017
彼は世界の住民と成る
僕の視界に入っている化け物が歩くたびに地面が揺れ動く。呼応してるみたいだ。
「なんだよ、あれ……?」
「……あれが本命か!?」
トロルの3倍は大きい。50mはあるんじゃないかと思われる岩の巨人が現れた。夕日のせいで真っ赤に見える岩の怪物は、燃えているようにも見えた。髪飾りのおかげで、その肩に黒いローブの人間が居るのがわかった。
あれが、今回の騒動の犯人か!?
「ウボォオオオオオオオオオオオ!!」
シャルルに向かって歩いてる。今回の犯人の目的はシャルルを滅ぼすことか!?
「あ、アンデ、シャルルが」
「……いや、シャルルがあの程度の魔物でやられるわけ無い」
あの程度の魔物?
「弱いってこと?」
「そういうわけじゃないが、一応シャルルはムー大陸でも有数の大国だ。冒険者ギルドもかなり大きい支店がある。要するに、強い人間が多く居るって事だ。俺以上にな」
倒せないことは無いってことか。つまり、あいつは、そのことを知らない? いや、そんなはずない。これほど入念に、シュッテイマン達冒険者一同を出し抜くほど計画を練る奴が、目的を達成できないような行動が最終行動になるか?
他に目的があると考えるべき。何だけど。
例えば、隆介みたいなファンタジー的に考えて、あの、ゴーレムだっけか。あいつが何か巨大な組織の一員で、これが壮大な囮で、他に目的がある、とか。
「アンデ。あいつらの目的、シャルルを壊すことかな」
「……違うだろう。と言いたいが、他に理由が見当たらないだけに、それが目的としか……」
まぁ、僕もそう思うけど……。
「魔窟がシャルルの向こう側に多く有るように感じる。冒険者からゴーレムを意図的に引き離しているから、ゴーレムを出すのが目的であるのは間違いないだろうが……」
それくらいは僕にもわかるだけど。
「何だ……ゴーレムほどのデカブツが必要な目的は何だ……?」
うむむ。シャルルに恨みでもあるのか? こんな大騒動を起こして捕まれば死刑間違いなしだろうし、そこまでのデメリットを犯してまで果たしたい目的って言うのも想像できないな。
「……魔窟がほとんど排除されてきている。魔素濃度が下がってきていてる」
シュッテイマン達が頑張ってるんだ。そりゃそうだろう。
「だが、まだ全部じゃない、冒険者の援護はもう少し、時間がかかる」
なるほど。
「それで、あいつがこの村を挟んでシャルルを目指している」
「……あ?」
「この村が危ない」
……連戦に次ぐ連戦でアンデも騎士も疲れ果ててる。まずいぞ~……!?
これ以上、死者を出すわけには……。
「……ゆ、ユウ」
「セリア!! 大丈夫か!?」
怪我した右肩を左手で抑えながら、森からセリアが歩いてきた。
「う、ん。ごめんね。役に立てなくて。これ、ありがとう」
涙ぐみながら僕に腕輪を返してきた。神素がほとんど感じられない。もう腕輪は機能しないだろうな。セリアから腕輪を受け取り、右手につける。
「気にしないで。生きていれば、何度でもやり直せるから」
そう、失敗を感じても、生きていれば、これから何度でも。
「とにかく、村人の避難済ませるぞ!!」
「隣の村に逃げて逃げて!! 道中の魔物は騎士達が何とかしてくれますから!!」
「こっちです! 僕のほうに来てください!!」
シャルルに逃げるのが一番安全だけど、徒歩1時間かかる場所に逃げるのは現実的じゃない。ゴーレムだってもう数分で村に到達する。一番近くの村まで逃げて、魔物の被害から逃れるのが一番いいだろう。他の村にも騎士が派遣されているし、戦力を集中させれば何とかなるかもしれない。
「ちっくしょぉ意外と人要るんだなこの村!!」
さらに、避難場所が散り散りで、避難がなかなか行き届かない!! このままじゃゴーレムが来るまでに避難が間に合わない!!
