来た男が、大きな紙袋を抱いて持ってるのは格好がつかないよね。


「あぁ? ×××騎士×××が何を×××てんだぁ?」


「ああ、もう騎士ですらなかったな。はっ、ははは!」


 ニヤニヤと腹立つ笑いを浮かべる男。今アンデを騎士とおっしゃいました? アンデって騎士だったんだ。


「さっさと用件を言え糞共。俺は今機嫌が悪い。焼くぞ」


 うぉ、凄い剣幕。焼くぞって、本当に焼こうとするなよ、右手から火が出てますよ!?


「うっ、く、金だ! 献上金を出しやがれ!」


 へいへい、敵さんびびってる。アンデはそのまま店の奥に消え、袋をもって戻ってきた。その袋を男たちの一人に投げつけると、一言、消えろと言った。カッコいい。やっぱり攻撃にも魔法は使えるみたいだな。


 男達は全員苦い顔を浮かべながら、店を出て行った。

 

「小僧、大丈夫か」


「そこそこ、大丈夫。ごめんなさい」


「謝るな。お前こそよく我慢してくれた。ここであいつ等にちょっかいだすと、ちぃと面倒だからな」


 んー。……そんなものかね? 人殺しが普通に起こるこの世界であいつら程度、不慮の事故で行方不明になっても、特に変わりはないような気がするけど。


「それに、今は××だ。涼しくなるし、ちょうどいい。心配するな」


 アンデが壊された窓を横目に、にやりと笑ったが一部なんて言ったかわからなかった。仕事が終ったら聞いてみよう。




 ガラスの破片を集めて、店を改めて掃除した後、今日も無事に食堂を開店することが出来た。その日の客の入りはいまいちだった。あの男たちが邪魔しに来たからかな?


 僕は仕事を終えて、アンデにさっきなんて言ったのかを聞いてみた。どうやら、夏って言ったらしい。なるほど。じゃああの時の台詞は、今は夏だから、窓が壊されて風通しが良くなるから涼しくなるから問題ない。って意味かな。ポジティブだな。


 ……夏って事を理解するのにも凄く時間がかかって、疲れた。相手は日本語も中途半端な英語も通じない相手だ。夏って言葉を理解するだけでも手振り身振りと僕が既に覚えて理解できる数少ない単語で教えてもらうしかない。言葉1つ教えてもらうだけでも一苦労だよ。


 あ~。不便だ。




 ……もうしばらく言葉の勉強をしないと。こっちの世界で生活もままならないや。……はぁ。





異世界生活33日目

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 向井 夕 (むかい ゆう) 現状


武器 ???


防具   異世界での服


重要道具 もってない


所持金  500円


技術   剣道


     異世界の言葉(ちょっと聞ける、ちょっと話せる


     中学2年生レベルの数学


職業   冒険者御用達らしいお店の店員(バイト


2012/5/11 見直し、表現の修正、誤字の修正などなど

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