「ユウ君!!」
「え? あ、リトの父親! 無事で何よりです!!」
「まぁ、満身創痍だがな!! 手伝うことはあるか!?」
確かに満身創痍だ。最低限の止血しかされていない。出血が酷いところは五郎がどうにかしてくれたみたいだけど、それでも疲労困憊のはず。でも、甘えてられる状況でもない!!
「戦えるなら前線で村までの魔物掃討を、無理なら村中の人達に逃げる場所を伝えて、逃げてもらってください!!」
「任せろ!!」
まずい、まずいぞ……!! 圧倒的に人手が足りないしゴーレムも結構近くまで……。
ズシィン、ズシィンって地響きも聞こえてきている。
「キャ!!」
「こわいよぉ!! 暗いよぉ!!」
「早く逃げなさい!!」
「こっちだ! おいどこ行くつもりだ! こっちだって!?」
完全にパニック。地響きが相まって避難が滞って……。だんだん暗くなってきたし。夜の移動は不安が不安を呼ぶ状況にもなる。時間、時間が欲しい……魔剣を使えば時間稼ぎくらい、出来るんじゃないか……?
「……」
避難、より、時間稼ぎを……!!
!? 肩を、つかまれた。誰だ!?
「小僧てめぇどこ行くつもりだ」
アンデ……。
「時間稼ぎに。大丈夫、魔剣が」あるから。あれ、声にならなかった?
!? 何だ!? 何が起こった。 気づいたら、横に倒れてる!! 頬? 頬を殴られたのか? 違う、顎だ。脳が揺らされて、脳震盪!? し、思考が、止まる……!!
「ちっ、無駄に回避上手くなりやがって……」
う、上手く立てない!!
「なに、すんだ」
「小僧は避難を続けろ。俺が時間稼ぎをやる」
「ちょ、ちょっと。俺も行くって!! アンデもう、ふらふらだろ!! 今なら、俺のほうが、体力ある!!」
くそ、魔素を集めて……!?
あれ、上手く魔素が集まらない!?
それに気づいたのか、アンデが僕を鼻で笑った。
「……魔窟が勢い良く壊されてるせいだ。魔素濃度が一気に下がってるからだ」
「それなら! アンデだって」
「舐めるな。お前は誰に剣を習っている」
アンデの周りに魔素が収束する。僕以上に濃い濃度の魔素がアンデの周りに集まり、体に取り込まれていく。……でも、どこか弱弱しく感じる。
「冒険者もすぐに来るだろう。小僧は雑魚でも殺して村人避難を手伝え! ゴポッ!!」
!? 不自然な咳……?
「いいな!?」
「……おい!! まてよ!!」
「ゴホッ。ゴポ……じゃあな、ユウ」
なかなか力が入らない体が腹立つ!! アンデにおいてかれちまった……? ……ゴポって、咳?
あれ? なんで、アンデの走ってった道に、血痕が伝ってるんだ?
アンデ、止血は五郎にやってもらってたし……咳? ということは、吐血? 何で。 病気、か……いや、違う。
思い当たることがひとつだけあるぞ。そうだ身体強化と魔法の使いすぎによる毒素の蓄積だ。
「……アン、デ?」
嫌な、嫌な予感がする。アンデ? そうだ最近良く咳するなぁって。気づいてたじゃないか。咳するようになったのは、アンデが戦い始めてからだ。
もしかして、騎士を辞めたのは、魔法を使えないような体になっちゃったからじゃないのか!?
なんで、僕の名前を言ったの? 何で別れ台詞みたいな、言葉を。いつもどおり小僧って呼んでよ。
「アンデ!!」
やっと立てた!! 避難? 知るか! アンデのほうが大事だ!! 僕の、僕の家族が!!
「ユウ!? どこに……!?」
馬鹿女の声も耳には届くけど、反応している時間が惜しい!!
Side アンデ
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ゴホッゴポッ!! かぁっ、血生臭いなっ!!」
……吐血がとまらねぇ。結局、言わなかったな。騎士を引退した理由。
「ごはぁっ!!」
びちゃびちゃと、液体が垂れるが音がやけに忌々しく聞こえる。糞、吐いても吐いても血が沸き上がってきやがる。もう中がずたずたなんだろう……。だが、こういうときに戦えなきゃ意味が無いだろう。何のために毒素まみれでも剣を握っている。
「……はっ」
痛みも苦しさも鼻で嗤え。剣を強く握れ、意思が掻き消える寸前まで剣を振るえ!!
「ふぅ……」
医者に止められてる身体強化をここまで激しく使えば、こうもなるな。……たく、楽しく余生を過ごすって決めてたんだがな……。戦うことでしか、誰も救えないんだな。
「……小僧」
あいつが、俺の前に現れなければ、こんなこともしなかっただろうに。
たった一年だが、楽しかった。あいつのおかげで、食堂にも活気が出来た。
ただ生きるだけの俺にも目的が出来た。
少しでも救いに貢献できただろうか。
「……感謝してるぞ、ユウ」
だから、最後は守らせろ。ついでだ、村ごと救ってやるよ。
「来な。糞デカブツ」
「……貴様は、誰だ?」
ゴーレムの肩の上に載っている魔法使い。てめぇが黒幕か? なら話は早い。
「俺か? ……てめぇを道連れにする人間だよ!!」
燃え上がれ、俺の愛剣。最後の仕事だ!!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ウガアアアアアアア!!」
獣のような雄たけび。でもこれは僕がこの世界で一番良く知っている声。
アンデ!!
「なんだよ、何だよお前!?」
アンデが2本の剣に炎を纏わせながらゴーレムに斬撃を次々と加えていく。日がほとんど落ちて暗くなった森を明るく照らすほど大きな炎と、鬼のような気迫を纏って次々と素早い攻撃を……! 凄い。……ゴーレムの肩に乗っている魔法使いの悲痛な叫びが聞こえる。トロルを相手にしていたとき以上に鬼気迫る勢いで、剣の動きが全然見えない!!
凄い、アンデ凄く強いぞ……。アンデの周りに何人か冒険者が居るけど、アンデの猛攻の邪魔できないと、手を出せないで居る。魔法や神聖術で援護するくらいで収まってる。
ゴーレムも魔法使いもアンデの動きに翻弄され、ゴーレムは腕を振るい攻撃を仕掛けるが、かすりもしない。
でも、僕は気づいてしまった。
「アンデ……!?」
口から絶え間なく血が流れている。
「助けないと……」
でも、どうやって? 冒険者だからといっても、シャルルの住民じゃないとは言い切れない。魔剣は使えない。そういうのを危惧してアンデは僕をこの場に出したくなかったんだ。なら、それを踏みにじるのは。でも武器がなきゃ戦えない……。
なんて考えていたら、唐突にゴーレムの肩に魔法使いが目に入った。
「……劣勢なのに、なんだよ、その笑い」
本当に魔法使いは劣勢か? 魔法使いの笑いがいっそう深くなった瞬間を僕はずっと見ていた。
「がはっ!!」
ゴーレムから一撃も貰っていないアンデが盛大に吐血して、その場に崩れた。え?
「死ね」
やけに、僕の耳に大きく聞こえた。聞こえるはず無い。だって、魔法使いとはこんなにも距離があるんだもん。
でも聞こえたんだ。音じゃない。僕は口の動きを追っていたんだ。
次に目にしたのは、炎の槍に貫かれたアンデの姿だった。
あ、あぁ!!
「うあああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
ギィン!!
「アンデェエエエエエエエエエエエエ!!!!!」
ギィン!!
ギィン!!
魔剣を具現化!! 大きさは3m以上。
「な、何だ!? だ、誰だ……!?」
「ひっ、ま、魔剣……!!」
「に、人間じゃない!!」
刃に写った僕の姿を見る。髪の毛は白に染まり、目が真っ赤。肌が褐色に染まっている。でも今はどうでもいい。
アンデ、アンデ、アンデ!!
なんでもっと早く剣を抜かなかった!? アンデは無理していた!! 気づいていただろう!!
「き、貴様!? その剣は……!?」
「くそ、ッタレェエエエエエ!!」
全身に迸る魔素を体に集中。身体強化。
瞬間。世界が変わる。
目の前にゴーレムの右足。僕は迷わず剣を振りぬく。刃が半分ほど右足を切り裂き止る。
「あ゛……!?」
魔法使いの言葉とともに、ゴーレムの足が急にボロボロと崩れて、魔剣の輝きがより一層増す。
「ちぃっ!!」
「がぁ!?」
ゴーレムが左足一本で体を支えながら、腕を振るって、僕を吹き飛ばした。直撃。全身に激痛。どこに吹き飛ばされたかわからないけど、ゴーレムの姿がやけに遠くに映った。
ボロボロと、骨が粉砕される音が僕から聞こえた。
「アアアアアアアアアアアアアア!!」
狂うほどに痛む。でもそれ以上に、胸がイタイ。
「痛い、痛い、痛い!! 畜生!!」
力だ、力を!! 魔剣!! 僕の命なんて要らない!! いくらでも持って行くといい。どうせばれて死刑だ。だから、力を!! アンデを殺そうとしたあいつを殺す力を!!
瞬間、ギィンと禍々しい刃鳴りが聞こえたと思ったら、全身が真新しい激痛とともにめきめきと音を鳴らしながら、体が正常に動き始める。
全身がもの凄い勢いで治った。その分刃が刃こぼれしたが問題ない。エネルギーはあのゴーレムに溜まってる。
「貴様、貴様!? その剣は!!」
「ウォオオオオオオオ!!」
ゴーレムとの距離は20mほど開いていた。でも、その距離を一瞬で詰める。不思議と戦闘中でも魔素が体に集まる。異常なほどに。その魔素を用いて全身を強力に強化。その状態で僕の身長の5倍はあるゴーレムに飛び掛り右肩を切りつける。刃が3mもある剣はゴーレムの右腕を切り落とした。
「鋭き炎よ、鋭利な槍となって敵を討ち焦がせ!!」
魔法使いの言葉とともに、上を見ると、アンデを貫いた忌々しい炎の槍が10本以上僕を向いていた。
「かわせまい、お前も後を追うがいい!!」
余裕の笑みの魔法使いが非常に、腹が立った。
「魔剣!!」
魔剣を長い長い鞭のよな形状へ変化させた。世にも珍しい刃の鞭。俺はそのまま鞭を振り抜いて、炎の槍を全て切り落とした。その炎の槍を構成していた魔素を吸い、魔剣が僕に呼応する。
「馬鹿な!? 魔法を切り裂くなど……!!」
俺は魔法使いの目の前に立つ。ゴーレムの肩の上だ。
「貴様等、そこまでだ!!」
聞き覚えのある声が背後から聞こえる。
「アンデの親父ぃ!! てめぇら、絶対に殺してやる!! 忌々しい邪法使い共!!」
シュッテイマンだ。
はは、殺す? 殺すのは俺だ。シュッテイマンに譲るものか。僕は、いいさ、いつでも殺すといい。近くでこんな力を持ちながら、保身に走ってアンデを救えなかった愚か者だよ! 俺は!!
「……貴様。その剣、神魔剣をどこで……!?」
もう王手だ。殺すのはたやすい、少し情報を、収集してから、殺しても、惜しくない。と、冷静な部分の僕がそう訴えかける。
ギィン
ギィン
ああ、でも駄目だ。俺は、駄目だ駄目だ。
「殺したい」
「は?」
魔法使いは切り落とされた右腕をゆっくりと見つめていた。
「ぎ、ぎゃあああああああ!!」
「アンデ、アンデ、アンデ!! 畜生畜生畜生!!」
僕は殺したくない、殺したくないよ、アンデ、アンデ、でも、許せない、殺したい。アンデ。アンデ!! ごめん、魔剣使ってごめん。こんな人の前で魔剣を、でも、無理だったんだ!!
「た、助けて……!」
涙ぐみながら命乞いをする魔法使いに僕、俺の頭は真っ白になる。
「ふざけるな」
その一言で僕は禍々しい刃で一閃する。半分にずれる魔法使いは、ぽかんと、自分が死んだことにも築かない様子で、倒れる。魔剣が血肉に喜びを覚え、俺は歓喜に包まれる。反して僕の心は、目的達成と同時に急激に冷めていった。
だってわかってるんだ。こんなアンデが救われないのは。
「何だ!? 仲間割れか……!?」
魔法使いの絶命と同時にゴーレムは崩れ落ちる……。僕はゴーレムから飛び移り、アンデの元へ移動した。
「ちっ、次は俺とやろうってか?」
……そんなつもりは一切無いよ。
僕は魔剣をしまう。
「……!? なんのつもりだ」
アンデへと近寄る。
「この、邪法に落ちた奴がアンデの親父に近づくな!!」
「……」
その制止を振り切り、アンデへと近づく。暗くて見えにくいけど、口から大量に血を流し、肩から腰にかけて丸焦げだった。
「……ゴホっ」
「!? アンデ!!」
「き、貴様!!」
僕へ剣が突き立てられる。その刃に写る俺を再び確認する。微かな夕日に反射して、俺の姿が映る。褐色肌に、赤い目。白い髪の毛。これで誰が僕だって気づく?
「……小僧、か?」
胸が激しく痛んだ。
「……アンデの親父?」
「ごほっ、あれほど、来るなと」
アンデが僕のほうを身ながら手を伸ばしている。
「もう目が見えない。悪いが、ごほ、近くに来てくれないか……」
僕は黙って近づく。
「アンデの親父、何を……ユウ? こいつが? 馬鹿な、ユウが邪法に堕ちて……誰だよ、お前誰だよ!?」
「……あれ程使うな、と、どおり、ゴホッゴホッ!! ……魔素の波動が不安定なわけだ」
シュッテイマンが僕に刃を突き立てていいか迷っている。アンデは俺の姿じゃなくて、僕の気配で僕と判断しているみたい。
「……ごめん。アンデ。僕がもっと早く行動してれば、こんな力を持ってても、アンデを……!!」
「ごほっごっ。……お前のせいじゃない。すまないユウ。デトラオンの金は勝手に持ってってくれ。俺が許す。俺の聖剣もお前が持っててくれよ」
「いらない、いらない。俺はそんな、僕はそんな言葉を聞きたいわけじゃない。皆の夕飯を作らないと」
「……無理、だ」
「……アンデ、ごめ」
「謝るな、うぜぇ」
力なく嗤うアンデに胸にちくりと突き刺さる。
「……ユウ。この一年弱。楽しかった。息子が出来たみたいで、嬉しかった」
やめてよ、そんなこと聞きたくない。
「僕だって、父さんみたいなアンデが」
「……本当に楽しかったんだ」
「アンデ?」
「なぁ、ユウ? もう耳も駄目なんだ。なぁ、ユウ……」
僕は黙って、手を握る。
「……なぁユウ。ユウ。人の手はあったかいな。なぁユウ。俺は誰かを少しでも、救えたか?」
僕は肯定の意思を伝えるために強く手を握る。
「……なぁユウ。もともと俺は長くなかったんだ。気に病む、な……よ。俺の、剣、ユウにやる。俺の物は全部やる。だから」
「だから、ユウ。生き、ろよ……」
最後に微かに笑ったアンデの手から力が抜ける。
「……アンデ……」
伝えること、何も伝えてないよ?
「……シュッテイマンさん。お願いします」
「ユウ、なのか」
「すいません、捕まれません。今捕まっちゃうと、この胸のもやもやで、周りに」
俺が迷惑をかけそう。僕はアンデの2振りの剣を握り、その場を後にする。
「おい、まて、ユウ!!」
「うわぁあああああああああああああああああああああああ!!」
僕は、泣けなかった。声は出るし体は動く、血は流れるけど、涙は流れなかった。
異世界生活331日
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向井 夕 (むかい ゆう) 現状
武器 神魔剣
聖剣 フラン (赤い剣
聖剣 ベルジュ (青い剣
防具 異世界での服
重要道具 全て破損
所持金 無一文。
技術 剣道2段
アンデ流剣術継承者
魔素による身体強化
異世界の言葉
中学2年生レベルの数学
暗算
神魔剣制御
霊感(幽霊が見える
職業 デトラオン(悪魔の)食堂癒し系店員 (バイト)